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怪盗シルバーホーク

 今日もトルネオさんに連れられて見知らぬ街――ホーリーエンドにやって来た。元はマジックアイテムの購入資金を稼ぐ目的だったのが、今じゃすっかり冒険がメインとなっている。気晴らしには持ってこいだし、召喚したアイテムで武装した俺たちはそうそう負けたりしないのだよ!


「フッ、見よこの漆黒(しっこく)に彩られし闇の装備を。今ここに我は覚醒した。そこらの雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!」


 ――と、中二病閣下のメグミが言うように今日はメグミと一緒に来ており、装備品も満足の行くものを身につけている。

 ちなみにメグミの装備は以下の通り。


 頭:漆黒の髪飾り(←精神異常耐性アップ)

 首:漆黒のネックウォーマー(←外気温に影響されない快適な温度を保つ)

 胴:漆黒のレザーアーマー(←物理耐性アップ)

 腕:漆黒のアームカバー(←魔法耐性アップ)

 足:漆黒の運動靴(←素早さアップ)


 効果はともかくして、色合いはとっても悪趣味だな。端から見りゃイキリ散らした魔王の娘にしか見えん。

 ……いや、魔王を気取ってるメグミに対しては褒め言葉だな。


「漆黒の――つっても無敵じゃないんだから気をつけろよ?」

「分かっている。しかし本来ならばもっと軽装で挑むところだったのだがな」

「メグミの言う軽装ってのはビキニアーマーだろ? アレはヤバいって」

「何故だ!?」

「いや何故って、あんな胸をはみ出してる装備とか普通に反則だから」


 特にコイツは美人コンテストでスリングショットを着やがったからな。あんなん狙ってくださいって言ってるようなもんだ。

 どうしても着たいならダンジョン内だけにしてくれ。男子を代表して言うが、俺たちの前でなら一向に構わん!


「あっ! この顔はイヤらしい想像してる時だ、メグミちゃん気を付けて~」

「フッ、心配無用。我が漆黒の力はいかなる生物の脳をも焼き尽くす(←脳を刺激するの間違いじゃね?)」


 側で見ていた緑川がジト目を向けてくる。


「そんなことはない……ぞ?」

「はいアウト~! 鳥居くんってやましい事があると直ぐに上向くんだよ、ね~♪」

「チュイチュイ♪」

「お前ら……」


 いや、そもそも!


「緑川に緑丸、何でお前らがここに居るんだ!?」

「あ~ソレ? 緑丸が飛行形態に成れるからだよ~」

「ヂュ~ゥイ!」

「え……マジ?」

「うんマジ。だから後を追って来たんだ~」


 新たな発見か。つ~か非武装だし、できればライジングバレーでおとなしくしてて欲しかったけども。


「ふむ、こうなっては仕方ない。緑川よ、貴殿にも漆黒の装備品を分けて――」

「それは遠慮します」

「何故だ!?」

「いや何故って、中二病丸出しで恥ずかしいじゃん」

「は、恥ずかしいだとぅ!? この黒々とした高級感のある色合いが恥ずかしいと申すか貴様!」

「「よく分かってるじゃん」」

「グハァ!」


 ジロジロ……


 騒いでたから周囲の視線が突き刺さる。特にここは冒険者ギルドのロビーだし、喧嘩を売られるのは避けたいところ。


「まぁとにかくだ、トルネオさんが受ける依頼によっては戦闘にもなるんだ。目立たないようにおとなしくしとけよ」

「は~い!」


 だから声がデカイっちゅ~に!


「まぁまぁ。今回はさほど危険な依頼ではありませんからご安心を」


 トルネオさんが戻って来くると、手にした依頼書を広げて見せてきた。


「え~っと……、怪盗シルバーホークから名画を護ってほしい?」

「美術品の数々を収集している富豪からの依頼です。護衛隊として参加するだけで報酬が出ますよ」


 詳しい話は本人から――ってことで、さっそく富豪様の邸を訪ねてみた。出迎えた使用人によって庭に誘導されると、他にも同じ依頼を受けたであろう冒険者パーティが何組も集まっていた。


「ん? お前らも護衛か? こんなガキに頼むたぁあの富豪さんも相当焦ってやがんだなぁ」

「そりゃ~かの有名な怪盗に目を付けられたんだ、焦りもするさ」

「何でもいいけど私たちの足は引っ張らないでよね」


 相変わらず冒険者って奴は見かけで判断する輩が多いなぁ。


「クッ! 我が力、いまだ山頂をつかまつることまま成らぬ。この力さえ解放されればこんな連中に好き勝手はさせぬというに……」

「分かったから自分から喧嘩売るような真似はするなよ」

「当然だ。優先される作戦は【命を大事に】だからな」


 おい、そこは素直か。


「ウォッホン!」


 勝手に駄弁ってたら、いかにも偉そうな感じの太っちょオヤジが姿を現した。


「我輩がかの有名な富豪モモッチーノであ~る! 諸君らを呼び寄せたのは他でもない、あのクッソ忌々(いまいま)しい怪盗シルバーホークから予告状を叩きつけられたからだ!」


 シルバーホークとは名だたる美術品を予告状付きで強奪していく怪盗で、世界的に有名ではあるものの誰一人として捕縛に成功してはいないらしい。そのためどの国も手を焼いてるのだとか。


「生意気にも奴は今夜21時に【名画:耐え忍ぶ戦士】を頂戴しに参上すると宣告してきた。是非とも諸君らの力で取っ捕まえるのだ! もちろん殺しても構わんぞ? 存分に力を発揮してくれぃ!」


 さて、話も終わり21時までは自由行動だが……


「しっかし怪盗ねぇ。なんでわざわざ美術品なんかを盗むんだか」

「鳥居くん、納得いかない?」

「納得いかないっつうか、俺だったら金貨とか盗むけどな。金貨が有れば大抵の物は手に入るし」

「ほほぅ、なるほどなるほど。それは大変合理的な思考ですな」

「ん?」


 知らないオッサンが会話に交ざってきたぞ?


「アンタもモモッチの依頼を受けた人か?」

「正確にはモモッチィーノ殿ですな。ちなみに名前はシルベスタと申します。失礼ながら先ほどの会話を聞かせていただいた上でですな、1つ意見を述べさせていただこうかと思いまして」

「意見? 金貨が有ればのくだりか?」

「その通り。良ければ近くに美術館が御座います。これからご一緒にどうでしょう?」


 ちょうど暇してたところだ。俺たちはシルベスタの申し出を受け、美術館へと場所を移した。


「どうでしょう? 【名画:耐え忍ぶ戦士】には及びませんが、どれも一級品の品々ですぞ」

「ふむふむ、この絵は見る角度で表情が変わると。そしてこちらは周囲の明るさに合わせて背景の昼夜が変わるのですね」


 ついてきて速攻で後悔した。トルネオさんが感心して眺めている傍らで、俺はアクビを連発している。芸術と縁のない人間には暇すぎてたまらねぇ……。


「おや、トリイ殿はお気に召しませんでしたかな?」

「あ、いや……」

「ハッハッハッ! 言わずとも分かりますとも。煌びやかな剣や珍しいマジックアイテムの類いの方が目に止まるのでしょう。唯一貴方が足を止めたのは【闇夜に甦りし魔剣】のレプリカでしたからな」


 見られてたのかよ。見てないようでよく観察してんなこのオッサン。


「ところでトリイ殿、モモッチィーノ邸での話ですが……」

「ああ、大抵の物は金貨で買えるって話の続きか?」

「ええ。貴方の言うように、大抵の物は金貨で買えてしまう――それは事実でしょうな。例え竜の血液やエリクサーでさえも大金を出せば買える、それは間違いありません。しかし、買えないものもあるとしたら……貴方ならどうします?」


 金で買えないもの……まぁ、人の心とか時間とかだよな。


「諦めるさ。強奪してまで欲しいとは思わないし」

「おや、案外清い思考をお持ちのようで」

「ほっとけ」

「ハハッ、失礼。しかしながら申し上げますと、件の名画などは金を積んでも買うことは叶わないでしょうな」

「でもモチモチ野郎は――」

「モモッチィーノですな」

「そうそれ。アイツは金で買ったんじゃないのか?」


 単純に思ったことを口にした。しかしシルベスタはどこか悲しげな表情を浮かべ……


「件の名画は特殊な魔力を発して人を魅了します。欲深き者なら尚更魅了されやすいでしょう。見いられた者は決して手離そうとはしません」

「手離そうとはしない――ってまさか!」

「ええ、表沙汰には出来ない方法で入手したのでしょうな」


 マジかよ、犯罪者の依頼とか受けたくなかったんだが。


「へ~ぇ、あの名画にそんな効果があったなんてね。ライジングバレーの名画も同じなのかな?」

「ほぅ、ライジングバレーにも名画が?」

「うん。【名画:祝福を受ける勇者】ってタイトルの作品だよ」

「ふむ……」


 それからしばらくシルベスタは黙り込むが、フと我に返りにこやかに顔を上げる。


「おっと、長居をしてしまいましたな。トリイ殿も退屈していることでしょうし、この辺りで失礼しますよ。また夜にお会いしましょう」


 颯爽(さっそう)と去って行くシルベスタを尻目に、いまだ夢中になっているトルネオさんを引き摺って美術館を出た。そして何やかんやと時間を潰し、モモッチィーノ邸にて夜の21時を迎えようとしていた。


「さぁ、来るなら来い。我輩の精鋭隊とかき集めた冒険者で返り討ちにしてくれる!」


 ショーケースのようなマジックアイテムの中に名画を収め、更に四方をご自慢の私兵で囲い、その上で周りを俺たち冒険者で埋め尽くすされたモモッチィーノ邸のロビー。誰がどう見ても奪取不可能に見えるこの状況だが、本当にシルバーホークは現れるんだろうか。


「間も無くですな、油断めされるな」

「オッサンもな」


 シルベスタのオッサンもキリっとした表情で辺りを警戒。そして豪華な柱時計が21時を知らせたその時!



 ドサッ――ドサドサドサッ!



「「「!?」」」


 何かが倒れた音に釣られて全員の視線が音源へと集中する。そこには名画を囲っていたはずの私兵たちが折り重なるように倒れており、状況を察したであろうモモッチィーノは腰を抜かして身を震わせていた。


「で、出たぁぁぁ! おおおお前たち、早く撃退しろぉぉぉ!」


 声を振り絞って叫ぶモモッチィーノ。しかし肝心のシルバーホークはどこにも居らず、俺たちは右往左往するのみ。


「ど、どこだ、どこに居る!?」

「野郎、姿を現しやがれ!」

「まさか姿を消している?」

「そんなはずは有りません! 扉と窓は全て閉ざされているのです、この状況で外部からの侵入は不可能ですよ!」

「ハッ!? まさか!」


 他の冒険者も半ばパニック。そこへハッとしたシルベスタが名画に駆け寄ると、ショーケースを指して声を張り上げた。


「見てください、保護用のマジックアイテムが機能していません!」

「な、なんだと!? 予告を受けてから取り寄せた新品だぞ! それが不良品だったと言うのか!?」

「いいえ、昼間に見た時は機能しておりました。恐らくは予告時間と同時に……」

「ま、まさかシルバーホークに……」


 シルベスタがショーケースを退けて名画を取り出す。そして作品をサッと眺めると、目を見開いて叫んだ。


「な、なんということだ、これは偽物です!」

「な、なな、なんだとぉぉぉぉぉぉう!?」


 まさかと思うその場の一同。しかしシルベスタは立て続けに捲し立てる。


「恐らくシルバーホークは何らかの方法で私兵たちを気絶させたと同時に名画をすり替えたのです! その証拠にこの名画からは魔力を一切感じません!」


 数名の魔法士がシルベスタの持つ名画に近付き手に触れる。


「これは……」

「た、確かに魔力を感じない」


 これで偽物にすり替えられたことがハッキリとした。


「窓は割れていません、シルバーホークはまだ邸に潜んでいるはずです!」

「ぬぐぐぐぐ……さ、探せぇぇぇ! 邸の隅々まで探し回るんだぁぁぁぁぁぁ!」


 慌ただしく出て行くモモッチィーノと冒険者たち。俺たちも出て行こうとしたところで、俺だけは違和感を覚えた。


「なぁ、オッサン。怪盗とやらはどうやって名画をすり替えたんだ?」

「さぁ? そこまでは分かりかねますな」

「いやさ、オッサンは言ってたよな? 名画は人を魅了するって。気付いたらモモッチィーノもずぅ~っと名画から目を離してなかったんだよ、だから盗られる瞬間を見てなきゃおかしいんだよな」

「…………」

「なぁオッサン、ひょっとして……」


 最初に名画へ触れたのはシルベスタのオッサンだ。その時にコッソリすり替えれるのもオッサンだけ。つまり……


「フフ、トリイ殿。どうやら貴方を過小評価していたようです」

「じゃあ!」



 バッ!



 冒険者の格好から一瞬でタキシードへと着替えたオッサン、いや、シルバーホーク本人なんだろう。


「いかにも。わたくしが怪盗シルバーホークに御座います。予告通り【名画:耐え忍ぶ戦士】は頂戴いたしますよ。では」

「あっ、コラ!」


 この場には俺たちしか居らず、ガラガラとなったロビーを颯爽(さっそう)と駆け抜け、シルバーホークは悠々と窓を開け放つ。


「それでは皆様、此度は大変に楽しい一時(ひととき)でしたよ。次はライジングバレーでお会いしましょう!」


 チッ、まんまと逃げられたか。しかもライジングバレーで会いましょうだぁ? これ絶対来るやつだろ!


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