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無愛想なテヘペロ

 嵐のようなダンジョンバトルはいつの間にか終わっていた。俺たちの予想通りアイアンゴーレムが暴れまくったらしく、相手のダンジョンは半壊状態。最後は泣く泣く土下座を展開したそうな。

 そう、つまりは俺たちの勝ちで、約束通りガリアーノを譲り受ける――というのは遠慮した。管理するのが手間だしな。

 バスケスは2度と俺たちと関わらないという条件で解放。ガリアーノの代わりに多額のDPを支払わせてやった。

 ここまではいい、いいよな? けどこの話には続きがあって、ダンジョンバトルが終わった後のコアルームでの出来事になるんだが……


「…………」ムスッ!


 ご機嫌が過剰に斜めってますって顔の見知らぬ幼女が椅子に座っていたんだ。

 どこから来たのか誰にも分からず、確かなのはアラートが反応してない事から敵ではないって事くらいか。


「どうする会長?」

「現実世界なら警察に任せるところだがな。こっちの世界では……」


 届け出るところがない――と。騎士団もあるにはあるがサリアンを始め数人しかいない状態だし、そこに振るわけにもいかない。


「なぁキミ、どこから来たんだ?」

「…………」

「お~い」

「…………」


 ダメだ、話す気はないらしい。


「ダメだねススム。お前はレディの扱いがなってないのさ」

「じゃあカズトなら出来んのか?」

「もちろん」


 仕方なくカズトとバトンタッチ。わざとらしく髪を掻き上げながら幼女に話しかける。


「やぁ、そこのキュートな女の子。俺は利根川和人って言うんだけど、よかったらキミの名前も教えてくれないかな?」

「…………」

「んっふ、手強いなぁ。それとも男の人が苦手だったりするのかい?」

「…………」

「ならこうしよう。こう見えても俺には特別な力が有るんだ。今からキミの心を解してあげるよ。――さ、悩みがあるなら何でも言ってくれ。どんな内容でも俺が受け止めてあげるから――ね?」



「キモ……」

「え……き、きも? 肝がすわってるとか、そういう話かい?」

「……単純にキモい。聞いてて不快。耳障りだから黙れ」

「そ、そうかい……」


 撃沈したカズトがフラフラと下がっていく。いや、口を開かせただけでも進展ありだけどな。


「ダメやなぁ利根川、あやし方が全然なっとらん。相手は子供なんやから、もっと喜ばせなアカンやろ。まぁワイが手本を見せたるからよう見とき」


 カズトに代わって加瀬が幼女に挑む。


「yoyo♪ そこの可愛い、幼女yoyo♪ 名前知らない、女の子yoyo♪ どこから来たのか、分からないnono♪ ここは俺たち、みんなのdungeon♪ 今日からキミも、俺たちと――」

「……一緒にするな」



「――へ?」

「……お前たちと一緒なんて絶対に嫌。だから馴れ馴れしくするな。ついでに言うとお前は音痴。少しは自覚した方がいい」

「んがっ!? ワ、ワイが音痴やて……」


 カズトに続いて加瀬もまた精神を抉られて退場していく。


「な~んか嫌われてんのな、よく分からんけど」

「うむ。加瀬くんの音痴は今に始まったことではないとして、もう少し情報を引き出したいところだな」

「ハッ、だったら俺がナシつけてやんよ。こういう生意気なガキには自分の立場ってやつを自覚させねぇとな!」

「ほ、本郷くん、あまり手荒な真似は……」

「分かってるって」


 今度は本郷の出番と。拳を手のひらにバッシバシ当てながら幼女に近付く。


「おいテメェ、ここは俺らのダンジョンだ、部外者のテメェが来るところじゃねぇ」

「……部外者じゃない」

「「「え?」」」


 これは大ヒントか? 少なくともダンジョンに関わってるって事だ。


「あ? 部外者じゃない? だったら何だってんだ、あんま調子に乗ってっと痛い目見るぜぇ!」

「だから本郷くん!」


 幼女の肩に触れようとした本郷を会長が止めようとするがもう遅い。殺気立った本郷が幼女の肩を掴んで……




「……ふん!」

「アデデデデデデデッ!」


 思わず我が目を疑う光景。伸びてきた本郷の腕を掴み、瞬時に組み伏せられてやがるんだ。


「……どうする? 降参する?」

「するする、降参するから離してくれ!」

「……誠意の籠った謝罪がない」

「わ、悪かった、全面的に俺が悪かった、だからギブギブギブッ!」


 締め上げられるも透かさずロープを掴んで事なきを得る本郷。(←どっからロープが出てきた……)

 しかし何て強さだ? あの本郷がああも容易くやられるなんてな。


「はぁ、これだから男子たちには任せてらんないのよ。ここはやっぱり同性の方が接しやすいでしょ。私たちに任せなさいって」


 男子の惨状を見て、真打ちのスクールアイドル3人組が動く。


「話相手になってあげるよ~。何でもいいからお姉さんに話してごらん?」

「…………」

「ねぇ、お姉さんとお話ししない?」

「…………」

「あ、あれぇ? 無視されてる~? お姉さん悲しいなぁ」

「…………」

「ぐ、くく……ちょっとキミ、む、無視するのは失礼……じゃない……かな?」

「……黙れ年増」




「はぁぁぁぁぁぁあ!? 今何つったぁぁぁぁぁぁあ!?」


 まぁ幼女からしたら年増なのはしゃ~ないが、言われたくはないだろうな。


「落ち着けアイリ、闇の力が乱れる」

「だってコイツが!」

「そうですわよ、ここはわたくしに任せなさいな」


 年増のアイリ(←止めろって)に代わってトワが幼女の正面に座る。


「ハロ~、わたくしは綾小路永遠って言いますの。よかったら貴女の名前も教えてくれないかしら?」

「…………」

「フフ、何を恐れてますの? どんなにダサい名前でも笑ったりはしませんわよ?」

「…………」

「それとも自分の名前すら分からない哀れな存在なのかしら? でも安心なさいな、どんなにおバカでも無下に扱ったりはしませんことよ」

「……お前、ナチュラルに失礼。絶対に陰口叩かれるタイプ。少しは礼儀というものを習った方がいい」

「な!? なんて無礼なお子様!」(←お前もな)


 トワに至っては逆に説教されると。


「フッ、下がるのだトワよ、この者は只者ではない。我が力は大変に危険なものであるが、今こそ解放すべき時。この力をもって貴様の真価を問うとしよう」


 締めはメグミか。あまり期待出来そうにないが。


「…………?」

「なぁに、喋らずともよい。何故なら私には分かるのだ、貴様が真の力を隠しているということをな」

「…………!!」


 幼女の顔が変わった。まさか核心を突いてるのか!?


「う~む……年齢は5、6歳といったところか? 名前は……うん、テヘペロ、そんな顔をしているな(←してません)。力が相当強いことから巨人の力を隠し持っている、こんなところか。どうだ?」

「…………」




「……巨人の力って何?」

「「「!!!」」」


 おお? 初めての反応だ!


「きょ、巨人の力か?」

「……うん」

「そそ、それは……だな、例えばほら……あ、そうそう! 巨人と言えばアレだ、坂本○人、や松井○喜とか、後は阿部○之助とかも力の象徴だぞ!」

「…………?」


 それは巨人の力じゃなく読売ジャイ○ンツの力だな。


「あ、後はそうだな……ミスターなんかもそうだろう、所謂1つのな」

「……よく分からない。お前、テキトー言ってるだけ。本気なら頭の病気。医者に見てもらった方がいい」

「そ、そんな……」


 そしてメグミもフラフラとご退場。残念ながら中二病は治らないんだなぁ。


「もっと違う方向からアプローチした方が良いのかもね」

「安土くん、何か妙案が?」

「なに、興味を引く会話を広げれば自ずと口を開くものさ。鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス。ボクがやってみよう」


 今度は安土が挑むようだ。


「やぁ、ボクは安土桃香。キミと少し話がしたい。そうだな……まずは人類の歴史について語らせてもらうよ」

「……興味ない」

「おや、そうかい? でもその反応は僅かながらも感心が有るという裏返しでもあるのだけれどね。まぁ子供のキミには少し難しいのかな?」

「……黙れ貧乳」




「……は? あ……あ"あ"?」

「ちょ、落ち着け安土!」

「キミが挑発されてどうするんだね」

「止めてくれるな! このクソッタレ、いまだ成長途中に過ぎないボクに対して貧乳などと!」


 怒り狂う安土を会長と俺で必死に止めにかかる。いやもぅ、安土のコンプレックスまで抉ってくるとは恐ろしい。

 その後も会長や副会長、お那須さんもトライしたが全員不発に終わり……


「ダメだ、どうにもならん。瓶底くん、何か妙案はないのかね?」

「そうは言っても……。せめてあの子の好きな物とかが分かれば上手く機嫌を取ることも可能なのデスが……」


 好きなもの――なぁ。それも聞かなきゃ分からんし、こりゃもうお手上げか?


「はむっ! ムグムグ……。ほぐっ! ムグムグ……」

「…………」ジィ~~~

「んくっ! ――ん? オラの顔に何か付いてるだか?」

「……ハッ!?」プィ!


 ジト目で大恩寺を眺めていた幼女が本人に気付かれ、慌てて視線を逸らしていた。

 食い散らかしてる大恩寺に気がある? いや、もしかしたら!


「え~と……苺のショートケーキ、それとミックスジュース!」



 ポン!



「……ほぁ!?」


 ケーキとジュースに注がれる視線で正解だと確信。それを目の前に持ってくると……


「美味そうなお菓子だろ? 食べていいぞ」

「……い、いいの?」

「おぅ!」

「…………」パァァァ!


 美味しそうにケーキにかぶり付く幼女。これは何とも単純な事で、この子が大恩寺を見ていたのは間食のお菓子に引かれていたからだ。


「こ、こんな簡単に。今までの苦労は何だったのだ……」

「はい、私たちが愚かだったのでしょう。ですがこれで一歩前進です。鳥居くん、そのまま会話に繋げてください」

「ああ、やってみる」


 副会長に背中を押され、食べ終わる頃合いを見て再び話しかけてみた。


「そろそろいいか? キミが何処から来たのか教えてほしいんだ」

「……あっち」

「あっち?」


 指された方向に顔を向けると……


「え? ワイか?」

「……違う、お前じゃない。あっちの鉱山から来た」


 ああ、鉱山の方か。


「でも鉱山って多数のゴーレムが住みついてるだろ? 危険じゃないか?」

「……ううん。仲間がいっぱいで楽しい。ゴーレムみんな仲間」

「「「ゴーレムが仲間!?」」」


 ――って事はつまり……



 シュン!



「あら、伝え忘れたから戻ってきたんだけれど、すっかり馴染んでるみたいね」

「あ、クロノス様。この子のこと知ってるんですか?」

「え? 知らないで仲良くしてたの? この子は広場で拘束されていたアイアンゴーレムよ」

「「「えええっ!?」」」


 そりゃ驚くよ。あのデカブツが幼女になってんだもん。

 けどこれで分かった気がする。数日間磁石で縛り付けてたから怒ってんだな。


「ってか何でこの姿に?」

「あのままだとコアルームに入らないでしょ? それに眷属化しないとあなたたちが危険だもの、コアルームに送るためにも人化させる必要があったのよ」


 眷属がこちらに危害を加えることは出来ない。(←本郷が絞め技食らってたけど)

 だからこの子は不機嫌な顔してここに居たのか。


「でも説明する手間が省けたわ。後は名前を付けてあげなさい」

「え? この子をここに置いとく――」



 シュン!



「――って、もう消えちまった」


 もっと早く来てくれれば本郷も犠牲にならずに済んだのにな(←まだ死んでません)。


「名前なぁ……」

「それならボクが決めてあげるよ。【胸囲の絶壁】なんてどうだい? 成長する見込みのないこの子にはピッタリだろう? フフ」

「止めろって」


 安土は爽やかそうに見えて根に持つタイプだからな、貧乳発言がよほど許せなかったらしい。つ~か大人気ないなぁ……。


「女の子なのだからもっと可愛らしい名前があるだろう? ミッ○ィーとか」

「会長、売名行為って知ってます?」

「じょ、冗談だ。なんなら鳥居くん、キミが上手く懐柔(かいじゅう)したのだから、キミが名付けたらどうかね?」

「俺が? なら――」


 緑丸の時と同じく脳裏に名前を浮かべてると……


「……その必要はない。名前ならさっき貰った」

「「「はい?」」」


 これには全員でクエスチョンマークを浮かべる。


「……名前はテヘペロ。今後ともお菓子とジュースをよろしく」


 戦犯はメグミでした。


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