初めまして侵入者
「全員揃っているかね? 念のために出席番号を――」
「「「取らんでいい!」」」
生徒会長の八重樫憲語に総突っ込みが入る。クラスの人数が元々少ない上に転移先のここでも全員の無事が確認されているんだ、悠長にやる必要はない。
「んな事よりよぉ、おめぇら全員の頭ん中にコマンドみてぇのが見えるよな?」
「お、そうだな」
「見える見える」
「あたしも~」
本郷の言葉に全員が頷く。俺の脳裏でもコマンド表を確認でき、
【モンスター】
【アイテム】
【トラップ】
【コンタクト】
【ワープ】
【ステータス】
等のコマンドが縦に並んでいる感じだ。つまり全員がこれらを自由に実行できると。
「あ、アイテムから食べ物が選択出来るよ、お腹空いたし何か食べましょ!」
「フッ、賛成するよ。悪夢のような出来事が過ぎ去ったばかりだ、私の分身が食欲を満たせと告げている」
「愛ったらこんな時までそのキャラを通しますの? まぁ良いですけれど」
「む、そういう永遠こそこのような時にまでお嬢様キャラを演じておるとは」
「元からお嬢様ですわ!」
神崎藍梨、一ノ橋愛、袋小路永遠のスクールアイドル3人組がキャッキャ言いながら食料を召喚し始める。
台詞から分かる通りなかなか濃い性格の3人で、ちょっとワガママで行動派の藍梨に中二病の愛、そして高飛車お嬢様の永遠という組み合わせが絶妙なバランスを保っているらしい。
さてさて、勝手な行動をとる3人を見た会長が眼鏡を光らせるが……
「待ちたまえキミたち。勝手な行動は――」
「まぁいいんじゃね? 腹が減っては何とやらだしさ。みんなもそう思うだろ?」
「おぅよ!」
「とってもお腹空いたよ~」
「ワスも限界でごわす!」
「デスデス!」
「すみません会長、空腹には勝てません!」
「と、戸田くん、キミまで……」
会長を遮った和人の意見が圧倒的支持を得て、しかも副会長にまで裏切られる形で会長はガックリと肩を落とす。
そしてこれより作戦会議という名の食事会がスタートした。
「……コホン。ではこれより、第一回ダンジョン会議を開催する」(←鯖の塩焼き定食)
「書記は副会長の私が代行します」(←鯖の塩焼き定食)
「まずは【ステータス】からDPという項目を確認してもらいたい。魔物の召喚やトラップの設置を行う度に、このDPを消費すると明記されている」
いわゆるコストってやつだな。これが足りないとアイテムの召喚も出来なくなる。それは食べ物にありつけなくなる事を意味し、餓死に向かって一直線なわけだ。
「現状は2825DPと表示されとるな。これが多いのか少ないのか、ち~とも分からんのやが」(←豚骨ラーメン)
「あ~確かにね。誰か元が何ポイントだったか覚えてる奴いるかい?」(←焼き鳥)
エセ関西弁の加瀬光太郎がラーメンを啜ってる横で石オタクの小早川巻斗が全員を見渡す。しかし殆どのクラスメイトが首を振るのは横。そこへ静かに挙手したのは、天然マイペースでお昼寝大好きな緑川雫だ。
「あたしは覚えてるよ~。確か~、3022DPだったよ~」(←野菜スープカレー)
ピタッ!
その発言がなされた直後、みんなの動きがピタリと止まる。ザッと計算すると200ポイント消費したことになり、朝昼晩で順調に消費していけば数日でDPが底を尽きるからだ。
「マ、マズくないデスかそれ?」(←釜揚げうどん)
学年成績トップの瓶底学が身震いしながら呟くと……
「こ、これってもしかして……」(←たらこパスタ)
「うむ、おかわりは出来んな」(←釜飯)
「当たり前ですわ」(←ハンバーグ定食)
さすがのスクールアイドル3人組も気まずそうに顔を伏せる。と、そこへ弓道部の那須要子が声を荒らげ……
「おい貴様、その量は何だ!?」(←梅おにぎり)
お那須さん(←みんなこう呼んでる)が指したのは、寺の坊主で巨漢の大恩寺力だ。そう、奴の前にだけ山盛りビッフェみたいになっているんだ。
「ほげ?」(←カツ丼、チャーハン、お好み焼き、鰻重、味噌ラーメン、イカスミパスタ、高級寿司セット、フライドチキン5ピース)
「ほげ? ではない! いくらなんでも食べ過ぎではないか!」
「……うっぷ。食える時に食うのがオラの主義だど。なんぞおかしいけ?」
温厚な会長も声を荒らげるが、本人は事の重大さに気付いていない。そこで俺と和人、そして本郷の怒りが爆発する。
「お前どんだけ食うんだよ!」(←唐マヨ丼)
「食うのは丼だけじゃないど?」
「そういう意味じゃねぇ!」(←カルビ定食)
「んじゃどういう意味だで?」
「テメェが食い尽くしって意味だ!」(←カツカレー)
「おお! 凄いど本郷、よく食い尽くしって言葉を知ってるだな!」
「「「ダメだコイツ……」」」
こんなのが寺の坊主とか世の中どうなってんだよ……。
それでも食べ続けている大恩寺に哀れみの視線を向けつつ、ボクっ娘歴女の安土桃香が呟く。
「かのフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトは次のように述べたそうだよ。真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である――とね」(←ざる蕎麦)
それ、同意っすわ……。
★★★★★
いまだ混乱がくすぶる中、このままじゃマズイというのは共通認識ということで、急遽発令した大恩寺への食事制限以外の事を話し合う流れとなった。
「聞いてくれ諸君。調べてみて分かったのだが、どうもDPを獲るには侵入者を倒すのと、魔力を吸収してDPに変換するのと二通りあるようだ」
「けどワイらは魔法なんて使えへんで? 中二病チックな愛なら何かの間違いで使えそうやが」
「加瀬よ、残念ながら今の私には使えない。どうやらMPが足りな――」
「おぅ、知ってたで」
俺も密かにファイヤーボールとか試したんだが無駄だったな。
「その通り。加瀬くんの言うようにボクらに魔法は使えない。つまり現時点でDPを獲る方法は1つ、侵入者を――」
「――殺すことである」
皆がハッとなり息を飲む。あのダンマスは敵対してきたから殺した。
だがそれ以外はどうだろうか? もしもダンジョンにやって来たのが礼儀正しい冒険者だったら? 無用心に入り込んだ子供だったら? 俺たちに殺すという決断は出来るのだろうか。ダメだな、考えれば考えるほど鬱になりそうだ。
そんな中、瓶底が静かに挙手を行い意見を述べ始めた。
「ちょっといいデスか? このダンジョンには衣食住の条件が全て揃っているので、やはりここを護っていくのがボクたちが生きていける条件と思われるデス」
全員が頷く。こんな湿気だらけの洞窟に隠るのは嫌だとか言ってる場合じゃない。
「然るに現在、周囲の状況――つまりダンジョンの外が不明確であるため、そこを把握するのを求められるのデス。そこで探索部隊を編成し、周囲の探索を行うのが急務と考えますが、いかがデスか?」
「え、外に出るの? 紫外線とか気になるし、私は絶対にパス!」
「そうデスね、藍梨さんはそう言うと思っていたので、居残り組にはダンジョンの内装やトラップを整えてもらおうと思うデス」
「うむ、実に画期的な意見だ。他に意見のある者は――――居ないようだな。では各自で探索か居残りかを決め、各々で行動していこう。では解散!」
役割は決まった。知的好奇心の強い俺と肉弾戦に強い本郷、石材マニアの小早川、そして外に興味があるのか緑川が探索に加わることに。だがコアルームを出たところである事に気付いた。
「アレ? おい、あのクソ野郎の死体が無くなってるぞ!?」
「あの野郎、まだ生きてたんじゃ……」
「あ~、それなら大丈夫だよ~、ちゃ~んと死んでたから」
一瞬ヒヤリとしたが緑川が即座に否定。
「そ、そうなのか? じゃあ無くなってる原因って……」
「ダンジョンに吸収したからだよ~。ほら、倒した相手はDPに変換できるでしょ~?」
「ああ、それか!」
「でも~、たったの22ポイントしか入らなくて、何だかとっても草なんだよ~」
ショボ! いや他人の命を悪く言いたかないけどさ。
「じゃあ入口に飛ぼうぜ」
「「おぅ!」」
「はい~」
4人同時にワープを使用し、ダンジョンの入口へと移動した。このワープという機能はダンジョン内部ならどこにでも瞬間移動ができる優れものだ。使用コストも0なので積極的に活用したいところだな。
「さてさて、外の景色は――っと……って何だこりゃ!」
外に出ようにも木の枝と葉っぱが邪魔で前すら見えない状況だ。あのダンマス、侵入されないようにカモフラージュしてやがったのか? 意外にチキンだな。けど取り除かないと出られないし……
「「頼んだぞ本郷」」
「お願いしま~す」
「ざけんな! テメェらも手伝えや!」
渋々全員で枝をポキポキ。やがて見えてきたのは……
「え……建物?」
ダンジョンとは違うどこかの屋内に出たようだ。
「壁は木造、床は石を敷き詰めた造りか。広さも六畳くらいだし、倉庫と表現するのが妥当かな」
「さすが石マニア」
「あっちに扉があるぜ、外に出られんじゃねぇか? ――よっと」
言うや否や、本郷が扉を開けて外へと出る。しかし、この行動は軽率だったと直後に後悔することに。
「ヒャッハ~! 逆らう奴らは皆殺しだぜぇ!」
「おおぅ、狩りだ狩りだぁ!」
「お? こっちにガキ共が居やがるぜ。取っ捕まえて売り飛ばしてやらぁ!」
「「「!?」」」
妙なモヒカン連中に見つかった! しかも物騒なこと言ってやがるし、少なくとも味方ではない事は確かだ。
俺たちは反射的に扉を閉め、ダンジョンへと逆戻り。透かさず仲間に呼び掛けた。
「大変だ、誰か応答してくれ!」
『こちら瓶底、どうしたのデスか鳥居くん!?』
「うおっ! ダンジョン全体に瓶底の声が響く!? いや、そんな事より聞いてくれ。ダンジョンを出たら村か街みたいな場所に出て、そこで柄の悪い連中に見つかったんだ。奴ら俺たちを掴まえて売り飛ばすとか言ってたぜ!」
『なるほど、状況は分かったデス。直ぐにコアルームへ転移して下さい』
瓶底に促されてコアルームに転移。何故だか和人以外の居残り組が全員集まっており、壁に投影されたスクリーンに注目していた。
そして理由も分からないまま会長から労いの言葉が寄せられる。
「ご苦労だった諸君、お手柄だぞ」
「いや、いきなり敵と遭遇して逃げてきただけなんだが……」
「なぁに、見ていれば分かる」
俺たちも一緒にスクリーンに注目すると、入口から少し離れた場所に和人を発見。カメラ目線でポーズをとっていた。
「何やってんだアイツ?」
「彼に敵の誘導をしてもらうのだよ。フッ、見たまえ、さっそくやって来たようだ」
見れば外にいたモヒカン野郎たちが入口から入って来たところだった。そして和人を見るなり捕まえようと襲いかかる。
「ディヤッハ~! ま~ずは1人目だぁぁぁ!」
「そう簡単に捕まるかっての」
透かさず駆け出す和人。3人のモヒカン野郎も後を追う。それを振り向き様に見た和人は自ら落とし穴トラップを発動させ、中へと飛び込んだ。
「コ、コイツ、自分から落とし穴に!?」
「へっ、追えるもんなら追って来いよ」
明らかにおかしい挙動。しかしモヒカンの1人はポジティブに解釈したらしく……
「へへ、実はトラップでも何でもねぇってオチだろ? 観念しやがれってんだ――」
そう言って意気揚々と飛び込む。
しかし……
「――ンギャァァァァァァ!?」
「「!?」」
即座に響く断末魔。2人のモヒカンが落とし穴を覗き込むと、下に見えたのは剣山に全身を貫かれて絶命している仲間の無惨な姿だった。
「クソッ、やっぱり罠だったか!」
「そうだよ? でも襲ってきたのはそっちだからねぇ」
「こ、このガキィ!」
再び現れる和人。仲間を殺られてブチギレてたようで、剣を抜いて斬りかかってきた。
でもダンジョンは俺たちのテリトリー。ここならどこにでもワープできるため、瞬時に距離を取ることも可能だ。
「よっと! あっぶねぇなぁ、そんなマジになんなって」
「ざけんなゴルァァァ!」
距離を取った和人に向け突進するモヒカン。怒りのあまり周りが見えなくなったのが仇となり……
シュ――シュシュシュシュ!
「グワァァァァァァ!」
壁から飛び出た弓矢に射貫かれ、もう1人のモヒカンもその場に倒れ込む。刺さった矢の数は10本以上。後は死ぬのを待つだけだろう。
「ち、ちきしょう、覚えてやがれ!」
あっという間に2人が死んだのは衝撃だったのだろう、最後のモヒカンは背を向けて逃避を開始。
「瓶底、1人逃げちまうぞ?」
「そうデスね、連戦は和人くんの負担が大きいデスし、刈り取っておきますか」
そう言って瓶底が打った手は、ついさっきまで俺たちを追い詰めたアレだった。
「キシャァァァァァァ!」
「ひ、ひぃ~!?」
そういや居たな、巨大なゲジゲジモドキが。それをダンジョンの入口前に召喚したんだ。
「フフ、カオスセンチピードというムカデのモンスターらしいデス。並の人間1人じゃ手に負えない強さデスので、あのモヒカンも終わりデスね」
「見かけによらずエグいなお前……」
結局最後のモヒカンはモンスターが美味しくいただき、これにて初戦は無事に耐えた。
さてさて、DPはいくら入るかな?
「イェスイェス! 今回は俺、利根川和人の出番だ。女子のみんな、俺の活躍を見てくれたか~い? じゃあ張り切って登場人物の紹介だぁ!」
名前:神崎藍梨
性別:女
年齢:15歳
誕生日:12月23日
備考:小柄でツインテールの似合う美少女で、スクールアイドル3人組のリーダー。ネットでも有名で、【アイリ】というハンネで動画投稿もしている。そのためクラスでも下の名前で呼ばれるのが普通となった。ちょっぴり我が儘でキュートな彼女に引かれる者は多くストーカーの被害にも合った事から、常に護身用のスタンガンを所持しているらしい。
名前:一ノ橋愛
性別:女
年齢:16歳
誕生日:4月5日
備考:小柄でセミロング、片目に眼帯をしている中二病に染まりきった美少女で、藍梨や永遠と一緒にスクールアイドルをやっている。アイリ同様【メグミ】というハンネでネットに動画を上げており、彼女いわくチャンネル登録や高評価ボタンを押さないと闇の力が増幅されるため協力して欲しいとの事。ホントか?
名前:綾小路永遠
性別:女
年齢:15歳
誕生日:11月13日
備考:やや身長が高めで金髪ロングヘアーの巨乳美少女にして名家のお嬢様。藍梨と愛に誘われてスクールアイドルとして活動するようになった。動画は挙げてないが他2人と同様に【トワ】というハンネを勝手に付けられ、クラスでも下の名前で呼ばれりようになった。
「というわけでだ、今回はこの俺――利根川和人が侵入者と戦ったわけだが、スクールアイドル3人組の目にもキッチリと収まっただろう。それに容姿もクラスで一番だしな。これ、明日あたり告白とか来るんじゃね? いやマジで。フフ、モテる男は辛いぜぇ!」