ライバルのダンマス
「「「ダンジョンの管理神!?」」」
メンヘラの上司っぽい女性の正体は、まさかの神。しかもダンジョンを管理してるって言う発言が本人から――いや、本神? から飛び出した。
「この世界にある全てのダンジョンは例外無く私の管理下にある、これは揺るぎなき事実なのです」
「で、では神である貴方に対し、私たちもひれ伏した方が……」
慌てて床に座ろうとしたお那須さんを透かさず手で制して微笑む。
「フフ、そこまでしなくても大丈夫です」
「しかし……」
「もしや、そこの3人を気にかけているのですか? なら気遣いは無用です、彼女たちは冷たい床が大好きですから。……そうですね?」
「「「はい、冷たい床は最高です!」」」
天使の3人組が正座したまま頷く。そんなに好きなら次から椅子は要らないな。(←鬼かよ)
「ソレはソレとして、あちらの男子たちはアレで良いのですか? 少々不憫に思うのですが……」
実はコアルームの奥を鉄格子の部屋に改良され、俺たち男子はそこに放り込まれているのだ。裸同然のメグミを凝視した罪でな。
「彼らこそ気遣い無用です。一時の気の迷いで風紀が乱れたのですから。そうですね、会長?」
「……はい」
副会長に言われるまま頷く会長。ありゃ相当怒ってるなぁ。
「待っでげれ、会長たちはともがぐ、オラは何もしてないど?」
「アンタは食い過ぎ」
「食い散らかす様は不快ですわ」
「穢れを清めよ!」
「ぐふぅ……」
スクールアイドル3人に言われ、大恩寺も撃沈。そんなこんなで会長に代わり、副会長とお那須さんが代表としてクロノス様と対談を行う流れとなったと。
「そういうわけです。お互い気にせず女子会といきましょう」
「あら、楽しそうでいいわね」
「さっすが副会長、良いこと言う! じゃあカークランドさん、飲み物用意して」
「ハッ、かしこまりました」
俺たちの中でカレー執事の異名を持つカークランドがせっせと働く。何が彼を掻き立てたのか、それは偶然口にしたカレーに他ならない。
夢はカレー屋を開くことらしいが……まぁそのうち実現するだろう。
「それじゃあ本題に入ろうかしら」
カレー執事が用意したスープカレードリンクを何食わぬ顔で飲み干し、ここに来た目的を語る。
「知っての通りダンジョンの奥にはダンジョンコアがあり、それが破壊されればダンジョンマスターは死にます。ですがダンジョンコアを狙わずともダンマス本人を直接手に掛ければ結局は同じ。しかしこの場合は前者とは違い、ダンジョンコアのみが残される。するとどういう現象が起こるのか、あなたたちはご存知ですね?」
「「「…………」」」
隠すつもりはないが思い出したくもない出来事だ。ダンジョンに飛ばされた初日に俺たちがダンマスを殺し、ダンジョンマスターへと成り代わった。
「フフ、そう怖がらないで。何も責め立てようとは思っていません。事実を正しく認識しているかを確認したかっただけです」
「そうなの~? ビックリして言葉が出なかったよ~、も~ぅ人が悪いんだからぁクロちゃん♪」
「こ、こら緑川!」
「大丈夫ですよ那須葉子さん、多少フランクなだけで本人に悪気がない事は手に取るように分かりますので」
やっぱ心の中とか読まれてんだな。しかもお那須さんの名前まで知られてるし。
「話の続きですが、ダンマスとなったあなたたちはダンジョンを外へと広げて町全体を覆い尽くした。これには多くの神々が驚いています。過去に例のないことですので、このダンジョンへの注目が高まっていると言えるでしょう」
マジかよ。大恩寺の汚ぇ大食いとかも見られてんのか。(←もっと他に有るだろ)
「神々だけではありません、ライバルとなる他のダンマス達にもあなたたちの存在が知れ渡るのは確実。今後はダンマスの襲来にも気をつけなさい」
敵のダンマスか。正直ダンマスと戦うのは初日のクソ野郎だけで充分なんだけどな。
「しかしクロノス様、どうして私たちに肩入れを?」
「期待しているからです。何せあなたたちは古代人の――いえ、これはまだ言うべきではありませんね」
「そ、それはどのような……」
「気になりますか? ですが人間は内なる好奇心と共に生きると聞きます。詳しくは自分たちで調べるとよいでしょう」
結局そうなるのか。まぁ古代人についてはトルネオさんが寝る間も惜しまず(←そもそもアンデッドだから寝る必要がない)調べてくれてるからな、続報に期待しよう。
「話は以上ですが、細やかながら私からプレゼントが有ります。――アズール、どうせ貴女が持っているのでしょう? 早く渡してあげなさい」
「ハ、ハイ、ただいま!」
メンヘラ大天使が正座したまま詠唱を始めた。すると俺たち全員が全身に光を帯び、何事もなかったかのように一瞬で光は消え去る。
「上納ポイントによる報酬よ――じゃなかった! 報酬です。各々にアイテムボックスを授けました。有効に活用してください」
「「「アイテムボックス!」」」
これは知ってるぞ、確か手に入れたアイテムを無限に収納できるやつだ。
「さ、そろそろ私は天界に戻ります。貴女たち、地上との交流は自由ですが、羽目を外し過ぎぬようになさい。しかし彼らが……ね」
シュン!
クロノス様が去り際に言った台詞、微かだが【古代人の遺産】と聴こえた気がした。気のせいか?
「ふぅ~~~う、やぁ~~~っと解放されたーーーっ!」
「ったく酷い目に遇いましたよ」
「B○Aのひがみは怖いです」
上司が去ったことで例の3人も緊張の糸が切れたもよう。
「そんじゃ鬼の居ぬ間にやっちゃおっか。ほら男子たち、さっさと牢屋から出る出る! 今日はとことん付き合ってもらうからね!」
忘れてた、こいつらにデートを強要されてたっだった!
「こんの悪徳天使、男子たちは渡さないわよ!」
「アイリに同意する、天使と言えど見過ごせん!」
「フッ、天使に勝てると思って? みんなまとめて牢屋にゴ~♪」
「「「あれぇぇぇ!?」」」
やっぱり天使には敵わず、アイリやお那須さんを始めとした女子たちが牢屋へと強制誘導されてゆく。
ああ無情、天使は説得出来ない限り、力での抵抗は無理のようだ。
★★★★★
こうして俺とカズトと本郷の3人は、天使の3人組に拉致やれてしまった。それでも彼女たちなりの優しさなのか行きたい場所を聞いてきたので、調査も兼ねてガリアーノの街へ連れてってもらうことに。
少しのあいだ猛禽類に捕らわれた餌のごとく空の旅を楽しんだ後、件の街へと降り立った。
「はいと~ちゃ~~~く! じゃあここからは別行動ね」
「分かってますよ、各自の健闘を祈りましょう!」
「腕が鳴るですぅ!」
3人とも気合い充分なもよう。その気合いを仕事に向けれるよう陰ながら祈っとくぞ。
しかしこの3人、別れ際に妙なことを言い出した。
「あ、2人とも分かってるでしょうけれど、ここは敵のテリトリーだから、この子たちが被害を被らないよう細心の注意を怠らないようにね?」
「「は~~~い!」」
ここで他2組とはバラバラになり、街を闊歩し始める。なんならついででもあるし、歩きながら聞いてみることにした。
「あのさメン――っじゃなくってアズール、さっき言ってた敵のテリトリーってどういう意味?」
「そりゃそのままの――あ、そうか、ススムたちは知らないんだっけ? 殆どの街はダンマスの支配下にあるってこと」
「はぁ!?」
そりゃ初耳だ。でも思い返せばあのクソ野郎もライジングバレーに居たんだよな。
「ならこの街も……」
「そう、貴方たちとは違う別のダンマスが根を張っているの。上手く自分たちを信仰するように仕向けてね」
なるほど、ライジングバレーに手を出したのはダンマスの影響も考えられるわけだ。
「でも大丈夫、今回はあたし達が一緒だもの邪魔立てはさせないわよ」
「そ、そう?」
「そう! だからほら、余計な心配はしないでデートに集中! まずは服屋から行きましょ!」
「ちょちょちょ、そんな引っ張るなって」
強引に手を引かれて服屋に突入。平日だからなのか、客の少ない店内でアズールに似合う服を探せと言われる。
「こんなのとかどう?」
「なによソレ、そこらの村娘と変わらないじゃない」
「じゃあコレは?」
「ダ~メ。さっきのに毛が生えた程度ね。もっとこう、あたしの存在を引き立たせる見た目じゃなきゃ」
「じゃあ……コレ?」
「ダッサ! ただのエプロンじゃない! 食堂のおばちゃんじゃないのよ!?」
「いや、食堂に立ってたら絵になるかと」
なかなか決まらないため押し問答を繰り広げてると、生き生きとした様子の本郷から念話が届く。
『鳥居に利根川、獲物を見つけた、援護を頼むぜ!』
来たばかりで何が起こったんだ?
すると傍らのアズールも真顔で誰かと念話を展開。恐らくは他の天使か?
「ったくも~! アンタの仲間、な~に面倒起こしてんのよ!」
「いや、俺に言われても。ってか何があったんだ?」
「ダンマスの眷属に喧嘩売りやがったのよ、この街を支配下に置いてる奴のね!」
「ああ、いかにも本郷らしい勇ましさだ」
「感心してる場合か! 早く合流するわよ!」
急遽デートは中断。本郷がカチコミしたらしい領主の邸に到着した時には、すでにボロボロな有り様だった。
「こいつは酷ぇ、まるで暴動が起こった後みたいだ。いったい誰が?」
「トロンよ、お仲間を護るためやむを得ずって感じでしょ。原因を作った本人ともう1人も中に居るみたいね、早く行きましょ」
邸に足を踏み入れるも人の気配が感じられない。すでに逃げ出した後か? 試しにドラ○ンレーダーを使ってみると、地下に反応を検知。本郷の持っているレーダーだ。
「本郷たちは地下に居るみたいだ」
「よく分かったわね、どの辺り?」
「え~と……ちょうど突き当たりの部屋の真下辺り――かな?」
「ならここからでも良いわね」
「へ?」
「フン!」
ドゴォ!
このメンヘラ、拳で床をぶち抜きやがった! でもって何事もなかったかのように床下したに降りてくと。
「よっと。……あ、いた!」
大穴を開けた音に驚いてか、下のフロアにいた奴らがこちらに振り向いている。
「よ、ススムも来たか」
「カズトか」
「一番奥にいる爺さんが領主、手前のオッサンがダンジョンマスターらしいぞ」
すでにラスボスを追い詰めた流れになっていたことに驚きだ。額に手を当て呆れた様子のトロンの横で、本郷が拳を付き出して挑発する。
「これで全員だ覚悟はいいか?」
「まさか別派閥の天使が肩入れしようとはな。少し不公平じゃないか?」
「あ"? 元はと言えば、テメェの眷属が酒場で喧嘩売ってきたんだろうがよぉ! 俺は親玉のテメェにナシつけに来ただけだ!」
売られた喧嘩は買う主義だもんな。納得のいく理由だ。
「俺の眷属が……ね。それは大変な失礼を。代わりと言ってはなんだが、俺からの詫びを受け取ってくれ」
「詫びだぁ?」
「フッ、テリトリーに汚物を置きたくはないんでね。――スプラッシュニードル!」
「なっ!?」
不意打ち気味に魔法が放たれ、先頭に立つ本郷から後ろの俺まで複数の矢じりが被弾する!
「や、やったか?」
ダンマスを盾に隠れていた領主が顔を覗かせるが……
「あっぶないわねぇ、ダーリンが怪我したらどうすんのよ!」
はい残念。アズールがバリアを張ってくれましたと。
「っざけやがって、今度はこっちの番だ、ウォラァァァ!」
バシィ!
「ってぇ! な、なんだ!?」
突っ込んだはずの本郷が何かに弾かれ尻餅をつく。そこへ妨害した本人――いや、アズールたちと似た女が姿を現す。
「野蛮な連中ですね、他人の街を堂々と荒らし回るとは」
「チッ、邪魔しやがって。何もんだテメェ!?」
「私ですか? 私はセレ、そこのダンジョンマスターを守護する天使です」
スカイブルーの髪をショートカットにした女、コイツも天使か。
「これは俺たちの戦いだ、スッ込んでろ!」
「そうはいきません。そちらがアズールを出すのなら、こちらも出なくては公平ではありませんので。とはいえ、先に手を出したのはこちらでしたね。バスケス、謝罪を」
「何で俺が……」
「貴方の眷属が引き起こしたことです。それに後ろに隠れている領主、貴方にも責任はありますよ?」
「フン、偉そうに! ワシを誰だと思っとる!? ガリアーノの領主カマセドッグ様だぞ!」
好戦的じゃないか。けどそうでなきゃ倒し甲斐がない。
「もういいんじゃないのセレ? 止めても無駄そうだし、好きにやらせたら?」
「そうですね。そちらも天使が手を貸さないというのなら、私も介入しません」
「へっ、なら決まりだな。鳥居、利根川、仕切り直しだ、他の連中連れて全力でカチコミだ!」
「おぅ!」
「ま、仕方ないね」
ダンマス同士の戦いか。15人分の実力でねじ伏せてやる!