初めてのコンタクト
時刻は深夜を0時を回る直前。ゴンドラからのDP供給の期待が高まる中、カウントダウンが行われていた。
5……
4……
3……
2……
1……
0!
パカッ!
「「「!!!」」」
例の如く壁の一部が開く。ここまで来たらもう予想はついている。どうせ緑川が仕掛けただろうと思い、みんなして身構えていたんだ。さぁ、何が来る?
「チュイチュイチュ~~~イ♪」
「「「へ?」」」
「は~~~い♪ というわけで、緑丸ちゃんが午前0時をお知らせするよ~!」
「「「なんのこっちゃ……」」」
出てきたのは阿波踊りをしている緑丸。良いんだか悪いんだか……。
植物:68DP
動物:372DP
動物:352DP【NEW】
レスカ:3DP【NEW】
ルイン:2DP【NEW】
ストーンゴーレム:250DP✕16【NEW】
ブロンズゴーレム:500DP✕5【NEW】
アイアンゴーレム:2500DP【NEW】
クリスタルゴーレム:12500DP【NEW】
アイテム:2360DP
ゴンドラ:3✕20DP【NEW】
56115DP→80832DP
「「「…………」」」
驚きの結果に言葉が出ない。突っ込みどころが多すぎて理解が追い付かないんだ。
ダンジョン維持→-3000DP
セキュリティアラート→300DP
緊急迎撃システム→500DP
建設物自動修復→100DP
上納ポイント→3000DP
80832DP→73932DP
増減が激しい! こっちにも少しは余裕ってもんを持たせて欲しいくらいだ。
「……すまない瓶底くん。何が起こったのか詳細をまとめてはくれないだろうか?」
「そうデスね、順番に説明させてもらうデスが、植物というのは魔力草のことデス。数日前より増殖した結果、66から68に上昇したのデス。動物というのは人間や獣人や小動物、緑丸も含めた数値で、新たに加わった捕虜の分が352という数値デスね」
ここまではいい、何となく分かる。問題は次だ。
「鉱山に住み着いている魔物も含まれるようで、そこに住み着いたゴーレムも対象となっているようデス」
「つ、つまり何かね、あの鉱山の中には大量のゴーレムが発生していると……」
「そうなるデス」
「「「…………」」」
もうね、DPの獲得数から見てさ、クリスタルゴーレムとか絶対ラスボスだろって言いたくなってくるわけよ。いや、寧ろ関わってはいけない相手か?
「でも良かったやん。期待してたゴンドラが雀の涙やったんやし、バカと何とかは使いようやろ」(←バカはお前なんやで)
「そうは言うがね加瀬くん、ゴーレムという危険物を身近に住まわせておくのもリスクがあるだろう。現に2体のゴーレムが大砲の音に反応して飛び出てきたのだ、何かしらの対策が必要だろう」
「せやかて……なぁ瓶底?」
「いえ、会長の言う通りデスよ。町全体はダンジョン化させましたが、鉱山は半分にも満たないくらいデス。つまり……」
他にもゴーレムがウヨウヨしていると。こんな時に外部から攻め込まれるのも面倒だなぁ。あ、落石で塞がったんだっけか?
……ん? 落石?
「そうだ! いっそのこと鉱山の入口を封鎖しちまえば良くね? ゴンドラを止めたところで殆ど痛手は無いんだし、ゴーレムさえ出られなくすれば、DPも自動的に供給されて万事解決だろ」
「「「おおっ!」」」
これには殆どが同意した。
73932DP→73912DP
強化ガラスでサクッと封鎖。今なら鉱山全体を強化ガラスで覆ってもお釣りが来るだろう。
「ついでだ、町に転がっている死体も吸収しよう」
73907DP→89223DP
「素晴らしい成果だ! これで後10年は戦える!」(←戦いません)
ゴンドラはダメだったがゴーレムから獲られるDPは莫大な額だった。今後もゴーレム頼りになるんだろうな。
それとは別に拡張を続けた結果、上納ポイントが増額されたのが気になる。どこのどいつに渡ってるやらで、俺たちの気分はよろしくない。
チカッ! チカッ! チカッ!
「か、会長!」
「どうしたのだね戸田くん?」
「ダンジョンコアが妙な光を……」
「……何?」
俺を含め、皆の視線が部屋の奥に祭られているダンジョンコアへと注がれる。コアが発する光が脳内コマンドの【コンタクト】とリンクされているのが分かり、いつもは静かな瓶底が声を荒らげた。
「外部からの接触デス! 迂闊に応じないよう注意して下さい!」
ついに来たかと各々の表情が強張る。得体の知れない相手だ、どんな話になるか見当もつかない。
「けどどうすんだ? このまま放置ってのも落ち着かねぇんだけどよぉ。いっそ話してみるんじゃダメか?」
「会長、本郷の言う事も一理あります。相手によっては悪感情を持たれるのはマイナスになる可能性を加味するならば、リスク覚悟で話してみるのも有りかと」
「う~む、ならば……」
ここで民主主義に基づいた多数決を。話してみる8人、話さないほうがいい6人、そんな事より腹減ったべ1人。
「対話するが多数か。分かった、ボクが代表として話してみよう」
全員が頷く。こういう時の会長はマジで頼もしい。
「あ~あ~。もしもし、こちらは生徒会会長の八重樫憲語です」
『あ、よかった~、ようやく繋がりました』
意外にもお相手は若そうな女性の声。
『いや~、そちらって最近急成長しているそうで、こっちではちょっとした話題になっているんですよ~』
「む? こっち……とは?」
『あっ、これはとんだ失礼を! 申し遅れましたがあたしは大天使のアズールという者でして、あたしの言うこっちとは天界の事を指します』
「「「天界!?」」」
天界……。たぶん字は合ってると思うんだけど。それにしても天界とは……。
「失礼。天界というのは、神々が存在する世界のようなもので?」
『あれ? 幼少期に習わなかったですか? この世界には地上界と天界の二つが存在すると』
「ふむ。そもそも我々は別世界から来たのでね、こちらの世界の教育方針とやらは知らないのですよ」
『え……』
『まさか転移してきたんですか!? それってスッゴいレアじゃないですか! 後でサインください! というか後でそちらにお邪魔します! ちゃ~んと手土産も持参しますので!』
食い付きが凄まじい! まるで昭和の時代にやって来た外国人が珍しくてサインをねだってる感じだ。
しかもこっちに来るって? いきなり過ぎて対応が追い付かないんだが。
「い、いや、サインとかはともかく、そちらの用件を伺いたいんですが……」
『ああ、すみません! あたしってばつい興奮して。いつもこうなんですよね、つき先走っちゃう癖が昔から抜けなくて、いつも上司からガミガミ言われちゃうんですよ。それに部下は部下で好き勝手動いちゃうしで、その責任まで押し付けてくるんですよ? ホント酷い世界ですよね。こちとらウン100年近く彼氏すらいない状態だっていうのに、仕事仕事にそのまた仕事ですよ。少しくらい息抜きさせろって話ですよまったく! まぁこんなこと直接言ったら更なるカミナリが直撃するので口が避けても言えませんけど。ほんっと中間管理職の永遠の悩みってやつですねぇ。どっかに素敵な彼が転がってないもんでしょうか、居るんなら是非とも悩みを共感して欲しいですよ、切に! ……それで何の話でしたっけ?』(←話がなげぇよ!)
話聞いてねぇ! というか一方的に喋ってくる奴にロクは奴は居ないからな。俺たちはコッソリと会長に耳打ちした。
「大丈夫か会長? コイツ中途半端にメンヘラっぽいけど」
「う、うむ、ボクは大丈夫だが先方が心配だ。できる事なら精神科のある病院を紹介したいところだがな」
「つ~かよ、メンヘラ女に来られても厄介だし、上手く断る事はできねぇか?」
「出来るだろうか? 今や先方は精神病患者の末期状態だ。これが切っ掛けで崩壊する可能性も……」
「何言うとんのや会長、ワイらだって見知らぬ土地で今日までやって来れたやないか。精神病患者の1人や2人、回避するなんて造作もないことやで」
「加瀬くん……」
「その通り。それにいざとなれば末期を迎えようとしている哀れな患者を受け入れてやるくらいの広い心で挑めば良いではないか」
「お那須くん……」
「さすがお那須さん、良いこと言うねぇ。かくいう俺も同意見だよ? みんなに被害が及ぶ前に、俺のテクで口説き落とすさ」
「利根川くんまで……。うむ、ボクは覚悟を決めたぞ、全力で交渉をやり遂げようではないか!」
皆が頷き合い、メンヘラ女に精神を揺さぶられた会長の目に光が戻る。
ここに来て皆が一丸となる動き、災い転じてとはこの事だな。
「よし、では話の続きを――」
『ゴルァァァ、アンタらぁぁぁぁぁぁ!』
「「「ヒィッ!?」」」
無駄にデカイ声がコアルームに響く。俺たち思わず硬直状態に。
『さっきから聞いてればあたしをメンヘラだの精神患者だの好き勝手言ってくれちゃってますねぇ!?』
「き、聴こえてたのか?」
『あったり前でしょう!? コアルームの声は全部拾っちゃうんだから、そりゃもうわざと言ってんだろコイツら状態ですよ!』
いきなり印象悪くしてらぁ。
『こうなりゃもう直接会って白黒つけましょう!』
「し、白黒……とは?」
『どっちが勝つかに決まってんでしょうがぁぁぁ! アンタらはあたしを怒らせた、もう絶対に許さないから覚悟しときなさいよコンチクショウがぁぁぁ!』
おいおいおい、何か戦う流れになってんぞ?
「か、会長、不本意ながらもここは下手に出たほうが良いかと。メンヘラは何を起こすか予想もつかないですし」
「戸田くんの言うことはもっともだ。――アズールとやら、一度冷静になってほしい。こっちに来られても迷惑――じゃなかった、充分な持て成しは出来ない。ここはボクの顔を立てて退いてはくれな――」
『だ~か~ら、そっちの会話は聴こえてるっつってんでしょ~がぁぁぁ! だいたい初対面のアンタに立つ面なんか有るかっての! もぅ絶対にそっち行くからね!? 逃げんじゃないわよクソッたれ共!』
「「「…………」」」
会話は終了し、コアルームに平穏が戻る。
いや、どうすんだよこれ……。
「こんちは~、石マニアこと小早川巻斗ですっと。いや~、鉱山が封鎖されちゃって残念だなぁと感じる今日この頃ですよ。ほら、鉱山なら色んな石が有るかもだしさ、それらを集めて調べ尽くすのを楽しみにしていたんだけどね。代わりと言っちゃなんだけど、広場で固定されてるアイアンゴーレムでも調べてみますかねっと」
登場人物紹介
名前:アズール
性別:女
年齢:聞くんじゃね~わよ!
種族:大天使
備考:天界に住んでいると思われる自称大天使。中間管理職であることを作中で示唆しており、相当なストレスを抱えている模様。精神も病んでいる可能性が高く、大天使というのも疑わしい。主人公たちの挑発により怒り心頭でダンジョンにやって来ると宣言したが……。
「さぁ、いよいよ第1章も次で最後ですよ。いったいどんな展開が待ってるんでしょうかねぇ。え、俺の予想? そうだな~、まだ見ぬ大天使が何かやらかすんじゃないかなぁ。ま、あくまで予想ってことで」