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鉱山からの贈り物

 朝食を済ませた後の恒例会議にて、瓶底から報告があるという。


「お待たせしたデス。ダンジョンの拡張が進み、ライジングバレーを完全に掌握したデスよ!」

「「「ひゅう♪」」」


 素直に嬉しい知らせだ。住民も少しずつ増えてきてるし、DPの消耗は抑えなきゃならないしな。

 ちなみに現状のDPは以下の通りだ。


 56315DP


「ゴンドラも既に起動させたことデスし、後は日を跨いで結果を見るだけデス。実際に確認したところ、かなり大掛かりな装置のようデスし、街灯とは比較にならないDPが期待できるデスよ!」


 興奮気味に話す瓶底の隣で会長もウンウンと頷いてるし、他のみんなも期待していると見てソワソワと落ち着かない。まるで修学旅行の前日みたいだ。


「あとはアレやな、町に住民が居らんっちゅうのは見てて寂しいわな。この際やし大々的に募集せぇへん?」

「加瀬くん、下手に注目が集まったらどうするつもりかね? 気まぐれで危険を招くのは賛同しかねる」

「ま~た会長はお堅いなぁ、そんなん言われんでも分かっとるっちゅうに。近隣の街に出向いて聞き込みするだけや。住居失って生活できん奴なんざ仰山おるやろ? そういう連中を住まわせたるんよ、もち税金も頂いてな。どや、ワイだってちゃ~んと分かっとるやろ?」

「いやいや、住居を失っているのならお金にも困っているだろう」

「うぐっ……」


 会長のトドメの一言に加瀬が押し黙る……かと思ったんだが……


「分かった、分かりましたて! ならこれでどうや、何も一般人を住まわせる必要はないんや、魔物でも飼っとけばええやん。多分魔力も持っとるやろうし、DPだって貯まるやろ」

「魔物が巣くっているとなれば冒険者や騎士団が討伐に乗り出すだろう。下手をすると世界を敵に回すことになるぞ?」

「んがっ!」


 はい撃沈。更に安土から追撃が入る。


「毛利元就の三男である小早川隆景は次のように述べたそうだよ。すぐ分かりましたという人間に分かったためしはない……とね」


 この名言には加瀬を除く全員が納得。仕切り直しとばかりに会長が音頭をとる。


「コホン。加瀬くんのせいで話が逸れたが、実はハリアーフライによる偵察で気になる情報を掴んだのだ。まずはこの映像を見てくれたまえ」


 スクリーンに映されたのは少し前の昼間に撮影されたどこかの街の様子で、綺麗に整列した軍隊と周辺で疎らに(たむろ)している傭兵が映り込んでいる。


「ライジングバレーから一番近いとされるレイノス王国のガリアーノという街だ。断片的に聴こえてきたフレーズからエルバドール帝国に出撃するものだと思われたのだが……」

「違ったのか?」

「うむ。進軍中の兵士が話していたのだ、これでライジングバレーを取り戻したら誰が領主になるんだろうな――と」


 あ~これは確定っすわ。確定でこっちに来るパターンだな。


「会長の言った通り、レイノス王国の軍隊がここにやって来る。そこで皆さんに注意伝達です、彼らに対して仲間意識を持たないよう願います。彼らは敵ですので」

「敵? 待って欲しい副会長、レイノス王国なら味方だろう。敵対する必要性が見当たらないのだが……」


 ――というお那須さんの意見。だが思ったより事態は深刻で、会長と副会長は静かに首を振ることで否定した。


「残念ながら味方ではないですね。どうやらガリアーノの領主は古代人の遺産を狙っているようなのです。ライジングバレーからの早馬で知らせを受けたにも拘わらず、すぐに援軍を出さず見殺しに……」


 絵に描いたような悪徳領主だな。そして副会長の後を会長が引き継いで話す。


「陥落した頃合いを見て奪還するという大義名分、これでライジングバレーを手中に収めるという筋書きのようだ。部隊を率いる隊長が得意気に部下に話していたよ」


 味方でも安心できないのか。領主の立場ならたまったもんじゃないな。

 しっかし古代人も面倒なことをしてくれたもんだ。俺たちが言えた義理じゃないけど居なくなるんなら町の住民も保護すりゃ良かったのにな。まぁ今さらだけど。


「領主も同行していれば真っ先に狙うところなのだがな。残念なことに奴はガリアーノでふんぞり返っている。かと言って攻めてきた軍隊を迎撃しないわけにもいかん。そこでだ、今回は敵を全滅させるのではなく、敵対する者だけを排除する白黒識別殲滅作戦を実行しようと思う!」


 説明しよう、白黒識別殲滅作戦とは敵対意思のある者だけを撃破するという長ったらしいネーミングの割にはとてもシンプルなもので、敵意のない者には危害を加えないと知らしめる作戦である。


「作戦はいいけどよぉ、その軍隊とやらはいつ来るんだ?」

「数キロ離れた西の平原にて、こちらに進行中の軍隊を捉えた。もう間も無く現れるだろう」

「チュイチュイ!」


 なぜか気合いが入ってる緑丸は置いとくとして、進軍に否定的な兵士は殺さないよう注意しないとな。



 \\(いくさ)じゃぁぁぁぁぁぁ!//



「「「なんだぁ!?」」」


 これまで聞いた事のない怒号がコアルームに響き渡る。腰を抜かしてる加瀬を助け起こしていると……


「ゴッメ~ン、これあたし。いつも同じアラートだと飽きるかな~って。ダウンロードしたら使えるようになったよ~」

「「「紛らわしい!」」」


 まったく、いつもいつも緑川はいらん事をする。そもそもダンジョン機能ってダウンロードコンテンツなのかよ!


「……コホン。諸君、敵襲には変わらん。各々で持ち場につき、迎撃を行うぞ!」

「「「おおっ!」」」



★★★★★



「止まれぃ! ここはライジングバレー、我が主カルシオール男爵が治める街ぞ! そしてワシは私兵団の団長ラバン、何人(なんびと)たりとも通すわけにはいか~~~ん!」



 ザッ!



「おい待て、その物騒なハルバードを下げろ、この国旗が見えんのか! 我々はレイノス王国の軍だ。数日前に早馬を送ってきただろう?」

「確かに送ったがこの通り守り抜いた、安心して戻られよ!」

「し、しかし……」

「くどいぞぉ! こちらは襲撃を受けたばかりで気が立っておるのだ、早々に立ち去れぇい!」


 街の入口をラバンさん率いるリビングアーマー隊が封鎖。さぁ、どう出る?


『りょ、了解した。我々は帰還するとしよう。全軍後退!』


 コアルームで見守っていると、あっさりと引き上げて行く様子がスクリーンに映っていた。


「んだよ、もう終わりか?」

「せーっかく準備してたのにぃ」


 本郷を初めとする数人は戦えなかったのが不満な様子。不満解消はまたの機会に――



 ドォォォン!



 街の入口で強い衝撃を感知。黙って引き下がるほど単純ではないらしい。


「今のは何だ!?」

「大砲デス、離れた場所から大砲が撃ち込まれたデス!」


 少し離れた場所で傭兵たちがせっせと大球を詰め込んでいるところが映されている。連中、やっかいなものを持ち込んだな。


「修繕費用もバカにならん、ラバン殿を下げて通してやるとしよう」


 門番をしていたラバンさん達を後退させると、好機と見なした傭兵たちが我先にと入口に殺到。呆気なく門は突破された。


『手柄だ手柄だぁ、突っ込めぇ!』

『他の団に譲るな! 俺たちで領主を仕留めるんだ!』

『んだとぉ!? 抜かせこの野郎!』

『あのデッカイ建物だ、進めぇぇぇ!』


 相当な額を提示されたのか? 可哀想になぁ。あ、一応忠告しとくけど、グロいのが嫌いなら目は伏せといてくれよ? 今から見せるのは少々えげつない光景になるだろうからな。



 シュィーーーーーーン!



 ザクザクザクザクッ!



『グッハァ!?』

『おい、どうし――グボァ!』

『な、なんだ、何が起こってやがる!?』

『刃だ、鋭い刃が地面から生えてきて、横や後ろから斬り込んで来るんだ!』

『ヒィッ!? ま、前からも――ゲグァ……』


 一見なんの変哲もない町の風景だが、ここは既にダンジョン。まるで地面の下に鮫が潜んでいるかのようにチェーンソーが飛び出し、侵入者を追い回す仕組みだ。名付けてジョーズカッター。

 ちなみに考案したのは副会長で、それを聞いた会長が顔を引き吊らせてたな。


『くっそぉ、こんな罠が有るなんて聞いてねぇぞ!』

『あの狸親父め、俺らを使い捨てて報酬を出さねぇつもりだな!?』

『だがここで引き返しちゃ骨折り損だ、せめて領主の首だけでも持って帰らなきゃ割に合わねぇ』


 数を半分に減らしながらも傭兵共に諦める様子はない。まぁ昔使ってた領主の邸が南側にあるからな、諦める距離じゃないんだろう。

 だが残念な事にジョーズカッターだけがトラップじゃないんだなぁ。



 ガコンガコンガコンガコン!



『お、落とし穴だとぉぉぉぉぉぉ……』

『こっちもだ、ひぃぃぃ!』

『あ、危ねぇ、落ちるとこだった』

『バカ野郎! 俺の足を掴むんじゃ――』

『『――うわぁぁぁ!』』


 毎度お馴染みコスパの良い落とし穴だ。集団で動いてる奴らにはうってつけのトラップだな。


『だ、だめだ、こんなんじゃ領主んとこに辿り着けねぇ』

『撤収だ、撤収ーーーーーーっ!』


 だが引き返したところでジョーズカッターは絶賛稼働中。1人も帰還することなく殲滅成功っと。


「皆さん、軍隊が動き出したデス!」

「うむ、では引き続き迎撃を行う。先ほど述べた通り、敵意の無い者は生かして帰すのを忘れず頼むぞ」


 門を潜ってゾロゾロと入ってくる隣街の軍隊。まずは会長が大声で呼び掛けることに。


『無礼な侵入者に告ぐ! 命が惜しければ即刻立ち去るように! 諸君らの領主による企ては既に把握している。このような進軍に義はない! 戦いを拒む者は去れ、欲深き侵入者の命は保証せん!』


 会長による忠告を聞き、進軍中だった軍隊が動きを止める。


『お、おい、こっちの作戦がバレてるらしいぞ!?』

『見ろ、街中が死体だらけだ、こんなの勝てるわけがねぇ!』

『俺は嫌だぞ、こんなところで死にたくねぇ!』


 およそ半数が逃走を開始した。


『ま、まて貴様らぁ! 敵前逃亡は軍規違反だぞ!? 戻れぇ、戻らんかぁぁぁ!』

『お言葉ですが隊長、逃走した者たちを無理に引き戻したところで戦力にはなりません。作戦失敗を領主様に報告すべきかと』

『うるさ~~~い! サリアン、貴様は俺の副官だろうが、もっとマシな事は言えんのかぁぁぁ!』

『恐れながら、限度という言葉が御座います。足掻いたところで被害が増すだけ、ならば作戦を変えて――』

『黙れぃ! この作戦には俺の昇進がかかっているのだ、これしきの事で諦めてたまるかぁ!』

『しかし……』

『黙れと言っている! 奴らは消耗しているに違いないのだ、この機を逃すのは――』



 ズゥゥゥン!



『な、何だ、何事だ!?』


 妙な地響きだ。トラップを作動したわけでもなさそう。


「チッ! 野郎共、ま~た大砲を撃ち込むつもりかよ!」

「いや、それとは別みたいやで? ほれ見てみぃ、鉱山からデカブツが降りて来よる」


 ハリアーフライの視点が鉱山へと向けられる。加瀬の言う通り、巨大な何かが両腕をブンブンと振り回しながら降りてくるのが映っていた。


「アレは……」

「ストーンゴーレムですよ。鉱山の中に魔素(まそ)溜まりが出来ると、周囲の石を(まと)って魔物化する事があるのですよ。それが人の形となり、ゴーレムの出来上がりという感じですね」


 さすがトルネオさん、知識が豊富で助かる。


『ストーンゴーレムだと!? ここはバケモノの巣窟かぁ! 大砲で迎え撃てぃ!』

『後衛部隊、大砲を用いてゴーレムを撃破せよ!』


 お? 俺らの代わりに倒してくれるらしい。有りがたいこった。


『目標、ストーンゴーレム、放てぇぇぇ!』



 ドォォォォォォン!



『Guoooooo……』


 あらら、あっさり壊されてやんの。


『やりました! ストーンゴーレム撃破です!』

『ナァッハッハッハッ! さすがはワシの部隊、ストーンゴーレムなんぞ敵では――』



 ズズゥゥゥゥゥゥン!



『――なぁぁぁ!?』


 壊れたストーンゴーレムの後ろから更に別の個体が現れた。


「さっきのよりデカくないです? 何か(つや)が出た色になってるし」

「……ストーンゴーレムの上位種、アイアンゴーレムです。鉄鉱石を(まと)う事で出来上がると言われてますが、いやはや実物を見るのは初めてですよ」


 どうやらレアモンスターのご登場らしい。


『な、何をしている、早く撃てぇぇぇい!』



 ドォォォン!



『どうだ、やったか!?』

『いいえ、アイアンゴーレムは無傷、大砲では撃破できません!』

『馬鹿者ぉ~! 気合いで倒せぃ! 一発でダメなら二発、二発でダメなら――』


『GUOOOOOO!』


『――ンギァハァァァ!?』


 あ~らら、隊長さん潰されたじゃん。


『隊長の戦闘不能を確認、これより先は私が指揮を取る。全軍退却!』

『ダ、ダメです、ゴーレム出現により退路に落石発生、退却極まりました!』

『クッ、ならば降伏しかない』


 副官とおぼしき兵士を先頭に町の中へと走ってきた。手にしていた武器は町の外に捨てられている。


『聴こえるか、ライジングバレーの支配者よ。我々は降伏する、武器も捨てた。命だけは助けていただきたい!』


 というわけで捕虜を確保っと。


「加瀬くん、50人近くの捕虜だ。牢屋の空きはどうかな?」

「充分すぎるほど空いとるで」

「瓶底くん」

「はいデス、転移トラップも作動させたデスよ。あの光が目印です」

「よろしい」


『侵入者に告ぐ。光が立ち上がっている場所まで移動せよ』

『分かった。おとなしく従おう』



 シュン!



 敵部隊を指定の場所まで誘導。牢屋の中へと転移させた。

 後は町まで入り込んできたアイアンゴーレムを何とかしないとな。


「どうするんだ会長、あの感じだとジョーズカッターは効かなそうだけど?」

「あの大きさじゃ落とし穴にも入らねぇよな」

「う~む……」


 アイアンゴーレムの横槍はさすがに想定外だった。倒す方法は……


「分かりました会長、磁石デスよ!」

「磁石?」

「強力な磁場でアイアンゴーレムを縛り付けてやるんデス。身動きが取れなくなればボクたちの勝ちなのデス!」

「おお、さすがは瓶底くん。やってみよう!」


 56315DP→56115DP


 広範囲に渡り無駄にデカい磁石を地面と入れ替えた。そこへ待機させていたシャドウウィンドメイジを囮に使い、磁石の場所まで誘導する。


 バシィ!


『GUOOOOOO!』


 やはりウィンドカッターの効果は低く、簡単に弾かれてしまった。だが攻撃を受けたアイアンゴーレムはシャドウウィンドメイジに向かって突っ込んで来る。さぁ、もう少しで磁石の場所だ。



 バリバリバリィィィ!



『GUOOOOOO!?』


 よし、動きが止まった!


「「「…………」」」

『GUOOOOOO!』




「で、どうするのかね瓶底くん?」

「そこまでは考えてなかったデス……」

「「「…………」」」


 やむ無く暴れ狂うアイアンゴーレムを広場に放置。そして夜を迎えた。


「こんにちは。今回はボク、安土桃香あづちももかがお相手するよ。と言っても自己紹介をするだけなんだけれどね。それか……そうだねぇ、趣味の話でもしてみるかい? まぁ読書や音楽鑑賞というありきたりな趣味だけれど。特に読書は良いよ、電車に乗ってる時なんかのちょっとした空き時間には最適だね。え? 音楽は歩きながらでも聴けるって? いや、それはナンセンスだよ。好きな音だけを拾っていては肝心な音を聞き逃すじゃないか。サイレンに気付きませんでした~なんて日には目も当てられないよ」


 登場人物紹介


名前:サリアン

性別:女

年齢:24歳

種族:人間

備考:ガリアーノの領主の下で私兵の教官として配属されていた軍人。領主の野望のためライジングバレー占領作戦に駆り出されるも返り討ちに。しかも落石により退路を断たれたため、やむを得ずライジングバレーへ降伏、捕虜となった。


「他の話題かい? そうだねぇ、仲の良いクラスメイトを紹介しようか。一ノ橋愛さんなんだけどね、彼女とは会話が弾むんだよ。前に伊達政宗のコスプレをしてきた事もあったけれど、とても可愛らしい姿だったよ。けどその時に気になる事を言っていたね。右手がうずく~とか、我が片目を食らいし邪竜を仕留めるが我が目標とか。どの文献を見ても伊達公にそのような描写は無かったんだけれど、アレは何なんだろうね?」

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