ザ・ギャンブラー
爽快な空、澄んだ空気、西洋の街並み、そして行き交う人々の喧騒。フッ、そうさ、俺たちは今、異世界の街に足を踏み入れたんだ。
「爽やかそうな顔を作ってどうしたの利根川く~ん?」
「爽やかそうって……。事実爽やかな空気だと思ってるよ? 緑川ちゃんだって何か感じるものがあるだろ? 例えば、オ・レ。エスコートは任せてよお嬢様、フッ」
フフ、腰に手をあて髪を掻き上げるこのポーズ。決まってるねぇ俺。
「プフッ! 利根川くんってば面白~い♪ 何そのポーズ? 変に注目を集めるだけで役に立たなそ~。それに知らないはずの街をエスコートとか~、どんだけ知ったかぶりしたいんだろって草生えちゃう!」
「うっ……」
う~ん、マイペースな緑川ちゃんには俺の魅力は伝わらないか。それとも一緒に過ごすうちに新鮮さを感じなくなったのかな? ふぅやれやれ、残念ながら俺の顔は世界で1つの一点ものだ、俺以外の男にビジュアルは必要ないのさ。
そんな俺の困惑顔に気付いたであろうトルネオさんが、頬を掻きながら告げてくる。
「あの~、よろしいですかお二人とも。この街はポセイドヒルというエルバドール帝国の街、つまり敵国の街です。くれぐれも油断なさらないよう注意して下さい」
敵国……ねぇ。その辺はピンと来ないんだよねぇ。ライジングバレーがレイノス王国に属してるって言っても、俺たちがエルバドール帝国と敵対してるわけじゃない。
そもそもレイノス王国が味方かも怪しいもんだし、……あれ? そう言えば襲撃から4日は経ってるはずだけど、何の動きもないような? いや、気にし過ぎか。
「とはいえ、こちらから挑発するような事を控えれば滅多な事は起こりませんがね」
「でも昨日は起こっちゃったんだね? 鳥居くんから聞いてるよ~」
「ま、まぁ、何事も例外はつきものといいますか……」
苦笑いをしながら昨日の出来事を振り返るトルネオさん。随分と男臭い街だったらしいし、俺が行かなかったのは正解かな?
でもススムの奴はちゃっかり冒険者登録をしたらしいし、俺も何かしらの身分証が欲しいところだ。
なぜ欲しいかって? そりゃこの世界の女の子に対してスマートに提示するためさ。
「お、さっそくナイスな美女を発見! そこのエルフのお姉さ~ん、お暇なら俺と一緒にお茶でも楽しまな~い?」
「ホッホッホッ♪ この歳でナンパされるとは思わなんだ。300過ぎの婆様だが良いのかの?」
「さ、300!? それはちょっと容量オーバーというか……」
「フフ、驚いたかの? 他人を見掛けで判断してはいかんぞ。ほれ、老婆に構っとらんではよう行きなされ」
「す、すんませんした~!」
ふぅ~危ない危ない、もう少しで最後の晩餐になるところだった。理性の有る人で助かったよ。(←お前は理性を持て)
『速報・利根川くん、300過ぎのお婆ちゃんをナンパする――っと』
「だぁ~~~っ! 緑川さん、ストップスト~~~ップ!」
しかし俺の制止もむなしく念話を通じて他のみんなに伝わってしまった。ああ、きっと明日から腐れ目のナンパ士とか言われるんだろうなぁ……。(←ピッタリやんけ)
「カズトさん、スリルを求めたナンパはほどほどに願いますよ? エルフやドワーフは見た目と年齢が一致しない事も多いので」
「はい、肝に命じておきます……」
ああ、異世界とはなんと恐ろしい世界なのか。けど挫けてはいられない。そうさ、きっとこの世界のどこかで俺の誘いを待ち望んでいる女の子が居るに違いないのさ。(←その自信はどこから来るのか……)
「…………」
む! この柔らかい視線、これは……女の子の視線! 斜めに下がった背中への視線から俺との身長差はほぼ無いと分かる。向きは後方左、75度で振り向けば目と目が合う!
「そこだぁ!」クルリ
「!?」ビクッ!
しまった、俺の反応に驚いて蒼髪の女の子が逃げてしまった。
「カズトさん、どうかしたのですか?」
「ええ、少しばかり失敗を。シャイな女の子を放流してしまったのでね。ああ、この手を差し伸べられなかったのが悔やまれる」
「……よく分かりませんが冒険者ギルドに向かいますよ」
「ほぅほぅ、冒険者ギルドねぇ」
その後しばらくは大人しくしたぞ。冒険者ギルドに行き~の、山に行き~の、妙にデカイ鳥を倒し~の、冒険者ギルドに戻り~の、とね。
正直オレの出る幕じゃなかったんでね、この辺りの説明は省略するよ。まぁそこそこの金貨が手に入ったとだけ言っておこうか。
ん? どうせギルドの受付嬢をナンパしたんだろって? 言ったじゃないか、大人しくしてたって。いくら俺でもゴリマッチョの受付男を誘ったりはしないよ。
「さて、お昼になりましたがお二人共、どこかで食事でも――」
「あ、あのっ!」
トルネオさんの声を遮る女の子の声。見れば午前中に俺の背中に視線を向けていたあの女の子じゃないか。まさか俺の元に戻ってきてくれた? フッ、また新たに女の子を惑わせてしまうとは、可哀想な事をしてしまったな。(←可哀想なのはお前の頭)
「突然すみません! あたしはレスカって言います。どうしても冒険者として雇ってほしくて……」
「冒険者……ですか?」
「はい。特に貴方からはズバ抜けた魔力を感じるので、さぞ高位の魔術師ではと。そんな貴方を見込んでお願いが有ります、どうしても今日中に纏まったお金が必要なんです!」
訳ありっぽいね。ならばと食事処に場所を移して事情を聞いてみることに。
「では話していただけますか?」
「はい。実は父の借金の担保で弟が奴隷商預りになってしまい、今日までに返済しなければ売りに出されてしまうんです。金貨にして100枚、何とか用意しないと……」
借金か。この場合、父親が必死になって金をかき集めたりするもんだけど。
「貴方のご両親はどうなさっているので?」
「母とは幼い時に死別してます。父は借りたお金を持ってどこかに……」
「どこかって……」
「別の街でギャンブルにでも勤しんでいるんでしょう。元はと言えばギャンブルでの借金ですので」
ああ、ギャンブル狂か。依存症に掛かると抜け出せないって言うもんな。
まぁそんなこんなで事情は判明。俺たちの手持ちは金貨70枚、残り30枚を稼げばノルマ達成か。充分手の届く範囲だな。よし!
「レスカさん、午後は一緒に――」
「じゃあ午後から一緒にやろっか? 大勢でやったほうが楽しいもんね~」
「いいんですか!? ありがとう御座います!」
「アッハハ! そんな抱き付かなくても」
う~ん、見せつけるようなハグ。流れ的には俺が受けていたはずなんだけれどね。まぁ楽しみは後に取っておくのも良いか。
★★★★★
午後の依頼も討伐系のものだ。異世界だけあって魔物が豊富だねぇ。ああ、戦闘は省かせてもらうよ、俺の活躍するシーンが無いのはつまらないだろうからさ。
「さ、報酬は受け取りましたよ。ピッタリ金貨30枚です」
金貨の入ったズタ袋を手にトルネオさんが冒険者ギルドから出てきた。額としてはぶっちゃけ高い。これがゴブリン討伐なら銀貨30枚がせいぜいってとこだろうね。
そうだ、この機会に金銭価値を整理しておこうか。
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貨1枚
日用品は銅貨で買える。装備品は銀貨~金貨。家を買う場合は確実に金貨が必要になるって感じかな?
ちなみに白金貨は大変珍しいものらしく、記念通貨として使われる場合が多いんだってさ。
「それにしてもお強いですねトルネオさん。並の冒険者なら苦戦必至なストーンゴーレムの群れを1分もかからず殲滅するなんて」
「物理特化のゴーレムは魔法に弱いですからね。生前のボクだったら到底不可能だったでしょうね」
「……生前?」
「おっと、こっちの話です。それより約束の報酬ですよ、どうぞお受け取りを」
「え!?」
金貨30枚をそのまま渡すと、レスカさんは目を丸くして驚く。
「こ、こんなに受け取れません! そもそも報酬はみんなで分けるんですよね? それなのに――」
「でもレスカさん、期限って今日までなんでしょ? 悠長なこと言ってたら間に合わないんじゃないかい?」
「それはそうですけれど。でも……」
良かれと思ったけど負い目を感じるなら強制は出来ないか。なら……
「分かった。今からこの金貨を増やしてみせるよ、俺たちにも回るようにね。それならいいでしょ?」
「そ、そんな方法があるんですか?」
「もちろん!」
フと思い付いた事を実践しようと思い、賭博場へとやって来た。短時間でもっとも合理的な増やし方さ。
「カズトさん、ここって……」
「見ての通りさ。まぁ付いてきて」
戸惑うレスカさんを連れて中へと入る。あちこちで勝負が行われていて皆殺気立っているのが一目で分かる。
中でも客者側の勝率が著しく低く、払い戻しが極端に高いディーラーのところは人集りも多い。今も真剣勝負が行われている最中で、客とディーラーが伏せたカードを一斉にオープンする場面だった。
「イエローだ!」
「フッ、ボクもイエローだよ」
「なっ!? ――クソォォォ!」
どうやら客の負けらしく、手にしたカードを叩きつけてその場から立ち去って行く。残されたディーラーの金髪男は透かした顔でサッと前髪を掻き上げる仕草をみせた。
気に入らない、実に気に入らないね。まるで見せつけるかのようなナルシストぶり、こんな奴をのさばらせるのは世界にとっての損失さ(←お前は鏡を見ろ)。
よし、対戦相手はコイツにしよう。そう思った矢先、透かさずレスカさんが耳打ちをしてきた。
「止めた方がいいです。あたしの父もこの男に挑んで散財する羽目になりました」
「そうなのかい?」
「はい。最初は遊びのつもりで挑んだのですが偶然にも連勝を重ねてしまい、その後はもう……」
これは想像できる。ビギナーズラックってやつだろう。それでのめり込んでしまったわけだ。
「もちろんカズトさんたちが稼いだお金ですから強くは言いません。けど……」
「大丈夫だよレスカさん。俺には秘策があるからね。少なくともキミの弟を救えない事態にはならないさ」
そう言うとレスカさんは黙って後ろに下がる。
「さぁこちら当店ナンバー1の実力者――ホワイト・スパイキーに挑む新たな挑戦者はいないか!?」
今はギャラリーだけで挑戦者はいないらしい。ならちょうどいいか。
「じゃあ失礼するよ」
「おや、初めて見る顔だね。賭け事は初めてかい?」
「いや、賭けなんて毎日だよ」
「毎日!?」
「そう、毎日がギャンブル。素敵な女の子との出会いが有るかどうか、それは日々のギャンブルさ。そうは思わないかい?」
「…………」
「……コホン。ルールを説明するよ」
スルーされた!?
「レッド、イエロー、ブルーのカードが3枚ずつ、合計9枚のカードがある。この山札から3枚ずつがお互いに配られた後、1枚のカードを選択してテーブルに伏せる。そしてお互いに相手のカードの色を当てるというものだ」
「ふむ、イージーだね」
「そうかい? だが色を当てるだけじゃない。相手と自分、同色か異色かによっても結果が変わるのさ」
「同色か異色……」
まとめると以下のようになる。
・お互いのカードが異色で自分が当てディーラーが外す=賭けた金の2倍戻し。
・お互いのカードが同色で自分が当てディーラーが外す=賭けた金の3倍戻し。
・お互いのカードが異色で自分が外しディーラーが当てる=賭けた金は没収
・お互いのカードが同色で自分が外しディーラーが当てる=賭けた金の3倍没収。
それ以外の双方が当てたり双方が外したりは色に関係なくイーブンとなる。
特に同色の時は要注意。玉砕覚悟で挑んだ結果、大火傷を負いかねない。
「理解したかな?」
「まぁね。でもこのルールなら良くても勝率は6割に留まるんじゃないかな?」
「かもね。けれど何故だか天はボクの味方らしくてね、対戦成績の8割はボクの勝利なのさ」
勝利8割……ね。前に瓶底くんが言っていたよ、確率は収束するものだと。なのにこの男はその確率を無視した勝利を重ねている。
これは臭いね、臭すぎる。考えられる可能性としては……
イカサマだね。
「では始めよう。山札から3枚引きたまえ」
「俺が?」
「そうさ。イカサマはないという証明にもなるだろう?」
「…………」
テーブルに金貨を1枚ベットし、言われるまま引いたカードを引く。レッド1枚にイエロー2枚か。普通に有り得る確率だ。
「さ、ボクはセットしたよ。キミもセットしたまえ」
「!?」
先にセットする? それだと後手に回って対処できないんじゃ……。
「じゃあ、コレだね」
無難にイエローをセットした、後は色を当てるだけか。
「ボクからでいいかな? キミのカードはレッドだと宣言するよ」
外した? いや、驚くことでもないんだけれど……。
「次は俺か。そっちのカードは……ブルーにするよ」
そして相手ディーラーがカードを同時にオープン。相手はブルー、俺はイエロー。拍子抜けするほどあっさりと勝ってしまった。
「フッ、やるじゃないか。けどそうでなければ面白くない」
金貨1枚が2枚になった。でも勝負は続行し、そのまま金貨2枚をベット。再シャッフルして3枚引く。今度はブルーが2枚にイエローが1枚か。
さぁて、今度は何色かと予想してると、ディーラーの背後に掛けられた鏡に相手のカードが反射されてるのに気付く。
「…………」
「どうかしたかい?」
「いや……」
まさか……だよな。もしかしてコイツらバカだったり? 何にせよ試してみよう。
「これかな」
1枚を選んでテーブルに伏せるディーラー。だが俺の目にはイエローを伏せるところがしっかりと写っていた。
「なら俺はこのカードだ」
俺はもう一度イエローをセット。これで双方がセット完了。言うべき色は当然……
「イエローだ」
「おや、決断が早いね。いいのかい? そんなに勝負を急いでもロクな事がないよ?」
「心配いらない。イエローでいいよ」
「そうかい、ならボクはブルーにしよう」
そしてカードオープン。
「ボクもキミもイエロー。フフ、キミの勝ちだね」
「「「おおっ!」」」
ギャラリーがどよめく。勝率8割のディーラー相手の連勝は滅多にないんだろう。しかも今回は同色での勝利、つまり3倍だ。
「ブラボーブラボー! 若いのになかなかやるじゃないか。これで金貨6枚になったけどどうする? 続行するかい?」
ここで止めれば勝ち逃げだ。けれど……
「どうしたんだい? 別に逃げたっていいんだよ? 1枚が6枚、しかも金貨だ。キミのような未成年なら大金だろう? ボクにとっては……まぁはした金かな? フッ……」
気に入らない、あ~気に入らない。この男、ナチュラルに俺を見下してるな。いいさ、そっちがその気なら!
「いや、続行するよ」
「おや、そうかい。てっきり逃げ出すのかと思ったけれど。ならボクも本気にならないとね」
金貨6枚をそのままベットし、カードを3枚取る。今回はレッド、イエロー、ブルーが1枚ずつだ。
さぁ今度はどのカードをセットするのか、伏せる直前に写ったのは……イエロー! だったら俺もイエローしかない!
「セット完了だね。ボクはイエローだと予想するよ」
チッ、当てられたか。
「俺もイエローだ」
「おや一緒だね。なら確かめてみようか」
俺のカードは当然イエロー、そして相手のカードは……
「フッ、ブルーだよ」
「なっ!?」
「ククク、残念だったねぇ、せっかく勝っていたのに」
いったいどうなってる? 相手が伏せたのは確かにイエローだったはず。まさかの見間違い?
「もう一度、もう一度だ。賭けるのは倍の金貨12枚!」
「いいのかい?」
「問題ない、ノープロブレムだよ。すぐに取り返すからね」
「いいねぇ気に入ったよ。もしも借金で奴隷落ちしたらボクが買い取ってあげよう。キミの容姿ならすぐに人気者になれるさ」
「それは無理だね。何故なら俺は負けないからさ」
「フッ、そうかい」
再びカードが配られ、ブルーが2枚、レッドが1枚の組み合わせ。
相手のカードはレッド1枚にイエローが2枚。伏せるのは……ブルー! 今度は絶対に間違わない。俺はイエローをセットし……
「俺はブルーだ!」
「ボクはレッドと予想するよ」
これで負け分は取り戻せた。出来れば同色が欲しかったが、無いものは仕方ない。
そしてカードが開かれる……
……が!
「ボクもキミもレッドだね」
「はぁ!?」
「フフ、残念だけどキミの負けだよ。しかも3倍の支払いだ」
金貨36枚の損失! 払えなくはないがこれは痛い。
いや、それよりもマジで何なんだ? あの鏡に写るのは外させるためのトリックだと分かった。でも間違いなくイ俺はエローをセットした、なのに出てきたのはレッド、いったいどんなカラクリが……
『利根川く~ん、あたし分かっちゃったかも~』
まさかの念話が飛んできた。
『こんな時になんだい緑川さん?』
『相手のトリックだよ~。カードを開く時に手持ちのカードを下に滑り込ませてるみた~い。だから思った通りの色を当てれるし、色まで揃えられるんだよ~』
そんはトリックが。
『でもこれじゃあ勝てないな。レスカの件もあるし、出来ればコイツを負かしたいところだけれど……』
『フフ~ン、大丈V! ちゃ~んと作戦は考えておいたよ~。だから利根川くんは今までと同じようにやってね』
仕方ない。他に方法が思い付かないし、緑川さんの指示に従おう。
「今度そこ負けない、賭けるのは全額の金貨64枚だ!」
「「「おおっ!?」」」
どよめくギャラリー。そんな野次馬を掻き分けてレスカが駆け寄ってくる。
「カズトさん!」
「あ~大丈夫大丈夫、心配いらないよ。正義は最後に勝つものさ」
「カズトさん……」
まるで地獄を見てるかのようなレスカさんの表情。けどもう少しの辛抱さ、今に至福の表情へと変えてみせるからね。
「セット完了。そして俺はブルーを宣言するぜ」
「フフ、その勇姿が見納めになるのだと思うと少しばかり寂しいけれどね」
「御託はいいから早くしてくれない?」
「ハハ、熱くなってるねぇ。じゃあ要望を汲み取って宣言しよう。キミのカードはレッドさ」
そしてカードを開こうとディーラーが手を伸ばそうとしたその時……
「うっ……くぅ!」
パラパラ……
突然手を震わせ、持っていたカードを落としてしまった。
「ど、どうしたんだ?」
「いや、すまない。少し目眩が――くっ……」
突然の体調不良? 首を傾げていると、再び緑川さんから念話が。
『上手くいったみたいだね~』
『いきなりだからビックリしたよ。いったい何をしたんだい?』
『前に本郷くんたちが見つけた脱力トランペットっていうマジックアイテムが有ったでしょ~? アレの音を聞いた相手は全身の力が抜けちゃうんだって~。だから加瀬くんに演奏してもらって念話で流し込んでるんだよ~』
『おおぅ……』
なかなかえげつない事をするねぇ。いや今回は助けられたけれど。
「ふぅ、すまなかったね。もう大丈夫のようだ」
そう言って何食わぬ顔で落としたカードを拾おうとしたところで俺は待ったをかける。
「おいおい、カードを拾うのは後にして先にオープンしてくれよ」
「い、いや、それは……」
「何だ? 真剣勝負だぞ? どっちにしろこれで最後にするつもりだし、早くオープンしてくれ」
「うっ……」
俺の台詞で固まってしまい、しどろもどろになるディーラー。すると待ちくたびれたギャラリーも追い打ちをかける。
「何やってんだコラァ、さっさとオープンしろぉ!」
「そうだそうだぁ!」
「「「早く、早く、早く」」」
こうなると流れは止まらない。俺はこの機に乗じてカードに手を伸ばす。
「あ~もうじれったいなぁ、俺が開いてやるよ」
「ちょっ!」
ディーラーの制止を無視して双方のカードをオープン。結果は相手も俺もブルー、つまりは俺の3倍勝ちだ。
「しゃぁぁぁ! 俺の3倍勝ちだぁぁぁ!」
「おおっ、マジかよ小僧!」
「このガキやりやがったぜ!」
「やるなぁ兄ちゃん!」
勝利に酔う俺とは対称的に悔しげに唇を噛むディーラー。多数のギャラリーを前に行われた勝負だ、なかったことには出来ないだろう。
「カズトさん!」
「レスカさん、心配かけてごめんね」
「じゃあ弟さんのところまでレッツゴーだね!」
手持ちの金貨を倍に増やし、賭博場を出て奴隷商のところへと急ぐ。
「約束の金貨100枚です」
「…………」ポカ~ン
「あの~?」
「ハッ!? た、確かに!」
金貨を支払うと目を丸くした奴隷商人。すぐに正気に戻ってレスカの弟を連れてきた。
「お姉ちゃん!」
「ルイン!」
感動の再会で抱き合う姉弟2人。が、奴隷商を出たところで台無しにしそうな連中が待ち伏せていた。
「お~い、見てたぜテメェら。随分と羽振りが良さそうじゃねぇか」
「実は俺たちも金には困っててよぉ」
「譲ってくれるよなぁ? なんせ世の中助け合いだもんなぁ!」
数は4人か。ススムの時は30近く居たのにねぇ、これじゃあ赤字だよ。
「じゃあアレ行っとくぅ? 加瀬くんも手が空いてるみたいだし」
「オッケ~、それで行こう」
脱力トランペットの演奏会を奴らの脳裏で開催してやった。
「うぉぉぉ!? ち、力が……抜け……」
「ぐぁぁ、まともに立ってられねぇ……」
「力が抜けけけ力が出にゃい……」
醜態を晒す男共の脇をすり抜け走り出す。殺っちまってもよかったかもだけど、目撃されちゃ2度と来れないもんな。安全策を取って逃げるに留めたよ。
「しかしどうしましょう? このままレスカさんたちを置いて行くのも危険では?」
そうか、かなり注目を集めたもんな。
「――あ、だったら、ライジングバレーの住人になってもらおう。どうかなレスカさんたち、俺たちが住んでる町に住んでみないかい?」
「寧ろこちらからお願いします!」
という即答により、レスカさんとルインくんの2人を連れて帰ることに。まぁね、町が賑やかになるのは悪くないんじゃない?
「しゃあ! 今回もワイや、お馴染みの加瀬光太郎や。なんで連続なんやって? んなもんワイが納得できんかったからに決まっとるやないかい! ワイの出番を取り上げようなんて考えるんやないで? 妙なことしよったら脱力トランペットの餌食やからな!」
名前:レスカ
性別:女
年齢:16歳
種族:兎獣人
備考:赤髪セミロングの獣人少女。エルバドール帝国のポセイドヒルという街で暮らしていたが、父親のギャンブル狂いによって弟のルインが借金のカタに連れて行かれ、しかも父親がそのまま蒸発してしまい途方にくれていたところでカズトたちに出会う。ルインと再会後はライジングバレーのパン屋で働いている。
名前:ルイン
性別:男
年齢:12歳
種族:兎獣人
備考:レスカの弟。借金のカタに奴隷商人に連れていかれたが、カズトたちが返済したため無事レスカと再会できた。その後は姉のレスカと共にライジングバレーに移り住み、パン屋の手伝いをしている。
名前:ホワイト・スパイキー
性別:男
年齢:23歳
種族:人間
備考:ポセイドヒルの賭博場でディーラーとして働いている。組織ぐるみで行うイカサマ博打で稼いでいたが、カズトとの勝負で大敗。行方不明となる。
「――とまぁ登場人物の紹介はこの辺にしてやな、読者からの質問が来てるから読んだるで。え~と……」
「皆様こんにちは、日々の活躍とても楽しみにしています。特に加瀬光太郎というイケメンなプロゲーマーが大好きですと。ではさっそく質問なのですが、マジックアイテムなら幸運のプラチナダイヤというアイテムで運気を上げるのが良かったのでは?」
「ほ~ん、なるほどな。まぁ言いたいことは分かるんやが、実はあのアイテムは幸運とは名ばかりの魔除けらしいで? つまり魔物と出会す確率が下がるから幸運っちゅう事らしく、運気が上がるわけじゃないんやと。紛らわしいっちゅうねんホンマに!」