やっぱり有ったよ、冒険者ギルド
「お二人とも、落ちないようしっかりと掴まってて下さいね」
「分かってるよ」
「勿論ですわ」
ってなわけで、いきなり上空から中継するけども、トワと俺はトルネオさんの腕に掴まった状態で空の旅を楽しんでいる。
遊んでるわけじゃないぞ? これから別の街に出て金策を行うんだからな。
「でも運が良かったよな俺たち。一度に2人しか連れ出せないから終いにゃジャンケンになったし」
そう、トルネオさんと同行する枠をめぐって激しいジャンケン大会が行われたのだ。参加者は会長、瓶底、お那須さん、大恩寺を除いた11人で、俺とトワがゲットしたってわけよ。
瓶底と会長はダンジョンの拡張に集中したいって理由から見送り。今朝も張り切って作業していたぞ。
なら大恩寺はともかくお那須さんは外の世界に興味はないのかって話なんだが、残念ながらお那須さんは高所恐怖症だ。つまり不戦敗な。
「フフン。わたくしが勝ち残ったのは日頃の行いが良いからですわ。けれど貴方も健闘なさったとは思いますわよ? 何よりアイドルのわたくしと同行出来ることを光栄に思いなさいな」
「光栄かぁ? 変に目立ってやばい輩に目を付けられたりしないだろうなぁ?」
「その時は貴方が身代わりになりなさいな」
「嫌だよ。身代わりになるくらいならダンジョンに送ってやるさ」
ああ、ダンジョンに送るのはどういう意味かって? まぁ機会が有ったら話すよ。
「見えてきました。今回はあの港街――オールドシップにしましょう」
周囲を山々で隔離されたような街だ。そこに向けて徐々に高度を落としていき、山から滑り込むように人気のない街の隅っこへと降り立った。
「心地よい風でしたわね。ご苦労でしたわトルネオ、褒めてさしあげます」
「いやお前ソレ、まるでお嬢様の台詞」
「元からお嬢様ですわ!」
トワに怒鳴られながらも表通りに出て辺りをよ~く見渡す。一見するとライジングバレーに似た景色が広がっているが、街を練り歩く人の多くは……まぁアレだ、柄が悪いというか悪人面というか、ぶっちゃけ海賊だろって連中が大半だ。
「トルネオさん、この街って安全面は……」
「はい、とっても危険です」キッパリ
「「はぁ!?」」
「ですが心配は無用。余程の相手じゃない限り、今のボクに敗北はありませんので」
それがフラグにならない事を心から祈っておこう、ガチで。
「トルネオさん、まずはどちらに?」
「冒険者ギルドに出向きましょう。依頼を受けて報酬を得る、一般的な金策ですよ」
「冒険者ギルド!」
アニメでもちょくちょく聞くやつだ。まさか本当に存在するとはちょっと感激。
「ここですね」
ギィィ……
臆せずスタスタと入っていくトルネオさんの後ろを小判鮫のごとく付いていく俺たち。街もそうだったがギルドの中も相当アレだった。そう、とにかく海の男みたいな連中が多い多い。女子供は殆ど見ない――いや、屈強な男に守られながら歩いている姿しか見ない。
そして冒険者ギルド。受付の女性も目付きが鋭い。男連中に至っては俺たちへの視線が鋭く突き刺さる。
「トルネオさん、ここって本当に冒険者ギルドなんですか? な~んか未成年が入っちゃダメっぽい雰囲気が……」
「冒険者ギルドで間違いないですよ。取り敢えず依頼を受けてきますので、お二人は少々お待ちになって下さい」
トルネオさんは壁に張り出された依頼書を確認中。トワと俺は穴が空くほどの視線を浴びつつ受付前で待機することに。
すると間も無く、見事に未成年コンビとなった俺たちのところへ厳つい男連中が近付いてきた。
「おいガキ共、ここはテメェらみてぇなガキんちょが来る場所じゃねぇ、目障りだからとっとと消えな!」
「それとも何か? 冒険者になりた~いってか? ガキのママゴトと俺たちの仕事を一緒にすんじゃねぇ!」
「テメェらみてぇな乳臭いガキが冒険者になるなんざ100年早ぇぜ!」
やっぱそう来たか。まんまテンプレみたいな展開に思わずクスリ。トワも負けじと嘲笑うような視線を男共に向けていた。
「んだテメェ、笑いやがったな? おい、俺らを見て笑いやがったろ!」
「このガキ、調子に乗ってっと痛い目見るぜぇ!?」
挑発されたと思ってか男共はヒートアップ。受付嬢に視線を向けるも華麗にスルー、完全にノータッチと。
しかしここでトワが凛とした姿勢でピシャリと言い放つ。
「何なんですの貴方たち、いい大人が揃いも揃って未成年に絡むなんて。まるで発情している鶏みたいに騒がしいですわ」
「「「なっ!?」」」
言い返されるとは思ってなかったのか男共は驚いた表情を見せるも、すぐに顔を強張らせて真っ赤に染め上げていく。
「このガキィ、言わせておけば――」
男の1人が掴みかかってこようとしたところで救世主の登場。
「はいストップ、これ以上の暴挙は許しませんよ?」
「うっ……」
にこやかに割って入ったトルネオさんに対し、男は咄嗟に手を引っ込める。見ればトルネオさんの全身から青いオーラが立ち上がっているのが見えた。何らかの魔法で威圧したに違いない。
「お待たせして申し訳ありません。では行きましょうか」
何事もなかったかのように出口へと向かうトルネオさん。いつしかロビーにいる全員の視線を俺たちが独占していた。その視線は腫れ物を扱うかのようでもあり、この場には相応しくないという意思が感じられるもの。
用が済んだらさっさと出てけってか? だが俺たちは一方的に因縁を付けられたんだ、少しくらいは反論しないと気が済まない。
「そういやさっき、俺たちが冒険者になるのは100年早いとか言ったな?」
「だったらなんだ?」
「いやさ、ここに来るのは冒険者とは限らないよな? 現に俺たちは付き添いで来てるわけで、冒険者ってわけじゃない。それをあたかも冒険者に憧れてる新参です――みたいな扱いは心外だと思ってね。別にアンタらみたいな汗臭い冒険者を目指してるんでもないし。なぁトワ?」
「ですわね」
「テメ、このやろう……」
「まぁ気持ちは分からんでもないけどさ、物事ってのは確認が大事じゃん? 現に俺たち2人は冒険者とはまったく関係ないわけだしさ、それで冒険者がどうのとか言われてもピンと来ないんだよねぇ。なぁトワ?」
「あらあらかしこですわ」
「グ……クゥ……!」
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ、ガキを相手にすんのは恥ずかしいだろ? ま、次からは注意することだ。なぁトワ?」
「ようやく終わりましたの? こんなおバカな連中に付き合ってるだけ時間の無駄というものですわ」
言い終わるとそこらのテーブルからクスクスという笑い声が漏れる。その反応に男連中は茹でダコのような真っ赤な顔に。バカだねぇ、俺たちに絡まず酒でも飲んでりゃいいものを。
さて、溜飲が下がったところで重要なことに気付いた。ちょうどいいタイミングだし、個人的な用件を済ませてしまおう。
「ちょっといいすか?」
「な、何か用かしら?」
受付嬢の前に立ち、ハッキリと告げる。
「冒険者登録をお願いします」
「「「ダハァ!」」」
俺以外の全員がズッコケた。
★★★★★
でもって時刻は昼過ぎ。斜面になっている山肌で持参したサンドイッチを頬張りつつ、現状のDPを確認してみる。
56765DP
うん、だいぶ減ってるな。瓶底と会長が張り切ってるんだろうし、せっかくなら手土産くらいは持ち帰りたいところだ。
「それにしても中々の景色ですわ。高所から海を見下ろすのも悪くはないですわね。出来ることなら夜景も見てみたいところですけれど」
「夕方には戻る約束だからな。夜景は諦めろ」
「……貴方、もう少し気の利いた台詞をお持ちではないのですか? そんな事ではわたくしのような美少女は捕まえられませんことよ」
でもなぁ、トワだしなぁ、見た目だけなら最高なんだけどなぁ、終始振り回されるのはなぁ。そのうち「貴方の許容されているDPをわたくしに譲りなさい」とか、酷い時には「歩くのが疲れましたわ、椅子に成りなさい」とか言い出しそうだもんなぁ。
「……貴方、今とても失礼な事を考えませんでしたか?」
「気のせいだろ」
トワのジト目を回避するため視線を下に落とすと、少し離れた急斜面で薬草を摘んでいるトルネオさんが視界に写る。場所が場所だから採取しに来る奴が殆ど居ないとかで報酬が高いらしい。そんな感想を心中で述べていると、トワによる不意の一言が……
「ホントうちの男子たちは鈍い男ばかりですわね。少しは異性として意識して欲しいところですわ」
「え……急にどうした?」
「これでも読者モデルに取り上げられるほど容姿には自信が有りましてよ? そんな美少女と2人きりというシチュエーションで何もしないとは何事ですか!」
何故か説教された。これってもしや誘われてる? いやマジで脈有りなのか!?
「じゃ、じゃあトワ、今度2人でデー……」
「イ・ヤ・ですわ」
「……って、おい!」
「軽々しく誘いに乗る女だとは思われたくありませんもの。ですが少しは駆け引きというのを理解したのではなくて?」
「理解したかもしれんけど、駆け引きならカズトの方が上手そうな気もする」
「アレはスケベ心が顔に出てる時点でアウトですわ。容姿は貴方より整っているでしょうけれど、アレでは台無しですわね」
デデーン、カズトアウト。
「てか何でそんな話を?」
「さぁ? 何故でしょうね」
「じゃあアレか、同じ雑誌事務所の先輩からの受け売りとか」
「…………」ビクッ!
図星かい! ったく、無駄にドキドキさせやがって。
「お待たせしましたお二人とも。依頼の薬草は入手しましたので、ギルドに寄ってから帰還しましょう」
トルネオさんの方も終わったらしい。後は報酬を受け取って帰るだけ――だったんだが、そうは問屋が卸さないらしい。
冒険者ギルドを出てから人目の付かない場所へと移動した時だ。
「待ちなぁ!」
ズザザザッ!
野太い声が聴こえたかと思えば、次の瞬間には大勢の男に囲まれていた。
「そこの魔術師のお前、前にも難易度の高い依頼をこなして荒稼ぎしてやがったなぁ?」
「それが何か?」
「勝手にそんな事をされちゃあ困るんだよ。この街はよ、よそ者が金を落とすことで経済ってやつが成り立ってんだ。けどよぉ、肝心のよそ者が金を持ち去ったとあっちゃあ話が別だ」
「ほぅほぅ。つまり報酬を全額寄越せと?」
「それだけじゃ足りねぇ。言ったろ? よそ者には金を落としてもらう必要があるってな。命が惜しけりゃ有り金ぜ~んぶ寄越すんだ。いや、それだけじゃねぇ、そこの女も置いて行きな。男臭い街にゃ色ってやつも必要だからな」
コイツら、金だけじゃなくトワまで置いてけってか? 言ってくれるじゃん。もうお土産はコイツらで決まりだな。
「それは無理だな。彼女は俺にとっても大切な存在なんでね」
「フッ、合格ですわよススム。後は汗臭い男共を片付ければ汚名返上ですわ」
汚名を被った覚えはないけどな。
「おい、ガキのくせにイチャつくんじゃねぇ! 特にそっちのクソガキ野郎、テメェは冒険者ギルドでも生意気なこと抜かしてやがったなぁ!?」
「ん? ――あ、もしかしてさっきの……」
そうだ、冒険者ギルドで俺たちに絡んできた奴も一緒らしい。
「懲りないねぇアンタら」
「るせぇ! 散々俺たちをコケにしやがって、生きて帰れると思うなよ!」
いや、帰れないんかい!
「金出せば見逃すとか言っといて秒で矛盾させるのはどうかと思うぞ?」
「へっ、そうやって軽口叩けるのも今のうちだぜ? 何せこの街は荒くれ者が多い。喧嘩の翌日に数人が行方不明になるなんてなぁザラだからな。それに騎士団だっていちいち調べたりはしねぇ。何せ目の前に海があるんだ、死体を消すにゃもってこいよ」
「はいはい、全ては海の藻屑と」
だったら尚更好都合だ。
「んじゃ行くか。加瀬も迎える準備が出来たって言ってるしな」
「あ? この状況でどこ行くっつんだぁ?」
「すぐに分かるさ。――クイックバック」
56765DP→56465DP
シュン!
★★★★★
さぁて、ワイの出番やな。
あん? ワイは誰やってか? 加瀬や加瀬、加瀬光太郎や。忘れんなやホンマ、試験に出るでぇ?
『お、おい、どうなってんだよこりゃ、知らねぇ場所に飛ばされちまったぞ』
『洞窟……だと? いったい何が起きやがった……』
『それよりさっきの連中が居ねぇ。アイツらが何かしやがったに違ぇねぇ!』
『探せ、近くにいるはずだ!』
ひぃふぅみぃ……おおぅ、30人も居るんかいな、そりゃ300ポイントのコストを掛けても余裕でプラスになるわな。
あ~、一応補足するとやな、ワイらダンマスにはクイックバックっつうスキルが存在するんよ。これ1つでダンジョン外から一瞬でお帰りなさい出来るんやが、指定した範囲内なら何人でも強制同行可能なんや。
名付けて【拉致ってホイ】な。イカすネーミングやろ?
「そんじゃ挨拶代わりや、ホイッと!」
ガコン!
『じ、地面が――うわぁぁぁぁぁぁ!』
『たたたた助けてくれぇぇぇ!』
『聞いてねぇぞチキショォォォォォォ!』
「汚ない悲鳴やなぁ、あんな野太い声で叫ばれちゃコーヒーが不味ぅなるでぇ」
さて、ドリップコーヒーを堪能しながらスクリーンを通して奴らを追跡するでぇ。落とし穴から逃れた連中は混乱しつつも奥へと走っとるな。
ほな次の試練や。走ってるなちょうどええしな、ほれ。
ドゴォン!
『フギェッ!』
『な、なんだ、巨大な岩が降ってきたぞ!』
『巨大な岩だと!? マズイ、走れぇぇぇぇぇぇ!』
賢い奴は気付いたようやな。そう、今奴らが走ってる通路は緩やかな下り坂。ジワジワと背後から迫る大岩に恐れるがええで!
ゴゴ……ゴゴゴゴゴ……
「はい、動き出しましたよっと。あ、せや、せっかくやし音声ONにして実況したるかな」
こういうバラエティ番組の司会とか実況とか、そういう仕事に憧れとったんよ。
『さ~て始まりましたよモリモリマッチョなチキンレース! ここに居るのは落とし穴トラップを乗り越えた猛者たち、きっと白熱した走りを見せてくれることでしょう!』
『だ、誰だチキショウ、ふざけた事ぬかしやがってぇ!』
『テメェが黒幕かぁ! ぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!』
『さすがは先頭集団、まだまだ心は折れていない! 一方で最後尾はどうだ?』
『ク、クソ、いつまで走りゃいいんだ……』
『も、もぅ、足が……』
『おおっと、罵る余裕すらないのか苦しい表情だ。しかし良いのか!? すぐ後ろには大岩が迫っている~~~!』
ゴロゴロゴロゴロ!
『フギェッ!』
『うわぁ!? もう後ろに――グギェ!』
『は~い、2名脱落~! しかししかし、これでも大岩は止まらな~い! 坂道も徐々に角度がキツくなっていくぞ~!』
『ヤベェ、斜面だ、こっから先は斜面になってやがる!』
『潰されるぞ、走れぇぇぇ!』
『そ、そんな急に言われても――ビギャ!』
『は~い、更に1名脱落~! さぁここで先頭集団に戻ってみましょう! 目の前には分かれ道、左は足元が抜かるんで走りにくい、右はこれまでと同じ通路、さぁどちらを選択するのかぁ!?』
『左だ、左に進め、抜かるならあの大岩だって止まるはず!』
『『『おおぅ!』』』
『バカ言え、止まる保証なんざどこにもねぇだろうが、俺は右に行くぜ!』
『『『おぅ!』』』
『おおっとぉ? ここで半々に割れたぞ~? さぁ結果や如何に!?』
ゴロゴロゴロゴロ!
『やったぞ、右に転がっていきやがった!』
『ああ、俺たち助かったんだな!』
――な~んて思ってた時期がワイにも有りましたよっと。
ググ……ググググググ……
『な、なんだかこの足場、纏わりついてくるようで気持ち悪いな……』
『確かに。まるで足を飲み込まれてるかのように――ってぇ、食われてる、足が食われてやがる!』
『その通り! ななななんと、地面にはスライムが潜んでいたのだ!』
『『『助けてくれぇぇぇ!』』』
『は~い、左側は全員アウトーーーッ! 残ったのは右側だが……』
『そんな、行き止まりだと!?』
『ダ、ダメだ、もう走――ヒギェ!』
『『『ギヤァァァァァ!』』』
『は~い残ね~ん! 正解は有りませ~ん!』
バカやなぁ、侵入者に正解を用意するアホどこに居んねん。
56465DP→58890DP
ほい、ご馳走様でしたっと。お前らの事は忘れへんで? 今日の晩飯を食うまではな。
「皆はんごきげんようやで。ワイや、加瀬光太郎や。今回の侵入者向けトラップの出来はどや? 完璧やったろ? 町も徐々にデカくなっとるし、その分ダンジョンの防衛も強化せなあかんからな。今回はテスト運用も兼ねて、本格的に懐に侵入してきた敵っちゅう設定でやらせてもろたで。DPもまずまずやし、幸先もええ、ほな張り切って登場人物の紹介や」
「――って、新たな登場人物が居らんやないか~い!」