鉱山とゴンドラ
昼間の探索を終え、今は午後の11時。ダンジョンの拡張によるDP消費と、昼と夜の食費を減算した数値が以下になる。
65332DP→64811DP
「諸君、今日も1日ご苦労だった。あと少しで本日の成果が分かるのだが、その前に改めて紹介しておこう」
コアルームの隅でおとなしくしていたヘンテコなトカゲこと緑丸。会長に視線を向けられると、何故だか胸を張ってる感じに堂々とテーブルへと上がった。
「本日付で我がクラスのマスコットとなった緑丸くんだ。基本なにもしない生き物だが、暇な時にでも遊んでやってほしい」
「チュイ♪」
害は無いし、見た目も可愛いことから直ぐに女子たちに囲まれる。
「へ~、緑丸って言うんだ。御飯の時とかチョイチョイ目が合うし、気になってたんだよね~」
「その見た目や良し。しかし名前は最悪を極める。私が付けるなら……乙女殺し!」
「そうね、特別にわたくしの膝の上を堪能させても良くってよ?」
概ね好評のようだ。小学校の時にクラスで飼ってた石亀を思い出すな。あの時は水槽を洗ったり餌をやったりしたけど、緑丸に関しては必要ないもんな。何かを食べるって思考がないっぽいし、排泄物だって出さない。手が掛からない理想のペットと言えるかもしれない。
「そうだ、何か芸とか仕込んでみない? 片足玉乗りとか逆立ち歩行とか」(←いきなりハードじゃね?)
「それならお手やおかわりで仕付けるのが先ですわよ」
「チュイチュイ!」ブンブン
速攻で拒絶されてやんの。
「本人は嫌だって言ってるぞ? 一応人の言葉は理解できるからな、嫌われないようにしとけよ」
「ちぇ~っ」
「生意気ですわね」
しっかしこの緑丸、いったいどっから湧いたんだろうな? いや、考えたところで分かんないか。
「さて、そろそろかな瓶底くん?」
「はい。皆さん日付が変わるデスよ。ダンジョンの拡張で北半分を完全に掌握しましたし、DPの増加に注目デス」
3……
2……
1……
0……
パカッ!
あれ? また壁に穴が? な~んかデジャブを感じるような……
シュッ――――――トスッ!
「ぬおぅ!? な、なんなのだね、この矢文は!?」
ザザッ!
会長の顔の真横に突き刺さった矢文。くくりつけられていた紙が自動的に開かれ、メッセージが飛び込んでくる。
「え~と……【祝・DP1万超え!】、なんデスかこれ?」
「あたし~。せっかく達成したのに何も無いのは寂しいかな~って」
ま~た緑川がやったらしい。
「あ、危ないじゃないか! 寂しい代わりに額に穴が空くところだったぞ!」
「大丈夫だよ~、射程に入ってたら発射されない仕組みだったから~」
はい来た、無駄に優秀なやつ。
生物部門
カルシオール→5DP
セルナシオン→5DP
テルミア→2DP
カークランド→10DP
緑丸→350DP【NEW】
魔力草→66DP【NEW】
アイテム部門
清涼石→10DP✕38
疾風石→17DP
睡眠石→11DP✕3
オートランタン→13DP✕34
レトロアンバー→4DP
歓送迎オルゴール→12DP【NEW】
紳士の葉巻→8DP【NEW】
拘り骨董ランタン→6DP【NEW】
脱力トランペット→7DP【NEW】
パーマネントガレージ→23DP【NEW】
レインボータリスマン→272DP【NEW】
ホーリークリスタル→125DP【NEW】
幸運のプラチナダイヤ→330DP【NEW】
名画:祝福を受ける勇者→172DP【NEW】
64811DP→66642DP
おお、なかなかの成果じゃね? 当然そう思ったのは俺だけでなく、クラスメイト全員から拍手喝采が巻き起こる。
「やるじゃねぇか。このトカゲみたいな奴もしっかり役に立ってんのな」
「チュイ!」
本郷の台詞に誇らしげな緑丸。なんならコイツが一番の功労者でもある。
魔力草はB班とC班が採取したやつだ。東側と同じく西側にも同じのが生えてたからな。しかしあの肉体労働で66ポイントとは泣けてくる……。
「オルゴールとかトランペットとかは私たちA班だね」
「散々探し回った結果がこれっぽっちだなんて、あのドラゴ○レーダーは正常に機能してますの?」
少なくとも正常だろう。元からマジックアイテムの類いが少なかったと思うしかない。
「幸運のプラチナダイヤとレインボータリスマンは、買い付けに出た時に最上級の物へと加工してもらったものです」
トルネオさんの方も成果は出ている。財政難のため領主の金は大した無かったらしいけどな。
「さて、ここから減算されるのだな?」
「そうデス。確実に1000ポイントは引かれる想定デスが」
ダンジョン維持→-1000DP
セキュリティアラート→300DP
緊急迎撃システム→500DP
建設物自動修復→100DP
上納ポイント→1000DP
66642DP→63742DP
うおぉ~い、ガッツリ減ってんだけど?
「しまった、コレは想定外デス! 維持費用だけではなく、これまでサービスだったものが全て有料に切り替わってるデス!」
「ということは……」
「当ダンジョンはマイナス収支から脱出できてはいなかったのデス! これはボクの失態デス、申し訳ありません!」
深々と頭を下げる瓶底。そもそもが不確定要素が多いし、瓶底1人に責任を押し付けるわけにもいかない。
「う~む、悩ましいところだ……」
「会長、食費を合わせると3500は減算されると思われます。やはり当面の目的は魔力源の確保になるかと」
「うむ、戸田くんの言う通りだ。最悪は付近の街に出向いての金策を行う必要があるかもしれない」
いわゆる出稼ぎだな。それも有りっちゃ有りなんだろうけど。
「でよ、この上納ポイントってのは何なんだよ? 誰かに取られてやがんのか?」
「はいデス。ボクも手がついていない部分なので憶測でしか言えないんデスが、ダンジョンマスターを管理する者が存在し、その者に対して納める必要があるのだと……」
ダンジョンマスターより上の存在か。もしかしたら、俺たちが転移したのもソイツが関係してたり……いや、そんなわけないか。
「え~っ!? そんなの横暴じゃん! 昨日は取られなかったのにぃ!」
「アイリの言う通りだぜ、下手に出りゃいい気になりやがって!」(←お前が下手に出てるところを見たことがない)
「これも憶測ですが、ダンジョンが初期状態のままだと上納を免除されるものと思われるデス。セキュリティや迎撃システムも同じなのではないかと……」
はは~ん、これまでは大目に見たけどこれからは違うぞと、そういうことか。
「だが今さら無しにはできん。これまで以上の頑張りが必要だろう」
「しかし会長、周囲を探索しましたが東西が崖で塞がれている環境では収穫は微弱、方針の転換も視野に入れた方がよろしいかと」
「う、うむ。戸田くんの言うことはもっともなのだが……」
出来ることは限られてるしなぁ。どっからかマジックアイテムを盗んでくる? いや、それは最後の手段だ。
そうして皆で知恵を絞っていると、思わぬ方向――カズトから提案が。
「実はさ、今日はテルミアちゃんと話したんだけど……」
「「「知っとるわボケ!」」」
「あ~はいはい、サボってて悪かったよ。でさ、古代人の話になった時に南にある鉱山は当時使われてて町も賑わってたって聞いたんだよ」
何でもその頃から他国との関係が悪化してて、何度も攻め込まれたせいで鉱夫は危険であるという認識が広まったと。鉱山は町の外だから当然だな。
やがて鉱山は閉鎖に追い込まれ、鉱石の採掘による収入は断たれたと。今じゃ治める価値のない町とまで陰で言われてるらしい。
それでも古代人を目当てに訪れるトルネオさんみたいな人が来るだけマシだとか。そりゃ財政難になるのも納得だな。
「テルミアちゃんの祖父が存命の時によく聞かされたらしいよ。耳をヒョコヒョコさせて嬉しそうに話すところ、凄く可愛いかったなぁ」
「「「オッホン!」」」
「わ~ってるって、惚気て悪かったよ。でさ、町から鉱山を行き来するのに使われてた乗り物が有ったんだってさ」
「鉱山ならトロッコではないのかね?」
「チッチッチッ♪ それが違うんだよ」
ん? トロッコは使われてなかった?
「もちろん徒歩でもなければ荷車でもないし、馬車だって使っちゃいないぜ?」
「つまり利根川くん、トロッコの代わりに使われていたものが有ると言いたいのかね?」
「そういうこと」
トロッコの代わり……
「あ、もしかしてゆうパ○クとか使っちゃった?」
そうだな、何せ日本全国に――ってそうじゃねぇ!
「緑川くん、悪いが少し黙っててくれたまえ……」
「ぶ~ぶ~」
「……続けていいか? 実はトロッコの代わりにゴンドラが機能してたらしいんだ」
「「「ゴンドラ?」」」
ゴンドラって言ったらロープウェイをイメージするが。それにゴンドラ……あ!
「思い出した! 領主の名前ってカルシオール・ゴンドラだったよな?」
「大正解だぜススム。村が町にまで発展したのはゴンドラのお陰だって言うくらいでさ、当時新たに就任した町長が自分の名前に取り入れたんだ。その末裔が貴族となり、ゴンドラ家が存続してるって事らしい」
名前に取り入れるくらいだ、かなり大規模な稼働状況だったんだろうな。
「それで思ったんだよ、ゴンドラを起動させたらマジックアイテムとして認識されるんじゃないかって」
自動的に灯る街灯が認識されるくらいだ、ゴンドラだって可能性はある――いや高いと思う。
「これは朗報かもしれない。利根川くん、よくぞ話してくれた」
「そうかい? なら今後もテルミアちゃんから色々と――」
「此度のサボタージュは大目に見よう。その代わり次回はペナルティを課すぞ」
「――って、キビシ~!」
なら次は南へのダンジョン拡張か。瓶底には頑張ってもらわないとな。
「方向性は決まったな。では他に何か報告のある者はいるかな?」
「んだらオラからいいだか? 実はさっきまでソウルスカウトのコマンドが浮かんでたんだど」
「またかね? まぁ100ポイントなら許可しよう」
「んだけど今は消えちゃってるど。きっと空腹になったせいだど思うだ。何か食ってええだか?」
「「「…………」」」
急募、大恩寺の燃費の悪さを改善できるマジックアイテム。わりとマジで。
63742DP→63722DP
「うっぷ! オラ満足だど。空きっ腹に濃厚な味噌ラーメンはガツンと来るだで」
「感想はいいから早くやってくれたまえ」
「オケだで」
シュ~~~~~~ン!
『ふぃ~、ようやく聞き入れてくれたかぃ。だ~れも反応してくれんし、一生このままかと思うたわぃ』
出てきた幽霊は癖の強そうなツルピカ白ひげ爺さんだ。ちなみに2回目とあって発狂する奴はいない。
「御老体、誰も反応しないとはどのような意味で?」
『そのままじゃい。生きておるお主らに何度も訴えかけたんじゃが皆してスルーしおってからに……』
みんな霊感低そうだもんな。唯一大恩寺だけは強いんだろうが、性格がこんなんだから気付かなかったんだろう。
しかしここで静観していたトルネオさんが声を挙げた。
「待ってください、貴方は武器屋のラバンさんでは?」
『いかにもワシはラバンじゃ。そう言うお主はトルネオじゃな? ちぃと見た目が異なるのは……』
「ええ、実は……」
トルネオさんが経緯を話してくれた。すると案の定ラバンさんも依代が欲しいと懇願してくる。
『なるほど、ならば話が早い。ワシは今でこそ武器屋をしておる――いや、しておったが、元は領主様の元で警備隊の隊長を勤めておったのじゃ。全盛期であればあんな賊共に遅れを取らず、領主様の元へ駆けつける事が出来たと思うておる。どうかもう一度、ワシに領主様の警護をさせてもらいたい、この通りじゃ!』
みんなと顔を見合わせるが、答えは決まってるようなもんだ。今じゃライジングバレーはゴーストタウンの一歩寸前。生身の人間や獣人が滅多に来ない現状、トルネオさんのような存在は貴重とも言える。そう、強いてはダンジョンの防衛に繋がるんだ。
「分かりました。依代はこちらで用意しましょう」
『本当かね!? ありがとう若者たちよ!』
さて問題はどのモンスターに入ってもらうかだが、ここで真っ先にメグミが挙手をしてきた。
「フフ、私の中に潜む邪竜が語りかけてくる。このモンスターに身を委ねよと。そう、それは紛れもない運命、逃れられない宿命の選択。それを乗り越えし者には新たな力が与えられる。そう、それが、それこそが――」
「――スピ○チュアル♪」
『……聞いたことのない詠唱だが、彼女はいったい何の魔法を唱えたのかね?』
「ああソレね、多分中二病が悪化する魔法だと思います。無差別に発動させるので、なるべく耳を塞いどいてください」
『そ、そうかね?』
「おい鳥居よ、貴様この私を侮辱――」
「――ってな訳で、このモンスターがお勧めらしいです」
名前:マットスイープジェネラル
DP:1700
備考:闇落ちしたエリート軍人。復讐に燃える姿はもはやバーサーカーであり、誰にも止める事は出来ない。ハルバードを右手に、タワーシールドを左手にした重装備であるが故に攻守ともに大変優れている。
うん、メッチャ強そう。前に居てくれるだけで絶対の安心感が半端ねぇぜ!
「反対意見は――無いようだな。ではこれを召喚だ」
63722DP→62022DP
「おお、これは素晴らしい。この体なら領主様をお守りできるぞぉ!」
髪やヒゲが黒々としてる。ちゃっかり若返ってらっしゃるようだ。
「では今日から領主殿の警護を頼もう。期待してるぞラバンくん!」
「任せんかい!」
「あ、どうも、副会長の戸田優奈です。会長が長話などでご迷惑をお掛けしてませんでしょうか? もしそうなら代わりに謝っておきますね、ごめんなさい。――え、どうしてそこまでするのか……ですか? それは勿論、会長を陰ながらサポートするためです。知ってます? 出来る女は想いの人が不利にならないように立ち回るものなんですよ? そもそも会長との出会いは――」(←お前も話が長いよ!)
名前:ラバン
性別:男
年齢:78歳
種族:獅子獣人
備考:元領主の警備隊隊長。引退して武器屋を営んでいたが、盗賊の襲撃により死亡。あまりの不甲斐なさに現世への執着を見せ、大恩寺を通じて眷属となった。
名前:マットスイープジェネラル
DP:1700
備考:闇落ちしたエリート軍人。復讐に燃える姿はもはやバーサーカーであり、誰にも止める事は出来ない。ハルバードを右手に、タワーシールドを左手にした重装備であるが故に攻守ともに大変優れている。
「ハッ!? す、すみません、私ったら会長の事を話すのに夢中になり過ぎて……。ええ、次はもっと時間の有る時に話したいと思います!」