婚約者を奪う女と言われた私、13番目の婚約者に物申す
短編13作目になります。私事ですが、【連続投稿300日】を記念した短編作品となっております。読んでくれる方がいるからこそ頑張れます•'-'•)وこれからも皆様に楽しんでもらえるように精進しますので、ぜひとも応援よろしくお願いします┏○))
私の目の前にはもはや何番目か分からない婚約者が座っている。
「どうぞお手柔らかにお願いします」
顔を少し傾けて言う彼の金髪がフワリと額にかかる。フワフワして柔らかそうだ。きっと撫でたらふんわりとして気持ちいいのだろう。
顔も悪くない。少しタレ目の彼は自分の好みではないけれど、鼻筋はピッと通っていたし品のある顔をしていた。
(どうして、お姉様たちはこの方を気に入らなかったのかしら?)
エリアーヌには5人の姉がいる。エドウィジュ伯爵家は女系家族でどうしても男子が欲しかった両親は男子が生まれるまで子をもうけたかったが、エリアーヌが生まれたところで諦めたのだった。
幸いにして、姉たちと自分は器量が良かったので、男性から結婚を申し込まれることには困らなかった。むしろ、多くの男性から釣書が届き、姉たちは片っ端からこれはと思う男性と付き合った。
ちなみに、エドウィジュ家では娘を大切に思うなら速やかに婚約すべし、という考えがあったから付き合うことは婚約を意味した。
男性たちも姉妹と婚約するのを望んでいたから文句は無かった。でも、姉たちがあれこれ選り好みをした結果、たくさんの元婚約者という存在が次々と誕生することになった。姉たちはそんな男性たちを尻目に、これぞという男性を捕まえて結婚していったのである。
現在、ようやく上の姉3人が嫁ぎ終わったところであった。本来ならば、こんな扱いをされたら男性は怒るのが普通だろう。だが、男性たちは怒る間もなく、残る姉妹をすぐに紹介されるので文句を言わないのだ。
彼らにとっては6姉妹のうち、いずれかの女性と結婚できれば良いらしい。それほど姉妹の美しさは評判であった。
『私の代わりに妹の〇〇を紹介いたしますわ。彼女の方が〇〇様には合うかもしれません』
そんなセリフを言われ、男性はフラれたショックを受けつつも次の姉妹と付き合う。なんだかんだでオイシイのである。
だから、ダメ元でエドウィジュ家に釣書を送り付ける者も出てくるほどであった。
(男性って顔が良ければ誰でもいいわけ?)
末っ子のエリアーヌには上の姉たちがお気に召さなかった男性たちが最終的に流れて来る。最終的な受け皿となる彼女はいつも気が重かった。
(私に断られれば男性たちは後が無いと思って必死。あれやこれやと口説いてくるのよね)
自分に彼らが回ってきた時点で婚約の流れになるのだが、彼らは結婚までたどり着くためにさまざまなプレゼントなどを持ってくる。それまでにも上の姉たちに散々プレゼントをしているから、男性はどうしても最後のエリアーヌには期待を寄せる。
大抵、年上の男性が主であるから年下のエリアーヌは説得すれば結婚できると思っている者もいる。ある意味、エリアーヌまで流れてきた男性は本性が出やすい。
だが、目の前の男性は必死な様子もないし、爽やかで余裕がありそうだ。
「エリアーヌ嬢はこれまで12人もの婚約者をフッたと聞きました」
男性の言葉でどうやら目の前の男性は13番目の相手だと分かった。
「あの、それは私がまだ結婚にふさわしい年齢ではなかったのもありますわ。その理由でお断りしたのは12人中、5人ですわ」
「では、残る7人の男性はなぜ断ったのです?」
「………性格の不一致ですわ」
本当は、見た目が好みではない人が4人いた。エリアーヌは面食いではないが、太っている人や肌がキレイではない人は、いくらお金持ちでも清潔感がないような気がして苦手である。
「僕が聞いた話では、ギャンブルや酒好きがダメだったらしいと聞きましたが」
(なによ、しっかりと把握しているじゃない)
表向きの断った理由をきちんと調査してきたらしい。実際は、ギャンブルや酒に関してはホドホドならばそこまで気にしていない。
「ベルトラン様こそ、どうして我が家に求婚されたのです?」
「僕はエドウィジュ家の娘なら誰でも良いと思って求婚したわけではありません。しっかりとあなたの名前を書きましたが、エドウィジュ家では年長順にお見合いをさせるらしい」
今まで両親に言われるがままお見合いというか、婚約者と会ってきたので詳しい事情を知らない。
「ベルトラン様が私の婚約者になったのも3番目の姉であるクロエお姉様と4番目の姉であるジョアンヌお姉様がお断りしたからだと聞きましたが?」
「僕の意思で婚約したわけではありませんが、クロエ様は僕よりもオレールという男性に惹かれたようですよ?僕はクロエ様には興味はありませんでしたし、好意を示すようなことは一切しませんでした」
ベルトランの話では次に紹介された4番目の姉ジョアンヌにも同じような態度で接したらしい。ジョアンヌは自分に興味をしめさない男性に最初、興味が湧いたようであるが、すぐに思い通りにならない男性に飽きたようだ。
「いかがですか?」
「姉たちと婚約していたと思うと面白くはありませんが、我が家の事情ならば仕方ありませんし、あなたには責任は無いでしょう」
「お若いのに冷静ですね」
お若い、と言われたがテーブルに置かれた釣書の内容からするに、ベルトランは3歳年上の19歳であって彼も若い方だ。
「………私はあなた以外に12人もの婚約者がいましたから、世間での風当りも強いんです。私のせいではなくても、私が断った瞬間、彼らは途端に私だけ悪女扱いをします。冷静になるのも当たり前です」
「悪女だなんて。彼らが勝手に期待してフラれただけでしょう」
「彼らは末っ子の私ならどうにかして言いくるめられると考えていたんです。だから、予期せず私に断られると、姉たちの婚約者を次々と奪って捨てているというありもしない話をでっち上げました」
「ええ、そう言われているのは知っています。情けないやつらですね」
ははは、とベルトランはエリアーヌの悪女説を笑っている。大して気に留めていないようだ。
「ベルトラン様はなぜ、私が良いと思って求婚されたのですか?」
「まさに今まで話したことが理由ですよ」
「はい?今話したこと?」
「そうです。世間ではエリアーヌ嬢は姉たちの婚約者を誘惑して次々と捨てていると言われていますよね。でも、それは良く考えたらおかしいのです」
「どう、おかしいのです?」
初めてそんなことを言われた、とエリアーヌは身を乗り出した。
「エドウィジュ家は良くも悪くも年長順を強く意識したお家柄です。遡って調べても、エドウィジュ家は礼儀や立場をわきまえた一族としてかつての王にも評価されています。ですから、末っ子のあなたがお姉様方に無礼を働くわけはありません。事実、あなたは言われるがままお姉様たちが選ばなかった元婚約者を婚約者として迎えてきたでしょう?」
目の前のベルトランが探偵に見えてきた。
「………確かに、両親は姉たちに良い縁談が来るように私を犠牲にすることで、身勝手な姉たちの株を上げようとしていました」
「僕はそんなあなただからこそ、一緒になりたいんです」
目の前の男性は、自分の見た目だけでなく、言うことをききそうな年下女性だからということでもなく、自分をしっかりと見てくれているようである。
「………私をそのように考えてくれるのは嬉しいですけれども、あくまであなたの気持ちは推理して創り上げた私の姿に対するもの。現実は違うかもしれませんよ?」
「では、僕に見せて下さい。あなたの本当の姿を」
ベルトランが微笑む。
(あ………ヤバイ。惚れたかも)
そう思ったら顔が赤くなった。
「言いたいことはハッキリと言って下さい。僕は上のお姉様たちよりも、あなたのようにきちんと気持ちを伝えてくれる方が好きです」
おしとやかキャラで通している姉たちをバッサリと切るような言い方をするベルトランがステキに見えた。
「私は思ったことはハッキリと言ってしまいますよ?それでもいいのですね?」
「はい、傷つけるような言葉で無ければ大抵は受け入れられます」
子犬のように可愛い姿を見せる彼の姿はエリアーヌの心に刺さった。
「では、もうすでに婚約関係ですけれど、前向きに進めていく関係でお願いいたします」
エリアーヌが手を差し出すと、ベルトランは喜んで甲にキスをしたのだった。
…………それから半年後、まだ結婚しない姉2人を追い抜いてエリアーヌはベルトランと結婚した。
年長順にやたらとうるさい両親はエリアーヌとベルトランが結婚をしたいと言うと、上の姉がまだ結婚していないのだからと文句を言ったが、とあることが判明するとすぐに黙った。
「それにしてもベルトラン様がまさかバスチアン公爵家の後継者になられるとは!」
父が先ほどからベルトランをやたらと持ち上げている。母もやたらと愛想良くしていた。
ベルトランはバスチアン公爵家の3男であったが、長男は事業を立ち上げると事業拡大のために異国へと旅立ってしまっていた。そのため、次男が公爵家を継ぐ予定であったが、軍隊に入隊していた彼はつい最近、遠征先で勝手に結婚してしまったのだ。お相手の女性は平民の踊り子だったので、怒ったベルトランの両親が急遽、彼を後継者にしたのである。
そういうわけで、エリアーヌはいずれバスチアン公爵夫人となる予定である。
「これから宜しく。未来のバスチアン公爵夫人」
優しく微笑みながら言うベルトランを見て、姉たちが悔しがったのは言うまでもない。
生まれて初めて姉たちを追い抜いて幸せになった自分は最高だと思えたのだった。
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