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とある転生者の日記

《645年2月6日》


 えーテステス。お、本当に考えるだけで書けました。面白いですねこれ。


 ―と、当然じゃ。神の権能で生み出した特別製の日記帳じゃからな。この世でそれを持っているのはお主だけじゃぞ!


 あ、頭の中で喋られるとつい日記に書いてしまうので、慣れるまで喋らないでください。


 ―うぇ……。神なのに扱いが酷いのじゃ……。


 はい。ここからは少し遡って、事の経緯を記述してみよっと。



 私は死んだ。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️によって。

 あれ、なんで黒塗り?


 ―言っておらんかったが、上位界層の情報は書き込めぬのじゃよ。


 あ、そうなんですね。じゃあもうめんどくさいから前世諸々の話はカットで。


 えっと、死んだはずの私は、何故か謎の白い空間で目を覚ますことになった。

 怪我もなく自由に動くのが不思議な身体をそっと起こし、数秒の放心を挟んでから、正面を向いた。そこには、なんとも可愛らしいオレンジ色の髪の少女が、サイズの合わない豪華な椅子に、そこはかとなく尊大な体勢で座っている姿があった。そんな彼女が口を開く。


「気付いたようじゃな。お主には残念なお知らせじゃ。お主は……、死んだのじゃ」


 知ってる。助かるような事故じゃなかったし、特に驚くことではない。

 でも、死後の世界が実在するのには驚きだ。死んだらその瞬間から意識も感覚も、何かもがなくなると思ってた。


「あの、あなたは神様ですか?」

「いかにも。もっと取り乱すかと思っておったが、話が早いの。わしの人選は完璧だったというわけじゃ」

「頭にバナナの葉っぱ付いてますよ」

「…………これは世界樹の葉じゃ。知恵の神の象徴みたいなものじゃよ」


 緑の葉っぱが髪色と相まって頭を蜜柑みたいにしてるのにツッコミを入れてみたけど、どうやらボケじゃなかったみたい。神様とコミュニケーションを取るのは初めてだからむつかしいね。

 ともかく、相手が知恵の神様だという情報は得られた。知性に溢れた雰囲気してますね、とかおだてたら、来世でちょー頭良い人間に生まれ変わらせてくれたりしないかな。


「自分の死を受け入れたのであれば、早速本題じゃ。わしは、知恵と平和の女神、ナクラマクラーシャ。実は、わしはお主がおった世界とは別の世界の国の内一つを守護する神での。わしの国がちょっと困ったことになっておるから、お主の力を貸して欲しいのじゃよ」

「ほー?」


 ほー、……ほーほー!単なる死後の世界じゃなくて、更に驚きのやつできた!異世界転生とか、色んな作品を読んできたけど、まさか自分がそうなるなんて!今流行りの悪役令嬢が活躍する乙女ゲーム系かな?世界が困ったことになってるなら、やっぱり王道の魔王討伐系かな?


「え、えっと、何か言いたいのかの?」

「いいから詳しく」


 テンションが上がりすぎて、思わず神様の膝元まで這っていた。そのせいで若干引かれた気がするけど、気のせいにしておこう。


「う、うむ。乗り気なのはありがたいことじゃ。実は、わしの世界は上位界層の◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️いての。それに対抗する為には同じ上位界層で非業の死を遂げた者を転生させて解決させるしかないのじゃ」


 どうやら私のいた世界の神様が、この神様の世界を◼️◼️◼️ているらしい。これも書けないのね。上位界層などという随分◼️◼️◼️な通称に相応しく、その悪口は検閲が厳しいみたいだ。()()()()()いるらしい。あ、これなら行けるのね。


「そして、その名簿者リストの中からわしが選んだのがお主なのじゃよ、滝光よ」

「たきひかり?」


 誰?となって、そういえば私の名字は確かに滝で光だったと思い出す。読み方はタキミツだけど。知恵の神様のギャグセンスは独特だなあ。頭が良すぎて逆に、みたいなやつか。


「名簿者リストにはその者の客観的評価が記載されていての。まあ大抵の者が無記載じゃが、見所があれば良、優れた才能があれば優と名前の後に書かれておるのじゃ。そんな中で……、ほれ、これを見るのじゃ!」


 神様が得意気にそのリストを見せつけてくる。数百の人間の名前が羅列される中、引かれた緑のマーカーがこれまた自信に満ちており、そこには私の名前があった。


「たった一人だけじゃった。優良、と更に秀でておることを示す文字が記されておるのは、な……!」

「お?おおー!」


 確かに書かれている。私って、そんなにすごかったのか!自覚は全く無かったけど、さすが名前が"優良(ゆうら)"なだけある。


「お主に頼みたいことはただ一つ。わしが守護する国『ロータシア』に降り立ち、公爵家の令嬢の暴走を止める事じゃ。優秀なお主なら容易かろう?」

「あら、悪役令嬢系なんですね。私、異世界物でも一番好きな奴です!まかせろりー!」


 悪役令嬢、イケメン王子、取り戻せない青春の学園生活!楽しみしかないね!


「ほーっほほっほっほ!!良き返事じゃ!頼もしすぎて、わし、もう風呂にでも入ってこようかの!」

「あはははははははは!!私、異世界行ったらイケメン王子と結婚するんだ!」


 こうして、勝ち確ムードに二人で盛り上がり、なんやかんやの内に私は異世界への転生を果たすのだった!




 ――異世界へと転生して最初の最初に驚いたこと。私の姿は、なんとびっくり、私が12歳の時のそのままのものだった。おててがちったい。そしてもちもち肌。パキらない関節。なんて素晴らしい!

 前世では大人になってから、若かりし頃の写真を見てあの頃の美少女っぷりをもっと堪能しておけばよかったと後悔したから、念願を叶えられる!


『無事着いたようじゃの』

「わっぇ!?」


 頭の中に声が響いて、驚きと耳鳴りが同時にやってきた。女神様は離れていても私の脳内に直接語りかけれるらしい。


『驚かせてすまんの。お主が今居る場所について説明せねばならぬから、聞いて欲しいのじゃ』

「あ、なるほど。そういえば、ここは一体……?」


 場所と言われて周りを見ると、本と本棚がたくさん目に入った。図書館、かな?なんか、同じ本ばかりが詰め込まれているように見えるのが若干元の世界の図書館と違ってて違和感があるけど。


『そこは『神律蔵書館』と言っての。わしの権能で生み出した建物なのじゃ。この中での安全はわしが保証するし、しばらくはここで生活できるようお主用の居住空間も作っておいてやるのじゃ』

「本当ですか!いやー何から何までどうもどうも~」


 異世界転生で馬鹿にならないのは、転送された瞬間に魔物に襲われたりとか資源の無い空間に独りぼっちだったりとか、そういう初見殺しだし、身の安全が確保されてるのはとてもありがたい。


『それから貨幣も準備してあるのじゃ。この世界の貨幣価値は――という感じじゃ』

「おーけー把握しました。ところで、転生特典にチートとか含まれないんですか?」

『ち、ちーと?』

「なんか、この世界で無双できるようなすごい力ですよ。普通異世界転生ってそういうのあると思うんですけど」


 悪役令嬢物なら、やっぱり聖女の力とか、そういうのが欲しい。聖女の癒しパワーで周りのイケメンたちを囲い込んで良い感じモテモテになるのだ。そして最後に闇落ちした悪役令嬢を聖なる奥義で打ち倒してハッピーエンド。私はそんな展開を所望いたす。


『あ……、あー!もちろんあるとも!!今転送するのじゃ!』

「やっぱりあるんですね!転送ということは、最強の武器とかそういうやつですかね?ん?これは、本……?」


 女神様の声が焦ってるように聞こえるのは気のせいかな?なんて思っている内に、目の前がパッと明るくなったと思ったら、そこには一冊の本が置かれていた。茶色い表紙で親指一本分くらいの厚みのそれは、周りの書棚に詰め込まれているものと区別できない。故にあまり特別感がないけど、これが私のチートなの?


「えっと、あれですね?禁断の魔術書的なやつですね。これを使えば最強魔法を使い放題的な」

『あ、あの。そういうのじゃなくて……。日記帳なのじゃ』

「日記帳?」


 女神様の声が弱々しく告げたその本の正体に、私は、はて?と首を傾げた。チート日記帳。日記帳などという日常的なワードとチートという非日常を付け加える修飾語が組み合わさると不思議だ。だからどんな能力を持つのかイメージしてみる。

 例えば、書いた内容で事実を改変できる。は流石にやり過ぎか。それなら『公爵令嬢は心を入れ換えて暴走するのを止めました』と書けば話が終わってしまう。

 もうちょっと押さえ目で、ワクワクするようなのとなれば。あ、閃いた。


「もしかして、日記を付けた日に時間を戻せるとか?セーブポイントと言えば、やっぱ日記のイメージですし!」

『あ、あ、あのぉ……。もっとお手柔らかに頼むのじゃ……』


 女神様の声が、もうハードルを上げないでくれと泣いているように聞こえた。良い具合のチートだと思ったけど、これでも高望みなのか。

 そしてその後、消え入りそうな女神様からこの日記の能力が『脳内でイメージするだけで書き込める』ものだと教えられて、試してみて。




 ……ふぅ、日記と呼べる文量じゃないものを綴り終えて、やっと現時点に辿り着いて。


「…………えっと、これだけ?ですか?」


 自動で書かれる日記帳。わぁ、便利。腱鞘炎になったり小指の横が真っ黒になったりの心配が無いね。で、これをどう使って異世界無双するんだろう?


『……』


 察しろとばかりに女神様から無言の念を送られた。本当にこれだけらしい。

 私のテンションは転生早々に低下した。こんなの、全然チートじゃない。チートも無しに非力な少女がどうやって一人で過酷な異世界を生きていけと?


『ひ、一人ではないのじゃ。わしがナビゲートするのじゃ。それに従えば、お主がこの世界でゲームオーバーになることは無いじゃろう』

「おー、たしかに、神様と常に会話ができるのは中々のアドですね。では、ここから頼みますよ」

『うむ、大船に乗ったつもりでおればよい!何せ、わしは知恵を司る神なのじゃからな!』


 女神様との24時間無料通話権。日記帳よりは有用な気がする。少なくとも寂しくなることは無いね。私の異世界でのお友達一人目はちょーぶいあいぴーだ。


「よろしくお願いしますね。ナクラマクラーシャちゃん、ナクマク、ナマーシャ……、ナマクラちゃん」

『!?その呼び方は止めるのじゃあ!?』


 友達感覚で名前呼びしようとしたら長く、面倒なのであだ名っぽくしようとしたら思いっきり語弊があるものになった。悪口なのに何故だかしっくり来る。しっくり来たから勿体無いけど、流石に酷いし、ここはナマラちゃんくらいで抑えておこう。



《645年2月7日》

 異世界生活二日目。問題発生。

 この世界、つまらない。異世界なのに、魔法もない、魔物もいない、異世界なのに!

 こんなの最早ただの中世じゃない?異世界詐欺じゃない?ファンタジー要素が神様くらいしか今のところないんだけど!

 いや、期待外れがそれだけならまだ許せる。元々死んだ身だし、第二の人生を歩めるだけでありがたいことだ。文句を言える立場では無いのかもしれない。

 でも、でもさ?せめて学校は有ろうよ。悪役令嬢物なら今や必須でしょ?知恵の女神の国ならなおさらでしょ?

 なんで町では同年代の子達がみんな働いてるの?下積み時代って、なんで12歳から将来の仕事に悩まされなきゃいけないのよ?そんなのイケメンだらけの貴族学校で青春ごっこしてからでもいいでしょ!



《645年2月14日》

 転生から約一週間。更に問題発生。

 この世界、恋愛要素がない!

 結婚相手に必要とされる要素は優秀さと財力で、顔とか人間性とか雰囲気の良さは驚くほど必要とされていないのだ。

 顔の良さだけで生きていけるのは娼婦や金持ちの妾の道くらいで、社会的な身分は低く、愛など望めない。

 これではせっかくの美少女が台無しである。顔の良さでイージーゲームしたかったのに、また一つ私の楽しみが消されてしまった。

 私がイメージする、相手の容姿と人柄に惹かれてドキドキうふふするタイプの恋愛が浸透していないのには、理由があるみたいだ。

 この世界の書物は日記くらいしかなく、娯楽的な小説が流通していない。私が今暮らしている日記収蔵を目的に作られた神律蔵書館の中には日記の体をした創作小説も有りはしたけど、ごく少数だ。

 私が元居た世界でも、誇張された恋愛物語が流行りだすまで恋愛結婚なんてものはほとんど存在しなかったと聞く。物語が小説だろうと漫画だろうと劇だろうと恋愛物が最強の世界から来た私からすれば、結婚が実力至上主義の世界なんてなんて、灰色にしか見えない。

 こんな世界、あんまりだ!


「……というわけで、私はこの世界に愛想が尽きました」

『ふぁ!?まだ一週間じゃぞ!?』

「もう悪役令嬢と戦うとかそういう気分じゃなくなったので、これからは私の好きにさせてもらいます。探さないでください知恵と平和ボケの女神様」

『平和ボケの女神!?』


 もう知らない。知恵と平和を1:99くらいに振り分けている頭の中お花畑女神様に別れを告げ、私は私の道を歩む決意をした。たとえ国が滅ぼうと、私は私の幸せを掴む!



《651年5月25日》

 転生から6年後。長かったようで一瞬なようで。

 街角で人気の無いパン屋を営んでいた彼を助けた結果が、まさかここまで繋がるなんて。

 正道へ軌道修正しようとするナマラちゃんの声をスルーし続け、悪役令嬢とその婚約者の王子をそっちのけで一般人男性と結ばれた私は、この日、無事に子を出産した。


『うぉぉおおぉぉぉぉぉん!!おべべっ、おめでとうなのじゃああぁぁぁ!!!』


 脳内に爆音で鳴り響くナマラちゃんの声。私の身勝手にも怒ることなく見守り続けてくれたナマラちゃんは、すごく優しい神様だ。

 ちなみに、私が公爵令嬢の暴走を止めなければこの国が滅亡するという話だったけど、既にその公爵令嬢が王子と結ばれた今も、何故かこの国は滅びる様子も無く平和が続いていた。


「これも全部、ナマラちゃんのお力あってのことですね。流石は平和の女神!」

『うふうふっ。おだてても何も出せんぞ?』

「ええ、私にはもうこれ以上は何も必要ありません。ただ、どうかサラのことはこれからも見守ってあげてください!」

『むふっ、しょうがないのぉ。わしもこの縁は永遠に大切にするのじゃ。お主らのことは末代まで祝ってやるのじゃ!』

「なんて素敵な神様!ってえぇぇぇ!?」


 突如光り輝く、我が子サラの頭部。出産なんて初めてのことで分からないことだらけだけど、これが普通ではないのは分かる。ど、どうすれば!?


「ナマラちゃん!サラの髪がオレンジ色になっちゃったんですけど!?」

『おおっと。わしの祝福の光が溢れすぎてしまったようじゃの。何、心配は要らないのじゃ。髪色が変わっただけで何の悪影響も無いからの』

「そ、そっかぁ。ナマラちゃんがそう言うなら安心……、していいのかなあ?」


 前世だと髪の色が変な子は虐められたりするものだった。そこがちょっと気になるけど。でも、ここは異世界で、髪の色も黒が多いにしろ結構多彩だから、むしろ希少価値で人気者になるかもしれない。何たって神様の祝福なのだから、悪いようにはならないと信じるべきだ。


 ……などというちょっとしたハプニングも起きた後、少し思い耽る。

 予想していた異世界生活とは確かに違った。でも、一般人として普通に結婚し、可愛い我が子を囲んで笑い、変わらない日々を日記に綴っていく。紛うことない幸せだ。

 私の第二の人生は、優しい神様に見守られながら、波風なく幸せに包まれてこれからも進んでいくのだろうと思った。


 が、しかし。


『む?なんじゃ?わしは今取り込み中なのじゃが』


 ナマラちゃんの声がまた脳内に響く。でも、これは私に対して話しかけているのではない。天界の方で来客があったみたいだ。


「もうお祝いの言葉は頂戴できたので、用があるのでしたらそちらを優先してくださいね?」

『う、うむ。では少し外させてもらうのじゃ。全く、こんなめでたい日に、どうして上位界層からの使者の相手をせねばならんのじゃ……』


 上位界層。これまで何度も聞いたその言葉は、あまり聞きたいものではなかった。少なくともナマラちゃんにとっては良いものではないのが決定的で、その言葉を口にするナマラちゃんは大抵疲弊交じりに愚痴をこぼしてきていた。私も理解しきれていない小難しいことは端折って説明すると、上位界層からはこの世界が存続するためのエネルギーを供給してもらっている代わりに、無理難題を押し付けられまくるらしい。

 それにしても、なんでこのタイミングなんだろう?ナマラちゃんが上位界層の神に呼び出されることはこれまでにも何回かあったけど、そこまで頻度が多いものではなかった。まるで私の出産を狙ったかのようなタイミングに胸騒ぎがしたようなしなかったような。


 私は出産直後のこんにゃくのような脱力感に徐々に血が通っていくのを感じながら、ナマラちゃんが戻るのを待った。1時間くらいで戻って来たナマラちゃんは、いつもの疲弊交じりとは訳が違う悲壮な声になっていた。


『優良よ……。とんでもないことになったのじゃ……』

「とんでもないこと?また無理難題をふっかけられたんですか?」

『いや、ふっかけられたというよりも……』


 うぅ、と嗚咽のような声が挟まり、余程のことだと察した。できるなら頭をよしよししてあげたいけど、会話の気安さに対して物理的な距離の遠さは、えっと、飛ぶ鳥を落とすようなは違うか。何か良い例えが浮かびそうだったけど浮かばなくて、とにかく不可能なまでに遠い。


『まだ終わっておらんかったのじゃ、この国の破滅』

「え?でも、公爵令嬢と王子の結婚がタイムリミットでしたよね?」


 聞いていた話では、その二人の結婚までに公爵令嬢を正気にしなければこの国が滅びることになっていた。

 でも、彼女らにもうすぐ御子が誕生する今となっても国の安寧には(かげ)りの一つも見当たらない。


『それがの、どうにもバグが起きてしまったようなのじゃ』

「バグ、ですか?そんなゲームみたいな」

『実際、上位界層の神らからすれば、下位界層の存在などゲームみたいなものなのじゃ。そして、バグが起きた原因は、お主にあるのじゃ、優良よ』

「え、え~~~~~~?」


 驚きよりも困惑が大きかった。そんな、ちょー平凡人生を歩んできた私が悪いみたいに言われても、『私また何かしちゃいました?』って返すくらいしか思いつかない。このシリアスな空気にぶっこむ気にはなれなくて飲み込んだけども。


『お主の生き方が平凡は無理があるがの、そこにツッコんでおる場合ではない。お主は何もしなさすぎたのじゃ。さっきゲームと言ったが、6年前に上位界層の死亡者リストから一人を選ぶ行為、あれこそが主人公選択だったのじゃ。そこでわしはお主をこの国を救う主人公として選んだ。そして、主人公であるお主を導いて、公爵令嬢や王子と数々の接触を行わねばならなかったのじゃ』

「主人公、接触、あ」


 見えてくる、私の責任。ナマラちゃんは何度も私に行動を起こさせようとしていたけど、がっかり異世界に拗ねていた私はそれを聞き入れず、むしろ高貴な方々とは接触しないように心掛けてきた。そのせいでこの世界(ゲーム)は、主人公がゲームスタートをしないままエンディングを迎えてしまったのだ。


「それは確かにバグりそうですね……」

『うむ。まあ、そのお陰もあって、奇跡的にこの国は滅びを迎えずに済んだのじゃから、ファインプレーだったのかもしれぬ』

「まあ、平々凡々な私が主人公をしたところで公爵令嬢相手に戦える訳もありませんし、そうかもですね。ナイス人選ミスでした」


 私の評価が"優良(ゆうりょう)"でないことは転生早々にナマラちゃんの知るところとなった。ここに関してはナマラちゃんの勘違いが悪くて私は悪くないので、ナマラくじ特賞に当たったラッキー!くらいにしか思わなかったけど、よくもまあこんな私と今も仲良くしてくれているものである。


「でも、あれ?やっぱり滅びを迎えずに済んだんですよね?なのにまだ終わってないって、どういうことですか?」

『重要なのはそこなのじゃよ。まだこの国が滅びておらぬのは、お主の代のゲームがどうやら無効試合の扱いとなったからのようなのじゃ』

「無効試合、てことは、え?私たちの代のゲームが、ってことは……!?」


 ハッ、と気付いて、産んだばかりの子を見る。将来はきっと私に似て可愛くて元気な女の子になるはずだ。女神に選ばれてこの世に二度目の生を受けた私とは違って、神様云々の諍いに巻き込まれる謂れのない子。


『……12年後じゃ。次代の子供らが、再びこの国の興亡を揺るがすことになる』


 ――ああ、なんてこと。いやだ。いやだ。

 そうなると分かっていたなら、たとえ国が世界が滅びようとも、私がこの身で試練に受けて立っていたのに。

 この世界がゲームだとしたら、完全にクソゲーだ。リセット不能で"つづきから"を選ぶしかない。

 上位の神に弄ばれる世界で、私が主人公のこの世界。されど、私が直接世界を左右する時間は既に終わっていて、未来の主人公を大切に育て上げるのが私のこれからの役目となった。



 サラ。

 未来のあなたが、いつかこの日記を見る日が来るでしょう。私があなたに理不尽を押し付けていることに憤りを感じているかもしれません。

 でも、どうか、愛を。

 愛する者の為に心を尽くせる子に育ってくれていさえすれば、あなたとあなたの愛する人がその先生き逝く世界が明るく切り開かれた未来に繋がると、ただ信じているわ。

お読みいただきありがとうございます。

『恋愛が浸透していない世界で唯一生まれつき恋愛本能が備わっている公爵令嬢の悶え』が見どころになっていればいいなー、な作品です。

とりあえず一章(10話ほど)を投稿して伸びたら二章以降も投稿しようと思うので、気に入っていただけたらブックマーク・評価・感想をお願いします。


同時に別の百合作品『みのりあるでいず』も投稿するので、良ければそちらも読んでもらえると嬉しいです。作者マイページから探せます。

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