社畜 危機
階段で座って待機する
気を紛らわせるために二人と雑談をしていると足音がする
「足音」
『魔物か。近いのか?』
「いや、まだ少し遠い」
バレないように念の為に炎の範囲を狭め明かりを小さくする
会話をやめて静かに音を確認する
足音はゆっくりと近付いてきている
(戦うなら先手で叩く)
攻撃用の炎を構えておく
階段に入ってきたら炎を放つ
階段は狭い、炎を放てばほぼ回避は出来ない
(全力で打ち込む)
足音を聞きながら炎を構える
足音は階段の手前で止まる
階段は螺旋階段、下からでは蓮二の姿は見えない
「……止まった」
『見えるか?』
「いや、見えない」
蓮二も魔物の姿が見えない
足音は軽い、この足音の魔物は巨体では無い
『動かないなら……バレてるかもな。構えておけ』
「分かってる」
階段に優しい風が吹く
風が肌に触れる
「風?」
『魔物の攻撃だ!』
一鬼が叫ぶ
蓮二は反応が遅れた
見えない何かが蓮二の胴体を軽く切る
「ぐっ」
炎を放ってすぐに炎の壁を展開する
切られた部位から血が出る
『大丈夫か?』
「大丈夫だ。くっそ、反応に遅れた」
傷は浅い、出血も少ない
一鬼は風など見えない何かを操る異能だと考えていた
そのため蓮二は風と言った時点で即座に反応出来た
しかし、蓮二はその情報を聞いてはいたが確信が無かった為、反応が遅れてしまった
「階段は狭い」
炎の壁を解除して魔物目掛けて全力で炎を放つ
連続で放つ
階段手前で待たれると外に出られない
上には逃げ場は無い
倒せずとも退かす
炎が晴れる
魔物は居なくなっていた
(倒した? いや魔石がない)
すぐに地面を確認して魔石が無い事を確認する
防御出来るように炎を集めてから急いで階段を飛び出して階段から離れる
魔物からの攻撃は来ない
炎の範囲を広げて周辺を照らし周りを見渡す
「どこへ行った」
魔物の姿は見当たらない
「上か?」
上を見ると魔物が浮いていた
生物で例えると人に近い姿の魔物
(風なら出来なくはないな)
魔物は風による攻撃を放つ
炎を放って迎撃する
ぶつかり相殺される
どんどんと音と揺れが起きる
「これは……最悪だな」
暗がりの奥から巨体の魔物が現れた
二対一
蓮二は片腕を負傷している
そして相手は異能持ちと図体が大きく地面を叩き割る攻撃が出来る魔物
一人で凌ぐのは厳しい相手
「まじか、有り得るとは思っていたが実際に目の当たりにするとな」
『何があった』
「巨体の魔物と異能持ちの魔物の両方が現れた」
『二体か。確かに最悪だな……どうにか凌げるか?』
「流石に自信ないな」
(異能の撃ち合いで押し勝てるなら希望は持てたが相殺された事からしてそこまで差は無いな)
異能持ちの魔物を異能で押さえたとしても巨体の魔物は剣でどうにか出来る相手では無い
血も腕からの出血を考えると余り多くは使えない
(腕の傷と先程の傷で出血している。扱える血の残量は多くない。出し惜しまずに薬を使えば良かった)
どれだけ凌げるか分からない上、救助がいつ来るか分からない
「逃げ場は無い。異能は異能持ちの魔物に使って巨体の攻撃を回避して凌ぐ」
巨体の魔物が拳を振るう
横に飛び回避する
地面が揺れ地面がへこむ
「防御は無理、炎の防御も多少の時間稼ぎだな」
風の異能を扱う魔物が風の刃を放つ
炎を放って相殺して攻撃する
風を周囲に纏い炎を防ぎ切る
「便利な異能だな」
(炎を溜めれば行けるか……いや溜めれない)
炎を溜め始めるとその間使える炎が制限される
制限した炎で二体の強い魔物と渡り合う事は困難を極める
巨体の拳を避けて風の攻撃を炎で相殺する
剣に血を吸わせる
現状、決定打となり得るのはこの剣の能力
(どちらか片方でも倒せれば)
魔物の隙を伺い攻撃を凌ぐ
蓮二が戦い始めた後二人は知り合いの探索者に連絡をしていた
「ダメか」
「こっちも無理」
「まぁ仕方がない。急な話だしその上、等級不明のダンジョンだ。……誰でもいいから居ないのか」
「もう思いつく限りの実力者には……」
「関わってない強い配信者にDM飛ばすか?」
「あとはリスナーに呼びかけるとか?」
色々と試す
未だにダンジョンは修復されていない
関わっていない人間に突然救助申請しても受けて貰えるとは限らない
そもそも偶然付近に居なければ合流に時間がかかる
そして修復されてからも入ってから恐らく最下層にいる蓮二の元へは時間がかかる
その時間、今二体の魔物と戦っている蓮二が持つとは限らない
「他には何か……」
「鶏くんは探索者の知り合い居ないから……最悪私達だけでだが……勝てるかどうか」
強い魔物二体と戦うには力不足を感じてしまう
それも片方は異能持ち
異能の持たない魔物より強く厄介
連絡した中でまだ返信が帰ってきていない人の返信を待ちながら再びダンジョンに潜る準備をする
「少し飲み物買ってくる」
「分かった」
天音は自分の持つ道具を整理しているな
いつでも行けるように
一鬼は近くにある自動販売機に行く
(本当に手が無いな)
状況は絶望的
「恐らく鶏くんは何かしら負傷してるよな」
蓮二の性格上、無理をする傾向がある
なら傷を負っていても心配させないように隠している可能性がある
「万全なら何とか凌いでくれそうだが」
一鬼は蓮二の体力の多さを知っている
時間稼ぎに集中すれば暫くは時間を稼げる
ただ負傷しているとそうは行かない
(精神状態も気になるな)
精神が摩耗していると疲れやすく動きが鈍くなる
今の状況でそういった症状が出てしまったら致命的
「取り敢えず落ち着かないとな。何買うか。天音は……お茶でいいか」
小銭を入れようとするが落としてしまう
小銭は転がり近くにいた人の足元で止まる
「すみません」
その人物は小銭を拾い渡す
長髪の女性だった




