美味しいパンよりドレス
伯爵家なのに何もないと、入居三日目で義母たちが癇癪を起した。
「立派なのは外観だけじゃないの!無駄に部屋ばかりあるし、家具を売ろうにも動かないわ」
そりゃそうだ、置いてあるんじゃなくて生えてるんだから。
父もどうにか金にしようと運ぼうとしていた、馬鹿だなぁ。
あんたは10年はここに住んでるのに。
僕は皆が飢えない様に、たくさん食糧を調達しているのに何が不満なんだろう?
パン、桃、豆、レタスなど、これでスープを作れば十分だろう。
肉が喰いたいと言われたら困るけど。
キッチンに下りるとメイドが豆スープをコトコト煮ていた。
「ぼっちゃん、ここは使用人の場所ですよ?」
「上にいると疲れるんだ、邪魔しないから置いて」
メイドは肩を竦め作業に戻る。
暇つぶしに本を読んでいたら、ドンダンと乱暴に下りてくる足音がした。
連れ子のビビだ、キッチンをキョロキョロ物色している。
テーブルに桃をみつけるや鷲掴みしてかぶりついた。
「野性的だね」と声をかけたら
「ふん、アンタの分も食ってやる!」
意地汚い笑みを浮かべてカゴ一杯の桃を平らげて出て行った。
「まるで猿ですね……」
「猿はもっと可愛いと思うよ」
「なるほど、さすが坊ちゃんです。で、あいつらいつまで置いておくんですか?義理はないですよね」
それもそうだな……。
一応父だけなら置いてやるけど、母子のほうは他人だ。
***
食事の席で父が言った。
「なぁドリュアス、食料を買う金があるなら融通しろ」
「お金?父上のほうが持っているでしょう、王城にお勤めなんですよね?国の要となって働く父はボクの自慢です立派です。そうですよね?」
キラキラした目で父を褒めれば、困ったように口ごもった。
義母のヘレが父を睨む、(なんとかしろ)って手振りで訴えてる。
浅ましい。
「だがな……あの……そうだ!葬儀で金がかかったろう、それに新しい家族に日用品も必要なんだ!二人は貴族になったからなドレスも必要だぞ!」
だからなに?
ボクに関係ないじゃないか。
あ、やっぱり平民だったんですね。
「困りましたね、お渡ししたら食糧は買えなくなりますよ?」嘘だけど。
その返答に再び口を噤む父。しかし、義母は黙っていなかった。
「だったらお前の食い扶持を減らせばいいのよ!」
「は、どういうことですか?」
そのゲスい言葉に父が賛同するように卑しい笑みを浮かべた。
あーそうきますか?