プロローグ
あなたを護るためなの、許してーー。
病床の母はそう言って頭を撫でた、ふわりと温かい魔力が纏わりついた。
枯れ枝のような体を酷使して、最期の愛をボクに注いだ母は逝ってしまった。
質素な葬儀から僅か一月で父アントンは再婚した。
ギラギラと欲望に染まった目の下品な中年女ヘレと、父に似た娘ビビが家に入った。
母の部屋には入られない様に結界と幻惑魔法をかけて置いた。
父は勘違いしているが、この家は母とボクの物だ、バラノス伯爵家は誰にもあげない。あげられない。
ボク以外の目には物置が部屋だと思わせた、他人を家に入れるのだって嫌なのだ。
「母の部屋」こればかりは侵入を許せなかったんだ。
「前妻は冷遇されてたのね」後妻のヘレはそう言っていた、まんまと騙せたようだ。
遺品を漁ろうとしていたんだろう、悔し気に悪態を吐いている。
クズの父は少し戸惑っていた、以前から住んでたいたのだから矛盾が生じるのだろう。
「遺品がないのは父がギャンブルで困窮した時に売り払ったからです」
悲し気に訴えれば気まずそうになって追及してこなかった。
そうさ、母が亡くなる時は銅貨が僅かに残ってた程度だからね。
クズだろうがバカだろうが腹は減る、ほぼ収入がないのにパンは食えてた。
母の財産を食い潰したと思い込ませておく。
実際は違う方法で食糧は確保していたんだけど、教える義理はない。
最愛の母を失ったボクだけど、泣き伏せて病んでしまうことはなかった。
自分は冷たい人間なのかと己にガッカリしたけれど、別の理由があったせいだと知るのは後の話。