人攫いの魔族 17
だいたい、クレアがずっと隣にいたのに聞けるはずもない。
たしかに、教会の場所を知ることは重要だろう。実際、クレアだって、司祭様か聖女様を仲間に引き入れたいという話自体には前向きだったし。
しかし、今シュロスから提示されたような接頭語のついている人探しなど、おそらくは許容してはくれないだろう。
「なんだ、ルシオンは知らなかったのか?」
「なにをですか?」
シュロスは真面目な表情を作り、僕の肩を掴んだかと思えば。
「神様はな、綺麗なお姉さんとか、美少女が好きなんだよ。神話とかを紐解いてみても、戦乙女だとか、天使だとか、皆、美女美少女だろ? つまり、そういう娘のほうが、神様から受ける恩恵、加護も大きいんだよ」
つまり、聖女だとか、僧侶だとかとしての実力も高いと?
どうにも嘘くさくはあるけれど、事実、神話に出てくる天界の方々は、女性が多い。その中の一柱であらせられる、光の女神アレスティエル様を中心として信仰しているわけだけれど、宗教的には、唯一神としての信仰はしていない。
というより、僕は不信心者――まったく、信じていないということでもないのだけれど――なので、教義がどうとか、詳しくはない。
僕自身は、あまり、そういう神話は神話、つまり物語として、実際にあった出来事だなどとは、ほとんど信じてはいないけれど、聖女や僧侶、司祭などという人たちは、まさに、残された文献など、神様やらの存在を信仰している人たちだ。
「それに、実際、僧侶に治癒してもらうより、聖女様に治癒してもらったほうが効能は高いという結果も出ているんだぜ」
「本当ですか?」
そんな文献は読んだこともないし、学院で習ったこともない。
もちろん、僕だって、産まれてから今まで教会や神殿なんかのお世話になったことが全くないとは言わない。
そんなに数が多いわけではないので、比較できるようなことはなく、その点ではシュロスの経験に劣るかもしれないけれど、それは単にシュロスの願望というか、思い込みの力であるような気がする。
いわくところの、むさ苦しいおっさんに見てもらうより、綺麗なお姉さんに見てもらったほうが効き目があるように感じると言っていた、あれだ。
まあ、病は気からとも言うし、あながち、患者側の思い込みの力、つまりこの場合はシュロスの想いの力というのは、案外、馬鹿にできるものでもないかもしれないけれど。
それに、僕自身には、そこまでこだわりはない。おこがましい話ではあるけれど、能力が高いのであれば、大人でも、子供でも、男性でも、女性でも、誰でもいいとすら考えている。
まあ、前にもシュロスやクレアには話したことがあったと思ったけれど、パーティーのバランスというか、男女の比率のことを考えれば、クレアに寄り添える女性がいてくれるほうが、この先、良いような気はするけれども。
僕はちらりとクレアを見やる。
「わかりました。シュロスは志を共にしてくれる、大切なパーティーの仲間ですし、私としても、実力が高ければ、男性の信徒だろうと、女性の司祭だろうと、構いません。それでシュロスのやる気が出て、魔王を討伐する気力が余計に湧くというのであれば、綺麗な聖女を探しましょう」
「おっ、さすがは姫さん。物分かりが――」
あまりに急な変化だと思ったとおり。
「探している間に幾人もの聖職者の方と出会いがあるかもしれませんし、時間がかかり、魔王の侵略がより進められ、多くの人が苦しむことになり、近隣国からも、アステーリオが魔王を早くに討伐しないからだと、不必要な誹りを受けることになるかもしれませんが、きっと、何年かかったとしても綺麗な女性の聖職者を探して、各地を回ることにしましょう」
やばい。かなり不機嫌だ。
理由は皆目見当もつかない――いや、一端はわかっているけれど、そこまでクレアが女性ではなく、男性の聖職者にこだわる理由の話だ――けれど、クレアが機嫌を直してくれないと、この先の旅路がかなり具合の悪いことになることだけは、僕にもわかる。
「クレアはどうして僧侶か聖人のほうが良いと考えているんですか?」
城から近かったとか、学院での成績から判断したとか、基本的には合理的に判断する人だ。
男性でも、女性でも、実力が高ければ、それでいいと思うのだけれど。
「おい、ルシオン。いつまでもこれだと、多分、一生、俺たちの仲間に聖職者が加わらねえぞ。おまえだって、女の子のほうが良いと思ってるだろ?」
それはそうだけれど、シュロスのニュアンスと一緒にしないでほしい。
いや、そりゃあ、僕だって男だし、可愛い女の子とか、綺麗なお姉さんと旅をしたいという願望がないわけではないけれど、クレアだって、十分過ぎるほど、可愛い女の子だと思う。
ただ、僕が女性のほうが良いと言っている理由は、単に、僕たちのパーティーの男女比の問題で、リスク回避の話に基づくものだ。
いざというとき、男性同士、女性同士で行動できたほうが、便利な場合もある。
「クレアが心配しているのは、シュロスがナンパなんかをして、その子と問題を起こすことではないのですか? パーティーが分裂というか、喧嘩別れ、それも痴情のもつれからだなんて、笑い話にもなりませんよ」
シュロスの、戦闘面以外でのクレアからの信頼が、まあ、あの初対面時のこともあったわけで、僕もまだ警戒している部分もあるけれども、釣り合っていないということなのだろう。
「まあ、シュロスの理由はともかくとして、僕も女性をパーティーに加える方向には賛成ですから、説得もしてみます。ただし、シュロスが話に加わるとクレアは頑として譲らないでしょうから、話に決着がつくまで、入ってこないでくださいね」
「もちろん。馬に蹴られる趣味はねえよ」
なにを言っているのだろう、シュロスは。
僕たちの移動は、もっぱら徒歩で、馬車を使うことなんてほとんどあることではないと思う。
「クレア。すこし、真面目に話をさせては貰えませんか?」
クレアは、多分、僕がなにを話しに来たのか察していただろうけれど、ジトっとした目を向けてくるだけで、取り付く島もないほどに否定してきたりはしなかった。
むしろ。
「わかっています、ルシオン。シュロスはともかく、ルシオンが私のことを心配してくれているのだということも。そもそも、実力があれば、多少のことには目を瞑るとも言いましたし」
後ろから、俺はともかく? と聞こえたような気がしたけれど、空耳として無視しておく。
なんだか、シュロスを蔑ろにすることが多い気もするけれど、クレアとシュロス、どちらを優先させるかと聞かれたら、僕の中では断然、クレアに決まっている。それにシュロスにも、僕とクレア、どちらを優先するかと聞けば、クレアだと答えるだろうし。というより、そうしてくれないと困る。
「ただ、その、ルシオンが、綺麗な人に目移りばかりしていて、本来の目的を忘れたり、疎かになったりすると困ると思っているだけです。こういう、パーティーの解散理由の多くは異性問題みたいですし」
知らないうちに、とんだ心配をされていたようだ。
というか、綺麗な人って。
「クレア以上に綺麗な人など、滅多にいるものでもありませんから、そんな心配は無用だと思います」
少なくとも僕が今まで直接会って話した女性の中では、クレアが一番美人だ。
魔法に対する知識もあるし、勉強だってできる、その上、王女として、さまざまな稽古事にも精通しているという。
綺麗だとか、容姿はもちろんだけれど、内面も努力して磨いているクレアは、とても素敵な女性だと思う。相対的に変わるものではない。




