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精霊の島 13

 貫かれた結果、破壊光線は未遂に終わる。

 僕たちの魔法だって、途中で邪魔をされれば魔力の無駄に終わることもある(もちろん、そうでない場合もある)し、魔法自体の性質は使用者によって変わることはない。たとえそれが、魔物や魔族であったとしても。

 それは神獣にも当てはまった。

 攻撃を途中で打ち消されたノームは、中途半端に開いたままの口の中から煙を立ち昇らせていて、なかなか次の行動に移ろうとはしていない。

 これは、倒したか?

 当たり前だけれど、魔族とは違い、魔物は死んでも消えてなくなったりはしない。

 ただし、動きを見ていれば、どの程度損耗させられたのかなどの判断はできる。

 やがて、ふらついたかと思えば、ノームがそのまま地面に倒れ込む。

 倒しただろうけれど、まだ安心はできない。

 

「ふぅ……」


 しばらくそのまま放置して、再び立ち上がってくる気配を見せないだとか、魔力の溜まる、つまり、攻撃をしてくる意思はなさそうだとか、害にはならなさそうだということを確認し終えて、ようやく、僕たちは小さくため息を零した。


「試練の決算とはいえ、強すぎましたね……」


 僕たちの実力を評価してくれたのは嬉しかったけれど。

 とはいえ、最初に来ていたリクリスなんて、下手をすれば殺されていてもおかしくはなかった。

 師を信じてはいるけれど、神獣を相手に、どれほどの時間なのかはわからないとはいえ、たった一人で交戦していたなど、尊敬を通り越して喝采など贈りたいところだ。

 もちろん、リクリスはそんなことで泣き言や恨みなどを吐き出すような性格ではない。


「ですが、これから先、私たちは魔王とも戦わなくてはならないのです。どれほどの強敵と戦っていたとしても、困ることはありません。もちろん、生き残ることができたのなら、という話ではありますが」


 頼もし過ぎるというか、むしろここまで来ると、格好良さすらある。

 リクリスが嘘をつくことはないとわかっているので、僕たちは知らずのうちに拍手をしていた。


「ところで、他の三人はどうしているのでしょうか? もしかして、まだ試練から戻ってこられてはいないということでしょうか?」


 僕たちの元まで降りてきたラックたちに、エストが尋ねる。

 クレアたち三人も、僕たちと試練の内容的には、それほど変わることはないだろう。だとすれば、多少の時間のズレはあってもおかしくはないけれど、さすがにもう終えていなければおかしい。

 まさか、合格できなかったということはないだろうし、なにか不測の事態が?

 しかし、いいや、とラックは首を横に振り。

 

「クレア、シュロス、ダンバルの三名は別の場所で、別の試練を受けている。おまえたちは六人で行動を共にしているようだが、それほど多くの人数がいても修行にはならないからな」


 その言葉に、とりあえずの安堵は覚える。

 クレアたちも無事に試練を越えたということか。いや、あれは、試練の前の試験といった感じだけれど。

 それはそれとして、神獣と戦うというのは、修行だったのか。というか、ラックたちにとって、ノームと戦うのに六人という人数は多すぎるという判断なのか。もうなんていうか、驚き過ぎて逆に落ち着く。

 いや、それもそうだけれど、ノームと戦うことに匹敵するような試練が他にもいくらもあると?

 もしかして。


「それは、他の神獣である、イフリートやウンディーネ、シルフと戦っているということですか?」


 シルフはシェマさんと契約を交わしているようだけれど、常時、シェマさんの傍に侍っているとか、そのようなことはない。必要な時にお願いして力を貸してもらうという関係だ。

 ならば、普段シルフがどこでなにをしていてもおかしくはない、はず。

 今度はラックは頷いて。 


「そうだ。この島の反対側でウンディーネとの試練を受けているはずだ」


 ウンディーネ。水の神獣。

 ノームやシルフと同じように、水でできているような、流れる姿を持っている、らしい。もちろん、これも直接見たことはない。ただ、シルフやノームを見た後でなら、いくらか想像はできないこともない。きっと、イフリートも同じように、燃え盛る身体を持っているのだろう。

 それにしても、たまたま、同じ時に、同じ場所に、神獣が二体もいるとは。

 それとも、精霊には、あるいはこの土地には、神獣や、他の魔物でも呼び寄せるなにかがあるのだろうか。

 

「それは、見に行くだけであれば、僕たちも構いませんか?」


 参戦しては試練の意義が薄れるということで、協力はできないけれど、魔法師として、というか、この世界に生きる一人として、好奇心が刺激されずにはいられない。

 とはいえ、ノームとの全力戦闘をしていた直後で、さらに別に神獣とやり合うような魔力や体力は残っていないけれど。

 もし、ウンディーネに知覚されないというのであれば、ひと目くらいは見てみたいところではある。


「かまわないけれど、戦う力は残っているのかしら? 巻き込まれたりしたら大変じゃない? たしかにこれは私たちが試練と言ってはいるけれど、結局、神獣を相手に戦っているということに過ぎないのよ? あなたたち、ノームとの戦闘でかなり消耗しているでしょう。戦闘に巻き込まれたとき、対処できるの?」


 エベリナが、これは、心配してくれているのだろうか? それとも、ただ、事実を告げられているだけ?

 今、ノームの破壊光線と同等の攻撃に晒されて防ぎきることができるかと言われると、たしかに、確実にとは言い切れない。 

 そして、これはクレアたちの試練でもあるわけだから、たとえ巻き込まれたからとはいえ、ラックやエベリナたちが助けてくれるとは思えない。


「止めておいたほうが良いでしょう、ルシオン」


 リクリスにも止められる。


「試練というのであれば、それはあの三人が自らの力で乗り越えなくては意味がありません。そして、もし、あなたが見にいった場合、そして、その場でクレアが危機的状況に陥った場合、あなたには手を出さずにいられる自信はありますか?」


 ない。というより、クレアが危機に陥っていたとしたら、反射的に助けに入ってしまうことだろう。 

 そして、それではクレアたちの試練にならない。

 ならば、そもそも、見に行かずにいるべきだ。

 エストが僕の手を握って。


「ルシオンさん。クレア様たちを信じて待ちましょう」


「そうですね。僕たちは仲間ですからね」


 あの三人なら、たとえ、水場を得意とする、というより、そもそも、水の神獣であるウンディーネであっても、勝利を収められる。

 ノームだって土の神獣という意味では、僕たちも相手の領域で戦ったようなものだし。

 

「それじゃあ、レイシア様のところへ戻りましょう。他の皆が食事とかを用意してくれているはずよ。あなたたちが試練を終えて戻ってきたときのために」


 わずかに弾んでいるような声でエベリナに促される。

 たしかにこの島ならば、魚や獣や果実はいくらでも取れそうだけれど。

 

「あの、精霊の皆さんも食事などされるのですか?」


 なんとなく、そういうイメージがない。

 

「ああ、食事をすること自体はできるぞ。ただ、エネルギーの摂取という意味では、魔力素自体がエネルギー源にもなり得るので、普段から積極的にとろうという精霊は、それほどいるわけではないがな」


 魔力素自体って、つまり、ただ呼吸しているだけでということだろうか。

 そもそも、精霊にも呼吸は必要なのか? もしかして、魔力素があれば、水の中や火の中でも生きていられるのでは?


「嫌よ。なんでわざわざ、火の中や水の中で生きていなきゃならないのよ。そういうところが好きな精霊もいるかもしれないけれど、私は好きじゃないわ」


 エベリナが憮然とした表情を浮かべる。

 好みの問題なのか。

 

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