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勇者一行 6

 僕も風を起こして霧を吹き飛ばしてしまおうかと思ったりもしたけれど、その必要はないのかもしれない。

 四大元素と呼ばれる、火(あるいは炎)、水、風、土には、それぞれ、それらを司る生物(と言っていいのかどうかは微妙なところだけれど)の頂点がいる。それが、僕たちが神獣と呼んでいるものであり、その中で今、シェマが呼んだ生物の名前こそ、風の神獣であるシルフ(あるいはシルフィン、シルフィードと呼ばれることもある)だろう。

 神獣の名前を他の生物の名前に付けるなど恐れ多いことはできないだろうから。

 もっとも、それをいったら、そもそも、神獣を召喚できる術師というのが相当な常識外なのだけれど。神獣に限った話ではないけれど、召喚するためには、その相手に自分のことを認めさせる必要があり、自然にというか、存在している対象(獣や魔物、あるいは精霊などになったとしても)の認める基準というのは、大抵が強さだからだ。

 強さ以外で契約するとなると、よほどの親和性か、特殊な才能でもなければ不可能だと思うけれど、シェマがその力の持ち主だということになる。

 

「これが風の神獣、シルフですか。初めて見ました」


 こうして、目の前にいる以上、信じないわけにもゆかないのだから。

 もちろん、心強いことはこの上ないけれど、少し、いや、かなり、驚きなんかの感情のほうが勝っているというか。


「可愛いですよね。それとも、綺麗と言ったほうが良いかもしれませんけれど」


 シェマは同意、あるいは共感を求めてきたようだったけれど、僕としてはそれどころではなかった。

 長く伸びた緑の髪は、精霊の趣味なのかどうかは知らないけれど、ツーサイドアップにまとめられていて、頭には花の冠を被っている。

 やや薄い緑を基調としたワンピースドレスを身に纏い、まるで人間の女性のようにも見えるけれど、背中に見える透き通るような四枚の羽が人間ではないことを証明しているかのようだった。

 もろもろ抜きにして考えたら、確かに綺麗、もしくは美しいと言える外見かもしれないけれど、その内包している力は桁違いだ。

 周囲に光の粒子を纏ったシルフは、シェマの願いに応えるかのように、右手をかざす。

 精霊というのは、魔力の塊でもある。もちろん、僕たち人の視点でのことで、それだって個々人での勝手な認識ではある。

 シルフが手をかざしただけで、そこには空気の渦が発生し、瞬く間に霧を消し飛ばした。

 しかし。


「皆さん、いらっしゃいませんね」


 シェマは周囲を見回し、溜息をひとつ漏らす。

 やはり、霧が発生していた間に、どこか別の場所へと向かったらしい。あるいは、魔族に引き連れられるような形で戦場を移動したか、もしくは、僕たちのほうが移動させられたのか、近くに他の、クレアたちの姿は見えない。

 探知魔法によれば、僕たち自身は移動していないので、これが誤魔化されていないのであれば、移動させられたのは他の皆ということになる。

 もしくは、幻術か。


「皆、そう簡単にやられるようなことはないでしょうが、早いところ探し出して合流しましょう」


 これもどうせ、魔族のなんらかの魔法によるものなのだから、その魔族の居場所を突き止めて、倒すことができたのなら、解決するといえる。

 もちろん、魔族が複数、それも異なる場所に散らばって現れているのなら、僕たちも分かれたままでいたほうが都合がいい場合もあるだろう。


「どうやって探したらいいのか、当てはあるんですか?」


「ええっと、当てがあるというより、どうせ向こうから当たってくるだろうと言いますか」


 シェマは不思議そうだけれど、僕には確信めいたものがある。

 相手が僕たちを分断するために霧を発生させたのは、そちらのほうが都合がいいからに決まっている。

 なんの都合がいいのかと言えばもちろん、仲間とはぐれている相手のほうが倒しやすいというのと、あとは単純に人数が少ないほうがやりやすいという考えからだ。

 シルフが風により霧を拡散してくれているため、自分たちの位置の確認だけでなく、仲間や、その他への探知魔法も機能させることができる。

 突然、風の障壁が僕とシェマを包み込む。それを疑問に思うよりも、また、僕が知覚するよりも早く、なにかが障壁にぶつかってきたらしく、弾かれるような音とともに、僕の正面やや左前の風がわずかに乱れる。


「シルフ、ありがとう」


 さすがはというか、神獣の知覚能力――通常でも、獣や魔物の感覚は僕たちのそれより遥かに優れているわけだし――とくに、召喚され、主のサポートを受けている状態では、さらにその能力が鋭くなっているようだ。

 シェマがお礼を告げると、シルフは頷くようにわずかに頭を上下させて、風の障壁を解除する。そして同時にその姿が風に溶けるようにして掻き消えた。


「すみません。私の魔力では、今はこれが限界です。少し休めば回復すると思いますけれど」


「なにを言っているんですか、シェマさん。とても助かりました」


 申し訳なさそうにするシェマに、お礼を告げる。

 シェマが召喚することのできるものはシルフだけではないということだし、今助けてくれたことだけでもありがたい。

 

「さて、それであなたの用事はなんでしょうか?」


 霧が消えたことは、探知魔法にも恩恵を与える。

 


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