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人攫いの魔族 8

 ◇ ◇ ◇



 彼らの言っていたことを信じるのだとすると、彼らは確かに村から子供を攫ったのだろうけれど、おそらくはすでにその子たちは生きてはいないだろう。

 彼らが攫った人たちを、豚や鳥のように――食料だと考えていたのなら、村に行けばいくらでもいるように見える人間を保存食にしてまでとっておこうなどと思うはずがないからだ。

 まあ、魔族の言っていたことをどこまでまともに受け取るのかというところでもあるのだけれども。

 

「一応、彼らの根城も探してみましょう」


 人が生きているかどうかということ以外にも、相手の生活様式の一端を知ることができるかもしれないのであれば、調べに踏み込む価値はある。

 なにも得ることはできないという可能性は高いだろうけれど、現状の僕たちの魔族に対する理解度を考えれば、どんな些細なことであってもプラスになろうというものだ。

 クレアの提案に、一応は頷き。


「それはわかりました。ですが、クレアは外でシュロスと待っていてください。もしくは、村まで戻って、いるかもしれない伏兵に備えていてくれても構いませんが」


 一応、この周辺の探知は僕とクレアで分担して、魔族の反応はないことは調べ終わっているけれど、そういう探知を掻い潜る能力を持った魔族がいないとも限らない。 

 だから、万が一の備えとして、クレアには村を守るために残っていてもらおうと思ったのだけれど。


「ルシオン。余計な気遣いは無用です。それも本音の一部ではあるのでしょうけれど、実際には、危険があるかもしれない場所へ私を踏み入れさせないためにわざと遠ざけようとしていますよね?」


 クレアにはお見通しだったらしい。

 

「そのようなことはありません。ただ、あの村は最近襲われた……被害に遭ったばかりですから、姫様が顔を見せられていたほうが安心されるのではないかと」


 一応、それなら僕が残っていても同じでは? と反論されることも考慮したのだけれど。


「私のことはクレアと呼ぶように言ったはずです。これは魔王軍に対して、私がどこにいるのか誤魔化すためでもあるんですよ? 決して、私の個人的な願望や好みだけでそう言っているわけではないのです」


 それが一番重要なのだと言わんばかりに、真っ先に訂正されて。

 一応、個人的な願望や好みでもあるのか、などという茶々を入れると、十倍くらいになって言い返されそうだったので、こんなところでお説教は勘弁願いたいと、僕は黙って首を縦に振ることにした。

 この姫様……じゃなかった、クレアは、一般人の小市民が自国の姫を敬称も付けずに呼ぶことへのハードルをまったく理解していないよな。


「わかりました。それなら、別の呼び方も考えましょう。たとえば愛称で……クーちゃんというのはどうでしょうか?」


 本気で言っているのか? 

 判断しかね、さらにそんなことを本当にしてもいいのかと、僕がフリーズしていると。


「……あの、なにか言ってくれませんか?」


「……なにか言ったほうがいいですか?」


 クレアは顔を真っ赤にして手で覆い、僕に背中を向ける。

 舌の根も乾かないうちに恥ずかしがるのなら、最初から口にしなければいいのに。なにがしたかったんだろう。

 クレアって本当はアホなのでは? と思いそうになる。学院での成績は良いみたいな話だけれど。

 

「そういう夫婦漫才は二人きりのときにしてくれねえ? それともやっぱり俺邪魔?」


「いえ、シュロスがいてくれて助かっています」


 若干、呆れの入った台詞と顔でシュロスが横やりを入れてくれなければ、しばらく動くこともできなかっただろう。

 第三者の存在というのは、本当にありがたい。

 そもそも夫婦漫才ではありません、というクレア(と僕)の主張はあっさりとスルーされ。


「……とにかく、私も中まで調べに入りますから」


 まあ、僕たちは三人組だからな。

 入り口に人を残しておいて、挟撃とか、押し込みで襲われる可能性を小さくするという考えは、実際の攻略組の人数が足りていてこそ言える話だ。

 それに、現状、反応はないとはいえ、中で気配を消して潜んでいる敵がいた場合、一人では対処できず、それこそ、命を落とすような事態にも、最悪、なりかねない。

 まだまだ僕たちは知識も、力も、技術も、なにひとつ足りているものはなく、三人合わせても一人前になるかどうかというところなのだから。

 

「……やはり、人の気配はしませんね」


 シュロスが先頭を進み、クレアを真ん中に挟む格好で、最後尾を僕が警戒しながら進む。根城――洞窟内は日の届かない暗い場所であるため、もちろん、僕たちは自前で《光を灯す魔法》により、視界を照らしている。洞窟の壁にいくらか埋まっている鉱石の光だけでは心もとない。

 周囲を見回しながらクレアが呟くとおり、目視でも、探査魔法でも、人の気配は察知できなかった。


「それほど広い場所ということでもなさそうですが」


 声の反響や、村の人たちにこの場所が知られていなかった関係上、それほど大きなものとも思えない。

 仮に、それなりに巨大な洞窟のようになっている場所ならば、これだけ村から近いところだ、魔族が現れるようになる前からあった場所だろうし、おそらく、魔族が現れ、住み着くようになってから、彼らの手によって造られたものなのだろう。保管所といった感じか。


「どなたか、私の声の聞こえる人はいますか。神聖アステーリオ王国第一王女、クレア・フェルティローザです」


 クレアの澄んだ声が洞窟内に反響する。

 どこまで届いたのかはわからないけれど、出てきたのはネズミと蝙蝠くらいのもので、それ以外の魔物や獣、魔族は姿を見せない。もちろん、人間も。

 再度クレアが呼びかけてみても、やはり、結果は変わらなかった。


「すくなくとも、近くには誰もいないみたいですね」


 もちろん、捕らえられている人がいないというのであれば、それは一番のことなのだけれど。


「念のため、最奥まで探索してみましょう」


 トレジャーハンターなんかは、こういう洞窟からお宝を発見して持ち帰るというけれど、残念ながら、僕たちは金貨の山も、伝説の武器もみつけられたりはしなかった。手に入ったものといえば、せいぜい、一塊か二塊の鉱物くらいのもの――それから、現れた魔物の核などの素材品程度――で、それだって、市場で大した価格で取引されているものではなかった。 

 

「おい、ちょっと来てみろよ」


 探索し、いくつ目かの坑道に入ったところで、シュロスに呼ばれて見てみれば。


「なんでこんなところに服があるんだ? 誰か住んでんのか?」


 近くには焚火の跡のようなものもあり、無残に引き裂かれた布切れの燃えカスが残されていた。

 すべての魔族に衣服を着る習慣があるのかどうかはわからない。ただ、自分で着ることを選んでいる衣服を燃やしたりはしないだろう。見たところ、薪に困っていた風でもないし。

 しかし、おそらくではあったけれど、僕とクレアは真相に辿り着いていた。


「……おそらく、攫われた子供たちの誰かの衣服の燃え残りではないかと。魔族は人を食べるみたい――人を食べる魔族もいるようですし、衣服は食べてもおいしくないということで、その際には剥ぎ取るらしいですから」


 それで、剥ぎ取った衣服は火にくべて、火種の足しにしたのだろう。

 骨まで綺麗に食べる種族なのか、それともそういうものを好んで食していたものがいたのかはわからないけれど、文字どおり、骨すら残っていなかったけれど、そういうことが行われたのだということは、場所の雰囲気から察せられた。

 シュロスが舌打ちを漏らし、クレアは拳を握る指に力を入れていた。


「まあ、俺たちだって、鳥や魚を食べるから文句は言えねえけどよ……」


 シュロスが吐き捨てるように口にする。

 それでも、同じ人がこういう目に遭ったということに憤りを感じないわけではない。

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