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喪失者  作者: 圧倒的サザンの不足
喪失の章
45/58

はじめてのおつかい(護衛依頼)

 先程から欠伸が収まらず、頻繁に次なる眠気が襲いかかってくる。神様に続いて、龍であるレイカまで体内に棲うようになり、私の意識がとんでもなく騒がしいものになってしまっていた。

(少年ー!ボクもいーきーたーいー!)

(ご主人様、僕に乗って集合場所に向かうよね?ね?)

 駄々をこねる神様に、何度も不確定事項の期待に胸をふくらませるレイカ、何度も耳を塞ぎたくなる程の二人の声にやかましさを覚え、わざとらしく手で仰ぎながらの大欠伸を彼らに聞かせた。

「どうしたの?やっぱまだ眠いのかしら」

 さすがにやりすぎてしまったのか、二人が静まるよりもグローリアに心配されてしまった。清潔な絨毯が敷かれた階段を下って一階へと降りるところで、リビングの方から香ばしい香りが立ち込めていた。彼女は私の心配と、この匂いの元を辿りたいとの食欲とで葛藤を始める。二人の腹の音が同時になってしまったところでそんなことはどうでも良くなり、互いに顔を見合わせて赤い階段を駆け下りた。

「あっ、ラクイラ様、グローリア様、おはようございます」

 鼻腔をくすぐる香りに胸を躍らせ、リビングに姿を見せると、エプロン姿で髪束を解いている最中のナズナがそのまま静止したまま私たちを見て微笑みながら朝の挨拶を交わした。髪型一つ違うだけでこうも違って見えるのかと、グローリアと共に頬を赤く染めて彼女から目を逸らしてしまった。

「お…おはよう…」

「きょ…今日も綺麗ね!」

 グローリアが新婚夫婦のように彼女の美貌を飾らない言葉で褒め称えると、サラリと解けたところで顔を赤く染めあげ、ヘアゴムを持った手でその美貌を覆ってしまった。

「きょ…今日もだなんて…た…大変恐縮です…」

 顔から湯気が出てしまいそうな程に耳まで赤く染める彼女にグローリアは興が乗ってしまったようで、畳み掛けるように、そして素直に、褒めちぎり出した。

「さっきの髪型も可愛かったわ!写真に撮って飾りたいくらいにね!そのエプロンも似合ってるわよ!あんたの夫になる人は毎日その姿が見れるんでしょうから幸せものね!」

「も…もう…やめてください…恥ずかしさのあまり死んでしまいます…!」

 ナズナは顔を隠したまま熱を冷まそうと首を横にブンブンと振る。楽しんでいる彼女らを尻目に、窓からの光が照らす丸テーブルへと目を向けると、彼女が作ったであろう、決して失敗はしていないものの、所々に孤軍奮闘したかのような跡が見られるオムライスが人数分置かれている。そして等間隔に七つ並べられた椅子には、アリスとリオンが隣合って座って退屈そうに待っていた。

「あっパパ!おそよー!」

「パパ、オソヨー」

 ナズナとグローリアとのやり取りを見ていた彼女らとが合い、アリスに続いてリオンが朝の挨拶とは取れない挨拶をする。

「私が起きるまで待ってたってことね…おそよう」

 彼女らと向き合う位置にある椅子に座ると同時に神様とレイカが私の体の中から飛び出してきた。

「おお、なにこれ、なんか黄色い」

「これアリスちゃんが作ったの?」

 ほぼ全てが同じ大きさに作られたそれにレイカは指で軽く突いては味を確かめる。神様は端が歪に作られた卵を手でちぎってつまみ食いをしていた。

「ううん、ナズナお姉さんが人数分作ってくれたんだって!」

「ラ…ラクイラ様の初任務の成功を願って…手料理をと…」

「へぇ…!」

 グローリアとナズナも椅子に座り、待ちきれんばかりに一斉に手を合わせ、皿の横に置かれていたスプーンに手を伸ばしてオムライスを一口大に切るように差し込んですくい上げて頬張った。

 決してプロの料理人が作るような半熟なものでもなければ、飲食店で出されるような綺麗な形のものでもない。中のチキンライスも具が均一にあるわけでもなければ、味付けが丁度いい訳でもない。それでも、また食べたくなるような、何度食べても飽きが来ないような、そんな味だった。この料理に対して「ありがとう」はおかしいだろう。であるならば、彼女に気持ちを伝える言葉はこれしかない。

「美味しいよ、ナズナ」

「あ…ありがとうございます…!」

 食欲旺盛なグローリアとリオン達は颯爽と完食し、満足気に腹太鼓を叩く。おかわりが無いかとせびることも無く、米粒をひとつも残すことも無く、グラスに注がれた水を一口飲んでいた。

「ナズナ!今度私に料理教えて!ラクイラに食べさせてやりたいから!」

「え、えぇ!?私よりも…我社の調理担当に教わった方が…」

「ナズナがいいの!」

「そ…そこまで仰るのでしたら…いつでも…」

「ならラクイラが依頼に行ってる間!帰ってきたら私の料理で出迎えてあげるんだから!」

 ニコニコと皿の上を平らげる神様に見守られながら、ナズナとグローリアに挟まれ、二人の幸せに両側から押しつぶされる。全員が完食し、皿が片付けられたところで、例の依頼書を見返した。

「あ…ナズナ」

「はい、なんでしょう?」

 彼女が私の横に並び、手に持っている紙を覗き込む。私は問題となっている箇所を指し、彼女の前へと持っていった。

「ここ…天へ登る聖堂の森ってどこにあるんだ…?」

「それでしたら既に調べてあります。ここです」

 彼女はエプロンのポケットからこの国の地図を取り出す。紙の上には現在地と目的地の印がつけられていた。

「ここがこの屋敷がある場所で、これがその森のある場所となっています」

 印と印との間は片手の指二本で届く距離、しかしその縮尺が分からないことに加え、国を横断するような位置関係にあった。

「……今から行っても間に合わなくない?」

 いくら私が自信に物質速度変化の能力を使用したところで、残り五時間でこの国を横断するのは確実に不可能、かつて使った風と雷の力もまだまだ精度は低く、安定しないため、彼女の野望が潰えてしまったのかと気落ちしてしまった。

「ご主人様、僕のこと、忘れてない?」

 ナズナと何とか間に合わせられないかと思案している中、背後から聞こえた少年の声に希望が宿った。

「そうかレイカなら…!間に合うかもしれない!神様!着いてくるんでしょ、今から行きますよ!」

 彼の手を引っ張り、玄関を経由して外に出る。神様は満腹状態で動きを鈍らせ、ゆっくりとした動きで外に出てきた。

「それじゃレイカ、また頼むよ」

「うん、任せて」

 私の目を見て頷き、空高く飛び上がる。少年だった彼の姿は瞬く間に翡翠色の鱗で全身を覆った、大翼を持つ龍へと変貌した。見送りに来ていたナズナが感心に目を輝かせ、神様と共に子供のようにはしゃいでいた。

「それじゃナズナ、行ってくるよ」

「はい、グローリア様の料理と一緒に、お待ちしております!」

 神様も一緒にレイカの背に飛び乗り、万が一に備えて現身鏡も忘れずに携え、そして、初めての依頼へ、彼女の野望の第一歩へと飛び立った。

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