世界図書館
「過去」を見ていた。意識を取り戻し、長く座っていた椅子の上で背中を伸ばす。「夢」というものは記憶の整理とも言うのであながち間違いではない。私は「過去」を見ていた。とても幸せだった過去を。
今はこの華無き図書館で独り静かにページをめくっては文字の羅列を読み続ける。この図書館には世界中の作品や文献、手紙までもがどこからか集められてくる。日々増え続ける紙の束を読み終えることは、一生かかっても不可能のようだった。
天高くそびえ、地下深くに根を張る世界図書館…人も滅多に来ないこの図書館には、かつて何者でもない司書がいた。私は…その司書の奴隷だった。
閉じていた目を開き、「未来」を見る。人間と魔族との戦争はもう見飽きているため、瞬きをしてチャンネルを切り替える。人間同士の争いも見飽きた。また瞬きをして場面を切り替える。切り替えたところで目を見開いた。
「…お客さん…ですか」
四人の人間がこの世界図書館へとやってくる…いや、一人は神、もう一人は異種族だった。神という存在に期待を乗せて再びチャンネルを切り替える。
私の見たい未来が未だに見えてこない。あの方と、かつての生活を取り戻している未来が…
未来を見ていると、夢中になりすぎて呼吸を忘れる。チャンネルにノイズが走り出したところで目を閉じ、呼吸を再開する。そして「現在」を見る。手元には無名な作家の著作物が半分以上ページがめくられた状態で開かれている。どうにもその先を読むには胸が締め付けられるように痛くなるからだ。
「おや…可愛らしいお客さんですね」
膝の上に野良の愛玩動物が飛び乗ったからか、体重と熱とが伝わってくる。本に栞を挟み、どこからか迷い込んできた猫を膝の上でゆっくりと撫でる。あの方にやられた時のように、ゆっくりと、手の力を抜いて…
どうやら心地が良かったようで、白い毛をした猫はゴロゴロと喉を鳴らしながらその場で丸くなった。私は彼が安眠できるまで優しく撫で続けた。
「いつか必ず…私が生き返らせてあげますから…ご主人様…」
何度も呼んでいたはずなのに、もう懐かしさすら感じるその単語に胸の中が温かくなるも、締め付けられる。
私の膝の上で丸くなっている白い猫は、呑気に眠っていた。
もう、本を読み耽るのは飽きてしまった。