第五十一話 黄金の鍵
朝日は昇り、薄暗かった町を光が満たしていく。
啓と奏はホイップを見つけて、家に帰る途中、コンビニに寄っていた。啓はホイップを抱いたまま、買い物をしている奏を待っていた。
「よしよし、いいこだねぇ。もうちょっとで帰れるからねー」
「にゃ」
啓はホイップの頭を撫でる。その時、ホイップの首輪になにかぶら下がっていることに気が付いた。
「なんだろこれ?」
「お待たせ。ほれ、抹茶アイス……」
奏が店から出てきて啓にアイスを渡そうとする。
「あー、兄ちゃんこれから朝ご飯なのにアイスなんて買って……」
「いらないなら俺が食べるけど?」
「帰ってから食べるもん、早く帰ろ」
涼しいからと朝早くに出てきて、これから朝食を作ろうというのにアイスクリームを買ってくる兄に呆れていた。
ただ、せっかくの好物を目の前にして食べられてしまうのはいくら啓でも許せなかった。
アイスが溶ける前に早く帰ろうと啓は速足で歩き始める。
「ん?その鍵、金色だし、豪華だし、何の鍵だ?」
奏もホイップの首にぶら下がった鍵を手に取る。それは金色に輝く鍵だった。
「こんな鍵、ソルテのお屋敷とかじゃないと使わなさそう……」
「やべっ、取れた」
奏が鍵を見ようとして引っ張ったら首輪から取れてしまった。ぶら下げているチェーンの部分が簡単にちぎれてしまったのだ。
「わっ、兄ちゃんなにやってんの!」
「これすげー脆かったんだって」
「僕が触っても取れなかったんだから、兄ちゃんが力入れすぎなんだよ」
「そりゃお前よりは強かったかもしれんが普通に見ようとしただけだってば」
「どーしよう……」
啓と奏が言い合っていると、すれ違った一人の女が足を止めた。
「ねぇその鍵、どこで手に入れたの?」
「え?」
奏はいきなり話しかけてきた女に露骨に嫌そうな顔をして返答する。
「どこってこいつが持ってたんだけど。誰?」
「その鍵の持ち主。返してもらえる?」
「しゃーっ」
啓の腕の中でホイップが威嚇する。同時に、啓も何かよくないものを感じ取った。ちょうど、ルナメルと初めて会った時と同じように。
「ふーん……じゃあこの猫の名前は?」
「そんなの知るわけないじゃん」
やたらと高圧的に返してくる女を見て、奏も怪しいと思ったようだ。
「んじゃこいつの飼い主じゃないのか。ってことはこの鍵の持ち主でもないってことだろ」
「それ、関係ある?いいから返して」
女が手を伸ばしてくる。奏は鍵をポケットにしまって首を横に振った。
「いや、ダメだ」
「そうか、渡す気が無いなら、力ずくでっ」
鍵を持った奏に向かって飛び掛かってくる。
「ていっ」
「ぐはっ」
奏はげんこつを一発、女の腹に食らわせる。
「啓、そいつ連れて帰ってろ」
「え、でも……」
啓に反論はさせないと言った顔で奏は顎で行けと指示する。奏が真剣だとわかった啓も素直に指示に従うことにした。
「兄ちゃん、怪我しないでね」
「あぁ、飯作って待っててくれ。腹減るだろうからな」
「くっ……よくもっ」
一度はひざをついた女は立ち上がって奏を睨みつける。
「ま、これで意識があるとこ見るに、やっぱ人間じゃねぇだろ」
「なんだと、気づいていたのか?」
奏は薄々とこの女が人ではないことに気が付いていた。それもこれも、ソルテに雄飛、ツキウサとここ最近やたらと妖に出会っているせいだ。こんな絡み方をされては疑うのも当然。
「別に、最近やたらと妖が多いから、もしかしてと思っただけだよ」
「わかっているなら覚悟はできているのだろうな?」
「覚悟?はっ、するのはそっちだ。うちの弟をまーた面倒なことに巻き込みやがって」
そして奏は啓のことが最優先。こういうことにはすぐ弟が巻き込まれるのだ。それはできる限り避けたかった。
「そっちの事情など知ったことかっ」
女は擬態の魔法を解いた。見えていなかった兎の耳が徐々に見えてくる。
頭部を狙った回し蹴り。身体強化の乗った重たい一撃を、奏は片手で受け止める。
「兎か。」
奏は淡々と、連続して襲い掛かってくる蹴り技を捌いていく。
「大したことねぇ……いや、メイドだの刀野郎だのが強すぎってだけか」
奏にとってはこの程度のことは文字通り、朝飯前だった。最も、ルナメルや四霧が別格に強かったというだけなのだが。
「下等種族がっ……!」
軽く見ていた地上の人間にあしらわれ、激昂する兎。それを見て、奏は気になっていたことを問いかける。
「この鍵、なんの鍵なんだよ」
「ふんっ!地上を浄化し、穢れた貴様らニンゲンを滅ぼすために必要なのだ!」
怒りに身を任せて攻撃してくる兎は、ぺらぺらと自分たちのことを話していく。
「なんでそんなもんが地上にあんだよ」
「裏切者が持ち出した!ニンゲンごときに情が沸いた愚か者め」
奏は手加減しながら反撃してできる限りの情報を引き出そうとする。
「俺たち滅ぼして、その後は?」
「我々月の兎が地上に住むのだ!元は我らが先祖の星、下等種族が偉そうに、支配した気になるなよ」
「んなこと聞いちまったら、やっぱ返すわけにはいかねぇよな」
本当は大したものじゃなかったのなら返すつもりだったのだが、そこまで聞いた奏に鍵を返す選択肢はなかった。
「謀ったな!」
「いろいろ教えてくれてさんきゅーな。ちょっと本気出すから、死なないように頑張れよっ」
奏はふぅ、と小さく一息吐いた。
「月まで帰れっっっ!」
奏は一回転して勢いを乗せた回し蹴りで、兎を蹴り飛ばした。蹴りを食らう直前、身体強化を全力で使う兎。しかし、奏の蹴りはその程度で受け止められるものではない。大地を揺らす威力の蹴りが、兎を遥か彼方、遠い空へと吹き飛ばした。
「なあぁぁっ」
吹き飛んでいく兎を見ながら、奏は大きなため息をついた
「はーあ、またとんでもないことが始まるんじゃねぇの……」
これから待ち受けていそうなことを考えて、帰る足取りが重くなる奏だった。
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