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第五十話 警告

 



「ツキウサー起きてるかー?」


 同日、ツキウサの部屋(元は俊太の姉の部屋だが)の扉の前で俊太はツキウサに声をかける。しかし、いくら待っても返事はない。


「おーい」


 コンコン

 ノックをしてみるものの、やはり返事はない。


「まだ寝てんのかよ……入るぞー」


 俊太は扉を開く。


「ツキウサー?」


 しかし、そこには誰もいなかった。ベッドは綺麗に整ったまま、使われていた様子はない。


「いない……?」


 誰もいない部屋、そこに吹き込んだ夏の生温い風が俊太の頬を撫でる。


「窓開けっぱじゃん……」


 窓から身を乗り出して外を見てみるが、ツキウサの姿は見当たらない。

 今日は一緒に啓のところでたこ焼き食べに行かないかと、一応、誘いに来たのだが、いないのでは仕方がない。


「どこ行ったんだ?しかも窓からって……」


 ~~~~~


「何なの、アンタ。昨日からずっと見張ってたでしょ」

「妖の専門家、とでも言っておこうか。吸血鬼、鬼に続いて正体不明の妖がいると報告があった。我々が動向を監視するのは当然だ」


 俊太がツキウサを探しているころ、ツキウサは路地裏で一人の男に剣を突き付けていた。真夏だというのにぴっちりとスーツを着た男は手を挙げて抵抗する意思はないことを示していた。


「……昨日襲ってきた子の仲間か」

「君は一体何者だ?ある程度の推測はできているが、確証がないものでね」


 男は剣を突き付けられているというのに、焦りも恐怖も見せず、質問をしてきた。ツキウサは少し考える。正体を明かしてもいいのだろうか。この男一人だけならどうとでもできる自信はある。しかし裏にどれだけの戦力が控えているかわからない。下手に刺激するのは得策ではないだろう。

 それに、できるだけ俊太に迷惑をかけたくはない。


「月の兎」


 小さく呟く。ひとまず教えて、知ったところで何かしてくるようならその時また考えよう。


「やはり……実在したのか。それで、君は一体この町で何を企んでいる?」


 俊太に呼ばれているツキウサや耳などの特徴から推測していたのだろう。だが、どうやら彼らは月の兎が実在しているとは思っていなかったらしい。


「何も企んでなんかいないよ。ちょっと遊びに来ただけだって」


 本当は違うのだが、ここで降りてきた本当の理由を言ったらどうなるかわかったものではない。


「その割には夜中に何か探し回っているようだが」

「……私のこと、どこまで知ってるのか知らないけどさ。あんまり関わんない方がいいと思うよ?私の同族、碌なやついないし」


 一応、それっぽく牽制しておく。実際、月の兎の中には地上の人間をよく思っていない兎も多い。


「それは警告か?それとも脅しか?」

「警告かな。私のこと探しに来たやつらと鉢合わせたら面倒なことになりそうだから。そろそろ来てもおかしくないだろうし」


 ツキウサは遠い目をしてそう言った。夜の間、月は綺麗に輝いていた。ほぼ確実に月の兎が地上に降りてきているはずだ。


「ふむ、ありがたく頂戴しておこう。なるほど、四番からの報告通り、悪意は感じられない。そして人間にも友好的か。今のところは討伐対象には入れないことにしておこう」

「ふーん……とりあえず監視はやめてもらえる?鬱陶しい」


 ツキウサは“討伐対象”という言葉に一瞬反応する。対象になったら問答無用で攻撃されていたのだろうか。多少なりとも話し合えてよかったのかもしれないとツキウサは考える。


「いいだろう。ただし、君のお仲間はどうなるかわからんぞ」

「ま、人間に危害を加えるようなら、遠慮なくやっちゃってよ」


 同族とはいえ、彼らの行動には目に余るものがある。郷に入っては郷に従え、地上で好き勝手するようなら咎められても仕方がない。ツキウサは突き付けていた剣を消滅させる。


「さて、この辺りで帰らせてもらおう」


 男はツキウサに背を向けると、ツキウサはぐーっと背伸びした。


「そうね、最近暑いし、()()することにならなくて、よかったー」

「……またどこかで会うかもしれないね」

「会いたくないけどねっ」


 ツキウサの返事を聞くことなく、男はその場を立ち去ってしまった。


「ふぅ、帰ろ帰ろ」




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