第四十八話 依頼人は同級生
ピンポーン
「なんだろ、兄ちゃんかはかせが何か買ったのかなぁ」
啓とソルテが学校から帰ってきてからしばらく経ったころ、呼び鈴が鳴り、来客を知らせる。
啓が玄関の扉を開くと、そこには啓のよく知る人物が立っていた。
「か、金村さん?なんでうちに」
「え……?あ、朝日奈……?」
そこにいたのは啓のクラスメイトの金村夕香だった。想定外の人物が出てきたことに驚いた彼女はスマホを取り出して地図を確認する。
「間違ってない……この何でも屋ってあんたの家だったの?」
啓にスマホを見せて確認する夕香。スマホの地図の現在地には『何でも屋』と表示されていた。
「そうだけど……何か用事があるの?」
「あ、まぁ、ちょっと頼みたいことがあって……」
「暑いし、とりあえず中にどうぞ?」
何故か疑問系になってしまった啓は突然訪問してきたクラスメイトを家に招き入れるのだった。
「まさか朝日奈の家だったなんて、聞いてない……」
お茶の準備とはかせを呼んでくると言って啓がいなくなってしまった部屋で、一人呟く夕香。
まさかこんなところで出会うとは思いもしなかった。どうせならもっとお洒落な服を着てくるべきだったかと少し後悔する。
「これ、麦茶とお菓子。はかせもうすぐ来るから、もうちょっと待ってて」
啓が麦茶と煎餅やクッキーの入った木皿をちゃぶ台の上に並べていく。
「ありがと……ぷはぁ」
グラスに入った麦茶を一気に飲み干す。暑さのせいか、予期せぬ緊張のせいか、やたらと喉が渇いていた。
「やぁ、君が依頼人かな?」
啓と二人で何を話せばよいのか迷っていたところに、はかせが入ってきた。
「ちょ、はかせ、もうちょっと寝ぐせ直すとか新しい白衣に着替えるとか」
「啓の友達だって言うからまぁいいかなって」
「ならむしろちゃんとしてよ……」
はかせはいつも通り、よれよれの白衣と寝ぐせがぼさぼさの状態だった。そんなはかせを啓は白い目で見る。
「そんなことは置いといて、何かお困りかな」
そんなこと、と啓の言うことはスルーして早速本題に入るはかせ。
「この子、うちで飼ってる猫が、いなくなっちゃって」
そう言って夕香はスマホを見せる。
「わー可愛いー」
「でしょ?」
啓がそう言うと夕香は画面をスワイプして様々な写真を見せる。ご飯を食べているところ、遊んでいるところ、寝ているところ、と写真フォルダはほとんど猫の写真で埋まっていた。
「この猫を探してほしい、ってことだね。いなくなったのはいつ?」
「気がついたのは一昨日の夕方で、学校から帰ってきたらいなくなってて……」
「もういなくなってから丸二日経っているのか。早く見つけないとね。家はどの辺り?」
はかせが聞くと夕香は地図アプリを開いて指差した。
「ここです。昨日家の周りは探したんですけど見つからなくって……お代はいくらでも出すので、よろしくお願いします!」
「いくらでも?じゃあ、百万円……」
「は、か、せー?」
啓が精一杯の怒気を込めて、はかせを睨みつける。
「冗談だって。お代はいらないよ。多分すぐ見つけられるから」
「本当……!?」
自信満々に言うはかせに夕香の顔がぱあっと明るくなる。しかし、直後にはかせが取り出したものを見て、すぐに疑うような目に変わってしまった。
「これにその猫の名前を書いてくれるかな?一画一画想いを込めて、ね」
「え……なにこれ、胡散臭っ……」
はかせは懐から一枚の紙と筆ペンを取り出して夕香に渡した。
まさかそんなおまじないのようなことをさせられると思っていなかった夕香は白けた目で啓の方を見てくる。
啓も変だなとは思いつつ、コクリと頷いて書いてもらうことにした。そして啓はこっそりはかせに理由を聞く。
「ねぇはかせ、あれってお札だよね?なんであれに名前を書くの?」
「探し物のことを思い浮かべてその名前を書くと探し物がある方に近づいていくんだ」
はかせが取り出したお札は書いた時に思い浮かべたものに反応して近づこうとするお札。当然、魔法を使うものなので夕香に詳細は話せないのをもどかしく思う啓は苦笑いする。
「何でもあり……だねぇ」
「実はそうでもないよ。探している側に見つけたいっていう強い気持ちがないと効果がないんだ。魔法は想いの力だからね。秘密だけど」
「魔法で見つける、なんて流石に言えないもんね、仕方ないかぁ」
そんなことを話している間に、夕香は書き終わったようで啓とはかせに見せてきた。
「こそこそなんの話してんの。はいこれ、書いたけど」
「へーホイップちゃんって言うんだ。かわいい名前だね」
「そ、そう?白くてふわふわしてるから……」
お札には慣れない筆ペンで、少しぎこちなく“ホイップ”と書かれていた。はかせはお札を手に取り、目を細めて書かれた文字を見る。
「うん、これなら大丈夫だと思うよ。あとは僕たちに任せて」
「ほんとにこんなんで見つかるの?」
「見つけたいって強く願っててよ。そうしたらきっと見つかるから」
魔法の力なのだが、知らない人からすれば精神論にしか聞こえないのだろう、夕香はいまいち納得できないようだったが、軽く頷いた。
「じゃ、見つけたら啓から連絡するから。長くても二日あれば見つかるはずだよ」
「そういえば、私朝日奈の連絡先知らないけど」
「え、そうなの?」
クラスメイトだからてっきり知っているものだとばかり思っていたはかせは意外そうな顔で聞く。
「あ、確かに。じゃあ今交換しようよ」
「えぇ……⁉」
こんなところで啓の連絡先を手に入れられるとは思っていなかった夕香が慌てている間に、啓はスマホを取り出してアプリを起動させていた。
「はいこれ、僕のID」
啓のスマホを見ながらIDを入力して、出てきたアカウントにスタンプを送る。
「スタンプ送ったけど、合ってる?」
「あ、これも猫ちゃんだかわいいー」
「まぁね……そ、それじゃあよろしくね。そろそろ帰る」
「うん!任せて!」
啓は笑顔で胸を張ってそう言った。夕香は立ち上がって玄関まで歩く。
「ま、またね……」
少し赤くなった顔で、小さく手を振って玄関を出る。
「またねー!」
啓の声が夏空に響き渡る。
家を出て、啓たちから見えなくなったところで、夕香はスマホを取り出してまじまじと啓との会話画面を見つめていた。
「ラッキー、なのかな……」
思わぬ偶然に感謝する夕香なのだった。
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