第四十七話 夏休み
「僕が、あの魔法使わなかったら、こんなことにはならなかったんじゃ……」
「あの時はあーするしかなかったから使ったんだろ。お前のせいじゃない!」
奏が立ち上がって反論する。凜姫と雄飛をこの世界に連れてくるキッカケになってしまったのかもしれない。自分たちをを守るためにはしかたなかったのだ。
しかし、啓は優しすぎた。考えすぎだと言われれば確かにそうなのかもしれない。それでも自分のせいで雄飛が腕を失うことになったという考えは、頭にこびりついて離れない。
「でも、」
「俺のこと、心配してくれんのは嬉しいけど、この右腕は、俺が弱かったせいだ。だから、気にしないでほしい……」
雄飛は左手で義手になった右腕を持ちながら言った。
「啓くん。気持ちはありがたい。だけど、今思えば、こちらに来られてよかったと思うんだ。結局、四霧は死ななかった訳だしね。もしあのまま向こうの世界にいたら私も雄飛も死んでいたかもしれない。君のおかげで、今生きていられるんだ」
凜姫は優しく、諭すように話した。まだ、啓は納得しかねていたが、凜姫の真っ直ぐな瞳を見て、なんとか気持ちの整理をつけようとする。
「……うん」
「あーもう、なんでこう朝からしんみりしちまうかなぁ。啓、お前考えすぎ」
「何でも言ってね。僕にできることならなんでもするから……」
「と、とんでもない!お礼をしなくてはならないのはこちら側だというのに」
凜姫は慌てて首を横に振った。彼女からしたら啓たちは命の恩人だ。自分たちが何か手伝うことはあっても、啓たちの手を煩わせるわけにはいかなかった。
「啓、おかわりちょーだい」
そんな中、空気を読んでか読まずか、黙って話を聞いていたソルテが茶碗を啓に差し出した。
「……!すぐ持ってくるね」
啓は顔を明るくして、立ち上がると台所へと向かった。それを見た奏は何かに気がついたようにはっとして、急いで自分の分のご飯と味噌汁をかき込んだ。
「んぐ、ソルテお前やるな」
「啓はいきなり噛みついたボクや攫おうとしたやつまで助けようとするんだよ?だからさ、あんまり遠慮しないで頼ってあげた方が本人も喜ぶと思う」
ソルテは澄ました顔で、グラスの麦茶を飲んでから言った。奏もソルテが何をしたのかわかったからこその言葉なのだろう、おかわりするために急いで食べ終えていた。
「そういうもの……なのか?」
「確かに、啓はそういうやつだな。俺もおかわりしよーっと」
啓が戻ってきてソルテにほかほかのご飯を渡す。
「おまたせ、これくらいでよかった?」
「うん。ありがと、啓」
ソルテはまた黙々と食べ始めた。
「俺もーおかわりー」
啓が座ろうとした矢先、奏もソルテと同じように茶碗を差し出した。
「あっ、もうそれならソルテと一緒に言ってよね」
「悪い、頼むよ」
「じゃあ私も……いいかな?」
「お、俺も……」
「もーしょーがないなー」
啓はなんだかんだ言いながら少し嬉しそうな顔をして、三人分用意したのだった。
「さて、それじゃあこれからの話なんだけど……」
〜〜〜〜〜
時は少しだけ遡り、凜姫の目覚める前のこと。
夜ご飯を食べ、後片付けも終わった頃、啓のスマートフォンに一通のメッセージが届いていた。
「俊太だ、なんだろ」
スマホのロックを解除してメッセージを確認する。
『俺の知らんうちにツキウサが母さんに話つけてうちに住むことになってんだけど!』
そのメッセージを読んだ啓は“はて?”と首を傾げた。
今日の夕方、俊太の家に遊びに(実際は掃除をしに)行ったときにはツキウサはいなかったしそんな話はしなかった。それがこの数時間で一体何があったのだろうか。
「一から説明してよ。よくわかんない」
いきなりすぎて全く話の流れが読めない。ツキウサと同居することになったらしいが、なぜ突然そうなったのか。
ひとまずきちんと説明してもらおう。メッセージを送ると同時に既読はついた。
それからしばらくして俊太から返信が届いた。
『お前とソルテが帰った後、母さんが買い物から帰ってきたんだ。そしたらなぜかツキウサも一緒で、うちに住むことになったって……俺の姉ちゃんが大学行って空いてる部屋があるからちょうどいいって母さんも言うんだ。
しかも姉ちゃんに聞いたら二つ返事でOKだってよ。自分の部屋が知らないやつに使われるって聞いて即OKするか普通?』
「すごい長文だね……ツキウサに理由は聞いたの?」
『アイツ、適当にごまかすばっかでなんにも。母さんに聞いてもツキウサちゃんはいい子ねーとか言ってはぐらかすし』
「なんか……大変そうだね」
『おい他人事だと思ってるだろ。こんなこと相談できるのお前しかいないんだからな。もっと親身になれ』
頼ってくれるのは嬉しいが、俊太の親と姉が許可を出したのだ。他人の啓にはどうこう言うことはできない。これ以上聞いても愚痴が増えていくだけだ、これくらいにしておこう。
「でも僕にできることなんて限られてるからなぁ。また何かあったら教えて。僕からはかせに伝えとくから」
『いいから俺の愚痴をもっと聞け!』
「はいはい、また明日ねー」
本当にこれ以上付き合うと関係ないことまで話が飛びそうだ。啓は連投されるスタンプを横目にしながらスマホを置いた。
〜〜〜〜〜
「明日から夏休みです。暑さに気を付けて、羽目を外さないようにしてくださいねー。それじゃあまた九月に会いましょう」
「「「はーい!!!」」」
教室に大きな声が響き渡る。その後、ランドセルを持った子供たちが教室から飛び出していく。
「夏休みだー!」
「だー!」
啓と一緒にソルテも両手を伸ばして背伸びをする。
「やっとだな。帰ろうぜ」
「うん」
三人は一緒に教室を出て、廊下を歩いていく。
「ねぇ明日うちでたこ焼きするんだけど、俊太もどう?」
「たこ焼きか、いいね。行く」
「じゃあ明日のお昼、うちに来てね。その後プールに遊びに行こうと思ってる」
「でもこんなクソ暑いのになんでたこ焼きなんだ?」
梅雨が明け、これからが夏本番。今日も天気は快晴で真夏日なのだ。俊太はそんな中でたこ焼きをしようなんて考えもしなかった。
「ソルテが食べたいって言うから、お店で買うんじゃなくて、どうせならうちでやって好きなだけ食べられたらいいかなって」
「へーたこ焼き好きなんだ。意外だな。もっとお上品なものが好みかと……あ、ツキウサがついてくるかもしれないけど、いいか?」
「いいよ。人数多い方が楽しいし。今はどうしてるの?」
「どーせまたどっかフラフラ出歩いてるんだろ。マイペースでフリーダム、扱いにくいったらありゃしない」
「あはは……楽しそうだね」
「なわけあるか」
玄関までやってきた三人は靴を履いて外に出る。かんかんに太陽が照りつけ、熱されたアスファルトからゆらゆらと陽炎が立ち昇っていた。
「「「あっつ……」」」
思わず声に出してしまう三人。
「なんか涼しくする魔法はないのかよ」
「ボクは氷とか冷気とかそういう魔法使えないけど、啓は使えるんじゃないの?」
ソルテが使える魔法は主に吸血鬼の血を使う魔法と啓の血を吸った時に使える太陽の魔法の二種類。魔法は人によって得意不得意がある。啓のように多彩な魔法を使える方が珍しいのだ。
「いや、まぁ、使えるっちゃ使えるんだけど……」
「だけど?」
「昔エアコンの代わりに使ってみたら部屋が冷凍庫みたいにカチコチになっちゃって……やってみる?」
俊太は自分が氷漬けにされた姿を想像してブルっと身震いした。啓のことだからそれくらいできてしまう、いや町全体を真冬にしてしまうかもしれない。
「……いやいい。絶対風邪ひく、というか凍死する」
「火とか水は火力とか大きさの微調整できるんだけどねぇ」
啓は右手に火球、左手に水球を浮かべて呟いた。そして水球を一瞬で凍結させ、氷の球を作り出した。
「凍らせるのはできるんだけど、いい感じに冷やすのは難しいんだよね」
氷は暑さでどんどん溶けて、ぽたぽたと水を垂らしていく。
「だから、外で魔法使うなって言ってるだろ!」
暑くて人の数は少ないが、見られている可能性は十分ある。
「涼しくしてほしいって言ったの俊太でしょ」
そう言いながら啓が俊太の首筋に氷を当てた。
「つめてっ」
俊太は自分たちの周りの空気の温度を下げてくれるかと期待していたのだが、そううまくはいかないらしい。
啓は氷と火球をぶつけて溶かしてしまった。
「いやほら、空気ひんやりさせるくらいなら魔法だってわからないかなって」
「扇風機くらいにしかならないよ」
啓の手の平から俊太に向けて風が吹き出す。が、冷たい風を生み出す魔法ではなく、その場の空気を動かすだけの魔法だった。
「生温い風しか来ねぇ……」
「だから、僕の魔法で涼むのは諦めてよね」
「くっ、意外と不便だな」
魔法がなんでもできる万能ではないということを思い知らされた俊太だった。
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