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第四十二話 マイペースラビット

 



「……で、なんで学校についてくるんだよ!」

「いいじゃん別に、一人じゃつまんないもーん」


 翌朝、通学路で啓とソルテを待っていた俊太の隣にはツキウサがいた。部屋で待っているか出かけてくれと頼んだが、学校が気になると言ってついてきたのだ。


「俊太、おはよー」

「おはよー」

「ふ、二人とも……おはよう」

「おっはよー!」


 ツキウサは、大きく手を挙げて二人にあいさつした。啓とソルテは少女を見てこてん、と首を傾げた。


「「だれ?」」

「おぉ、息ぴったり」


 どう説明したものかと悩む俊太を横目に、ツキウサは勝手に自己紹介を始めた。


「初めまして!ツキウサです。よろしくー!」

「「は、初めまして……?」」


 初対面で大きく頭を下げて自己紹介するツキウサに啓とソルテは反射的に返事をしただけだった。


「そりゃそうだ……」


 呆気に取られている二人に俊太が頭を搔きながら説明をしようとしたとき、啓が口を開いた。


「あれ?君、どこかで……」

「あー!昨日の子!」

「お肉屋さんの!」


 お互いに気が付いた二人は指を指し合う。


「えー、またなんか俺だけ知らないパターンのやつ……?」

「ボクたちが聞きたいんだけど、俊太の知り合い?」

「まぁな。ツキウサ、ソルテは吸血鬼だし、お前のこと、教えていいだろ?」


 一応、ツキウサに確認をとる俊太。この返答がどうであれ、結局は啓とはかせに伝えるつもりだったので形だけではあるのだが。


「いいよー私もこの子たちのこと、知りたいし」


 ツキウサは啓とソルテを見て内に秘めた魔力に内心驚いていた。


(ほんとにすごい魔力。吸血鬼の方はともかく、こっちは普通の人間、だよね?)


「月から来た兎なんだと。だからツキウサって呼んでる」

「よろしくね、僕は朝日奈啓、俊太のお友達です」

「ボクはソルテ、吸血鬼だけど、啓の血しか吸えないからあまり警戒しないでほしい」

「啓くんにソルテくん、よろしくね」


 そう言ってツキウサは自身にかけていた魔法、視覚誤認を解く。ぴょこんと白く長い耳がツキウサの頭に突如現れた、ように見えた。


「わっ、うさぎの耳だ……」

「魔法で見えないようにしてたんだね」

「そうなの。いろいろ白い目で見られちゃうし」


 月の兎だという証拠を見せたツキウサはすぐに魔法をかけなおして再び耳が見えないようにする。


「で、その、昨日いろいろあって俺んちに泊めたんだけど……」

「え!俊太、女の子と一緒に寝たの⁉」


 啓のセリフに俊太は大きく手を振って否定する。


「ちげーよ!ちゃんとお客さん用布団出したって。啓も泊まりに来た時使ったやつだよ!」

「そっか、それがあったね」


 自分が泊まったときのことを思い出して納得する啓。


「……こんなこと言ってるけどほんとは一緒のベッドで寝たよ」

「「しゅ、俊太……」」

「嘘だからっ!」

「ツンツンしてるけど寝顔は結構かわいいんだよ」


 ずばっ


 俊太の手刀がツキウサに炸裂した。


「いったーい」


 友人にあらぬ噂を立てられては困る。

 何度か同じような茶々を入れられながら、一から説明するはめになった俊太であった。


「てか、啓だって兄ちゃんと一緒に寝てるんだろ。俺だけアレコレ言われるのは心外なんだけど」

「あれは兄ちゃんが僕の布団に侵食してきてるだけだから……」


 自分は決して、断じて、神に誓って、奏と一緒に寝たくて寝ている訳ではない、と主張する啓。そこにソルテが口を挟んだ。


「……でもこの前、」

「あーっそれは言っちゃだめっ!」


 もごもごと何かを言おうとするソルテの口を必死で押さえる啓。


「アホ兄弟の惚気は置いといて。ツキウサ、これからお前どーすんだよ。流石に学校の中まで連れてけないぞ」

「吸血鬼はいいのに私はダメなの?」


 せっかく楽しそうなことを見つけたのに、お預けにされて、子供のように膨れた顔をするツキウサ。


「そりゃ生徒じゃないやつはダメだろ。ソルテはちゃんと手続きしてあるんだぞ」

「そこをなんとかっ!」

「俺じゃ無理だって……」

「むー……じゃあ学校サボって私と遊びに行く?」

「なんでそうなるんだよ!」


 今にも俊太の手を取って学校とは反対方向へと駆け出しそうなツキウサ。啓とソルテはそんな二人を見てこっそり話し合う。


「なんか、この二人、昨日会ったばかりとは思えないくらい仲良いよね」

「ボクも思った。なんでだろうね」

「実は、二人は昔の友達で、隠してる、とか?」

「どうなんだろ、でも月の兎と友達だったなんて忘れるわけなさそうだけど……」

「そうだよねぇ。月の兎なんて知ってたら吸血鬼とかじゃ驚いたりしなさそうだし……」

「ねぇ!はかせって人に私のこと相談しておいてくれない?」


 前を歩くツキウサが突然振り向いて啓に話しかけてきた。


「わっ、ビックリしたぁ。それはいいけど……」

「けど?」

「なんでそんなに俊太と仲がいいの?」


 啓の疑問にツキウサはふふんと鼻を鳴らして聞き返した。


「気になる?」

「「気になる!」」


 啓とソルテの声が綺麗に重なる。


「それはねー……ヒ、ミ、ツ。強いて言えば、運命ってやつかな」

「「う、うんめい……!」」


 口に指を当てていたずらっぽく笑うツキウサ。


「かっこいいー!」


 そこは年頃の男の子、啓はその単語に目をキラキラ輝かせていた。


「おい、そこ、勝手に盛り上がるな。ほんとに俺とツキウサには何もないぞ。もう学校着くんだから、どっか行ってろよ」

「もー冷たいなぁ。しょーがない、それじゃあ私はその辺で遊んでるから、またね」


 そう言ってツキウサはピョンとどこかへ跳んで行ってしまった。


「あ、行っちゃった」

「人騒がせなやつだよホント……」

「でも、なんだかんだ嫌いじゃないんでしょ?見てたら分かるよ?」


 俺の友人は相変わらずこういう人の機微を察するのがうまい。

 今朝のことを思い出した俊太は恥ずかしくなって走り出した。


「いいから行くぞ!」




 ~~~~~




「これ、お前の布団」


 俊太は押し入れから布団を引きずり出して布団を敷く。部屋に散乱していたものは隅に追いやられ、なんとか布団一枚を敷くスペースを作り出していた。


「ありがと。でさー突然来た私が言うのもなんだけど、やっぱりもうちょっと片づけない?」


 部屋中を見渡してツキウサが言うと俊太は首を横に振った。


「俺には無理、こういうのはプロに頼むに限る」

「プロ?」

「俺の友達、綺麗好きで掃除するのうまいから。遊びに来るたびに掃除してもらってた」

「な、なんという他力本願生活……」

「これ、お前の枕な」


 いいからさっさと寝ろと言わんばかりに枕を投げつける俊太。


「もー雑だなぁ……」

「俺の部屋に食べかすとっちらけた奴が言うな!」

「それは悪かったってばー」


 はぁ、とため息をついて俊太はベッドに座る。


「あー今すぐ月に帰ってくんねぇかなー」

「今日は曇ってるから無理でーす」

「月が見えてないとダメってことか?めんどいなぁ」

「逆に月からも追手が……」


 そこまで言いかけてツキウサは慌てて口を閉じた。


「え、何、追われてんの?」

「やっぱ今のナシ!」

「おいおいおい、そりゃねーだろ!」


 俊太が追求しようとしたその時だった。


 コンコン


 ドアがノックされる。ツキウサは耳をぴょん!とさせて慌てて布団の中へと潜り込んだ。


「あんた誰と喋ってんの?」

「あ、や、啓と電話してただけ!うるさかった?ごめんごめん」

「ふーん、ほどほどにしてさっさと寝なさいよ」


 咄嗟にごまかしたが納得してくれたらしい。こつこつと階段を下る足音が聞こえてきた。なんとかごまかせたみたいだ。安心した俊太はほっと一息つく。


「ビビったぁ~」

「ちゃんと話しておいた方が……」

「明日啓やはかせに相談してから決める。んじゃおやすみ!」


 俊太は部屋の電源を消してベッドに飛び込むと布団を被って丸くなる。


「おやすみ……」


 ~~~~~


「んー……っ!」


 俊太が目を覚ますと目の前にツキウサの顔があった。すーすーと俊太の隣で寝息を立てている。どうやらいつの間にか自分の布団からベッドまで移動してきていたようだ。

 ツキウサの寝顔を見て俊太の胸はドクンドクンと大きく脈打っていた。


「お、お前……」

「んにゃ、おはよー」

「なんで俺の隣で寝てんだよ……!」


 “目覚めたらいきなり女の子が隣で寝ていた”なんて経験があるわけがなく、目覚めが悪くいつもならベッドの上でうだうだとしている俊太の眠気もさすがに吹き飛んだ。


「いやーかわいい寝顔してたから夜中に潜り込んだらそのまま寝落ちしちゃって……」

「いくらお前が月の兎だろうがそれは一線超えてるだろ」

「えーでも寝言で私のことあれこれ言ってたよ?」

「なっ、う、嘘つくなよ……」

「嘘じゃないよ、ほんとだよ?私の夢でも見てたのかなぁ?」


 ツキウサは勝ち誇ったような顔で笑った。かわいい。寝起きで少し髪がぼさついているが、それも込みでツキウサがかわいく見える。

 違うっ!

 頭の中の邪魔な考えを振り払う俊太。

 確かにツキウサの目は嘘をついているようには見えない。確かに普段なら見ないような夢を見ていた気もする。

 もし言う通りだとしたら、なんだかそう考えると恥ずかしくなってきた。


「……っ!あーもう学校行ってる間は部屋ん中でおとなしくしてるか、どっか出かけてろよ!」


 立ち上がった俊太はドアを勢いよく閉めて部屋を出て行くことになってしまった。




 ~~~~~




「はー、これから、どうしよっかな」


 俊太や啓と別れたツキウサは昨日と同じ公園にやってきていた。一人ブランコに座り、手に握った金色に輝く鍵を見つめながら独り言をつぶやく。


「勢いで持ち出してきちゃったけど、ほんとにこんなんで地上が、ねぇ」


 ポケットに鍵をしまってブランコを漕ぎ始めるツキウサ。ゆらゆら揺られながら空を見上げる。


(今日も曇り、なんなら雨も降ってきそう)


 厚く重なった雲が空を覆っていた。この空模様なら月の光はここまで届かない。すなわち月から地上へとやってくることはできない。これなら追手のことを気にすることもないだろう。

 ツキウサは揺れるブランコからジャンプして柵の上に飛び乗った。


「よっと……おっとっと」


 両手を広げ、片足立ちでバランスをとる。


(久しぶりの地上、楽しまなくっちゃね。俊太にも会えたし)


 柵から飛び降りて両手で顔をパンッと叩く。


「やなこと考えるのはやーめた!」


 深く考えるのは性に合わない、お腹もすいた。地上にはまだまだおいしいものがいっぱいある、食べに行こう。ツキウサは町の中心部へと駆け出した。




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