第五話 お昼ご飯を食べよう
俊太から少年を知っている人の情報を得た三人は公園を出てショッピングモールへとたどり着いた。
「ここが、ショッピングモール……おっきい」
少年は初めて見るショッピングモールの大きさにあっけにとられていた。土曜日ということもあって何台もの車が行きかい、家族連れや友人同士といった人々が出入りしている。
「初めて来たときはびっくりするよねぇ。ほら、行こ?」
啓は足を止めていた少年の手を取り歩き始めた。
ショッピングモールの中は多くの人で賑わっていた。
「なぁ、とりあえず昼飯にしないか、腹減ったんだが」
入ってすぐに奏が昼食の提案をする。
「もうお腹空いちゃったの?しょうがないな、もう……」
「朝から歩きっぱなしだったからな、当然だ」
「ちょっと早いけどお昼にしよっか、君もそれでいい?」
啓が少年に尋ねると少年はコクリとうなずいた。少年は口に出してはいなかったが歩き疲れていたので昼食には賛成だった。
少年は人混みの中を進む奏に啓の手を握ってついていく。
「動く…床?」
エスカレーターを見た少年は足を止める。
「エスカレーターだよ。大丈夫だから、こっち」
啓に手を引かれて少年は恐る恐るエスカレーターに乗った。
「すごい…」
目に入るもの全てが新しく、驚きの連続だった少年にそれぞれ説明しながら啓たちはフードコートにやってきた。お昼時で、人で溢れかえっているフードコート内を啓たちは席を探して歩きまわる。
「これは、想像以上に混んでるな……」
「席もほとんど空いてないね」
一周しても空いている席を見つけられず二人はため息をついた。
「あ、あそこの人達、席を立ったよ」
そんな中少年が指を指して言った。それを見た奏は少年が気が付いた時には既に空いた席に移動していた。
「これでやーっと飯食えるな」
一瞬で移動していた奏に少年が驚いている間もなく、啓に手を引かれた。
「ありがと、おかげで座れるよ」
「う、うん……」
(いつの間にあそこまで?)
少年は奏の動きに疑問を抱きながら椅子に座る。
「僕たちここで待ってるから、兄ちゃん先に買ってきていいよ」
「わかった。俺はラーメン食うけどお前ら何食べるんだ」
「これから決めるよ、僕はそんなにお腹空いてないし」
奏は「そうか」とだけ言って席を立つとラーメンを買いに行ってしまった。
「何食べる?いっぱいあるよ、ラーメンにスパゲッティにハンバーガー、たこ焼き……他にもいろいろ」
「よくわかんないから…啓と一緒のやつにするよ」
「そっか、じゃあ僕買ってくるからここで待っててね」
「うん」
一人で待つことになった少年は目の前を通っていく人達を眺めていた。
(昨日からずっと喉がカラカラだ…いくら飲んでも治まらない…)
少年は朝から喉の渇きに頭を悩ませていた。少年が一人で考え込んでいると奏が戻ってきた。
「何ボーっとしてんだ」
「あ、えっと、別に、何でもない」
少年は自分の悩みを話せずにいると、たこ焼きを持って戻ってきた。
「はいどーぞ、たこ焼きだよ。熱いから気を付けてね」
「うん」
少年はたこ焼きを受け取ると一個丸ごと口の中に放り込んでしまった。
「あっいきなり口に入れたら……」
「あっつっ!」
啓の忠告も間に合わず、その熱さに驚いた少年はたこ焼きを舟に落としてしまった。
「やっぱり……大丈夫?これお水」
「お前気をつけろって言われたのに聞いてなかったろ」
「……ごめん」
啓が水を渡すと少年は一気に飲み干した。
「ふーふーして落ち着いて食べてね」
少年は啓に言われた通りにたこ焼きを冷ましながら食べ始めた。
「おいしい?」
「うん。あつっ、けどおいしいよ」
「よかったー」
少年がたこ焼きを食べられることがわかって啓も自分の分を食べ始めた。その時奏の持っていた呼び出し端末が鳴った。
「んじゃ取ってくるわ」
「兄ちゃんついでにお水のおかわり持ってきてー」
「ったくしゃーねぇなぁ、コップ寄越せ」
「はい、二人分お願いね」
「あいよ」
奏と啓がやり取りしている間に少年はたこ焼きを全て食べ終っていた。
「もう食べちゃった?」
「お腹空いてたから」
「じゃあ僕の少しあげるよ」
「いいの?」
「遠慮せずどーぞ」
啓は自分の分のたこ焼きを嬉しそうに頬張る少年をニコニコしながら眺めていた。
「ほらよ、水」
「ありがと、兄ちゃん」
「もう食い終わったのか、はえーな」
「この子お腹空いてたみたいでペロッと平らげちゃったよ」
「それじゃ俺もさっさと食って探しに行くか」
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時はさかのぼり早朝、眠りから覚めたはかせは一人牢の中で考えていた。
(一人で脱出するだけならどうってことないんだけど多分行方不明になった人達も同じように捕まってるんだろうなぁ。その人達をどうするか)
薄暗い蝋燭の明かりもいくつかが消え牢の中は暗くなってきている。
(うーん、ここで考えてもどうにもならんな、とりあえず外出てそれから考えよう)
「風箋・刃」
はかせが一言唱えると小さな風の刃が縛っていたロープを切断した。自由に動けるようになったはかせは牢の入り口へと向かって脱出方法を考える。
(この鉄格子古いし肉体強化使えばこじ開けられるか?)
「どっせいっ」
はかせは両手で鉄格子を掴む。そのまま腕に魔法を籠めていく。十分に魔力を浸透させた後、はかせは鉄格子を外側に引っ張った。すると鉄格子が曲がって人が通れるくらいの隙間ができる。はかせは牢の外に出るときょろきょろと辺りを見回した。
「さて、出口はっと」
「あ、あの……」
はかせが隣の牢の前を通るとそこに捕まっている女性が話しかけてきた。
「あなたも捕まった人ですか?ここから出してくれませんか」
「え?うーん、出してあげたいのは山々なんだけど、ちょっと待ってもらえるかな。敵がどれだけいるかわからないし僕一人じゃ君を守り切れないかもしれない」
「でも……捕まってた他の人達はみんな連れていかれちゃって……」
女性は今にも泣きだしそうな表情をしていた。
「不安なのはわかるけどもっと危ない目にあうかもしれない。ロープは切ってあげるからこっち来て。あとこれお水、飲んでも自動的に補充されるから好きにして。水箋・湧」
はかせは手のひらからコップに入った水を出現させて女性に渡した。
「え?あれ?今どうやって」
「ヒミツ。ほら手貸して」
はかせは風の魔法でロープを切断した。
「それじゃ、待っててね、すぐ戻るから」
はかせは手を振ると部屋の出口へ歩き始めた。出口のドアの窓からのぞくと看守が一人見張りをしていた。
(見張りは一人だけか、それなら)
ゴンッッ
まだ肉体強化の効果が続いていたはかせは近くの鉄格子を思いっきり殴り飛ばしてすぐにドアの陰に隠れる。
「なんだ⁉」
音に気が付いた看守がドアを開けて中に入ってくる。
「朝だけどおやすみっと」
「ぐはっ」
はかせは看守の首筋に手刀を当てて気絶させた。看守のポケットを漁って鍵を見つけると自分のポケットにしまいこむ。それから自分を縛っていたロープで看守を縛りあげて開いている牢に放り込むと廊下に出た。
(あとは荷物を返してほしいんだけど)
そう言いながらこっそりと隣の部屋を開ける。
(お、ここに捕まえた人の物を置いてるな、えーっと…)
はかせが部屋の中を探していると足音が聞こえてきた。はかせは慌てて部屋の陰に身を隠す。
「屋敷中を探しましたが、どこにもいませんでした」
「全く、今日は儀式だというのに。まさか外に逃げ出すなんて。手のかかる子供だ」
この屋敷のメイドと思われる二つの足音が遠ざかっていくのを聞いてはかせはそっとドアを開けて人がいないか確認する。
(儀式?人をさらっているのに何か関係が……?)
はかせは自分の荷物を見つけると部屋を見つからないようこっそりと外に出た。