第四十話 小さな楽しみ
放課後、啓、奏、ソルテ、雄飛の四人はショッピングモールへとやってきていた。
「そういや、ここ来るの、あの時以来だな」
「ルナメルと会ったの、ここだったね。あの時はびっくりしたなぁ」
記憶を無くしたソルテを連れて来た時以来のショッピングモールだった。
奏と啓にとっては初めてルナメルに出会い、戦い、そして啓が連れ去られた場所。ソルテにとってはちょっとした思い出の場所だった。
「そういえばルナメルはこっちには戻ってこないの?」
「やることあるからお母さんのとこにいるって。でもたまに様子を見に来るって言ってたよ」
そんな話をしながら店内に入る一行だったが、雄飛は一人、周囲の目線を気にしながら歩いていた。
「なぁ、俺の角、ほんとに見えてないか?怪しくないか?」
「大丈夫だよ、みんな別に気にしてないでしょ?」
すれ違う人たちは雄飛のことを気にすることもなく、普通にすれ違っていく。ただそれでも雄飛は角を見られたんじゃないか、四霧に見つかるのではないかと考えていた。
「角なんて見えてたとこで、今時、出来のいいコスプレ程度にしか見えないからそんな神経質になるなって」
「こす、ぷれ?」
「あー、いや、まぁバレても大した問題にはならねぇってこと」
コスプレの意味がわからない雄飛にどう説明するか悩んだ挙句、奏は説明を諦めた。
そこに呑気なソルテが声を上げた。
「たこ焼き、おいしかったなぁ。ねー啓、食べて行こうよ」
「あーいいなそれ。服見る前に食おーぜ」
「今日はダメだよ。そんな時間ないってば」
奏とソルテはフードコートへ行こうとするが、啓の言葉に足を止めた。
「「えぇー」」
「もー、今日は服買いに来ただけなんだからね」
不満そうな声を上げる奏とソルテ。しかし、啓の言うことには素直に従う二人だった。
「2階、行くか」
先頭の奏について歩く三人。
エスカレーターの前で立ち止まった雄飛の冷たい金属の手を、啓はぎゅっと握った。
「大丈夫?行こ?」
「あぁ……」
平日夕方のショッピングモール、エスカレーターからは談笑している学生たちのグループ、親子連れ、カップルなど色々な人たちが見えた。
「……ここはいいところだな」
下を見下ろした雄飛はふと呟いた。
「茨木くんのいたところはどんなところだったの?」
「俺のいたところは、小さな鬼の集落だった。けど、たまに人間のいる村にも行ってた。もう、二つとも燃えてなくなっちまったけど……」
少し震えた雄飛の声。触れない方がよかったと啓は後悔していた。
「ご、ごめんね。嫌なこと聞いちゃって」
「いや……俺は、凜姉がいればそれでいいから……もう、気にしてない」
“気にしてない”と言う雄飛の噓を、啓は指摘することはできなかった。きっと自分でも同じことを言ったと思うから。強がっているのはわかっても、何かしてあげたくても、啓はどうにかする方法も力も持ち合わせていなかった。
「そっか……じゃあ……好きな食べ物とかある?」
エスカレーターを降り、先を歩く奏とソルテについて行きながら啓は話を振った。
「好きな食べ物……んーとそうだな、団子……凜姉と出かけたときによく食べてたから」
「お団子かー、おいしいけど、夜ご飯にはならないなぁ」
雄飛が好きなよく通っていた茶屋のお団子は、もう食べられなくなってしまった。そのことを思い出した雄飛はまた少し俯いた。
「あ……夕飯の話か、すまない」
「何か食べたいのあるかなーと思って」
啓に言われて雄飛はしばらく考えてみるが、好きも嫌いも特にない気がする。そんな中、ふと一つの思い出がよみがえった。
「コロッケ……昔凜姉と食べたから……」
いつだったか、人里に遊びに行ったときに一緒に食べたコロッケ。なんてことない、普通のコロッケだったが、とてもおいしかった記憶がある。思い返せば、こっちの世界に来た時も、コロッケをよく食べていた。
「コロッケかーいいね。今日はそれにしよーっと」
「いいのか⁉ありがとう……け、ぃ……」
尻すぼみに小さくなった声で雄飛が呼んだ名前は、啓の耳に届くことなく周囲の騒々しさにかき消されてしまった。
奏がふと思いついたようにソルテに声をかけた。
「なぁ、気になったんだけど、ソルテって向こうの世界じゃ服はどうしてたんだ?」
「屋敷に採寸とかする人が来て作ってもらってたよ」
「一応、吸血鬼の坊ちゃんだったなお前……オーダーメイドって……」
それが当たり前のことだった、何かおかしなことを言っただろうか。きょとんとした顔で奏の方を見るソルテだった。
「着いたよ」
話しているうちに赤と白のロゴが目立つ、目的のお店についていた。
「んじゃま、見て回るか」
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「これといって俺の心にビビっとくるもんはねぇなぁ……あ、啓、これどうだ?」
「僕のは必要ないけど……あ、こっちがいい」
「キャラTってお前、そろそろ卒業しろよな……」
「好きなんだもん、いいじゃん別にー。あ、こっち兄ちゃんにいいんじゃない?」
「よし買った」
「さっきまで悩んでたのに啓に勧められた途端即決なんだ……」
啓が選んだのは前面に大きくキャラクターのプリントされたTシャツだった。兄としてはあまりにも子供っぽいのはやめてほしいなぁと思いつつ、なんだかんだで弟の意見は全肯定する奏だった。
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「結構買ったねぇ……」
「元は足りない分だけ買うつもりだったのに、兄ちゃんが僕のまで買おうとするから……」
「せっかく来たんだから買わなきゃ損だろ。どうせまーたどっかの誰かにボロボロにされるんだろうし」
店から出てきた四人はそれぞれ大きい紙袋を持っていた。
「そういえば、啓の選んだキャラクターのやつ、お揃いで買ってたよね」
「う、いいだろ別に」
「その言い方、啓にそっくり」
「そりゃ兄弟だからな」
最近さらに兄バカが加速しているような……やっぱり元からこうだったような。そう思うソルテだった。
「ありがとう。俺のも、こんなに買ってもらって……」
「いーのいーの、なんかはかせが臨時収入あるって言ってたし、気にしないで」
雄飛は自分の手に持った紙袋を見て申し訳ない気持ちでいっぱいだった。Tシャツやズボン、下着に至るまでほとんど新調したため、誰よりも多くの服が入っていた。
「ねー啓、やっぱりたこ焼き食べたいなぁ……」
「コロッケ買ってすぐに夕飯にするから我慢してよ」
「えー」
啓の服の裾を掴んで頼んできたソルテはどうしてもたこ焼きが食べたいらしい。うーんと少し考えた啓は一つの案を思いつく。
「じゃあ、今度の土日に、うちでたこ焼きパーティーしよう」
「ホントに⁉やった!」
ぱぁっと明るい顔になったソルテ。啓にはこの場でソルテを説得する以外にも、もう一つ考えがあった。
「たこ焼き……」
「茨木くんは食べたことある?」
「ない、と思う……」
「そっか、じゃあ楽しみにしててね」
「あぁ、楽しみにしてる」
吸血鬼と鬼の子に何気ない小さな楽しみができた瞬間だった。
ショッピングモールを出て、帰り道、啓たちはコロッケを買うために商店街へと歩いて来た。もう既に日は傾き、暗くなった町を街灯が照らしていた。
「ありがとうございましたー」
揚げ物をこれでもかと持って肉屋から出てきた少女と啓は目があった。その少女は啓を見て足を止める。
「んー……?」
「僕に何か用ですか?」
「いや、なんでも」
そう言ってその少女は立ち去ってしまった。後ろ姿を見ながら啓は首を傾げる。
「あの子、ボクたちと同じで人間じゃないね」
「え?そうなの?」
「俺もそう思う。魔力を感じた。でも、何の種族かわからないな」
ソルテと雄飛は少女が人間ではないことに気が付いていた。驚いている啓を守るように近くに抱きよせて奏はため息を吐いた。
「まーたお前らみたいなのが増えるのか……啓、気ぃつけろよ」
露骨にめんどくさそうな顔をしながら奏は啓に釘を刺した。
「うん……」
不思議そうな顔で少女が見えなくなるまで見つめていた啓だった。
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