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第三十八話 一件落……着?

 



(なんで俺はこいつと昼飯食うことになってんだ……?)


 昼下がり、人の少なくなってきたファミリーレストランで奏と四霧は向かい合って座っていた。


「……おま……四霧はなんか食う?」

「そうだな、私は……」


 奏に聞かれた四霧は少しメニューに目を向けると窓の外へと目を逸らした。


「いや、やはりいい」

「あ、そう……なら俺のだけ注文するぞ」


 連れてきておいて食わねぇのかよ!と心の中で突っ込みながら奏はタッチパネルの注文確定ボタンを押す。


「ドリンクバー行くけど、なんか飲む?」

「朝日奈奏、貴様に任せる」

「わかった……」


 奏は席を立って飲み物を取りに行く。その後ろ姿を四霧は見つめていた。「はいこれ」奏はコーラの入ったコップを二つテーブルの上に置いて席に着く。


「俺のと同じコーラにしといた」

「感謝する。それで、私に話とはいったい何だ?朝日奈奏」


 奏から受け取ったコーラを一口飲んで四霧が問いかける。


「……フルネームで呼ぶなっての」


 奏は横を向いて四霧に聞こえない小さな声で呟いた。


「はぁ、なんで鬼や吸血鬼のことそんなに敵視してるんだよ」

「何故……?妖は人間の敵、当然だろう」


 四霧は奏の質問に心底何を言っているかわからないといった様子で答えた。


「敵って……そりゃあ人間とは違うところもあるけど、ソルテとかほぼ人間と同じだろ」

「ソルテ、あの吸血鬼か。こちらも聞きたいことがある、何故貴様らは吸血鬼といる」

「あー、それはだな……」


 それから奏はソルテたち吸血鬼との出会い、それから啓を助けに吸血鬼の屋敷に乗り込んだ時のことを順を追って話した。


「ほう、吸血鬼がこちらの世界でそんなことを企んでいたのか。それで、貴様は吸血鬼をどう思った?」

「最初は啓の血吸うわ、おまけとか言って攫うわ、そりゃいい感情はなかったけど……」

「ふむ」

「少なくともソルテとルナメルはいいやつだよ。俺の弟が友達って言ってるんだ、それだけで俺が信じる理由にしちゃ十分だ」


 奏は断言した。雄飛と凜姫はまだわからないが、ソルテ達は信じてもいい。奏はそう思っていた。何においても啓が一番な奏の判断基準は妖だから、人間だから、ではない。


「弟、か」

「なんだよ、文句あっか?」

「いや、鬼もそんなことを言っていた気がしてな」


 そう言ったとき、ジューという音と共に店員がやってきた。


「おまたせしました。ご注文のステーキセットです」

「あ、俺のです」

「鉄板熱くなっておりますので、お気を付けください」


 奏は受け取ったステーキをナイフで切りながら話を続ける。


「あとは、お前、この世界の人間じゃないだろ?どうやってこっちに来たんだ?」

「……私は知らぬ。鬼の姫と戦っていたらこちらにいたのでな」


 四霧は少し間を置いてから答えた。


「戦ってたらこっちにいたって……」

「そうとしか言えない」

「熱っ、俺その辺詳しくないからわかんないけどそういうことってよくあるのか?」


 奏はステーキを頬張りながら聞き返す。


(はかせならこういうとき何を聞くんだろうなぁ……)


 本当は四霧をはかせに会わせる予定だったのになぜかはかせには会えない、奏となら話すという条件で四霧と話すことができていた。そのことを不思議に思って何故かと聞いたが、会うことはできないの一点張りでここまで連れてこられてしまった。


「私も初めてだからわからない。だが、相当な魔力がぶつかり合わない限り起きないだろうな」

「んぐ、そんなもんなのか」


 奏はさらにご飯を口にする。四霧はコーラを飲んで奏の方を見た。


「こちらに来てしまったのは想定外だったが、朝日奈奏、貴様を見つけたのは幸運だった」

「……一個確認しときたいんだけど、どっかで会ったこと、あるっけ?」


 自分と妖に対する態度の違いに奏は疑問を覚える。


「……貴様と会うのは今回が初めてだ」

「じゃあなんで俺をつけてたんだよ?」


 さっきと同じように四霧は少し間を置いてから答える。四霧は何か隠している、奏は直感した。


「気になることがあったと言っただろう」

「気になることって」

「知り合いに似ている気がした、それだけだ。鬼姫にはしばらく手を出すつもりはない。伝えておいてくれ」


 奏の言葉に被せるように四霧は答えると、刀を持って立ち上がった。


「さて、それでは失礼する」

「ちょ、まだ聞きたいことがっ」

「これで払っておいてくれ。また会おう。朝日奈奏」


 四霧は懐から財布を取り出す。


「あ、おい待てって」


 四霧はテーブルに一万円札を置いて立ち去ってしまった。


「なんだよアイツ……一万もいらねぇって……」


 と言いつつ残ったステーキをぺろりとたいらげて、デザートにプリンを食べてから家に帰る奏だった。




 ~~~~~




「茨木くんは今日の夜ご飯、何がいい?」

「俺はなんでもいい」

「そっかぁ、兄ちゃんは?」


 家に帰った奏は啓、雄飛と一緒に買い物に出てきていた。


「そうだな……カレーかなぁ」

「じゃあカレーにしよっか」


 元々いた奏、啓、はかせの三人に加えてソルテとルナメル、雄飛と凜姫、七人になって買い出しの量も増えていた。啓一人では荷物を持ちきれないと心配した奏が雄飛の気分転換にと連れ出していた。


「あぁ、そうだ、アイツ見つけたぞ」


 思い出したように奏が話を切り出す。


「え、兄ちゃんあの子見つけたの?」

「まぁ見つけたっていうよりかは俺が見つかったって方が正しいんだけど……」


 奏は四霧と戦ったこと、そのあと一緒にファミレスに行ったことを話した。


「アイツ、四霧って言うんだとよ。一回お前って言ったらすっげー嫌そうな顔された」

「四霧……それがアイツの名前……」


 雄飛は初めて知る刀の少女の名前を一人呟く。


「また戦ったんでしょ?大丈夫だった?」

「大丈夫、負けやしねぇよ。ただ……」


 心配する啓の頭を奏は撫でる。言い淀んだ奏は奏で何か引っかかるところがあるようだった。


「兄ちゃんが自信ないなんて珍しいね」

「いや、まぁ、俺には四霧と戦う理由が曖昧っていうか……あぁ、鬼姫には手を出さないって言ってたからしばらくは大丈夫、だと思う」


 奏が上を向きながら二人に話す。それを聞いた雄飛は不安そうに聞き返す。


「本当に?」

「あぁ、四霧は嘘はつかない、はず」


 断言しかける奏だったが本当に四霧のことを信じていいのかまだ判断しかねていた。奏の言葉を聞いた啓は雄飛に笑いかける。


「そっかぁ、一安心だね」

「……でも俺は、アイツに……!」


 雄飛は義手に魔力を込めて握りしめる。


「これで一件落着になればいいんだけどな……」


 自分の言葉に反して奏はまだ安心することはできなかった。


(四霧の考えてること、わかんねぇんだよなぁ。嘘をついてるわけじゃない思うけど。それに、この一万円、流石に返さなきゃな)


「もっと、もっと強くならなきゃ……」

「茨木くん、あんまり気負いすぎない方が……」

「気持ちはわかるが、そんなに気を張り詰めてちゃ体もたないぞ」


 二人に宥められて、雄飛はわなわなと震える身体をなんとか抑える。


「大丈夫、大丈夫……ね、今日は一緒にカレー作ろ?」


 えへへと笑う啓の笑顔に雄飛は下を向く。四霧を許せない気持ち、自分のその気持ちをわかった上で笑顔で接してくれる啓、どうしていいかわからなかった。


「そんな怖い顔してたら、お姉ちゃん起きたときに、心配されちゃうよ」

「……わかった。そう、だよな。凜姉……」


 雄飛は改めて拳を握りなおした。まずはこの世界で、凜姉と二人で生きていこうと決意を固めて。


「ほら、二人とも、行くぞ」

「「うん!」」




これにて第二章「鬼の章」は終了です。

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