第三十七話 再戦、刀の少女
「さてと、瓢箪探すのに腕が無いのは不便だろ。そもそも向こうへ行く方法も今のところないわけだからな」
マスターはカウンターの下から大きな箱を取り出して箱を開けた。
「……金属の腕?」
店内のオレンジ色の照明を反射して鈍く金属の光沢が光る。箱の中には大人の大きさ程の腕が一本入っていた。マスターはそれを取り出して雄飛に見せる。
「魔力を通す特殊な金属でできた義手だ。最初に魔力を流したやつの魔力を記憶して、そいつの魔力で動くようになる。ほら、右手で魔法を使うイメージで魔力を流してみろ」
マスターは義手を雄飛の右肩の近くにもっていった。
雄飛が魔法を使うために魔力を籠めようすると義手の上腕から指へと白い光の線が伸びていく。指先まで光が到達すると義手は雄飛の体格に合わせた大きさに変化した。
「縮んだ……?」
マスターが手を放しても義手が落ちることはなく、肩から1センチメートル程離れて浮遊していた。
「接続できたぞ。動かしてみ?ぎこちないかもしれないがそのうち慣れるはずだ」
「こう、か……?」
雄飛は手を握ってみたり上下に動かしてみたり、思いつくままに色々と動かしてみる。
「う、動いた!」
「魔法で接続しているだけだから取り外しも自由だ。魔力消費を抑えるためにも寝るときは外しときな」
「わかった……本当に貰ってもいいのか?」
雄飛は義手の動きに慣れようと動かしながらマスターに聞く。
「もちろん、自由に使うといい。ちょっとした機能がいろいろついてるから、ま、使ってみてのお楽しみってことで」
「ありがとう、これで凜姉を守れる……」
「俺はこいつに頼まれたもん用意しただけだ。あとはお前さん次第だ、頑張れよ坊主」
マスターははかせの方を指差して言った。はかせはテーブルに肘をついてコーヒーを飲んでからマスターに問う。
「それで、マスター、本当に向こうへ行く方法ないのか?」
「今のところは、な。最近は歪みもほとんど観測されてないみたいだ。あいつがいりゃこんなことで悩む必要なかったんだが、あの野郎今どこで何をやってんだか」
「当面は、行き方を見つけるところから、ってわけか。こりゃしばらくお世話になりそうだな……そろそろ帰ろうか」
「お帰りですかー?ちょっと待ってくださーい」
はかせと雄飛が立ち上がったところで奥から二人を呼び止める声がした。ヒメはキッチンから出てくるとポケットから何かを取り出した。
「少年に、お姉さんからプレゼント」
ヒメはポケットから取り出した首飾りを雄飛の首にかけて満足そうにうなずく。
「うーん、我ながらいい出来だ」
「首飾り?なんか魔法が入ってるみたいだけど……」
雄飛は首飾りを手に取って首をかしげる。首飾りは金色のチェーンに小さな黄色い宝石が埋め込まれたパーツがぶら下がっていた。それを聞いたヒメはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに得意げに説明を始めた。
「姿が人間と同じように見える魔法だよ。角とか義手とか見られたらめんどいっしょ?こっちはお姉ちゃんの分。少年、お姉ちゃんのこと守ってやれよ」
「俺たちのために……ありがとう。大事にする」
「なんか困ったことあったらいつでも来な。お代は、この人にツケとくから」
「ほどほどにしといてよー、無駄遣いするなーって啓に怒られるんだから」
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「探せって言われてもねぇ、俺は魔力感じ取れないんだけどなぁ」
街に出てきた奏だったが、とくに探す当てもなく、ただひたすらに歩き回っていた。
半日ほど歩き回ったが結局特に何も手がかりらしいものも見つからなかった。
(あー腹減ったな……帰って飯食うか、なんか買うか)
奏はポケットから財布を取り出して中身を見る。残金は今朝もらった3000円と小銭が少し、できればここで使いたくはない。
(せっかくの臨時収入をここで消費するのはもったいないよなぁ、そんな急ぎで見つけろってわけでもなさそうだし、帰るか)
スマホで時間を確認するともう時間は午後二時を回っていた。そりゃ腹も減るわ、とくるっと踵を返して元来た道を戻ろうとした、そのとき。
「あ?」
視界の隅に刀の鞘が見えた気がした。しかしすぐに民家の陰に隠れて見えなくなった。
走って追いかけるが既に姿は見えなかった。奏が辺りの気配を探っても気配はない。
「つけられてた?なんで……」
そこまで口に出したところで奏は思い出す。
(俺を倒してからみたいなこと言ったっけ……)
「こそこそしてないでいるなら出てこいよ!」
「……いいだろう」
奏の目の前に少女が上から降ってきたかと思うと音もなく着地した。
「おわっ、出てこいとは言ったけど、いきなり降ってくるなよ。何で俺をつけてた」
「気になることがあったので観察させてもらった」
「げ、ストーカーかよ……しかも気づかなかったし……まぁいいか、お前に話があるんだけど」
奏が頭を搔きながら言うと少女は一歩、踏み出した。
「……お前じゃない、私は四……いや、四霧。朝日奈奏、いつでも相手をすると言っていたな」
「よきり……確かにあんときは勢いでそう言ったけどーっ⁉」
奏が後ろに跳ぶ。さっきまで奏がいた位置には刀を抜いた四霧が立っていた。
「話あるっていっただろ!いきなり斬りかかってくるなっ!」
「いつでもいいと言ったのはそちらだ」
「だぁっ!くそっ、やりゃいいんだろやりゃあ!」
もうこうなったらやるしかない。奏は拳を握って四霧の元に突っ込む。
「ただ、場所は変えさせてもらう、ぞ!」
拳を刀で受けたところを更に蹴り上げて四霧を空中へと打ち上げる。
「どりゃあ!」
「ふっ」
奏の追撃の回し蹴り、体勢を立て直した四霧の一閃が空中でぶつかり合った。衝撃による振動が周囲を揺らす。
別々の屋根の上に着地した二人は道を挟んで向かい合った。奏は片手でくいっと挑発すると逆方向へと駆け出した。次々に屋根の上を飛び移って奏は四霧から離れていく。
「どこへ行く」
(とりあえず人のいないとこに……)
奏を追って四霧も駆け出した。奏は跳びまわって戦えそうな場所を探す。
「落ちろ」
奏が振り返ると複数の飛ぶ斬撃が飛んできていた。着地した学校の屋上でその斬撃全てを転がって避ける。
「殺意高すぎ、んだろ!」
仰向けになった奏のすぐ真上で四霧は刀を振り上げていた。奏は両手を使って頭側へと一回転しながら跳ぶ。
「学校……今日は休みだし、ここなら、誰にも見られねぇ、よな」
「人目を気にしていたのか」
「そりゃあ、ねぇ!」
奏は一足飛びに間合いを詰めて殴りかかった。刀の間合いよりも更に短く、ほぼ零距離で拳を撃ちこむ。
しかし自身に不利な間合いでも四霧は冷静に刀で攻撃を受ける。
「お、らぁ!」
奏の一撃を受けた四霧は即座に返しの刀を振うが奏はその太刀筋にはもういない。
(この戦い方……最適解の動きを直感だけで成し得ている、そして身一つで戦うことを可能にする身体能力、やはり……)
奏は振り抜いた隙を見て回転しながら跳び、勢いを乗せて蹴りを叩き込む。
「吹っ飛べ!」
四霧の首筋に奏の蹴りが直撃する。奏の台詞通り、渾身の蹴りをまともに食らった四霧は吹き飛び、屋上に置かれていた貯水タンクに激突する。
「まだ平気そうだな。自分で言うのも何だが、俺並みに頑丈じゃねぇの」
「この平和な世界でそこらの妖とは比べ物にならない圧倒的な強さ……」
「うちの弟守るにゃ、これでもまだまだ足りてないんだよ!」
四霧は立ち上がると刀を鞘にしまう。奏が少しずつ歩を進めてくるが、刀を握ったまま、目を閉じた。
「七天流……抜刀術、壱」
神速の一撃が奏を斬り裂く、はずだった。
四霧が目を開けるとそこには刀を片足で止めている奏がいた。
お互いに一歩も引かず睨み合う。
ぐぅーーーーー
奏のお腹から大きな音がした。
「腹、減ったぁ……」
奏は刀を止めたまま、お腹を押さえる。それを見た四霧ははぁ、とため息をついて刀を降ろした。
「空腹……ここまでにしておくか」
「待てよ、こっちはお前に話があるんだって」
立ち去ろうとした四霧の肩を持って奏は呼び止めた。
「そうだな……少しくらいなら付き合ってもいい」
意外にもあっさりと、四霧は奏の話に付き合ってくれるらしい。




