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魄星兄弟譚 ~うちの弟は誰にも渡しません!~  作者: 冬佑
第一章 「吸血鬼の章」
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第四話 お出かけしよう

 


 深夜、既に多くの人が寝静まったころ、奏と啓と共に寝ていた少年は目を覚ました。うとうとしている少年の目は爛々と紅く輝いていた。


(あぁ、喉渇いた……)


 少年は寝ぼけたまま啓のもとへ近寄っていく。カーテンの隙間から差し込む月明かりが寝息を立てる啓の顔を照らしている。


(おいしそう……)


 少年は啓の枕元にしゃがみこんで両手をついた。そのまま啓の首にゆっくりと顔を近づけていく。少年が口を開いたその時だった。


(……あれ?僕は何をしようとしたんだ……?)


 無意識で行動していた少年は完全に意識を取り戻した。しかし少年は自分の本能でやろうとした行為をわかっていなかった。すると気配に気が付いた啓も目を覚まして起き上がる。


「んー」


 ゴツンッ


「いてっ」


 起き上がった啓とその上に覆いかぶさっていた少年は頭をぶつけた。


「ってて、こんな夜中にどうしたの?」


 啓が額を押さえながら少年に聞くと少年はしどろもどろになってしまった。


「あの、えーっと、喉が渇いちゃって」

「ん……わかった。ちょっと待っててね」


 咄嗟に自分の欲求を素直に話した少年に、啓は台所へ向かった。

 少年は部屋の隅に座り込んだ。自分が吸血鬼だということすらも忘れている少年は混乱していた。


(さっき何をしようとしたんだ?それに喉が渇いて仕方ない……)


 少年が悩んでいると啓が麦茶の入ったコップを持って戻ってきた。


「はいこれ。飲んだら机の上置いといてね」

「うん、ありがと」


 啓はそれだけ言うと布団にもぐって寝てしまった。

 少年はもらった麦茶を一気に飲み干した。


(飲んだのにまだ喉が渇く……)


 少年はちらっと啓の方を見やった。もう一杯もらおうと思った少年だったが啓はすでに寝息を立てていた。二回も起こすのは悪いと思った少年はあきらめることにした。


(なんだこの感じは……)


 結局自分が何をしようとしたのか、渇きの原因は何なのか、少年が思い出すことはできず、再び眠りにつくことにした。




 ~~~~~




 朝になって啓は一番に目を覚ました。目をこすりながら隣の布団を見ると奏と少年はまだ熟睡していた。啓は少年が使ったコップを持って台所へと向かう。

 ふぁあああと大きなあくびをしてスマホを確認する。


(はかせから返信来ないなぁ。ほんとに大丈夫なのかな)


 はかせを心配しながらも啓は朝ご飯を作り始めた。啓の包丁で食材を切る音や洗濯機の音に反応した少年は目を覚ます。

 少年が音のしてきた台所の扉を開くと朝食を作っている啓が振り返った。


「おはよ、よく寝られた?」

「おはよう……あの、お茶もらっていいかな」


 少年が啓にお願いすると啓は一度手を止めて冷蔵庫を開け、麦茶を取り出した。


「いいよ、はいどーぞ」


 啓が少年にコップと麦茶のボトルを渡す。

 昨夜からずっと喉が渇いたままだった少年はコップいっぱいに麦茶を注いで飲み干した。


「向こうで待っててね、もうちょっとでできるから」

「うん……」


 少年はボーっとした様子で台所から出て行った。

 しばらくして、ご飯を作り終わった啓は自分たちの寝室のドアを開けて奏に声をかけた。


「兄ちゃん起きてよー、ご飯もできてるよー」

「んー、わかった……」


 奏は返事だけすると寝返りをうった。


「もー早く起きてよ、あの子も待ってるんだから」


 啓はそう言って居間へ向かった。啓は台所から白いご飯にお味噌汁、卵焼きにサラダをお盆に乗せてちゃぶ台に並べていく。


「ごめんね、兄ちゃん朝弱くて」

「ううん、大丈夫」

「先に食べててもいいよ?」

「啓が待ってるなら僕も待ってるよ」


 そんな話をしていると奏が目をこすりながら居間に入ってきた。


「兄ちゃん遅いよー」

「すまん」


 奏は謝りながらも大きなあくびをすると席に着いた。


「「「いただきまーす」」」


 奏が座ると三人は早速食べ始めた。


「んぐ、啓、お前今日どうすんだ?」


 奏が食べながら啓に聞く。


「とりあえずこの子連れて色々行ってみようかなって思ってる。あとはかせもどこに行ったのか気になるしついでに見つけられたらいいなって」

「はかせまだ連絡つかないのか?なにしてんだあいつ」

「返信どころか既読もついてないから心配なんだよね」

「ねぇそのはかせって人どんな人なの?」


 奏と啓が話していると少年が聞いてきた。


「一応僕たちの保護者ってことになってるんだけど……」

「どうみてもそんな大したことやってねぇし、むしろ啓がここに来るまでよく一人で生活できたなってレベルのダメ人間だ。でもなぜか収入だけはあるんだよな……」

「そ、そんなにすごい?人なんだ」


 二人からの言われように若干引き気味の少年。それをフォローするように啓が言った。


「あ、でもはかせってくらいだし研究しててその業界ではかなりすごい人なんだって」

「俺らは研究内容全然知らないからただのダメなおっさんにしか見えないけどな」

「はかせまだおっさんってほどの年じゃないでしょ。30行ってたっけ?」


 こんな言われようじゃそこまですごい人ではないのかな、と思った少年だった。


「へー、それでその人が帰ってこないんだ」

「そのうちひょっこり帰ってくると思うけど。スマホの充電切れたとかそんなんだろ」

「そんなこと……ありそうだなぁ……」


 結局啓にもそこまで信頼されていないはかせだった。




 ~~~~~




 朝ご飯を食べ終わって出かけることにした啓は少年に着せる服をどれにしようか悩んでいた。


「うーんどれがいいかなぁ」

「そんなに悩まなくていいよ」

「昨日来てた服が一番似合ってたと思うんだけど汚れがすごかったから洗濯しちゃって」

「お前いっつも自分の服は適当なくせにそういうとこはこだわるんだな」

「そ、それは言わなくていいの!」


 そうこうしているうちに啓は自分の持っている服から気に入ったものを選ぶと少年に渡した。


「どうかな、サイズは僕と同じくらいだと思うしちょうどいいと思うんだけど」


 少年は渡されたフード付きの半袖シャツと半ズボンに着替えた。


「ぴったりだね、ありがとう」

「あとは、これ羽織ればいいかな」


 最後に啓は少年に上着を渡して自分のTシャツとズボンを適当に手に取って着替えた。


「やっと終わったか、じゃ行くぞ」


 玄関を開けて三人は外に出た。少年は日差しを浴びると「まぶしっ」と声を上げた。


「ねぇ兄ちゃん、やっぱり吸血鬼だから太陽ダメなのかなぁ」


 啓は奏に小声で相談した。


「昨日普通に外にいたんだから太陽に当たったから死ぬってわけじゃないだろうが……」

「僕帽子持ってくるよ」


 そう言うと啓は帽子を取りに戻った。


「ちょっと待ってな、啓が帽子持ってくるから」

「う、うん」

(二人はまぶしくないのかな。僕だけ……?)


 少年が疑問に思っていると帽子を手にした啓が戻ってきた。


「おまたせー。それじゃ気を取り直してしゅっぱーつ」


 少年は受け取った帽子をかぶると二人についていった。

 啓はまず最初に近所の商店街に向かうことにした。


「で、どこいくんだ?」

「とりあえず商店街の人にこの子のこと知らないか聞いてみようかなって」

「おー啓くん!おはよう!今日はお兄ちゃんと、その子はこの辺じゃ見ない子だねぇ友達かい?」


 三人が商店街に入ると入ってすぐの魚屋のおじさんに話しかけられた。啓は魚屋のおじさんと話し始めた。


「あっ魚屋のおじさん、おはよー!あの子昨日から迷子なんだけどなんか知らない?」

「うーん?……いやぁわからんなぁ、ごめんな力になれなくて」


 魚屋のおじさんは少年をしばらく観察するが心当たりはないようで申し訳なさそうな顔をする。


「いいのいいの!ありがとねおじさん!」


 啓は魚屋のおじさんに手を振って別れると二人のもとへ戻った。


「なんか知ってたか?」

「わかんないって言ってた」

「じゃあ次聞いてみるか」


 そうして三人は商店街中から話を聞いて回った。しかし少年のことを知っている人や見かけた人は一人もいなかった。


「はぁ、なにも手掛かりなしか」


 手がかりのない状況に啓がため息をついた。


「いったん休憩しようぜ、歩き回って疲れてるだろ」


 啓や少年が疲れていることを察した奏が休憩を提案する。三人は公園に向かうとベンチに座って休憩することにした。


「お、啓と啓の兄ちゃんじゃん、なにしてんのー?」


 そこに話しかけてきたのはビニール袋を手に持った俊太だった。


「あ、俊太。人探し、かな。そっちこそなにしてるの?自分から外に出るなんて珍しいじゃん」

「俺は今日発売のゲーム受け取りに行ってきたとこ、一緒にやるか?ってその子誰?」


 少年に気が付いた俊太が指を指して尋ねる。


「この子昨日から迷子だから知ってる人探してるんだけど」

「ふーん、お前さてはまた妙なことに首突っ込んでるな……あーそういやさっきメイド服着た女の人に金髪の男の子探してるんだけど知らないかって聞かれたな。もしかしてその子金髪だったりする?」


 さっき聞かれたことを思い出した俊太に聞かれた少年はそっと帽子をとった。少年の髪が日差しで輝いて見える。


(う、まぶし……)

「きれいな髪だな。あのメイドが探してたのはこいつか」

「ありがとう!さっきまで色々聞いてまわってたんだけど」

「しっかしまぁメイドが探してるって金持ちの坊ちゃんかよ」


 突然の有力な情報に喜ぶ奏と啓。少年は話に入れずに置いてきぼりにされていた。


「あ、紹介するね、僕の友達の俊太」

「おう、よろしくー」

「え、えと、その僕自分の名前覚えてないんだけど、よろしくね」

「記憶喪失か?訳ありっぽいな」


 俊太に顔をまじまじと見られて少年は帽子を深く被りなおした。


「昨日家帰ってから色々あってねー」

「その話長そうだから詳しいことは聞かない。帰ってゲームしたいし」

「えー」


 めんどくさそうにされて啓はしゅんとしてしまった。しかしすぐに気を取り直して俊太に聞き返す。


「じゃあその女の人どこ行ったかわかる?」

「俺がショッピングモールから帰るときに話しかけられたから、多分そのままモールの方行ったんじゃないのか」

「おっし、んじゃショッピングモール行ってみるか」

「俊太ありがとね!」


 啓は少年の手を取って立ち上がると、三人はショッピングモールに向かって歩き始めた。




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