第三十一話 神様に会いに行こう
小学校の校門前、歩いてやってきた啓はランドセルを二つ持ったソルテと喋っている俊太を見つける。
「お待たせ、ソルテ、俊太も」
「いいよ、ボクもさっき来たとこだから」
「おせーぞ、啓」
「俊太も待ってたの?」
三人は並んで歩きながら校門を通った。
「いつものとこに来ないから先に来たら、ランドセル二つ持ってるソルテがいたから話聞いてた。昨日あの後そんなことになってたんだな。学校来て大丈夫なのか?」
「まぁ、色々ね。うちで今はかせとルナメルがやってくれてるから大丈夫」
啓はソルテからランドセルを受け取って背負う。
「ほーん、ソルテは怪我してるけど……?」
「これくらいなら、なんとか。昨日啓の血もらったばっかりだし」
「え、お前らそんなことしてんの……」
俊太は啓の首筋にソルテが噛みついている姿を想像して、それはアウトだろと心の中で突っ込む。
「だってあげないとソルテが倒れちゃうし」
「手首からちょこっともらえば一週間は大丈夫だよ。啓の血すっごいんだから」
「手首なら別にいい、のか?」
手首に噛みついているのを想像してもやっぱりアウトな気がした俊太だったが口には出さなかった。
「ホントは首からもらいたいんだけど、奏にそれはダメーって止められちゃった」
「あの兄ちゃんならそらダメって言うわ、過保護だからな」
それでもあの過保護な奏が血を吸うことを許可したのが凄いなぁと昔から奏と啓を見てきた俊太は思った。話しながら三人が校舎に入るとチャイムが鳴り響く。
「うわ、急がなきゃ!」
慌てて教室に駆け込むことになってしまった三人だった。
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「そういえばソルテ、兄ちゃんどんな感じだった?電話じゃ大丈夫って言ってたけど……」
「結構刀で斬られてたけど平気そうだったよ?やっぱり強いねぇ」
掃除の時間、教室を箒で掃きながら啓が聞くとソルテは朝の奏の戦いを思い返す。奏はところどころ刀で斬られていたが、奏が傷ついていたのは最後の一回だけだった。
「兄ちゃん神様と喧嘩したときもそんな感じだったなぁ。やられても全然気にしないの」
「吸血鬼だの鬼だのの次は神様って……もうめちゃくちゃだな……」
廊下を掃除していた俊太が窓から顔を突き出して話に入ってくる。
「そうだ、今日学校終わったら神様に会いに行ってみる?会えるかはわかんないけど」
「ボク会いたいなぁ。ちゃんとお礼できなかったから……」
ソルテは手を止めて神様のことを思い返す。そういえば奏がクラミルを倒した後、ほとんど喋れなかった。神様ははかせと喋ってソルテがお礼を言う暇もなく、奏と啓を連れて先にいなくなってしまった。
「俺も会えるなら会ってみたいな」
「じゃあ三人で行こっか。鬼のことも何か知ってるかもしれないし」
啓の提案にソルテも俊太も興味を示した。啓は箒でごみを集めながら話を続ける。
「会いに行くってどこだ?神社?」
「うん、よく遊んでる日野古神社、僕が呼んだら出てきてくれるかも」
啓の言う日野古神社は啓たちの町に古くからある神社で面倒見のいい神主さんなこともあり、子供たちの遊び場にもなっていた。
「え、あそこの神様と知り合いなの、すげーなお前……」
「あれ、俊太には言ってなかったっけ?」
「いや初耳だって」
俊太は廊下と教室の間の窓枠に飛び乗って座ると啓や神様について考える。ソルテがいた魔法のある世界、神様はそこにもつながりがある。そして啓は魔法を使える。俊太は、啓は向こうの世界から来たのではないかと考える。
「どうなんだろう……その辺も聞いてみたら?」
「なんでそんな友達感覚なんだよお前は……」
「あんなことがあったら、ねぇ」
啓は遠い目をして神様と出会った時のことを思い出す。ソルテも啓と神様の話に興味津々だ。
「何があったの?」
「ちょっとー月谷、話すだけじゃなくて手も動かしなさーい」
俊太が啓に聞いたそのとき廊下から俊太を呼ぶ声がした。
「ちっ、また後で教えろよ」
俊太は窓から飛び降りて掃除を再開する。
「あんた仲いいんだから、朝日奈くん見習ったら?話しながらでもずっと掃除してるわよ」
「啓は好きでやってるんだよ、あーもうめんどくせー」
ソルテが箒を握りしめたまま廊下で話す俊太を見ていると啓は苦笑いしていた。
「もー俊太ったら……ソルテも、ちゃんと掃除してね?」
「あ、はい」
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そして三人は学校帰りに日野古神社へとやってきた。
「ここで二人は遊んでたの?」
「まぁな、この辺の子供は公園感覚で遊んでる。まぁ隣に公園もあるからその延長みたいな感じかな」
木々に囲まれた石畳の道を歩いて三人は本殿へと向かう。
「えーっと普通に呼べばいいのかなぁ」
「いやお前が知らないのにわかるわけないだろ」
「神様ー会いに来ましたー!いますかー?」
古い木材でできた本殿に置かれた賽銭箱の前で啓が大きな声で叫んでみる。
「すっごい適当……こんなので出てきてくれるのかなぁ」
呼んでからしばらく待ってみても反応は無かった。啓は少し考えてから二人に提案する。
「とりあえず、お参りしてみる?」
「すっげーグダグダじゃん」
「ごめんって」
「お参りってどうするの?」
「はいこれ、お賽銭。その箱に入れて」
啓と俊太が小銭を賽銭箱に投げ入れるのを見てソルテも後に続いて投げ入れる。カランカランと小銭が転がる音が響く。
「まずは二回、礼をします」
見よう見まねで啓と俊太に合わせてソルテも礼をする。
「そしたら二回、手を叩く」
パン、パンと三つの拍手が響き渡る。
「最後に一回、礼をして、終わり……っ?」
啓が言い終わったそのとき、啓の体は光に包まれる。
「何っこれ」
啓が光に気が付くと光は少しずつ強くなっていく。そして光の消滅に合わせて啓も消えてしまった。
突然のことにあっけにとられる俊太とソルテは顔を見合わせる。
「嘘、消えた?」
「啓ー!?どこだー!?」
ソルテは啓の魔力を感じ取ろうと試してみるが啓の圧倒的な魔力はどこにも感じられない。
「どこにいったの、魔力が感じられない」
「神隠しってことか?どうなってんだこれ……」
「あれ、俊太、光ってるけど……」
「いやお前も光ってっ!」
そして、俊太とソルテも神社から跡形もなく、消えてしまった。
「……っ!?」
眩しさに目を閉じていた俊太とソルテは目を開く。そこは雲の上だった。
「え、何?」
「どこだよここ……啓もここにいるのか?」
「啓の魔力、あの建物から感じる……」
地平線まで全て雲に覆われた世界は大きな太陽が燦々と輝き、先ほどまでいた神社と全く同じ建物がそびえたっていた。しかし同じ建物なのに古い木材でてきていた神社とは違って真新しい綺麗な木でできていた。
太陽のあたたかな光に包まれた世界で二人は啓の魔力を感じた社へと歩き出す。
「あ、二人ともー!こっちこっち!」
歩き始めた二人に手を振りながら呼びかける啓が見えた。啓の隣には赤と白の和服を着た少女が立っていた。
「昔から啓と遊んでいた童と……この間の吸血鬼か」
魔法が使えない俊太も何となく感じるほど神聖なオーラを放っていた。
「え、俺のこと知って」
「儂は神じゃぞ。当然じゃ」
俊太の心を読んだかのように神様は胸を張って答える。
「あの、この前は助けてくれてありがとうございました」
ソルテが勢いよく頭を下げて神様にお礼を言うと神様はあからさまにめんどくさそうな顔をする。
「別に、啓に頼まれたから手を貸しただけじゃ。またあんなことが起きたら今度こそ吸血鬼は滅ぼすからな」
「き、気をつけます……」
「ちょっと神様、滅ぼすのはやめてよ。ソルテは友達なんだけど」
「おぬしは相変わらず優しいのう。まぁ、立ち話もなんじゃ、上がれ」
「は、はい」
そして本殿の中に案内され、三人は建物の中に入る。神々しい雰囲気の外観とは裏腹に、中は生活感あふれるごく普通の和風の家だった。縁側を歩いて部屋に入ると神様が啓たちに聞いてくる。部屋の真ん中の炬燵にはみかん、煎餅、饅頭が無造作に置いてあった。
「ほれ、そこの炬燵にでも入っておれ。啓は何が飲みたい?お茶か?ジュースか?」
「じゃあ、お茶ください」
座布団に座った啓がお茶を頼むと俊太とソルテもそれに続く。
「あ、俺はジュースお願いします」
「ボクもジュースを……」
「おぬしらは聞いておらんが」
神様が冷たく言い放つと啓はこたつを叩いて立ち上がる。
「もうっ、そういうことするなら僕帰るから」
「ぐ、わかった……」
せっかく遊びに来てくれた啓をみすみす帰すわけにはいかないと神様はおとなしく啓に従って三人分用意することにした。部屋を出ていく神様の神々しいオーラはどことなくしぼんでいるように見えた。
「なんか、ごめんね……やな思いさせちゃったかな」
「いや別にいいけど、神様なんだから。でも意外と人間と変わらないんだな」
「なんだろ、奏をもっと過激にした感じ?」
「言えてるな」
そこにお茶の入った急須と湯呑、オレンジジュースの入ったグラスを持って神様が戻ってきた。
「おい、儂を奏なんかと一緒にするな」
「でも兄ちゃんとそっくりだよ。多分兄ちゃんも一緒にするなーって怒るだろうし。さっきも僕だけここに連れてきて、僕が頼まなかったら二人を連れてくる気なかったでしょ」
「ぐぬ……それで、今日はなにしに来たんじゃ。ただ遊びにきただけじゃなかろう。まぁ儂としては毎日遊びにきてくれてもいいんじゃが……」
反論できなくなった神様が話題を変えると啓は少し考える。
「えーっとどこから話せばいいのかな……神様は鬼のこと知ってますか?」
「あぁ、もちろん」
そこから啓は昨日、雄飛に突然襲われたこと、奏とはかせが傷ついた雄飛を保護したこと、そして今日の朝、妖狩りとの戦い、連れて帰った凜姫のことを話した。
「そうか、鬼が啓の世界に……しかも妖狩りまで現れたのか……」
「何か教えてもらえることあるかなって」
「……そうじゃなぁ。わかっているじゃろうが鬼はおぬしらのいた世界とは別の、吸血鬼と同じ世界から来た存在じゃな」
神様はお茶を啜ると啓たちの知識を確認する。啓たちの住んでいるこの世界と、もう一つのソルテや雄飛のいた魔法のある世界、その二つが何らかの要因によって繋がっているかもしれない。話を聞いていた俊太が純粋な疑問を投げかけた。
「じゃあなんでこっちにいるんだ?ソルテがこっちに来たのもなんでか知らないし」
「儂もなぜかはわからん。しかも吸血鬼たちは向こうの土地ごとこっちにいるからのぉ。何があったのかは憑依されていたあの吸血鬼に聞くのがてっとり早いんじゃが……」
神様がソルテの方を見るとソルテは俯いて答えた。
「お母さんまだ目を覚ましてないんだ……ボクはわからないし、鬼の二人に聞いてみるのがいいかも」
ソルテは未だに屋敷で眠ったままの母、エクルミアを思い出して胸が締め付けられる。クラミルの支配から解放されてから一週間以上経ったにも関わらずエクルミアの意識は未だに戻る気配がなかった。
「とりあえずそこは帰ったら聞いてみることじゃな。しかし吸血鬼だけなら何かの偶然で片づけてもよかったが……あの白衣の男の言う通り、何かの意思で転移させられたと考えてもいいのかもしれんな」
「はかせそんなこと言ってたの?」
「あやつは色々調べておるらしくてな、何かあったら協力してくれと言われたが、正直なところしたくてもできないのが現状じゃ。神がむやみやたらに人間に関与するのはよくないのじゃ。というか吸血鬼の件もあれくらいで降りるなって怒られたし……」
神様は頭を搔きながら話す。神の間ではクラミルの企みは下界だけで解決するべき事案だったらしい。それを聞いた啓は神の認識に驚いていた。
「あ、あれくらいって……結構大事だと思うけど……怒られたって他の神様に?」
「おかげで監視が強くなってしまってなぁ。たまに下界に降りて遊んでいたのじゃがそれもできんのじゃ……」
「俺たちがこっちに来るのはいいんですか?」
愚痴を漏らす神様に俊太が質問すると神様は開き直ったように答える。
「本当は人間を神界に連れてくるのもよくないんじゃが、啓ならいい。儂が啓を愛でて何が悪い、怒られたら全員ぶちのめしてくれるわ」
「啓のことになるとブチギレるのも奏くんそっくり。そういえば、聞きたかったんだけど何で神様と啓は知り合いなんだ?」
ここぞとばかりに俊太は気になっていたことを質問する。
「んーと、昔神様が僕をさら……」
「待て啓、その話は」
慌てて啓の口を塞ぐ神様だったが啓は首を傾げる。
「言っちゃダメかな?」
「……今ので大体察しはついた。神様が啓を攫って、そこを奏くんが助けたとかそんなとこか?」
「すごい、ほとんど合ってる」
あっさりと自分で答えにたどり着いた俊太に神様はごまかすように煎餅をかじる。
「啓がボクと攫われたとき落ち着いてたのはこんなことがあったからなんだねぇ」
「だってあの時の兄ちゃん凄かったもん」
そして啓は神様と出会ったときのことを話し始めた。




