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第三十話 刀と拳とランドセル

 



「こりゃ、中々、手ごわいなっ」


 パジャマ姿の奏は少女の斬撃を紙一重で躱しながら反撃の隙を伺う。


「貴様、なぜ人間なのに妖の味方をする」

「なぜって言われても、ねぇ」


 奏が一発片腕で刀を受けた隙を突いてソルテのレーザーが襲い掛かる。


「別にこいつらに恨みはねぇしな」


(ちょっと面倒なのに巻き込まれはしたけど……今はいいか)


 刀でレーザーを弾きながら少女は離れて間合いを取った。刀を鞘に戻すと目を閉じて増大した魔力を集中させる。


「それに弟が楽しそうにしてるからあんま邪魔しないで欲しいんだけど」


 奏の台詞に少女はふぅと一呼吸すると刀に魔力を流し込んでいく。


「……今は良くても、いずれ裏切られるぞ。所詮人とは違う生き物だ」

「ボクは啓を裏切ったりしない!」


 その言葉に反応したソルテは目を赤く染めるほどに魔力を解放して刀を握る少女に向かって突っ込む。槍はソルテの感情に呼応するように炎を噴き出す。


「業突・朝輝焔旋(ちょうきえんせん)っ!」


 ソルテは怒りに任せて炎を纏った槍を振るう。振るった軌道に残る炎が朝日を反射してキラキラ輝く。

 奏の目に少女が刀を持つ手を動かそうとするのが見えた。次の瞬間には、少女は刀を抜きさっていて、斬られた槍の穂先が宙を舞う。


「感情的になるな!」


 返す刃で一刀両断されそうになったソルテの前に奏が割って入った。奏は魔力を纏う刀に蹴りで対抗する。

 ぶつかり合う足と刀、その衝撃でソルテは吹き飛んでしまった。


「うわぁぁぁ!」

「いいからその物騒なもん、しまえよ」

「それはできない相談だ」


 少女はその小さな体から想像できないほどの力で無理矢理奏を押し切ってしまう。奏は空中で体勢を立て直して綺麗に着地した。


「ソルテ、下手に手ぇ出すな。俺一人でいい」


 奏が手を伸ばして魔法を使おうとしたソルテを制止する。


「わ、わかった……」


 尻もちをついたソルテは立ち上がると二人から距離を取った。奏は拳を握り、少女を見据える。


「なーんかお前悪いやつには見えないんだよな。けど、そっちがやる気なら付き合うぞ」

「はっ!」


 少女は横一文字に刀で薙ぎ払うと斬撃を飛ばす。奏は跳躍して斬撃を避けると合わせて距離を詰めてきた少女に拳を叩きこむ。


「貴様……!」


 拳と刀を互いにぶつけ合う両者。斬撃を喰らってパジャマは斬られても奏は何事もなかったかのように拳を繰り出す。対する少女は奏の攻撃を受けて少しずつキレが鈍ってきていた。


「なぜ、ここまで……」

「弟にはやりたいようにやって欲しいんだよ。あいつがあの鬼を助けたいって思ったなら俺はその手助けをするだけだ」

「いつか後悔することになってもか」


 少女が振るったその刀を奏は右腕で止める。腕にできた小さな傷から赤い血が染み出してくる。


「危ないことはさせないし、最悪俺がなんとかする」


 奏の言葉を聞いた少女は刀を下げる。


「そうか、やってみるがいい」


 そう言うと少女は奏の右肩めがけて刀を振り下ろした。


「奏っ!」


 ソルテが叫ぶ。

 雄飛の腕を切り落とした斬撃、奏はそれを真正面から受け止めた。


「流石に、痛いな……」


 奏の肩から血が流れ出る。しかし奏は気にせず少女の刀を持つ手を握る。


「そろそろやめようぜ、続けたとこで意味ないし」

「何者だ、ただの人間ではあるまい」

「ただの人間だよ。魔法も使えない、ちょっと頑丈なだけだ」


 奏の答えを聞いて少女は少し考える。


「……名は何という」

「朝日奈奏、俺がいつでも相手してやるから、うちの弟たちに手ぇ出すな」

「朝日奈奏、覚えたぞ」


 少女は奏の手を振り払うと刀を鞘に戻すと、そのまま背を向けてその場を去ってしまった。少女は堤防を一足で跳び上がり、町へと立ち去る。

 奏は地面に寝転がって背伸びをして大きく息を吐いた。


「あーー疲れたーーー」

「だ、大丈夫?」


 離れて見守っていたソルテが奏に駆け寄ってくる。


「まぁなんとかな。最後のやつは流石にきつかったけど」

「守ってくれて……ありがとう」

「気にすんな。お前に何かあったら啓が悲しむってだけだ」


 ソルテは奏の隣にしゃがんで奏の傷口を塞ぐために魔法を唱える。


「血止めるよ。操血(そうけつ)(ぎょう)


 右肩に触れたソルテの血の魔法で流れる血はみるみる固まって止血が完了する。


「悪いな、はかせに貰った余ったお札も貼っとくか」


 奏はズボンのポケットに突っ込んでいた回復札を傷口に貼りつける。


「こりゃ遅刻しちまうな、帰るか……って啓のやつランドセル置いてったのかよ。これ持って直接学校行ってくれ、このままじゃ啓が遅刻する」


 奏は立ち上がってパジャマに付いた砂や草を払い落とす。ソルテは乱雑に置かれた自分と啓のランドセルを回収するとまじまじとランドセルを見て呟く。


「またルナメルにランドセル汚すなって怒られる……」

「俺もしょっちゅうそういうので怒られてたから気にすんな」




 ~~~~~




 家に雄飛と凜姫を連れて帰ってきた啓。瀕死の凜姫は静かに眠っていた。

 ようやく起きたはかせが凜姫の様子を見ていた。


「これはまずいな、魔力がすっからかんじゃないか」


 凜姫の状態を把握したはかせは何かを探しに自分の部屋に慌てて戻っていった。


「なんで、助けてくれたの」


 静寂に包まれた部屋で凜姫の隣に正座している雄飛は啓にぽつりと尋ねる。


「なんでって……別に理由なんて……」

「このままじゃ、君たちも殺されちゃう……」


 自分の中で抱えていたものを吐き出した雄飛に啓はキョトンとした顔で尋ねる。


「どうして?」

「俺たちをかばってくれた人間は全員……アイツに……っ!」


 雄飛は残った左手をぎゅっと固く握りしめて涙をこらえる。それを見た啓は雄飛の手を取って雄飛の目を見つめる。


「大丈夫だよ。僕は、力になれないかもしれないけど……兄ちゃんもはかせもソルテもみんなすっごく強いんだから。ついこの前だって吸血鬼の王様?をやっつけちゃったし」

「……それでも、巻き込むのは……」


 ガラッ


 引き戸が音を立てて開かれる。


「啓の言う通り、安心してくれ茨木くん。いきなり信用しろって言っても無理かもしれないが、できる限り協力するよ」

「巻き込んじゃって……ごめんなさい……」


 雄飛が謝ると部屋に入ってきたはかせは白衣から持ってきたものを取り出して床に広げていく。


「謝ることはないよ、こっちにも関係あることだからね。まずはお姉さんを何とかしよう。姫ってことは酒吞童子(しゅてんどうじ)の直系かな?」


 はかせは奏にも持たせた回復札を治りの悪い傷口に貼りつけていく。そして青い液体の入った瓶を取り出す。


「しゅてん……?ってなんだ?」

「あれ、鬼なのに知らない?昔いたって言われてる鬼の首領なんだけど。啓、そっと頭を上げさせて、この魔力薬を飲ませるから」

「こう?」


 啓が凜姫の首と頭を持ち上げるとはかせは瓶を開けて少しずつ凜姫に飲ませていく。


「そうなんだ……初めて聞いた」

「君も名前から考えて……こっちも有名な鬼だね、茨木童子の血を引いてるんじゃないかな」

「茨木童子……名字は同じだけど、聞いたことない」


 凜姫に薬を飲ませたはかせは雄飛に向かい合う。


「ひとまずお姉さんの方は最低限魔力を回復させたから大丈夫。あとは自然に回復するのを待とう」

「ありがとうっ……もう、助からないかと思ってた……」


 雄飛は涙をこぼしながら頭を下げる。


「どういたしまして」

「あとは、兄ちゃんとソルテが無事だといいんだけど……」

「あの二人なら大丈夫でしょ。相手は一人なんだし」


 心配する啓とは真逆に楽観的なはかせ。

 啓が二人を心配していると啓のスマホからプルルと音がする。啓はスマホを取り出すと表示された“兄ちゃん”の文字を見て即座に電話に出る。


「兄ちゃん⁉大丈夫?」

『ああ、大丈夫だ。まぁ服は大丈夫じゃないかもだけど』


 奏の声を聞いた啓はほっと胸をなでおろす。


「怪我してないならいいよ、僕が直しとくから。ソルテは?」

『ちょっと待ってな。ほい、啓が心配してるぞ……あーこっから向こうの声聞こえるから耳当てて、あとは喋ればいい』


 どうやら奏がソルテにスマホを渡して使い方を教えているらしい。少しするとスマホからソルテの声が聞こえてきた。


『これで啓と話せるの?』

「ソルテ?聞こえる?」

『うん。ボクも大丈夫』

「よかったぁ。こっちの茨木くんたちも大丈夫そうだから。じゃあ学校で会おう」

『うん、わかった。啓、ランドセル置いてったでしょ。ボクが持ってくから』

「あ……!すっかり忘れてた。ゴメン」




「これどうやって啓と喋れるようになってるの?」

「んー?確か基地局ってやつと電波で通信してそっから啓と繋がるみたいなのだったと思うけど」

「デンパ?キチキョク?難しいなぁ……」

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