第二十九話 だいじょうぶ
家を飛び出した啓とソルテは雄飛の向かった方へと走っていた。
「ソルテ!ほんとにこっちであってるの?」
「うん、昨日と同じ魔力感じるんだ」
二人は通勤、通学の人たちが増えて人通りの多い町中を走る。しかし、身体強化した雄飛の足は速くどんどん引き離されてしまう。
啓もソルテも身体強化ができないため追いつくことはできず、立ち止まる。
「はぁっ、もうほとんど感じなくなっちゃった」
ソルテは辺りを見渡すがもう既に雄飛の魔力は感じられなかった。少し後から追いついて来た啓が水筒を渡す。
「これ、お茶だから、飲んで」
「ありがとう。何も考えずに飛び出してきちゃったけど、見つけたらどうする?」
ソルテが水筒の麦茶を飲みながら啓に聞く。
「僕も正直何も考えてないんだけど……でも茨木くん怪我してるし言えないこともありそうだったし……何か手伝えることないかなって。家に連れて帰ろう」
「……啓らしいや、こっちの方にいると思うから行こう」
お茶を飲んで休憩した二人は雄飛を探して歩き始めた。
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「凜姉、ただいま……」
凜姫のいる橋の下に戻ってきた雄飛は凜姫に声をかける。
「おか、えり……」
ボロボロのソファに横たわる凜姫は荒い息で雄飛を出迎える。起き上がった凜姫は雄飛の腕を見て声を失う。
「なっ、雄飛、その腕……」
「っ、ごめん、俺、俺……」
凜姫に会って雄飛の中で抑え込んでいた涙が溢れ出す。凜姫の元に駆け寄った雄飛は泣き崩れてしまった。
「っぐ、ぅぇぇ」
凜姫はそんな雄飛の背中をそっと撫でる。それでも雄飛は小さな声で泣き続ける。
「大丈夫、大丈夫」
しばらくそうしていると少しずつ落ち着いてきた雄飛に優しく問いかける。
「泣くな、雄飛、私を守ってくれるんじゃなかったのか?」
「でもっ、俺、何もできなかった……凜姉のためにって関係ない人連れて行こうとしたのに、結局そいつに助けられて、飯ももらって……俺……何、やってんだろ……」
雄飛の言葉を聞いた凜姫は少し考えてから雄飛の頭を撫でながら語りかけた。
「私のために頑張ってくれてありがとな。その腕、妖狩りにやられたんだろう、ここがバレるのも時間の問題だ。お前一人でもっと遠くに逃げろ」
「嫌だっ、俺には、凜姉しかいないんだ……だから、そんなこと言うなよ」
拒絶する雄飛の頭を撫で続ける凜姫は優しく雄飛を諭す。
「この怪我じゃ足手まといになるだけだ。お前だけでも逃げないと……」
覚悟を決めた凜姫の言葉。それを聞いた雄飛も覚悟を決めて立ち上がろうと力を込めたその時だった。
「「見つけた」!」
雄飛と凜姫にとって忘れることのない冷たい無機質な声と、明るい少年の声が同時に響いた。
刀を持った少女と啓、ソルテが雄飛たちを挟むようにやってきた。少女は自分と同時に声を上げた啓たちの方を見て小さく疑問を口にする。
「……人間と吸血鬼がなぜ鬼の姫を……」
「大丈夫⁉」
啓は少女に目もくれず、雄飛と凜姫の元に駆け寄って無事を確認する。
「ぁ、君は……」
「心配しないで、僕で何か力になれることないかな」
そんな啓とは正反対にソルテは少女を見て背筋が凍っていた。
(あの女の子、魔力もだけど……殺気が凄い)
「あなたは、一体……」
ソルテの問いに少女は答えることなく、雄飛と凜姫の元へと歩いていく。
「ゃ、め、来るな」
「君が、茨木くんを……?」
怯える雄飛とその前に立ちふさがる啓を一瞥すると少女は刀を抜いて魔力を浸透させていく。その様子を見たソルテは咄嗟に魔法を使う。
「サンライトレーザー!」
少女はレーザーを刀を軽く振るっただけで弾く。弾かれたレーザーは川に着弾して大きな水しぶきを上げる。
「私の任務は鬼の姫の首だ。邪魔をするな」
水しぶきの中、少女はソルテを威圧するように刀を向ける。
「今、啓もまとめて斬るつもりだったでしょ」
「当然だ、鬼に与する人間は同罪だ」
当然だという少女の答えにソルテは怒りをにじませる。
「じゃあ、君はボクの敵だっ!浄焔槍・三叉ッ!八連!」
翼を広げたソルテは砂埃を上げながら少女に八連突きを繰り出す。
少女は刀で槍を捌ききると、魔力を込めて大きく一閃振り抜く。
「っつう!」
辛うじて槍で受け止めたソルテだったが少女はすぐに刀を引いてさらに一閃斬りつける。ソルテは飛び退くと自分の周りを球状のシールドを張る。
「サンライトシールドッ!啓、二人を連れてって!」
「わかった、無理しないでね。行こう、二人とも立てる?」
啓は雄飛と協力して凜姫を連れ出す。しかし少女は自信の表れなのか逃げる凜姫を気にも留めず、連続斬りでソルテのシールドを音を立てて破壊してしまった。
「失せろ」
少女はソルテの懐まで踏み込んで刀を振るう。ソルテは槍で受けるが逸らした斬撃が顔に一筋切り傷を作る。
(この子、強いっ)
「サンフレアブラスト!」
接近戦は不利だと判断したソルテは羽ばたいて空中へ飛び上がる。槍先に込めた魔力から放出された太陽の力を秘めた炎が少女に襲い掛かる。
少女は魔力を凝縮して刀に纏わせると大きく振り抜いた。その斬撃は火球を切り裂いて飛んでいるソルテにまで到達する。
「サンライトシールド!」
ソルテは咄嗟にシールドを展開するが斬撃一つで破壊されてしまう。爆炎の中少女は跳躍してソルテの上から刀を振り下ろす。
「嘘でしょ⁉」
「落ちろ」
「くぁっ!」
ソルテは槍の柄で受け止めるもその圧倒的な力に地面に叩きつけられる。更に追撃を仕掛けてくる少女にソルテは低空飛行で避けていく。
「サンフレアスパーク!」
槍を地面に滑らせるとそこから魔力の衝撃波が少女に飛んでいく。それにも少女は動じることなく全てを斬り捨ててソルテに接近する。
「紅の幻罪」
ソルテは体を赤い霧にして少女の後ろに回り込む。
「小賢しい」
少女が魔力を込めた刀で斬りつけると霧になったソルテの体を捉える。吹き飛ばされたソルテは傷を押さえて血の魔法で塞いでいく。
「その程度で惑わされると思うな」
(魔力の刀、どうすれば……)
体勢を立て直しながらソルテが考えを巡らせる中、少女は歩いて近づいてくる。ソルテは少女を見つめながら次の手を必死に考えていた。
「っと!昨日から物騒なもん振り回してんのはてめぇか!」
突如、二人の間に割って入る人物が現れた。土埃が晴れて学ランを着たそのシルエットが明らかになっていく。
「奏!」
「ったく、飛び出したって聞いたから慌てて探しに来てみりゃ、啓は手負いの鬼二人も連れてるし、こっちはこっちで朝っぱらからバチバチにやりあってんだから世話ねぇな」
割って入ってきた奏はソルテに話しかける。奏はここに来るまでに一度啓に会っていた。啓、雄飛、凜姫を保護するようルナメルに頼んだ奏はソルテの元にやってきていた。
「昨日の人間……貴様も妖に与しているのか」
「別に俺はどっちでもないんだが、うちの弟に斬りかかろうとしたと聞いちゃあね。それに一応こいつら吸血鬼は悪いやつじゃねぇってのは知ってるつもりだぞ」
少女に聞かれた奏はソルテを親指で指しながら答えた。しかしそれを聞いた少女の刀を握る手が強く握りしめられる。
「妖は遍く全て“悪”だ。滅ぼさなくてはならない。妖に与するものも残らずだ」
そう言って刀を振りかぶった少女が斬りかかってくる。奏は横に避けて回し蹴りを叩きこむ。少女は飛び退いて奏から距離を取る。
「はぁっ!」
一歩、踏み込んで斬撃を飛ばす少女。奏は右腕に力を込めて斬撃を受け止める。
「奏⁉」
「あぁ、問題ない」
立ち上がったソルテは奏の元にやってくる。奏は腕を見せて無事をアピールする。渾身の一撃を無傷で受けられた少女の魔力が膨れ上がった。
「その腕、鬼と同じように切り落とす」




