第二十七話 鬼を狩る者
欠損描写があります。苦手な方はご注意ください。
「は?啓を狙って襲ってきたやつがいる?」
「吸血鬼の次は鬼か……こりゃ本格的に調べないとだな」
家に帰った啓とソルテは帰り道に起こったことをはかせたちに話していた。はかせはルナメルとソルテを横目にお茶を啜る。
「坊ちゃま、戦うのは結構ですがせっかく買ったランドセルを雑に扱わないでください」
「ごめんなさい。ついカッとなっちゃって……」
ソルテはルナメルに怒られて少しだけシュンとしていた。
「あ、そこなんだ」
啓がボソッと呟くとソルテが啓の方へとやってきた。
「ねぇ啓、血分けてよ……」
「いい、けど……」
啓は奏の方をちらりと見る。つられてソルテも奏を見て「あー」と声を上げる。
「……最低限だぞ。啓が助かったのはお前のおかげだし」
「ほんと⁉ありがとう!」
ソルテはそのまま啓に抱きついて首筋に歯を立てようとする。
「ちょ、そこはダメ、手首にして」
「えー」
「だって首だとしばらく立てなくなっちゃうから……」
仕方なくソルテは啓の差し出した手に噛みつく。
「あう、やっぱ慣れないなこれ」
「んーやっぱり啓の血だけは甘くておいしい」
夢中になって血を吸うソルテから啓は目をそらす。
「嬉しいけど、嬉しくない……」
そこまでだと言わんばかりに奏がソルテを啓から引き剥がした。奏は物足りなさそうにするソルテをルナメルの元へ戻した。
そしてそのまま奏は扉に手をかけて啓たちに言った。
「ちょっとその鬼探してくる」
「え、兄ちゃんご飯は……」
「すぐ戻る、啓に手ぇ出したこと後悔させてやる」
静かに怒りをにじませる奏を啓は引き止める。
「そんなことしなくていいよ、ソルテがやっつけちゃったし、それに……」
啓は何か感じるものがあったのか雄飛に会った時のことを思い返す。
「それに?」
「鬼の子も何か事情がありそうだったから」
引っかかることがあってもうまく言葉にならずに濁すことしかできない啓を見てはかせも立ち上がった。
「よーし僕も行くか。まさかとは思ったけど吸血鬼以外がこっちにいるとはね。啓はソルテとルナメルと待っててくれ」
「承知しました。お気をつけて」
「俺がいないからって啓の血吸うなよ」
奏はソルテに念押しすると部屋を後にした。
「じゃ、すぐ戻るから」
「いってらっしゃい」
はかせも奏に続いて部屋を出た。二人を見送った啓はため息をつく。
「……はぁ、兄ちゃんったら」
「啓」
ソルテが啓の肩を叩く。
「血はもうだめだよ?」
「今度は普通にお腹空いた」
マイペースな兄と友達に呆れる啓だった。
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「っ、ぅう」
ソルテと戦った雄飛は傷だらけの体をかばいながら路地裏に身を隠していた。ソルテのサンライトレーザーに焼かれた傷を治そうと魔力を傷口に集中させる。
「はあっ、はあっ、痛え、けど凜姉はもっと……」
痛む肩と脚、魔力を消耗して溜まっていく疲労に弱気になる雄飛。でも凜姫のことを思うと自分の傷なんてまだまだ大したことないと心を奮い立たせる。
「まだ、アイツの魔力は感じる、夜まで待って……」
いや、それだと凜姫を待たせすぎか、と雄飛は考える。その時だった。
「見つけた」
冷たく無機質で機械的な声が路地裏に響いた。感情のこもっていないその声に雄飛は反射的にその声の主の方を振り向く。
「なんでわかった……!」
「貴様一人か、鬼の姫はどこに行った」
白と桃色を基調とした和服に身を包み、刀を腰に携えた少女は座り込む雄飛を見下しながら問いかける。
「教える訳、ねえだろうがっ!」
雄飛はすぐに立ち上がり逃げ出そうと少女の来た反対側へと駆け出す。
「行かせる訳ないだろう」
少女は一瞬で雄飛の前に移動し、刀を突きつける。
「姫の居場所を吐け。そうすれば楽に逝かせてやる」
刀に魔力を浸透させ脅迫する少女。しかしその声は変わらず無機質で感情がこもっていなかった。
「断るっ!」
戦う覚悟を決めた雄飛は拳を固く握りしめた。
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「げほっ、何されても、ぜってぇに言わない……」
闇の中、ボロボロになり傷だらけになった雄飛は首元を掴まれ持ち上げられていた。雄飛を掴んだ少女は冷たい声で言い放つ。
「さっさと吐け、腕を切り落とすぞ」
「んなことしても……言わないからな……」
「そうか」
雄飛の返答を聞いた少女は首を掴む手を放して刀に手をかけた。雄飛は尻もちをつき、満身創痍で動けないまま少女を睨みつける。そして
ひゅんっ
魔力の込められた刀が振り下ろされた。
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「ぐああああ!!!!!」
日が沈み、街灯が照らす街を歩く奏とはかせの耳に少年の叫び声が聞こえてきた。二人は声のした方角を振りむくと顔を見合わせる。
「っ⁉今の声は?」
「かなりの魔力も感じた、行ってみよう」
二人は声と魔力を感じた辺りに走ってやってきた。
「この辺でした気がするんだけどな」
「ちょっ、奏速い……はぁっ」
大した距離ではないのに肩で息をしているはかせに目もくれず、奏は周りを見渡す。
そして表の通りから裏へと続く一本の道を見つけた。
「こっちか!」
奏は迷わず路地裏へと入っていった。はかせも慌てて後に続く。
「もうちょっと慎重に……って聞いてないな」
そして、奏は鬼の子と少女に遭遇する。右腕を切り落とされ、ぐったりとする雄飛と血に濡れた刀を手にして冷徹な目で雄飛を見下ろす少女。
奏とはかせに気が付いた少女は奏たちを見て一瞬思考する。
「これ以上尋問しても無駄……一度引くか」
そして少女は刀を振って血を落とすと鞘にしまい建物の屋上へと壁を蹴って登っていく。
「は?」
少女は呆気に取られる奏とはかせを一瞥すると屋上から屋上へと飛び移って行ってしまった。
追うべきかとも思った奏だが目の前で倒れている鬼の子を思い出して雄飛の元に駆け寄る。
「はかせ!こいつどうすりゃいい?」
「っ、あぁ、まずは止血しないと……凍結させる。冰箋・六花」
懐から札を取り出したはかせは血が止まらない雄飛の肩に貼りつける。みるみるうちに六角形の氷ができて止血が完了する。
「腕も回収してっと」
「くっつけられたりすんのか?」
「この鬼が俺の知ってる鬼ならな。奏はこの子背負って帰ってくれ。俺はここの後始末するから」
「わかった。鬼ってすげーな」
現場になった路地裏は人通りが少ないとはいえ、かなりの量の血が流れており、騒ぎになるのは時間の問題だった。奏は雄飛を優しく背負って立ち上がる。
「とりあえず家帰ったら寝かせといてくれ。これ回復する札だから貼っといて。あとは氷が溶けそうだったらこれ、追加で貼って」
はかせは右腕がないことと鬼の角を悟られないよう白衣を雄飛に被せて奏を送り出す。そしてスマートフォンを取り出すと電話をかけた。
「あぁ、僕だ。急ぎで頼みたいことがあって……」
雄飛を背負った奏は家に向かって走り出した。できる限り負担をかけないように路地裏をかけていく。
「なぁお前、大丈夫か?」
(ってアレ?鬼ってことはこいつが啓を襲ったんじゃ?なんでこいつが死にかけてるんだよ)
「ぅぅ、り……ぇ」
「まだ息はあるな。もうちっとだけふんばれよ」
奏は人を一人背負っているとは思えないほど軽い足取りで歩く人たちを避け、信号も待たずに一足で跳び越える。
(誰……だ、凜姉じゃ……ない、けど……なんだか、ほっと……する)
奏の声に一瞬意識が戻った雄飛だったが敵意が無いことに安心してまた意識を飛ばしてしまった。
そして奏の脚力であっという間に家に到着する。
「兄ちゃんおかえり!」
「啓、悪いけど布団用意してくれ。あと水とタオル」
奏の頼みに啓はきょとんとする。
「なんで……急に」
奏は雄飛を寝かせるとはかせに貰った回復札を傷口に片っ端から貼りつけていく。啓は雄飛の頭から角の生えているのを見て察する。
「その子もしかして……」
「あぁ、鬼だよ。頼んだ」
ソルテとルナメルも何事かと顔を出してくる。啓は慌てて自分の部屋に入っていった。
「すぐ準備する!」
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「……起きないねぇ」
「こんだけやられてたらなぁ」
「ボクの槍でも貫けなかったのに……」
空に月が高く昇り、星が輝く夜、啓と奏、ソルテは雄飛を囲んでいた。雄飛は右肩を凍結されて、他の傷は包帯を巻かれて眠っていた。啓は絞ったタオルで雄飛の汗を拭きとる。
「この子もソルテみたいに何かあったのかなぁ。兄ちゃんの見た女の子も気になるし」
「それでも、啓を襲ったのは許さない」
ソルテは複雑そうな表情で雄飛を見つめる。
「いやお前も最初いきなり啓に噛みついて来ただろ」
「兄ちゃん今はそれ関係ないでしょ」
「あとは私が見ていますから、坊ちゃまたちはお休みください」
ルナメルが部屋に入ってきてソルテたちに告げる。ルナメルは包帯や着替えなどを手早く交換していく。
「ごめんね。後はお願いします」
「いえいえ、皆様明日も学校がありますので。お任せください」
ルナメルに雄飛を任せて啓たちは部屋を出た。どことなく暗い雰囲気が漂う中、夜は更けていった。




