第二十六話 対決!吸血鬼vs鬼
「一晩中探してもダメかぁ……」
雄飛が凜姫の元を飛び出してから既に一晩経っていた。人通りの多い商店街近くの建物の屋上で通りゆく人々の魔力を観察していた。
「くそっこれじゃ凜姉が……」
雄飛がここは諦めて移動しようとしたそのとき、視界の隅にとある少年が映った。
「今日はご飯どうしよっか。ソルテは食べたいものある?」
「んーと、なんでもいいかな、啓もルナメルも料理上手だから」
「えー、兄ちゃんと同じこと言わないでよ。なんでもいいが一番困るんだけど……」
「これが小学生の朝一でする会話かよ」
登校中の啓とソルテ、俊太が話しながら歩いてきていた。啓は魔力が感じ取れる者なら誰でもわかる程の圧倒的な魔力を周囲に溢れさせていた。
「アイツ、とんでもない魔力を持ってるな……よしっ」
これなら魔力補給にぴったりかも、と思った雄飛はこっそりと後をつけることにした。
屋上から音もなく飛び降りると建物や電柱の陰に隠れて啓たちについていく。
「あんなに魔力持ってるの鬼でも見たことないぞ、なのにどう見ても普通の子供って感じだな……」
雄飛は独り言をつぶやきながら物陰から啓を観察する。しばらく後をつけていくとソルテが立ち止まって後ろを振り返る。
「……!」
気づかれたのかと思った雄飛は慌てて身を隠して声を出さないように口を押える。
「ねぇ、さっきからなんか後ろつけられてない?」
「え?僕はわからないけど……」
「そりゃ学校近いし同じ道通るやつもたくさんいるだろ」
首をかしげる二人と後ろをじーっと見続けるソルテ。
「いやそうじゃなくて、魔力を感じるんだ。家を出たときは感じなかったんだけど……」
(隣のやつはなんだ……?人間じゃない、妖怪なのか?)
「えー?でも早くしないと遅刻しちゃうよ?」
先を急ごうとする啓にソルテはうーんとうなって考える。
「うーん……一応気にしておいてね」
「吸血鬼みたいな妖怪か……?俺は知らねーっと」
「関係ないふりしてるけど俊太もとっくに関係者だよ」
啓の言葉に俊太は大きなため息をついた。
「めんどくせー」
「ほら行くよ」
啓に連れられて二人は学校に向かうことにした。隠れていた雄飛は恐る恐る身を出して啓たちの様子を確認する。
「とりあえずバレてないな……」
雄飛は大きく息を吐いて呼吸を整えると今度は距離を離して啓たちの後をつけていく。
しばらくついていくと啓たちが学校に入っていくのを見た雄飛は侵入するべきか考えだす。
(これ入ってもいいのか?でも入ってく子供みんな同じようなカバン背負ってるしなぁ。絶対怪しまれるだろ……)
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そして下校時刻、啓たちの教室では続々と生徒たちが帰って行く中、先生がソルテに話しかけていた。
「どう?ソルテくんは学校慣れた?」
「はい、みんな優しいから。それに啓もずっと一緒にいてくれるし……ただ……」
ソルテは何が言おうとしたものの口を噤む。
「どうしたの?何か困ってることある?」
「あ、や、そうじゃないんだけど……」
誤魔化しながらソルテはちらりと窓の外を見た。
(朝のアイツ、ずっといる……)
「何かあったらすぐ言ってね。朝日奈くんも色々手伝ってもらっちゃってごめんね」
「僕はソルテが学校楽しいならそれでいいよ」
「啓が世話焼きすぎなだけな」
「そうかなぁ、そんなことないと思うんだけどなぁ」
実際のところほとんど啓がつきっきりだったのであながち俊太の言うことも間違っていないかもと思ったソルテだった。
「それじゃあまた明日ね。さようなら」
「「「さよーなら」」」
啓たちが学校を出るとソルテが立ち止まった。そのままきょろきょろと辺りを見渡す。
「どしたの?」
「朝言ったの覚えてる?ずっと監視されてるんだ……早く帰ろう」
「……俺じゃないよな、普通に考えて。目的は啓かソルテか?」
帰り道、ソルテはずっと周りを警戒しながら歩いていた。そして俊太の家との分かれ道までやってくる。
「じゃな、また明日。気ぃつけろよ」
「うん。またね」
そして二人がしばらく歩いていると周囲から人の気配がなくなった。その時だった。
「……啓!」
いきなりソルテが啓の手を握って引きよせた。
「うわっ!」
「なんだ、やっぱりお前人間じゃないな」
さっきまで啓がいた場所には角の生えた鬼、雄飛が立っていた。
「そんな大きい角生えてるそっちこそ……」
「鬼……なの?」
ソルテは啓を庇うようにして前に出る。
「悪いけど、そいつが必要なんだ」
「なんで?朝からずっとつけてたでしょ、せっかく学校楽しみにしてたのに……!」
ソルテは怒っていた。啓を、最初の友達を傷つけようとした上に、ようやく手に入れた平穏な生活を台無しにされる、そう感じたソルテは魔法で槍を出現させて雄飛に向ける。
「浄焔槍・三叉。これ以上邪魔しないで」
「物騒なやつだな……でも、こっちにも引けない理由があるんでね!」
ソルテの目には雄飛の足に魔力が集中するのが見えた。そしてそれを認識したときには拳を握りしめた雄飛が目の前に一瞬で移動してきていた。
「どおりゃあ!」
「ぐっ、重っ」
咄嗟にソルテは槍の柄で受け止める。自分よりも少し体の小さな鬼の拳は想像を超える威力だった。腕から全身へとビリビリと衝撃が伝わっていく。
「ちょ、ちょっとソルテ⁉こんなとこで」
「業突・八連!!」
啓の制止も無視してソルテは反撃に出た。目にも止まらぬ八連突き、雄飛は身体強化をかけて槍を体で受け止める。
「いってぇなぁ!!」
槍を止めて好機とみた雄飛が殴り掛かろうとしたその時、槍から勢いよく炎が吹き出した。
「浄焔槍・業焔!」
「ソルテってば!」
啓の声が届いている様子もなく、ソルテは太陽の力を解放して魔法を撃ち込む。全身を炎に包まれながら吹き飛んだ雄飛は空中で姿勢を立て直して着地すると軽く手で払って火を消す。
「街中でぶっぱなしていい火力じゃねぇだろ……!」
「じゃあ、さっさと帰って」
「断る!」
建物の壁を使って立体的な軌道を描いて接近する雄飛。ソルテは雄飛の攻撃に合わせてカウンターの槍を突き刺そうと構える。
「お前に用は無いからな!」
雄飛はソルテに攻撃するように見せかけてその傍をすり抜けるように移動する。
啓が気がついた時には既に雄飛は目の前に迫っていた。元々の身体能力は普通の小学生と変わらない上に魔力を使った身体強化もできないので、当然反応できるわけもなく雄飛に抱き抱えられる啓。
「これで……」
「えっ、ちょっ、また?」
ついこの間も同じような目にあった気が……と啓が思ったのも束の間、雄飛は更に加速して街中を駆け抜けていく。
「啓を……離せっ!」
新品のランドセルを吹き飛ばして翼を広げたソルテが追いかける。
「これで……やっと……」
「サンライトレーザー!」
ソルテは飛びながら正確に狙いを定めてレーザーを撃ち込む。
「だからっ、街中でそんなもんぶっ放すなよ!」
「ソルテっ、やりすぎだよっ」
雄飛は間一髪のところでレーザーを避けるが二発、三発と次のレーザーが襲いかかる。
怒っていて啓の声すら届いていないように見えるソルテ。しかしその実、冷静に雄飛の次の動きを予測、啓には当たらないようにレーザーを放っていた。
そして一発が雄飛の脚を掠る。
「ぐぅっ……」
一度被弾してしまった雄飛はソルテの猛攻が避けきれなくなり連続してレーザーが当たり始める。
「があっ!」
雄飛の肩を一筋の光が貫いた。
肩を貫かれた雄飛は啓を抱え切れずに落としてしまう。
「啓っ!」
これ以上の攻撃は不要と判断したソルテは翼に魔力を集中させて加速する。
「あ、ありがとう……」
地面に落ちるスレスレでソルテは啓をキャッチした。そのままふわりと着地して啓を降ろす。建物の屋上に着地していた雄飛はそのままどこかへと去ってしまった。
「どっか行ったみたいだね……怪我してない?」
ソルテは啓の全身を怪我がないかくまなくチェックする。
「その、心配してくれるのは嬉しいんだけど、ソルテもやりすぎだよ?」
「そんなことない、一日中つけ回した挙句いきなり襲ってくるようなやつ……」
啓に嗜められて反論するも自分のやったことを振り返るとその通りかもしれないとソルテは思い始めた。
「やっぱりやりすぎたかも。ごめん」
「あ、でも兄ちゃんみたいに周りのもの壊してないからまだセーフかも?」
啓は辺りを見渡しても特に壊れているものがないことに気が付く。
「帰ろっか、はかせにこのこと教えないと」
ずいぶん遠くまで来てしまったなと啓は来た道を戻ろうとする。しかしソルテはその場で座り込んでしまった。
「魔力使いすぎちゃった。啓の血少し……」
ソルテは啓を見上げて魔力補給をしたいと言い出す。吸血鬼のためにはかせが人工血液を用意してくれていた。が、しかし啓の血以外は飲めないと言うソルテに啓は週に一回血をあげる約束をしていたのだ。
「昨日あげたばっかりじゃ……今日は助けてもらったし特別だよ、うち帰ってからね。ここで吸うのはちょっと……」
「うぅ、頑張って帰るかぁ」
啓はへとへとになったソルテを連れて遠くなってしまった家に帰るのだった。




