第二十一話 決着
満月が照らす夜空の下、戦いの火蓋を切ったのはクラミルだった。クラミルは翼を広げて奏に向けて一直線に接近する。
「貴様のその血、一滴残らず搾り取ってくれる……!」
クラミルが大きく横一文字に振りぬいた剣を奏は左腕で斬撃を受け止めてそのまま右腕で殴り返す。
「ぐっ……!」
返しの剣を奏の拳にぶつけるクラミルだが明らかに奏の力がクラミルを上回っていた。
「この身体、魔力で!私が負けるはずがない!」
クラミルは後ろに飛んで奏から離れるがそれを許すはずもなく奏が追いかける。
「かかったな!サンライトレーザー」
後ろに飛んだときにクラミルが周囲に設置した小さな光球から奏に向けて四方八方から無数の光線が狙って飛んでくる。
「あっっっつ!」
奏の動きが制限されたところにクラミルは狙いを定めて圧縮した魔力を解放する。
「サンフレアブレイズ」
「だぁっ!クソっ!」
奏は光線をくらいながら飛び上がる。
「はじけ飛べっ!」
急降下して放つ鋭い蹴りで中心を貫く。光球は爆発して周囲を明るく照らし出す。
「サンライト……ッ!」
(……啓の力を勝手に使うなっ!)
魔法を使おうとしたクラミルをソルテが妨害したところに奏の拳が炸裂する。
(またかっ……!)
「さっさと、その体、持ち主に返しやがれっ!」
「この肉体は、もう私のものだ!」
奏の乱打を翼で受け止め、羽ばたいて起こした暴風が奏を吹き飛ばした。さらに風の刃が奏を切りつけながら地面に叩きつける。
「紅色の陽光」
クラミルが奏に向けて巨大な魔法陣を展開する。
立ち上がろうとした奏に太陽と血の力を合わせた魔法が撃ちだされた。
「終わりだ、貴様のまずい血もこれで吸いつくしてやる」
魔法が直撃した奏の体から力が抜けていく。立ちあがろうとしていたが、膝をつき、両手で体を支えるのが精一杯だった。
(やべ……力が、はいらねぇ。このままだと死ぬ……)
体中の血の気が引いてどんどん体温が下がっていく。
(にい……ちゃん、負けないで……僕の力使っていいよ、だから……)
奏の意識が飛びそうになったそのとき、頭の中に啓の声がした。すると血が抜けて冷えてしまった体に不思議と力が入る。
「そう、だよな。自分の子孫とうちの弟の血を好き勝手するようなやつに……負けてたまるかっ!」
奏の想いに呼応して心臓の鼓動が大きくなる。加速した血流が体中を駆け巡り、全身を熱くする。
「あとちょっとだけ待ってろ、すぐ終わらせるから」
膝をついて立ち上がろうとする奏の頭の中に啓の声が響く。奏は吸血されながらも力を込めて立ち上がる。
(いつも僕のせいで巻き込むのに結局兄ちゃんにまかせっきりで……)
「そんなこと気にすんなよ。なんとかするって言ったろ?俺がお前との約束破ったことあるか?」
(そう……だね)
魔法陣に魔力を注ぎ込み続けるクラミルの中ではソルテが必死に抵抗していた。
「何を、一人で喋っている……!もう、貴様の血はほとんど吸収しているはずだ!なのになぜ……!」
「そりゃ、俺がお前ごときに吸いつくせるようなタマじゃなかったってことだろ」
「やめ、ろ!……クソッまた体を!」
ソルテが魔法を行使するのを止めると奏は立ち上がる。クラミルを見上げて腰に力を入れる。
「終わりなのはそっちだ」
奏が言い放つと
「雷箋・封」
「天焔叢」
神の炎と雷の鎖がクラミルの体を縛り付けた。クラミルは抵抗しようとするもソルテの妨害もあり振りほどくことも叶わない。クラミルを拘束した二人は奏を見て頷いた。
それを合図に奏が跳躍してクラミルの前に現れる。
「じゃあなっ!!!」
握った拳にはかせの魔法が溢れ出していく。
「二度と復活すんなよ!」
奏の渾身の一撃が、クラミルの、ソルテの胸を捉えた。
「グ、やめロ、わタしの、カラだ……」
「ちげーよ、それはソルテの体だ、もう限界だろおとなしく出てこい」
「ァ、アァ……」
ソルテの体からクラミルの魂が抜けていく。一度、ソルテの体は電源が切れたかのように脱力する。
「……これで、いいんだよな……」
肩で息をしながら奏がソルテに問いかける。意識を取り戻したソルテは羽ばたいて空を飛んでいた。
ソルテの体も全身傷だらけだったが、ソルテははっきりと答えた。
「うん。奏、啓、二人ともありがとう」
「どういたしまし……」
その言葉を聞いた奏は全て言い切る前に意識を手放した。限界を超えてまで戦っていた奏はそのまま重力に身を任せて落下していく。
「危ないっ」
ソルテが慌てて奏を追いかけて抱え上げる。
「ほんとに、ありがとう」
ポツリと呟いたその声は奏にも啓にも聞こえていなかった。
クラミルの力が無くなり、東の空は既に明るくなってきていた。ソルテの頬を伝う涙がキラリと朝日を反射した。
〜〜〜〜〜
「にー……ん!……きて!」
「ん……」
「にーちゃーん!」
奏が目を覚まして視界に入ったのはいつもの見慣れた天井だった。
起き上がって周りを見ると隣に啓が座っていた。
「……啓、おはよ」
「兄ちゃん!」
啓が奏に抱きついてくる。奏は啓の体に傷がついていないか全身を確認する。
「無事でよかった」
「それはこっちの台詞。……ありがと、兄ちゃん」
「そりゃどうも。ただ、その、痛い……」
ほとんど怪我が治っていた奏が痛くなるほどに啓は強く抱きしめていたらしい。
「もうちょっとだけ……」
啓は少し不満そうな顔をすると奏から離れてまた隣に座った。
「ねぇ、お腹空いてない?もう丸一日食べてないけど」
啓に聞かれて奏が答えようとしたときだった。
ぐーーーーーっ
部屋にお腹が鳴る音が響いた。
「……空いてる」
「お腹の音聞こえてるよ。すぐ準備するから待ってて」
そう言って啓は部屋を出て行った。啓が扉を閉めたのを確認すると奏は自分の服を捲り上げた。
「はぁ、包帯にお札にいくらなんでも貼りすぎだろ……」
動きにくいったらありゃしないと奏は包帯を剥がしていく。
傷跡は何も無かったかのように綺麗さっぱり治っており、奏は相変わらずの治癒力の高さに自分でも驚いていた。
立ち上がってカーテンを開けて外の様子を見てみる。外はすっかり暗くなってしまっていた。
スマホを探すと机の上に充電されているところだった。奏は電源をつけて今日が何日か確認する。
(げ、もう日曜の夜かよ……戦ってたのが土曜の夜から朝にかけてだから……半日寝てたか……)
そんなことを考えていると再びお腹が音を鳴らす。
(啓のとこ行ってつまみ食いでもするか)
奏は部屋を出て台所へと向かう。
廊下を歩いていると啓でもはかせでもない気配を感じ取った。
(ん?誰だ?)
そっと引き戸を開けて確認してみる。
「あら、目覚めましたか」
「えーっと、その、お邪魔……してます?」
奏は部屋の中にいた人物を見て一瞬思考が停止した。
「……なんでお前らがうちにいるんだよ」
そこにはちゃぶ台を囲んでお茶を啜るルナメルと行儀よく座っているソルテがいた。
第一章完結です。
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