第二十話 最終決戦!吸血鬼の始祖!
ソルテの体を器にしてその体を乗っ取ったクラミルがその秘められた魔力を解放する。
「先ほどとは比べ物にならん力を感じる……」
「ソルテの体を手に入れて拒絶反応を起こしていた啓の魔力にも適応したってところか……シャレにならんぞアレ」
「んなこと言ってる場合かよ!」
奏が全力で地を蹴って啓に向かって飛び出す。しかしクラミルは奏の接近を許さない圧倒的な速度でさらに上空へと飛び上がる。
「啓を……返せっ!」
奏は氷を作り出してさらに飛びあがる。
「貴様は私の世界には必要ない、消えろ」
クラミルは啓を赤いバリアに包み込んで隔離して満月に重なるように浮かべる。そこからさらに急降下して奏と拳をぶつけ合う。
「にゃろっ……!」
「紅血・腕」
落下の勢いと啓の魔力で強化されたクラミルの一撃が奏を地面へと叩きつけた。
「がはっ……!」
「穿て、天焔叢」
「雷箋・紫電龍閃ッ!」
奏に気を取られていたクラミルを挟み込むように神の炎が形作った矛、札から召喚された雷龍が心臓めがけて飛んでくる。触れた悉くを焼き尽くす神の炎と轟音を置き去りにして一直線に突き進む超高電圧の雷龍、そのどちらもクラミルにダメージを与えることはなかった。
「無駄だ」
クラミルは翼で体を包み込んで矛と龍を受ける。翼に魔力を溜めたクラミルが翼を大きく広げて魔力を解放すると矛と龍は跡形もなく消え去ってしまった。
「なんじゃと……⁉」
「あれを、真正面から受け止めんのかよ、ますますシャレになってねぇ」
倒すことはできなくとも一時的に行動をさせないことはできると踏んでいた二人の動きが止まる。
「生贄を捧げよう、そして、この世界は私のものになるのだ」
クラミルは両手をそれぞれはかせと神様の方へと向けると赤黒い光球を作り出して撃ち出した。
「ッ……!」
はかせは先の戦いの余波でできた倒木と自分の位置を入れ替える。倒木は光球が近づいただけでまるで時間が一瞬で進んだように朽ち果て、触れた瞬間に灰となってしまった。
「此奴、太陽の力と吸血鬼の血の魔法を……!」
神様は両手を前に突き出して同じように光球を作り出して対抗する。光球どうしがぶつかり合い、その膨大な熱量が真夜中の空に太陽と錯覚するほどの火球を作り出す。
クラミルは右手を天に掲げて弓を出現させる。
「さぁ、完成の時だ」
クラミルが弦を引き絞り、啓のバリアを解除する。啓は空中で見えない糸で吊るされているかのように浮遊させられていた。
弦から手を離そうとしたその時だった。手が震えて思うように動かない。何故だと疑問に思ったクラミルの頭の中にソルテの声が響き渡る。
(ダメ……!啓を傷つけるのは許さない!)
クラミルの中のソルテが弦を離すまいと必死で抵抗していたのだ。
「……何を今更。もうこの体は私のものだ」
(違う!お母さんの体も、この体も、お前のものじゃないっ!)
ソルテが作り出した一瞬のうちに神様は啓のもとに移動して助け出す。
「まだ元の体の意識が抵抗しとるのか……?おかげで間に合ったが……」
「ぅん、にぃ、ちゃん……」
抱き上げられたことで意識を取り戻したのか啓がうめき声を上げる。
「おぉ、啓、気がついたか?」
「にぃ……ちゃ……?」
「奏じゃないぞ、儂じゃ」
啓がうっすらと目を開けると心配そうな顔で見つめる神様の顔が目に映る。
「ぁ……かみ、さま、きてくれた」
「当たり前じゃ、お主のためなら地獄の底でも駆けつけるぞ」
「あり、がと……にいちゃんと、けんか、しないでね……」
「わかっておる、ゆっくり休んでおれ。儂の力を分けてやるからの」
啓は暖かな光に包まれる。その温もりに安心した啓は再び目を閉じて眠ってしまった。
「おい、何啓とイチャついてんだ」
体中をボロボロにした奏が神様と啓のもとにやってくる。
「なんじゃもう立てるのか、頑丈じゃの」
「俺の頑丈さはおめぇもよく知ってんだろ」
「そこ、喧嘩するなって言われただろ。アイツをどうにかする方法だが……」
はかせもやってきて三人は話を始めた。
「……ってことだ。いいな?」
「わかった。これでうまくいかなかったら……」
「ふん、とりあえずその方法に協力してやるが、失敗したら儂が全て終わらせるからな」
そのころクラミルはソルテの体の中でソルテの意識と主導権を巡って争っていた。
「いい加減諦めろ」
(イヤだっ!)
「この体は私が有効活用してやるから……寄越せ!」
(……うわっ!!)
ソルテから体の主導権を奪ったクラミルが再び瞬間移動で奏たちの前に現れる。
「っ!おらあっ!!!」
奏が反射的に回し蹴りを放つが強化された片腕でいとも簡単に受け流されてしまう。
「甘いな……」
「くそっ!」
続けて撃ち込んだ蹴りも突きも軽く受け流したクラミル。
「原初の吸血剣」
「天雷槌」
間合いを取った奏の前に割って入った神様の雷撃がクラミルの取り出した剣とぶつかり合う。
「鬱陶しい、失せろ」
「悪いが、それは無理な相談じゃな」
火花を散らして何度か打ち合ったところでお互いに一度距離を取ってにらみ合う。
「せめてもの情けとして咎めるのは始祖であるお主だけ、他のものたちは生かしておいた結果がこれか……」
「何を……そもそも始めに私たちの神を封印したのは貴様らだろうが……!」
クラミルの光球をひらりと躱しながら返す。
「そりゃそうじゃろ。太陽を隠すなんぞしていいわけがなかろう」
「そっちにも事情があるのか知らんが、うちの弟に手ぇ出したんだからこうなって当然だろ!」
奏が不意打ちで繰り出した踵落としをクラミルは見ることなく避けて反撃の光球を撃ち出す。踵の破壊力はすさまじく、その衝撃波で光球を打ち消し、さらに地面を大きく陥没させ半球の穴を作り出した。
「もうちょっと周り考えて戦え!啓まで巻き込んでどうすんだ!」
はかせは啓を背負って跳び上がる。しかしそこに空中で身動きが取れないのを見越したクラミルが襲いかかる。
(危ない!ダメッ!)
「だから言ったろ!ぐっ……魄箋・絶!」
剣で腹を切られながら片手でなんとか札をクラミルの胸に叩きつけるはかせ。効果が無かったことから特に躱すこともなく受けるクラミルだったが、その結果は予想外のものだった。
「ふんっ効果が無いのはさっき証明されているだろう……っ!」
先ほど音を立てて弾かれた札は弾かれることなく物体と魂の結びつきを強制的に断ち切る効果を発揮していた。
しかしクラミルが魔力を流し込んで強引に札を引き剝がす。
「な、なぜだ!」
「さっきの体にはお前の魂が定着しきっていたから効果がなかったが、今のその体には定着していない。その証拠にお前の中にソルテの意識がまだ残ってんだろ」
着地したはかせが説明するとクラミルの表情に焦りが見えてくる。
「まぁ今なら通用するかもしれないって気づいたのはアストなんだが……」
「……俺にできるのは助言するくらいだ。あとは自分たちで何とかしろよ」
ぶっきらぼうに返したアストにはかせはお札の準備をもって応える。
「体を返せっ……ちっ、出てくるな!」
ついにソルテの意思で言葉を発するまでになってしまったところをクラミルは自身の魔力を体中に流し続けることで制御を奪い返す。
「奏!お前はさっき言ったようにやれ!今ならやれるはずだ」
「言われなくてもっ!」
奏が地を蹴ってクラミルへと接近する。握りしめた拳がクラミルに炸裂する。
「お、らぁ!」
クラミルは奏の一撃を受け止めたかに見えた。
しかし奏の攻撃はとどまるところを知らず、そのまま流れるように連撃を叩き込んでいく。
「おらおら、おらぁ!」
奏の攻撃で吹っ飛ばされるクラミル。さらにその体には異変が起きていた。
(なんだ……?あの拳、先の札と同じ力を感じる。また、体の主導権が……!)
「紅血弓・紅色の雨」
上空へと舞い上がったクラミルは巨大な魔法陣を展開して無数の矢が地上に向かって雨のように降り注ぐ。
「天焔叢」
神の炎が降り注ぐ矢をひとつ残らず焼き尽くす。奏は矢の間を縫うようにして空を駆け上がっていく。
「もっとだ、まだまだ!」
「紅色の幽鬼」
更に小さな魔法陣が複数展開されて奏を追尾する矢が放たれる。空を飛び回るクラミルに対して奏も速度を上げて追いかける。
「ってぇな!」
雨のように降る矢と追尾する矢、避けきれずにかすった矢が細かな傷を作り出していく。それでも構うまいと追いかける。
矢をくらいながらも氷の足場を全力で蹴り強引に一発殴り飛ばす。
「ぐっ……!!」
殴られた衝撃を同じ方向に飛ぶことで和らげるクラミルだったが魂を分離させる魔法は確実に効果が出ていた。
(また……あの拳……!魔法が込められているのかっ……!)
「おい!ソルテ!お前まだ出てこれねぇのか!俺が体ぶっ壊す前にそいつ追い出せ!」
「わかってる!……引っ込んでいろ!」
「ちっまだ足りてねぇか」
奏の問いかけにソルテの意識が表れるがまたすぐにクラミルに取り返されてしまう。
「さっさと追い出さないと後から体どうなっても知らねぇからな!」
クラミルが剣を取り出して構えたのを見て奏も拳を握る。満月の下、奏とクラミルの一騎打ちが始まった。




