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魄星兄弟譚 ~うちの弟は誰にも渡しません!~  作者: 冬佑
第一章 「吸血鬼の章」
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第一話 始まり

初投稿です。

のんびり更新していますので気長にお付き合いいただければ幸いです。

 



 春の陽気が暑さに変わりかけてきた初夏の頃、雲一つ無い空に朝日が昇る。


「兄ちゃん、はかせー起きてー!朝ご飯できたよー!」


 研究所という文字だけがなんとか判別できるほどボロボロになった看板のついた家の中に声が響く。


「んー、あとちょっと…」


 まだ寝足りないのか布団を被りなおす兄、朝日奈(あさひな)(そう)に対して一人早起きして朝ご飯を作っていた弟の朝日奈(けい)はエプロン姿で寝室に入ってきた。


「兄ちゃん起きて、ご飯冷めちゃうよ」


 そう言いながら布団を無理矢理引きはがすとようやく奏は目を覚ました。


「んーーー、おはよ、啓」


 奏は大きく伸びをして起き上がる。いつものように奏は布団に座ったまま何度かまばたきをしながらぼーっと啓の方を見る。


「ほら、ご飯できてるから早くきてね」


 今日も啓に起こしてもらって奏は満足気だった。




 ~~~~~




 啓は二階へ上がると今度は二人の保護者である“はかせ”こと赤城(あかぎ)(りつ)を起こしに研究室に入る。


「う、相変わらずこの部屋散らかってるなぁ」


 はかせの研究室は数列が羅列された紙や機械の部品などが散乱していた。はかせはシーツがぐちゃぐちゃのベッドの上で眠っていた。啓は床に落ちたものを踏まないようにしてベッドまで行くとはかせを揺さぶって起こそうとする。


「ほらはかせ起きてーご飯できたよ!」

「……zzz」


 一向に起きる気配のないはかせに啓が締め切られているカーテンを全て開けてからもう一度起こそうとすると、部屋の明るさに耐えられなくなったのかはかせは目を覚ました。


「うーん、おはよう、啓……眩しい……」


 おはようと言いながらはかせはまた横になって寝ようとする。


「いい加減起きないと床に散らかってるの全部捨てるよ」


 なかなか起きないはかせに啓が怒り半分、呆れ半分が混じったあきれ声で脅しをかける。


「!!それはだめっ!」


 その言葉を聞いたはかせは慌てて飛び起きた。啓の脅しに眠気も吹き飛び慌てて床に散らばる紙を集める。啓はやっと起きたはかせにためいきをついて、部屋から出て言った。


「……もう、捨てるつもりはないけど整頓くらいしてよね、足の踏み場ないじゃん。ご飯できてるから早く来てね」

「朝から怖いこと言うなよー」


 これ以上散らかすとほんとに捨てられると感じ取ったはかせはそうなる前に早めに片付けようと心に誓った。




 ~~~~~




 学ランに着替えた奏と新しい白衣に着替えたはかせが食卓に着くとちゃぶ台の上にはご飯とお味噌汁、卵焼きとサラダが並んでいた。


「「いただきまーす」」


 奏とはかせは座ると早速食べ始める。


「はいこれ、はかせのお弁当ここ置いとくね」

「おう、いつもサンキューな」


 啓も席について手を合わせ、箸をとった。

 食べ始めてしばらくすると突然思い出したようにはかせは喋り始めた。


「あ、そういや今日は仕事で今日中に帰ってこられるか分からないから、夕飯二人で食べちゃってくれ」

「え、はかせが、仕事……?」

「いつも仕事なんてしてないくせに、どうしたんだよ急に」


 普段は研究所兼自宅で研究だけしているはかせが仕事をするのに驚いて箸を止めた二人に、はかせは頭を搔きながら搔き答える。


「いやー、久しぶりに面白そうな依頼が来たものだからね」


 はかせは研究費の足しにするために「お困りごと、何でも解決します」と銘打って何でも屋をやっていた。


「うちに来る依頼なんて引っ越しの手伝いとか旅行中のペットの世話とかそんなんばっかりじゃん。しかもほとんど俺と啓にやらせてるし」


 奏が日頃の扱いに不満を漏らしたことを気にも留めずにはかせが答える。


「まぁ、そういうのは僕が来てほしいと思っている依頼じゃないからね。それに依頼料の一部はちゃんとお小遣いとしてあげてるだろう?」

「いやそこじゃないんだけど」

「でもはかせがやる気出すなんてどんな依頼なの?」


 毎回仕事をやらされることに不満そうな奏とはかせがやる気をだすような依頼に興味を示す啓。


「知らないか?最近この辺りで行方不明の人が多発してるの、それの調査だよ」

「ああーそれ話題になってるな、ってそういうのは警察の仕事じゃないのか?」

「警察で手に負えないから僕に何とかしてくれって回ってきたんじゃないか。こういう普通じゃ説明できない内容の依頼が来てほしくて始めたんだけどね」


 何でも屋はおまけだよとでも言わんばかりのはかせに奏はしょーがねぇなと心の中で呟いた。


「ふーん、警察でわからないことをこんなやつに、ねぇ。ん、ごちそうさん」


 そう言いつつ朝食を食べ終えた奏は流しに茶碗と皿を持っていく。


「こんな、とは失礼だな、奏。これでも神隠しなんかは専門なんだ」

「へーはかせってそんな研究してたんだ」

「まぁね。正確にはこの世界とは別のもう一つの世界について、なんだけど。神隠しはいなくなっている間別の世界に行っているんじゃないかと考えているんだ。それに…」


 そんな会話をしているうちに啓も食べ終わって学校に行く準備をしていた。


「ふーん。あ、はかせ後片付けよろしくね。僕たち学校いってくるから」

「君たち二人にもかなり関係のある研究なんだけどねぇ。まぁいいか、片付けはやっておくよ。二人ともいってらっしゃい」

「「いってきまーす」」


 何か言いたげなはかせをよそに二人は学校へ行ってしまった。




 ~~~~~




「じゃ、気を付けて行って来いよ」

「うん、じゃあね」


 奏と啓はお互いに手を振って小学校と中学校に行く分かれ道で別れた。


「啓、おはよ」


 啓が歩いていると幼馴染の月谷(つきたに)俊太(しゅんた)が合流してきた。


「おはよ、俊太。眠そうだね」

「いつものことだよ、俺、朝弱いんだ」


 俊太は大きなあくびをしながら答えた。


「あはは、知ってる。でもいつもより眠そうだよ?」

「昨日夜遅くまでゲームしすぎたかな……ふぁああ」


 俊太は眠そうに目をこする。


「授業中に寝たらこれで起こしてあげるから安心して」


 そう言って啓は俊太の首筋に向かって指先から水を発射した。水の冷たさに驚いた俊太が慌てて啓の手を塞ぐ。


「うわっ、ちょやめろって」

「あれ、こっちの方がよかった?」


 いたずらっ子のように笑う啓は手のひらに小さな火の玉を出した。


「そういう話じゃねぇよ……人に見られたらどうするんだよ」


 啓は魔法を使うことができた。普段はそれを隠して、家で料理や掃除をするときだけ魔法を使っていた。当然、現代社会で普通は魔法を扱えるはずもないので家族以外にはこのことは秘密にする、はずだったのだが俊太にだけは知られてしまっていた。啓は知られてしまった最初こそ変な目で見られるのではないかと心配していたが、俊太は気にすることなく誰にも言わないと約束してくれた。それ以来二人は秘密を共有する親友となっていた。


「んー……きっとそのときは俊太が何とかしてくれるから大丈夫!」


 曇りのない笑顔で言い切った謎の自信に満ちている啓に呆れている俊太だった。




 ~~~~~




 一方、啓と別れた奏は一人中学校へ向かっていた、その時だった。


「……っ!」


 突如、背後から繰り出された突きに対して奏はとっさに振り向きその拳をつかんだ。そしてつかんだ拳を捻ると地面に倒した。


「はぁこれでもダメか。気配は消してたし完全な不意打ちだと思ったんだがな。相変わらずわけわかんねぇ反応速度してんな、お前は」


 仰向けになって悔しそうにするのは奏のほぼ唯一と言っていい友達、東条(とうじょう)天虎(あまとら)だった。


「いや、ここしばらくなにもしてこなかったから油断していた」

「油断しててこの反応速度かよ、やってられんわ全く」


 天虎は全国大会に出られる程の空手の選手だったが、何の武術経験もない奏にはその人間離れした身体能力と反応速度に悉く返り討ちにあっていた。

 天虎は立ち上がって砂埃を払う。


「いい加減お前がなんでそんな強いのか教えてくれてもいいんじゃねぇのー」


 奏の隣を歩く天虎が手を頭の後ろで組みながら聞く。


「だーかーらー何回聞かれても知らんものは知らん」


 何度も聞かれた事柄だからか心底めんどくさそうに答える奏。


「だってお前普段は運動できるって隠してるだろ、体育の授業も手抜いてる気がするし……」

「そりゃ本気出したら面倒なことになるだけだろ」

「遺伝ってわけじゃなさそうだよなぁ、お前の弟は至って普通っぽいし……いや、もしかしたら実はめちゃめちゃ強いんじゃね?今度こっそり手合わせしてもらおっかな」

「おい、啓に手ぇ出したらただで済むと思うなよ」


 ボソッと天虎が啓のことを口にした途端、奏は殺気を放ちながら睨みつけた。


「げっ、ごめんごめん悪かったって。お前が弟くん大好きーなのは知ってるから、その殺気やめろ、シャレになってないわ」


 奏に威圧されて慌てて謝る天虎。奏は睨みつけるのをやめて言った。


「次はないからな」

「はぁ、ったく弟の話になるとほんと恐ろしいなお前は。そんなんだから俺以外に友達できないんだぞ」


 奏の連れない態度に天虎は口を尖らせる。


「別に、必要と思ったことはないし構わない」

「あぁ、お前ならそう言うと思ったよ」


 そんなやりとりをしているうちに学校に到着していた二人だった。




 ~~~~~




 奏と啓が学校に通っている頃、奏たちの住む町の上空を一人の少年が飛んでいた。少年はもう十分暑くなってきた季節だというのに長袖の白シャツ、サスペンダー付きの長ズボンにマントを羽織っていた。


「おなか…すいた……でも…」


 少年の意識は朦朧としていて、バランスも取れておらずふらふらと飛んでいく少年は衰弱しきっていた。


「もっと、遠くに、行かないと……もう……だめ……」


 空腹と疲労で気を失った少年は地面へと落下していった。




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