第7話 ガウディ、罠にかかる
ミウの販売戦略が効を奏し、販売初日にして10万ゴールドを手に入れたカイルとミウ。手応えを感じた二人は、翌日から毎日広場でスキンエリクシルを売り出すことにした。
それと並行して、街に事務所を構えることにした。事業を円滑に進めるためではない。ガウディに「ざまぁ」するために、事務所を構える必要があったからだ。ミネルヴァ商会奪回計画の戦略のひとつだ。
事務所はミウの希望で、街の中央広場からほど近い一等地に構えることになった。賃料は1か月30万ゴールド。かなりの出費だが、ミウ曰く、
「商いの基本は信頼ですよ!立派な事務所を構えるのは基本中の基本です!」
とのことだ。
確かに、今後の作戦を考えると、ガウディから会社としての信用を得る必要がある。そう考えると、ミウの言う通り事務所は立派な方がいい。
何より、事務所はガウディに絶望を与える舞台になる。復讐の場として、相応しいものであるべきだ。カイルはそう考え、ミウの案に賛成した。
カイルたちの商売は、すぐに軌道にのった。商売が回り始め、カイルとミウの日々はルーチンワークと化していた。
早朝、広場に行き、スキンエリクシルの販売を始める。昼前には200本を売り切り、午後に商品の材料の買い出しをする。買い出しが終わると、そのまま事務所に行き、立ち上げ作業を行う。夜はひたすらスキンエリクシルの生産だ。
そんな日々を過ごすこと一週間、ついにヤツが餌に食いついた。ガウディが、二人の前に現れたのだ。
「いよーぅ、ミウお嬢様! 商売繁盛してるみたいだなぁ! 小汚い生活にはもう飽き飽きかぁ?」
馬車を降り、イヤミを言いながらミウに近づいてくるガウディ。相変わらず人をイラつかせる天才だ。だが、その言動とは裏腹に、表情には少し焦りの影が見える。ミウが商売を始め、資金力をつけてきたことを恐れているようだ。
「……なんの用ですか、ガウディさん」
ミウは商品を並べる手を止めず、冷たい声で言う。目を合わせるのも嫌だ、といったふうだ。
「そう邪見にすんなよ。スキンエリクシル、だっけ? いーぃ商品を売ってるんだろ? ちょっと見せてくれよ」
ガウディはスキンエリクシルの小瓶を手に取り、興味深そうにジロジロ見ている。小瓶全体を眺めたあと、製造元の名前と住所が書かれたラベルに気づき、ジッと見つめている。一通り小瓶を眺め終えると、近くにいるカイルに声をかける。
「で? そこのアンタは、何者なんだ?」
「お初にお目にかかります、ミネルヴァ商会のガウディ様。私はカイルと申します。ミウ様のビジネスパートナーと言えばよいでしょうか。弊社のスキンエリクシルを、ミウ様に販売頂いております」
カイルは丁寧な口調で答える。
「――ほう。この商品は、アンタが作ったのか」
ガウディはスキンエリクシル、そしてカイルに興味津々な様子だ。
「はい。弊社の自信作でございます。肌のツヤが蘇るよう、特別な薬品を弊社独自の手法で調合しております」
……ウソは言っていない。ポーションとスライム液を、染料と一緒に手作業で混ぜ合わせているのだから。
「一本500ゴールドと少々値が張りますが、お客様からの評価は上々で、生産が追い付かないほど好評をいただいております。あまりの人気ぶりに、値上げも考えているほどです」
カイルがビジネストークをかます。ガウディはさらに興味を持った様子だ。まるで飢えたハイエナのような目で、スキンエリクシルを見つめている。どうやら、『一本500ゴールド』と『値上げ』が効いたようだ。
「なぁ。この商品、ウチに卸しちゃくれないか?」
ガウディはミウの目の前で、カイルに商談を持ちかける。
「な! カイルさんは私と契約しているんですよ? それをいきなり……」
ミウが驚きのあまり抗議の声を上げる。ビジネスパートナーの目の前で契約の横取りを始めるのは、明らかにルール違反だ。
「大変申し訳ありません。弊社は今現在、ミウ様と独占契約をしておりますから」
カイルが丁重にガウディの申し出を断る。ほんの少しだけ、『今現在』という言葉を強調しながら。そして、目線をきっちりとガウディに合わせ、ニコッと微笑みかける。
「独占契約、ね。それじゃぁ、仕方ないなぁ。今日のところは退散だ。……またお邪魔するぜ」
そう言い残し、ガウディは去っていく。近くに止めてあった馬車に乗り込み、悠然と街中へと消えていった。
ガウディがいなくなったのを確認して、カイルがミウに話しかける。
「……あっけなく釣れたな」
「はい。スキンエリクシルに興味津々でしたね。近いうちに、カイルさんにアプローチをかけてきますよ」
「ああ。奴は金欠だからな。さらに、ミウの復讐を異常に恐れている。となれば、ミウの店のヒット商品を奪いに来るのは当然だ。大金が手に入る上に、ミウを潰すことができる。ヤツにとっては一石二鳥だ」
「――それにしても、カイルさんの思わせぶりな態度、本当にお上手ですね。『今現在』って、わざと強調しましたよね?『今後、取引する用意がある』ってガウディに思わせるために」
「ああ。オレは【詐欺師】だからな。ガウディにも伝わったみたいだな。アイツ、ウッキウキでオレに商談を仕掛けてくるぞ。――自分が罠にかかっているとも知らずに」
ニヤっと笑うカイル。その顔は、心底楽しそうであり、心なしか禍々しくもある。
「――カイルさん、怖いです」
カイルの笑顔を見ながら、ミウはボソッと呟くのだった。
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