第5話 ガウディ「ざまぁ」計画~作戦会議~
「よし、それでは『ミネルヴァ商会奪回計画』の作戦会議を始めよう」
場所はカイルの家のカイルの部屋。ベッド脇に二つの椅子を並べ、カイルとミウが向かい合って座っている。
「早速奪回計画の概要に移りたいところだが、その前にミウにオレのスキルについて説明しておきたい。かなり特殊なスキルで、効果がバレると威力が半減するため、他言無用で願いたい」
カイルがテキパキと議事進行を行う。ミウは神妙な面持ちで、コクンと頷く。
ミウの鑑定眼では、スキル名は分かるが、スキルの効果までは認識できないそうだ。なので、カイルが口頭でスキルの効果を解説してあげる必要がある。
「《詐欺師の契約書》――これが、今回の作戦の要となるオレのスキルだ。『相手が契約書にサインしたら、強制的に契約内容を順守させる』という効果を持つ」
「契約内容の強制――なるほど、今回の作戦におあつらえ向きのスキルですね。『ミネルヴァの所有権を譲渡する』という契約書にガウディがサインすれば、作戦は成功、と言うわけですね」
ミウは顎に手を当てながら言う。カイルはコクンと頷き、さらに説明を加える。
「理解が早くて助かるよ。しかもこのスキルは、契約内容やスキルの効果を相手が理解していなくても契約は有効なんだ。つまり、見えない文字で契約書を書いたとしても、サインをすれば、ガウディは契約書の内容に逆らえない」
「……恐ろしい、スキルですね」
「ああ。その通りだ。だが、契約内容の負担に応じて、相手がサインするのを嫌がるという制約もある。例え契約書の内容やスキルの効果を知らなくても…だ」
「なるほど。嫌がる相手を話術で説得したり、サインしなければならない状況を作り上げる必要がある、ということですね」
ミウの言葉に、カイルは感心する。ミウは本当に頭の回転が速い。カイルは、前世でも仲間たちと作戦会議をよく行ったが、ここまで話がスムーズに進むことはなかった。会議のテンポの良さにカイルは気をよくする。
「そう。それが今回の作戦のカギだ。以上の話を踏まえた上で、オレの立てた作戦を聞いてくれ」
コクンとミウが頷く。
「作戦の概略は、『スキンエリクシルをヒット商品に育て上げ』、『それをガウディに売る』。これだけだ」
ミウは、腑に落ちないといった様子で、カイルを見ている。なぜ、これでミネルヴァ商会を奪回出来るのかがよく理解できないようだ。
「さすがに、これだけでは分からないよな。では、作戦の詳細を説明する」
カイルは、作戦の詳細についてミウに説明していく。図や文章を交えながら、カイルの説明は約20分続いた。
「……作戦は以上だ。何か質問は?」
ミウが顎に手を当て、目を閉じながら考える。色々なケースをシミュレーションしているのだろう。約3分、ミウは考え込んでいる。
不意に目を開き、ミウが話し出す。
「こんな作戦を考えるなんて、カイルさん本当にすごいです!この作戦、大賛成です!」
パァッと笑顔を見せ、興奮気味に話すミウ。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、作戦の深堀りを始める。
「ただ、作戦のハードルはなかなか高いですね。まずは、スキンエリクシルを人気商品に仕立て上げる必要があるわけですが……」
チラッとピンク色に輝く小瓶に目をやり、ミウは続ける。
「軍資金がありません。私もカイルさんも、文無しですからね。いかに良い商品でも、お金がなければ売れません」
商人らしい目線で懸念点を挙げるミウ。ただ、この点に関して、カイルは既に解決策を持っていた。
「ああ、軍資金に関しては、もう一つのスキル《錬金術》を使う。これで一日あたり1000ゴールドを捻出できる。スキンエリクシルの原価は一本あたり25ゴールドだから、食費を覗いても毎日30本は生産できる」
スキンエリクシルの単価は、ポーション10ゴールド、スライム液8ゴールド、瓶5ゴールド、着色料2ゴールドの計25ゴールドだ。素材は全て、その辺のよろず屋で手に入る。
「そ……そんな便利なスキルだったんですね。分かりました。お金の心配はなさそうですね」
目を閉じ、顎に右手を当てて再び考え込むミウ。
「あと、スキンエリクシルをガウディに売るのもなかなか難しいです。ガウディはあれで、用心深い男です。おいそれと『卸売契約書』にサインしてくれないと思いますが……」
「ヤツは小心者だからな。この件については、ガウディの弱点を利用する。アイツは、金に困っている。そして、ミウの復讐を恐れている。『欲望』と『焦り』。契約書にサインさせるには、おあつらえ向きの弱点だろ?」
カイルはニヤっと悪役のような笑みを浮かべる。この復讐を、心底楽しんでいる自分にカイルは気づく。『知略の勇者』の血が躍る。
「な、なるほど。今日の聞き込みは、このために行ったんですね。全て計画済みと言うわけですか。――カイルさん、ちょっと怖いです」
カイルの邪悪な笑みをみたミウの顔は、少し引きつっていた。
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