第2話 出会い、そして初めての錬金術
勘違いから【詐欺師】として転生してしまったカイル。転生後の人生は、転生前に思い描いていた理想とは程遠いものだった。
カイルは5年前に両親を失った。流行り病だった。当時、カイルは13歳。親戚もなく、住んでいた家と両親がコツコツ貯めていたお金だけが残された。
15歳までは学校に通い、卒業後すぐに働き始めた。カイルは様々な職業に就いた。そして、自らが無能であることを証明し続けた。
何をやってもダメだった。18歳の誕生日を迎え、前世の記憶を取り戻した後も、状況は変わらない。
大工の見習いになるも、体力がなくて資材が持てない。そんなザマでは仕事にならないと親方に言われ、クビに。
魔道具店の店員になるも、数日後に強盗に入られる。どうやら、明らかにひ弱なカイルの店番中を狙い打ちされたようだ。カイルは強盗達にボコボコにされ、ほぼ無抵抗で売り上げを奪われた。店番もできないようではさすがに雇えないと店主に言われ、クビに。
鍛冶屋に弟子入りするも、鉄を打つ力が弱く、クビに。師匠からは、才能がまるでないから他の道を探した方がいいと優しく諭された。
英雄として名を馳せた前世とは真逆の人生。カイルのプライドはズタズタだった。そして、両親が遺してくれた生活費がついに底をつく。今夜の食事を買うお金もない。
カイルは、重い足取りで町の中心部にある広場を歩いていた。今日も害獣駆除の仕事をクビになったばかりだ。
噴水の周りを、多くの人々が談笑しながら歩いている。通りには様々な露店があり、焼いた肉やお菓子などを売っている。そこかしこから美味しそうな匂いが立ち込めている。
疲れた身体を投げ出すように、カイルは噴水前のベンチにドカッと腰かける。街行く人々を眺めながら、今後について考え始めた。
もう、スキルを使うしかないのだろうか。カイルは悩む。《錬金術》を使えば、自分が一人生きていくくらいのお金は稼げるのだ。それでも、詐欺師のスキルを使うのは、元勇者として抵抗があった。
足元を見つめ、俯きながらそんなことを考えていると、ふと頭上で女の子の声がした。
「あの、大変不躾ですが……食べ物を恵んでいただけないでしょうか」
カイルがバッと顔を上げると、目の前に獣人族の女の子がいた。2つのネコミミかピコピコと動き、しっぽもユラユラと揺れている。少し、緊張しているようだ。
小さな女の子だ。歳は12~13くらいであろうか。栗色の髪の毛は伸ばしっぱなしで、着ている服もかなりくたびれている。だが、口調は丁寧で、教育を受けたあとが見える。よく見ると、ボロボロの服は絹で織られていて、上質な品であったことがわかる。元は裕福な家庭であったのだろうか。
ネコ科の獣人らしく、衣服は汚れているものの、身体はキレイにしているのだろう。匂いはしないし、毛並みもそれほど乱れてはいない。
「食べ物か……恵んであげたいところなんだが、オレも文無しでな。すまないが、他をあたってくれないか?」
カイルは心底申し訳なさそうに答える。
「す、すみません。錬金術というスキルが見えたので、てっきりお金をお持ちかと……失礼しました」
女の子の言葉に、ピクッとカイルが反応する。
「まさか……鑑定眼持ちか? 珍しいな。というか、なぜ落ちぶれてしまってるんだ? 鑑定眼があるなら、引く手あまただろう」
――鑑定眼。あらゆるものの本質を見抜くと言われるスキル。人を見ればスキルや素質を見通し、モノを見ればその価値が正確に分かる。商人が喉から手が出るほどほしいスキルだ。
鑑定眼は非常にレアなスキルで、勇者カイルの時代には王国に一人しかいなかった。そのため、鑑定眼持ちは非常に重宝される存在のはずだ。
「元はこの街を取り仕切る商会の娘だったのですが、色々あって家を奪われてしまって…」
女の子は下を向き、服を両手でギュッと掴みながらそう言う。体も声も震えていた。
不意に顔を上げ、きれいな目でじっとカイルを見つめてくる。その目は、様々な感情をカイルに伝えてくる。悔しさ。やるせなさ。悲しさ。怒り。そして、少しばかりの希望。
(ああ、そういうことか。だから、オレに声をかけてきたのか)
ふうっと息を吐き、カイルは観念した。
右手をポケットに入れ、まぶたを閉じる。右手に力を込めて念じると、MPが1減る。カイルはゆっくりと、ポケットの中から右手を出す。その手には、100ゴールドが握られていた。
「取り敢えずパンでも買って、ゆっくり話さないか? お腹すいてるだろ?」
二人は、目の前の露店へと歩いて行った。
露店で二人分のパンを買い、カイルと女の子はベンチに腰掛ける。事情を聴く前に、まずは腹ごしらえだ。
よほどお腹が空いていたのだろう、獣人の女の子は目の前のパンを貪っている。カイルも空腹を満たすため、買ってきたパンを食べる。うまい。女の子の方を見ると、満面の笑みだ。その笑顔を見たカイルに、優しい気持ちが湧き上がる。《錬金術》を使ってしまった罪悪感など、いつの間にか吹き飛んでしまった。
「で? オレに何をして欲しいんだ?」
カイルは尋ねる。
「ふえっ!?」
女の子は、すっとんきょうな声を上げる。カイルの質問の意図が伝わらなかったようだ。
「オレに声をかけた理由、食べ物だけじゃないんだろ? 何か頼みごとがあるんじゃないのか?」
食べ物が欲しいだけであれば、ベンチに座っているカイルをわざわざ鑑定したりしない。そして、自分が鑑定持ちであることを仄めかした女の子の言動も多少不自然だ。鑑定持ちはレアなため、犯罪に巻き込まれにいように他人にバレないようにするのが鉄則だからだ。そして何より、女の子の目は、自分に何かを期待する気持ちで溢れていた。
「気づかれていましたか……実はずっと、鑑定眼であなたのような方を探していました。お願いです! 私の家を取り返す手伝いをしてくれませんか? 両親の形見である、あの家を……」
ギュっと目をつぶり、訴えかけるように女の子はお願いする。カイルの返答は、既に決まっていた。
「いいぞ」
「お、お礼ならなんとかします!! って、え!? い、いいんですか!?」
即答するカイル。それに驚く女の子。
「お礼なんていらないぞ? 迷子の女の子がいたら、お家に帰してあげるのは当たり前だろ?」
ニヤっとカイルが笑う。困っている女の子を放っておくなんて、カイルにできるはずもない。
「あ……ありがとう、ございます」
泣きそうな顔で、女の子がお礼を言う。その表情から、彼女がどれだけつらい思いをしてきたかが見て取れる。
彼女の表情を見たカイルは、とてもやるせない気持ちになった。前世でカイルは、つらい思いをする人々がいない世界をつくるために剣を振るった。魔王を倒し、平和をつかんだはずなのに、まだこんな顔をする子供がいることがカイルには許せなかった。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。オレはカイルと言う。よろしくな」
カイルは優しそうに微笑みながら言う。
「はい。私はミウと言います。よろしくお願いします、カイルさん」
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毎日朝更新予定です。次話、敵役の出現です。
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