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対決『クルーエルマージ』

『クルーエルマージ』。『狂信者の塔』で決着のつく一連のクエストのラスボスだ。

 特徴としては、アンデッド種族でありながら、魔法が使えること。一応他にも、一部の高レベルのアンデッドであれば、雑魚であっても持っている特徴ではあるが、雑魚と違うのはクルーエルマージは無属性であることだ。

 魔法が使えないアンデッドには、体が炎上している炎属性の『ボルケイノゾンビ』や、氷山に生息している氷属性の『アイスマン』などがいるが、魔法が使えるアンデッドはもれなく闇属性なのだ。

 そもそも頻出する基本的なアンデッド種族の『ゾンビ』や『レッサーネクロ』は毒属性、『スケルトン』や『ウィルオウィスプ』は闇属性、と何かしらの属性を持っているところで、ボスモンスター『クルーエルマージ』は無属性なのだ。

 この要素は、考察班の間で長らく議論の的となっていた。

 アンデッド属性であることは、単純に『アンデッドキラー』などといったアンデッド特攻武器でダメージに補正が入る――特攻エフェクトも入る――ところから、確定している情報だ。

 しかしあらゆる属性が等倍でしか通じないことから、無属性であることに注目がされてきた。なぜなら、無属性というのは色人種()()の要素だからだ。

 つまり、『クルーエルマージ』とはアンデッドでいながら生きている色人種である、という謎の存在だったのだ。

 さらに、『クルーエルマージ』を撃破することで手に入る『銀の葉書(シルバーカード)』というアイテムで塔の地下に入り、狂信者の目的がワールドイーヴィルの開放であり、世界の破滅をもくろむ集団であることの裏付けが話される。

 一連のクエストで行ったことやアイテムが、ワールドイーヴィルを呼び出すための儀式であることが分かるのだ。

 つまり狂信者とは、生きながらにアンデッドの力を身に着けた、ワールドイーヴィルの使徒(しと)なのだ。

 ……というのが、ゲーム内での考察班の出したクルーエルマージの正体だった。

 俺は、今目の前でその答え合わせを見ているのかもしれない。

 

「シオちゃん、何も怖くない。痛い思いもしなくていい。

 ただ、落ち着いて、受け入れてくれればいいんだ――」


 発言がアウトだ馬鹿野郎。

 俺の目の前には、プレイヤーでありながらゲームのボスモンスターである『クルーエルマージ』となったゼロゴが、全身から黒い(もや)――アンデッドの魔力――を(まと)わせながら俺の前に立ちふさがっている。

 彼がどういう経緯を経てクルーエルマージへと変貌(へんぼう)したのかは知らないが、だからといって体験してみる気にもならない。

 先ほどの彼の態度の変貌を考えれば、それが現実世界での死を経由しかねない行為であることは明らかだ。

 ()()は、俺の望むところではない。まだ、希望を捨てたくないのだ、俺は。

 

「冗談じゃない。ここから出してもらうぞ」

「……それは無理だよ」

 

 ゼロゴは、にんまりと笑ってそう答えた。靄もさることながら、先ほどまでの体勢から猫背になったことで顔に影が差していることが、さらに不気味な雰囲気を(かも)し出している。

 彼が、それだけ自信を持っているのには、俺にも心当たりがある。

 

「……パラメータが違う。レベルが違う。何よりも【アビリティ】の数が違う。

 君には、絶対に勝ち目がない。外の彼らが間に合うまで、時間を稼ぐこともできない」

 

 ――それは、どうかな?

 ゼロゴは、俺がこの部屋から逃がすつもりもないのは見てわかる。そもそも、クルーエルマージは塔の中のギミックを使って弱体化しないことには撃破できないのだ。

 現実化しているからこその抜け道こそあれど、ゲームシステムもまた存在している以上、ゼロゴを倒す――殺すことは、正攻法ではできないのかもしれない。

 しかし、俺の目的は時間稼ぎだ。なんとかテルヒロと合流するまで逃げ回るのだ。

 だから、ゼロゴが有利だと思っている"この部屋の狭さ"も、俺の有利に働くのだ。

 

「そう思うなら、かかって来いよ」

 

 彼が、ゲームシステムに従うだけのNPCなら、あるいは不可能だったかもしれない。

 しかし、俺の挑発にゼロゴは乗ってきた。

 

「すぐに、終わらせてあげるヨぉ!」

 

 そう言って、腰を落とし高と思えば、すさまじい勢いで俺にとびかかってきて――。

 

「ぶげっ」

 

 俺のカウンターが決まる。

 部屋は狭く、飛び回る余裕はない。俺が避けるにしても大きく離れる隙間はなく、ゼロゴにしてみればただとびかかって押さえつけるだけ。そう思うだろう。

 そして、ゼロゴにはNPCと違って"生身の経験"がある。だから、予備動作がある。それは、これまでの動作――例えば階段を降りるときに壁に手をついてバランスを整えたり――で把握している。

 だから、俺はただ眼前に突き出すだけでよかったんだ。その手に『しっぱいした料理』を持って。

 

「んぐぁっ!?な"ん"……だ、これっ……!」

 

 ネモとの対戦でも使った『しっぱいした料理』は、使用する対象に低確率ながら状態異常にするアイテムだ。

 何せ食べ物は事欠かなかった。既にできている料理を材料に、『料理』を試みるだけだ。現実化したことで、本来エネミーにしかかけられない魔法を自分にかけることもできた。

【アビリティ】を一時的に使用不可能にする状態異常【封印】がかかった状態で料理することで、【料理】アビリティの効果を阻害することができた。

 つまり料理の失敗で作られる『失敗した料理』ではなく、【料理】のアビリティを持っていないことで生成される『しっぱいした料理』を用意できたのだ。

 ちなみに【封印】の状態異常は【魔法陣学】で覚えられる【封印陣】を描いて自分で乗ることで発動した。かつてゼロゴの渡したマニュアルのおかげで身に着けた【魔法陣学】が、今、彼に牙を剥くことになったのは何という皮肉だろうか。

 なんてな。

 もう一つの勝算として、ゼロゴがただのアンデッドではなく『クルーエルマージ』であること……生身の体を持っているらしいことだ。

 本来アンデッド種族は、"種族特性"として状態異常がかかりにくい。しかし、ゼロゴが味覚を感じるのは一緒に食事をしていて確認済みだ。

 そしてゲームと違って、『しっぱいした料理』は実際に状態異常にかからなくても二次被害が存在するのを、俺は身に染みて体感している。

 それは、発生する状態異常に対応した強烈な味が広がる、という余計な要素だ。

 ゼロゴが何を引いたのかはわからないが、少なくとも猫背の体をさらに()の字に曲げるほど()()()味を引いたのは間違いなかった。

 俺は、そうやってもだえ苦しむゼロゴの脇をすり抜けて、開いたままの扉に体を滑り込ませた。

 

「ま"……ま"で……っ!」

 

 待てと言われて待つ奴がいるか。

 俺は足止めのため、【自然魔術・氷】【自然魔術・風】で使える【フリージングアイヴィ】で扉を凍り付かせてゼロゴを閉じ込める。

【フリージングアイヴィ】は()()魔法の一つで、【自然魔術・水】をある程度レベル上げることで解禁する【自然魔術・氷】が必要な発展形のスキルだ。

 地面から霜の鎖が飛び出て相手を拘束するエフェクトの魔法で、一定確率で継続ダメージを与える付与効果もある。

 この魔法を扉にかけることで、まるで台風対策みたいに扉をふさぐような形で地面から鎖が扉を抑えつけた。魔法の効果が終わっても、この世界では鎖が消えないで残っているのも確認済みだ。しかも結構硬い。

 とはいえ、扉を開けようとしたときに思ったより扉が固い、程度の足止めにしかならないだろう。早くこの場を離れなくては。

 えーと、この回廊なら……こっちか。

 俺は確信をもって薄暗い通路に駆け出した。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 シオくん視点が続きます。彼の本領発揮、お楽しみください。

 決して『しっぱいした料理』一辺倒ではないのです。

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