表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/193

異世界の二日目

今回も照裕視点です。

 気が付くと、朝だった。

 

「うぅ……」

 

 体がだるい。全身に力が入らない。でも、顔に日光が当たってすごくまぶしい。

 何とか逃げようと体をひねると、ギシギシと背中が鳴った。どうやら、ベッドに寝ているらしい。

 

「あぐっ」

 

 頭が痛い。こめかみと、後頭部だ。釘でぶち抜かれているような、頭を絞られてねじられているような。

 知っている。これは二日酔いの痛みだ。

 

「なんで……うぐぅ……!……あ、ああそうだ。タロと、飲んだ」

 

 ここにきて、ようやく寝ぼけていた頭が無理やり働かされて思い出した。昨日、タロジーロと飲んだんだ。

 どれくらい?覚えてない。

 何とか体を起こそうとして。

 

「ぐあっ!?あぐっ!」

 

 今度は肩と背中に追加の痛みが走った。思わず声が漏れるほどの痛み。頭に響くのが打撃なら、こちらは刺される痛みだ。剣山を叩きつけられたような刺す痛み。

 かなりきつい。

 すがるようにベッドに手をついて体を起こそうとして、理解する。このベッド、すごく硬い。

 まるで床で寝ているようだ。そのせいで、体が固まってしまったんだろう。朝からハードな体験をする羽目になり、這々の体で部屋を出る。

 すごくきつい。

 朝起きてたから、体感で軽く二時間をかけてその建物――『初心者の宿 "ハミングバード"』を出ることができた。もちろん、宿の朝食は間に合わなかった。

 疲れた体に鞭打って、これからどうするのかを考え込む。少し腹が減ったが、懐からお金を取り出して眺める。

 

「はぁ……」

 

 とりあえず、今からやることはお金を稼ぐことだ。先立つものは金。

 今の手持ちは670 G (ゴールド)弱。

 必要な出費から逆算していこう。宿に泊まるのに一泊50G。寝るだけなら一か月は余裕だけど、飯代を考えれば半月も持たないんじゃないか。

 この世界のお金は通貨しかない。銅貨、銀貨、金貨。金貨は一枚10,000 G、銀貨は一枚100 G。銅貨はもちろん1Gだ。ついでに、この通貨に使われているのはそのまま貴金属ではないらしい。

 それはともかく。今は安定した生活ができるように努力しよう。どこの世界でも、見知らぬ土地に来たら仕事探しが最優先だ。

 幸い、俺は既に手に職を持っている。冒険者という職を。

 

  *--

 

 この世界では、魔物という害獣が存在する。

『ReBuildier DImentions』というゲームは、この世界の住人として冒険者になり、人々を襲う魔物を倒していくゲームだ。他にも何かプレイヤーの目的があるらしいんだけど、紫苑は「今から全部話してどうする」と言って詳しくは教えてくれなかった。言っても理解できないということらしい。一理ある。

 俺は、自覚があるくらいにはなぜかゲームのことになると理解がおぼつかなくなる。話をされても、紙に書かれても、どうにも理解が遅いんだ。同じようなこと(紫苑調べ)でも、ゲームが絡まないときは一発で理解できるのだけど。

 世界観とかもってのほかだ。俺は、カタカナの名詞が苦手なんだ、と紫苑は言っていたな。

 俺の職業は冒険者だ。冒険者ギルドと言う会社の一員として、魔物を狩っていく仕事をしてお金をもらえるのだ。

 俺は忘れていない。冒険者ギルドで『依頼』を受けないと、仕事をしたことにはならない。倒した魔物の『素材』を売ればお金にはなるが、それとは別に冒険者ギルドの依頼をこなせば追加料金がもらえるのでお得なのだ。

 ――やっぱり、物覚えが悪いわけではないと思うんだよなあ。実際、ギルドで説明を受けたことはちゃんと覚えているし、理解できている。不思議だ。

 でも、チュートリアルの時にちんぷんかんぷんだった事が、今やちゃんと説明できるくらいにはなっているのだから、これはもう紫苑にも「ゲーム()()()苦手」とは言わせないんじゃないだろうか?

 そうそう、タロジーロは既に宿を出て仕事に行ってしまったらしい。色々と話も聞きたかったんだが、あいつはあいつで忙しいのだろう。薄情だと思うが、しょうがない。これも、俺が右も左も分からない不安があるからだ。慣れれば、きっと解消できる。

 俺は、俺でやっていくことにする。ギルドで初心者向けの依頼を受けて、最低限、安定した生活が送れる基盤を作ろう。異世界も外国みたいなものだろうし、手に職があってもどうにもならないなんていう世界ではないはずだ。

 ゲームだったらお金稼ぎだけでも難しいかもしれないけど、こうやって理解できているのだからやってやれないことはないだろう。

 そう思っていた。

 

「……むむむ」

 

 その日の夕方。俺は、悩んでいた。

 俺が今日受けた依頼は『薬草の採取』。町の近くの森に生えている薬草を、一定量採取してギルドに収める仕事だ。

 冒険者ギルドの受付からも「最初はこういう依頼からできるようになっていきましょう」と言われていた。この仕事を受けた時は、俺は特に難しい仕事だとは思っていなかったのだ。

 しかし、半日かけて集まったのは、依頼書に記載してある最低量ギリギリの数。思ったよりも、生えていなかったのだ。かろうじて陽が落ちる前にギルドに報告ができたのだけど、報酬は40 Gしかない依頼だったのだ。

 毎日、一日の稼ぎがこれだけでは、そのうち宿に泊まることすらできなくなってしまう。

 最初は、こういう簡単な依頼はとっとと終わらせて、ドンドン数をこなして日当を増やしていけるものだと思っていた。それなのに、こんな初心者の依頼一つで、ここまで苦労するとは思っていなかった。

 それと、陽が落ちる前に急いで切り上げたのには理由がある。

 というのも、日が落ちた後だと終わった依頼をギルドに報告しても、夜間手数料で報酬が1割減ってしまうのだ。次の日に報告することにすればいいのだけど、この依頼は当日中の依頼だった。もし達成できなければ、違約金が発生してしまう……。

 それに、夜は街の外は魔物の活動が活発化したり、手ごわいモンスターが出てきたりして初心者には出歩くだけでも危ないらしい。

 そういった注意事項を言われたので、俺は討伐依頼を受けることに気が引けてしまったのだ。

 俺はゲームを始める時に、紫苑から「初心者だから初心者に見合ったことをまずできるようになれ」といつも言われていた。初心者が手馴れてくると、とんでもないことをして一緒にプレイしている人に迷惑をかけることがあるらしい。

 なるほど、確かに。俺はそう思っていたし、今でもそういうアドバイスをくれた紫苑に感謝している。

 しかし、俺はそう思ったから今日のところは初心者のものを極力選んでいたのだけど、生活できなくなるのは困る。何とか、一日の宿代だけでも安定して稼げるようになりたい。

 少し上を見れば、報酬が100Gの物もある。今日の赤字を取り返すべく、多少の冒険は必要なのかもしれない。

 そう、俺は冒険者なのだから。

ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。

今回、初めて誤字報告もいただきまして。ご指摘ありがとうございました。


床で寝ると、背中と後頭部、痛いですよね。

昔、布団が全滅した時にタオルケットだけ引いて寝たことがあったんです。季節が夏だったので風邪は引きませんでしたが、照裕のように全身が痛かったですね……。

幸い酒は飲んでなかったので、ここまでひどいことにはなってなかったですけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ