WE討伐
「チェーンを外していない……?」
「そう。今さっき彼女のやった事は、まず【スライドダッシュ】で次の攻撃にダメージボーナスを付ける。この後、【薪割りスマッシュ】を空振りしてのけぞり状態を意図的に作成する。最後にカウンターが発生するタイミングで【穿つ雫】の攻撃を放つ、って流れ。
アビリティを立て続けに出すなら誰でもできる。アビリティのモーション中に、適切なタイミングでつなげることは、ある程度のプレイヤーなら必須技能になる。
でも【スライドダッシュ】のダメージボーナスを【穿つ雫】に乗せるコンボを100%繋げられるのはソウル・トーカーだけだ」
「え?最後の攻撃、その前に【薪割り】なんちゃらが空振りしているのに【スライドダッシュ】の効果があるのか?」
「【スライドダッシュ】のダメージボーナスは、チェーンを繋げることができれば、その繋いだチェーン中のアビリティ全てに適用できるんだ。スキルの効果中に別のスキルを発動すること、つまりコンボを繋ぐ――これを『チェーンを繋げる』って言われてるんだけど、それは教えたよね」
俺は頷いた。そして、スキルの効果時間は"命中"から発生するということも。攻撃スキルなら、文字通り命中。回復スキルなら回復効果の発動、その他のスキルなら、対象を選んで、その効果が発生した瞬間からだ。
当然、攻撃をミスすればチェーンは途切れる。はずだが。
「でも、チェーンが繋がる毎にコンボが繋がるタイミングが厳しくなる。ついでに、【薪割りスマッシュ】で発生するのけぞりは、本来ならコンボが途切れる要因だ。
でも、ここに【穿つ雫】をコンボとして発動できれば、チェーンを繋げて【スライドダッシュ】の補正を残すことができるんだ。発動できれば、ね」
「そ、そんなことができたのか」
「そう。攻略サイトでも、理想論みたいな書き方されているから定かじゃないんだけど、【薪割りスマッシュ】を代表とした、ミスした時に強制的なノックバックが発動するスキルは、どうやらノックバックが起こった時間もスキルの効果時間にされているらしいんだ。
だから、のけぞり中、行動可能になる一瞬であれば、チェーンが繋げれるらしい。
更に【穿つ雫】を重ねた【フルスウィング】の後の、【ワイヤージャンプ】、そして【フルムーンクラッシュ】も、一連のチェーンを繋げてる。だから、アイネトと違って、攻撃の反動で足が止まることもなかったんだ」
……なるほど。わからん。
とりあえず分かっているのは、今目の前で起こっているのがとてつもなくすごい、ということだけだ。
俺は、【スライドダッシュ】から【スマッシュ】に繋げるタイミングの練習だけで、この街の訓練時間の殆どを使った。それですら狭き門だと思っていたのだけど……。
更にそこから続けて幾つものアビリティを繋げるという、凄まじい技巧を目にしていることに、素直に驚かざるを得なかった。
「一度だけ、野良プレイヤーがたまたまソウル・トーカーの収録現場に立ち会うことができたことが会ったその時が、その時「どうやったらそんなに上手くチェーンが組めるのか」という質問をしたんだ。最初で最後の動画中で話したタイミングだったんだけど、あの人が答えたのは短かった。
『ただ、練習すること。そうすれば、タイミングは魂が教えてくれる』、と。まぁ、練習してできるようなタイミングじゃないんだけどね。何人もがチャレンジしては失敗を積み重ねるだけだったよ。アタイもその一人さ。
それから、あの人は『魂と語る者』と呼ばれる有名プレイヤーになったんだ」
「でも、だからといってあの巨体を一撃で吹き飛ばしたり、尻尾切ったりできるものなのか」
ソウル・トーカーが見た目に反して最強のプレイヤーだということは、今までの話から理解はできた。しかし、それにしたって目の前の光景に目を疑わざるを得ない。
俺が願いを込めて視線を戻すと、ドラゴンがよろよろと立ち上がり、改めてソウル・トーカーと向き合っているところだった。
するとネモは悔しそうに、満身創痍でソウル・トーカーと睨み合っているドラゴンを見つめている。その手は、固く握られていた。
「……それは、ボングやラルド達の頑張りのおかげだよ。今までに溜めたダメージと、オルとトネラコの最後の同時攻撃で、一気にHPが危険域まで持っていけたんだ。
第2形態になる条件はHPが8割を切った時、全方位ブレスはHPが5割を切った時。尻尾は、HPが3割を切れば切断できるようになるんだ。
今までのアタイらの攻撃は、決して無駄じゃなかった。だからこそ、想定以上のダメージを与えた状態で、あの二人の攻撃は第2形態に移行するラインを超えてしまったんだろうけど。
でも、その威力が今の状況を生み出してるんだ」
「そうか……」
ドラゴンがトネラコさん達みんなを吹き飛ばした時には、俺も作戦の失敗に慄いてしまったけれど。ソウル・トーカーがやってきてくれたことで、俺たちの頑張りが、彼女の一助になっているのだとしたら。
――頼む、ソウル・トーカー。みんなの敵をとってくれ。
ドラゴンの様子を見てみれば、その首を低く下げて、呼吸も荒く前足の付け根が上下し、その腹は大きく膨らんでは絞られていた。全身からは目に見えるほど紫の体液を流し、見るからに瀕死の状態だった。
固唾を呑んで見守っていると、ネモが口を開いた。
「アイネトは、前足が破壊されて高速移動ができなくなっている。尻尾は切断されて、後使える手段は一つだけ」
「一つ?」
「……ブレスだ。あの距離で、奴が取れる攻撃手段は一つしか無い」
「でも、ソウル・トーカーが近づくのを待つんじゃ」
「それはない。モンスターは、攻撃ができる状態だったら、長時間待つことはないんだ。
だから、これで決まる」
ネモの予測通り、ドラゴンの口に光が灯る。その瞬間、ソウル・トーカーは高く飛び上がった。ドラゴンも、彼女の姿を追ってその首を上空へと向ける。
何故!?空中では避けようがないんじゃ……!?いや、ひょっとしたら【ワイヤージャンプ】のような空中で移動できるアビリティからのチェーン……?
「……あ?」
しかし、俺の希望的観測も虚しく、ソウル・トーカーはドラゴンの放ったブレスが直撃し、その閃光の中に姿を消したのだ。そんな……!何故……!?
「ああっ!?」
「いや、これはあの人の必勝パターンだよ」
思わず声を上げて慌てる俺と違って、ネモは落ち着いたものだ。
ブレスの中に消えたソウル・トーカーだったが、しかしブレスとは違う赤い光がブレスを割いて生まれたかと思ったら、一瞬見えた、その光の中心に居たのは、長い金髪をたなびかせた、女性の姿。
彼女がソウル・トーカーで有ることは、首から下の格好が変わっていないので間違いない。ただ、顔を隠していたバケツヘルメットがない。
ソウル・トーカーを包む赤い光の球体のそこかしこから、ドラゴンのブレスと同じような光が拡散するように放たれ、しかし明後日の方向へ飛び散るかと思われた光はぐねぐねと歪曲し、ドラゴンへと降り注いだ。
その光は、ドラゴンの四肢を貫き、その巨体を繋ぎ止める。そして、光の玉自体が放たれた。残光を残すその帯の中には、やはりソウル・トーカーの姿があり、彼女は勢いよく大斧を振りかぶっていた。
ブレスのために口を開いて顔を上げていたドラゴンは、攻撃の反動でも有るのか、はたまた四肢を繋ぎ止める光の帯にそういう効果があるのか、微動もできずに攻撃を避けられないようだった。
ソウル・トーカーの攻撃は、狙い違わずその頭を貫く。
「グガアァァァァーーーーーッ……――」
その額の一本角は根本から叩き折られ、顎の下までバッサリ割られた傷口からは体液を吹き出して。正に断末魔の声を上げながら、ドラゴンは崩れ落ちた。
「【ファイナルストライク】。身につけている装備を一つ犠牲に発動するアビリティを使ったんだ。犠牲にする装備で効果が変わるんだけど、金属兜系の場合は、0.5秒の無敵時間が追加で付与されるんだ。
そして本来の効果の、強力なダメージを与える一撃でトドメを刺すのが、ソウル・トーカーの魅せフィニッシュで必ず使われるコンボの起点だよ。
何よりも、兜防具を消費して発動するメリットは、その無敵時間中が全てカウンタータイミングになるということ。つまり、カウンターアビリティに偏ったソウル・トーカーの最大火力が出るってこと」
ドラゴンが倒れ、瓦礫と砂埃が巻き上がる。しばらく見守っていたが、ドラゴンは体を大地に横たえたまま、ピクリとも動かない。
やがて、砂煙が晴れていく。しかし、その場にソウル・トーカーの姿はなかった。
「……えっ?」
光の流れに従って視線を動かしていたはずが、ソウル・トーカーの姿を見失ったことに驚いた。俺は、彼女を探して周囲を見回した。
しかし、彼女の姿はやはり何処にもない。ただ、不意に目の前にウィンドウが開いた。
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Congratulations! WE 撃破!
クリアランク:A+
MVP
ダメージディーラー:So-09
サポート・タンク :テルヒロ
サポート・ヒーラー:ネモ
損害率
プレイヤー :50%
NPC :22%
実績
邪教団の壊滅
冒険者ギルド ギルドマスターの生存
冒険者ギルド サブギルドマスターの生存
フォウニーの街 市民生存率 85%
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……なんだ?なんだよ、これ。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
おかげさまで、評価500、ユニーク9,000を達成しました。今後ともお願いいたします。
最終評価の部分について、なにかおかしなところがありますねえ……。これはどういうことなんでしょう(すっとぼけ




