表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/193

彼女の名は

 誰だ……?俺は、その人影をよく見て……絶句した。なぜならその姿が、異様……というか、奇妙キテレツこの上ないのだ。

 まず、その顔はフルフェイスのバケツ兜で覆われて、見ることはできない――というか、そんなこと気にもならない。

 問題は、首から下だ。首には赤いマフラーが巻いており、……それだけだ。体はモスグリーンの下着――いや、水着のようなものしか身に纏っていない。比較的、パレオに近いだろうか。

 色気も感じないコケのような色だが、炭のような黒色の肌をしているせいもあり、色合いが映える。

 両手は肉球も再現されたアニメチックな猫の手。足は靴ではなく、なんと金属質な光沢を返す下駄だ。

 肩に担いでいるのは、身の丈を超える長さの、(いびつ)な曲がり方をした柄を持つ、ラルドさんの体格でも隠せそうな幅を持った石の表面をした斧だ。その刃は、ひび割れ、欠けてノコギリのようにキザ付いている。……本当に石じゃないよな?

 バケツヘルメットから伸びる金髪と、やけに裾の長いマフラーが風にたなびき、威風堂々と立つ姿は、恐怖を堪えて自分を奮い立たせている俺達と違って頼もしさすらある。その格好さえなければ。

 ……いや、本当に誰だあれ!?あんな特徴的な格好は、一度見れば思い出せないなんてことはないだろう。間違いなく初見だ。っていうか、どうやって武器持ってるんだ!?

 ツッコミどころの多さに混乱していると、とさ、と軽い音がした。音のした方を見ると、さっきまで怒りに震えていたはずのネモが涙を流しながら彼女(?)の姿を見ていた。

 

「何で……何で、あの人が」

「ネモちゃん、知っているのか?あの……人を」


 俺が尋ねると、彼女は首を縦に振って肯定する。

 

「彼女は、アイネトの()()だ」

「天敵……?」

「そう。アイネトがRBD最強の敵になった原因であり、アイネトを誰よりも倒した人。

 本物なら、今、おそらくこの世界で最も強い人。『ソウル・トーカー』」

 

 ネモは、そう言って俺を見た。

 

「テルヒロさん。彼女の戦い方を見てて。あれが、近接職の理想形の一つだから」

「近接職の、理想形」

 

 ……あれが?

 俺は半信半疑ながら、彼女――『ソウル・トーカー』へ視線を戻した。

 ソウル・トーカーとドラゴンは、何もせずに睨み合っている。ドラゴンは、敵と見れば襲いかかっていたようなイメージがあったが、彼女が現れてからはその姿を凝視して微動だにしない。

 最初に動いたのは、ドラゴンの方だった。

 

「……!?」

 

 驚いた。ドラゴンが、後ずさったんだ。その紛れもない光景に、俺は思わず息を呑んだ。

 あの、驚異的なドラゴンが気圧されていたように見えたのだ。

 

「――グ、グルルルォォォォアアアーーー!!!」

 

 先程までの俺達と同じ、恐怖を振り払うように、雄叫びを上げてドラゴンが両前足を広げてソウル・トーカーに襲いかかる。

 しかし、ソウル・トーカーはそこから身動き一つ取らない。

 

「危な……!」

「大丈夫、本物なら」

 

 思わず声を出した俺だったが、ネモは落ち着いている様子だった。ドラゴンの両前足がソウル・トーカーと接触する寸前。

 瞬間、瞬きの間に何があったのかは知覚できなかった。ただ、目の前の光景は、ドラゴンが襲いかかる光景から、ドラゴンが吹き飛ばされる姿になっていた。

 

「――ゴォアッ!?」

 

 ズン、と大地が揺れて背中から大地に倒れ、そこでようやくドラゴンは苦しげに声を漏らした。その両腕は傷だらけで、紫の体液を撒き散らしていた。一撃で、両腕の表皮がボロボロになっていたのだ。

 ドラゴンも、倒れ伏すまでダメージを自覚できなかったのか、苦痛に声を上げたのは倒れた後だった。俺も、何が起こったのか。訳がわからない。

 

「なん……えっ?」

「ソウル・トーカーは徹底したカウンターアタッカーだ。今のは、単純な【カウンター】のアビリティの効果が発動しただけ。

 でも、同時に発動しているアビリティの効果で、アイネトの両腕が破壊されたんだ」

「同時……?破壊……?」

 

 俺は、何がどうなってそうなるのか、目の前の光景のインパクトもあって、全く理解できなかった。

 そんな俺に、尻餅をついたような体勢に座り直して顔を向けてきた。

 

「……もう、アタイたちの出番はないよ。あれは、本物のソウル・トーカーだ。

 であれば、今はあの人の戦い方を理解するべきなんだ。テルヒロさんは、もっと強くなるべきだと思うから」

「……ああ」

 

 言いたいことは分かる。しかし、あのドラゴンは……。俺には、先程までの怒りに震えるネモの姿が脳裏に浮かんで離れなかった。

 ――本当だったら、あのドラゴンは、ネモが倒したかったんじゃないのか?例え敵わなくても、一矢報いたかったんじゃないのか?

 そんな、俺の考えが透けて見えたのか、ネモはボングさんの遺灰を見て、口を開いた。

 

「――あの人が来るまでにアタイらが死んでしまったら、どうなるかはわからないけど、この世界にとって良いことは起きなかっただろうね。アタイらが生き残ったことができたのは、間違いなくボング達のおかげだ。

 アイネルサーバーにいるはずのソウル・トーカーが、何でこの世界にいるのかわからないけど、あの人が間に合ったのなら、アイツらの死は無駄じゃなかった……そう思うんだ」

 

 ネモは、彼女なりにやるせない感情を持っていながら、一応の納得を得ているようだった。

 そんな話をしているうちに、場が動いた。

 体制を立て直したドラゴンが、一歩足を踏み出すと同時、ソウル・トーカーが飛び出した。あれは――【スライドダッシュ】だ!俺と同じ、高速移動で一気に懐に飛び込むカウンター戦法か?――と思ったら、不意に持っている斧を地面に振り下ろした!?一体何をしているんだ!?

 暴発(ミス)かと思われたその行動だったが、その振り下ろされた斧は地面にめり込むこともなく、何故か甲高い音を立てて大きく弾かれてソウル・トーカーの体が仰け反った。なにか失敗したのか、と思ったが、既にドラゴンは踏み出した一歩を軸に、体を半回転し、横から太い尾を叩きつけてくる!

 しかし、ソウル・トーカーはそれに合わせて仰け反った体を、地面に弾かれて大きく振り上げる形となった斧を、その両足を軸に回転させ、浴びせ蹴りのような要領で斧をぶつけたのだ。

 結果は……なんと、ソウル・トーカーの身長よりも直径のある、その太い尻尾が大きく跳ね上がったのだ。


「ゴォァ……ッ!?」


 苦痛に呻くドラゴン。ソウル・トーカーはいぜん無傷のように見え、ドラゴンの尾は深く一文字が刻まれて、紫の体液を撒き散らしていた。どちらが打ち勝ったのかは一目瞭然だ。

 強大な威力同士がぶつかったからか、互いの動きが止まる――いや、違う。ソウル・トーカーは反動も感じさせずに飛び退(すさ)るドラゴンを追って飛び込む。

 その片腕が尾を指差していることに気づく。あれは、【ワイヤージャンプ】か!?

 無防備に背を向けるドラゴンの尾に、ソウル・トーカーは体を一回転させて、その勢いのまま両手で持った斧を叩きつける。そしてドラゴンの尾は、ばっさりと切断されたのだった。

 

「ギャアァアーーーーーーッッ!」


 苦痛に声を上げるドラゴン。その尾は大きく空中に投げ出され、ドラゴンとは離れたところに落下した。切断されたにもかかわらず、びちびちと跳ね回る光景に、ドラゴン自体の生命力を実感する。そして、それを叩き切ったソウル・トーカーの膂力(りょりょく)も驚異的だ。

 ――それにしても、()に落ちない部分がある。

 

「なんでソウル・トーカーは、最初に地面を殴ったんだ?」


 この驚異的な結果の起点は、間違いなくあの奇妙な行動だ。それに対して疑問を呈すると、しかしネモには当然のことだったようで、(よど)みなく解説が始まった。


「ソウル・トーカーがアイネトをソロで倒したのは、一回だけじゃない。何度もアイネトが倒されて、その(たび)に動画が上がり、人気を集めたんだ。

 その理由の一つが、あの人のプレイスキル。あの人は、どんな状態でも()()()()()()()()の」

「コンボ?じゃあ、さっきの突然地面を叩いたのも……?」

「そう。地面を叩いたのは【薪割りスマッシュ】というアビリティ。あれは、植物系の敵にダメージ補正が追加される効果があるが、外すと大きなスキができる、弾かれモーションのノックバックが発生するんだ。

 その後ソウル・トーカーが発動したのが【穿(うが)(しずく)】っていう、攻撃が弾かれた後に発動することで、次の攻撃が相手の防御力を()()()()した攻撃ができるアビリティだ。

 ソウル・トーカーがすごいのは、この一連のコンボで全てチェーンを外していないことなんだ」

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 公式の想定しない、もしくはあからさまな最強構成は、ほぼほぼ変質者が出来上がる。あるとおもいます。

 本来はもっとぶっ飛んだ装備にしようかと思ったんですけど、まぁ、一応前回までの流れがあるので自重して、半裸の痴女になりました。

 彼女、現実化してるのにこの装備で来たんですよ。個人的にはその姿のほうが最強感ありますね。羞恥心的な意味で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ