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異世界の一日目

次次回まで照裕視点です。

 気が付くと、周りがにぎやかだった。

 あれ?なんで、俺こんなところにいるんだっけ?


「おい、どうした」

「あ?いや……うわぁ!?」

 

 呆けていた俺に声をかけてきた奴がいた。そいつの方向を向いて、俺は驚いた。そいつの顔は、犬だったんだ。

 顔のタイプは赤毛のシーズー犬?という感じだ。その顔は毛が多めで、眉で目が隠れているようなレベルだ。

 

「おいおい、人の顔見て驚くとか失礼な奴だな!それとも、もう酔っちまったか?」

 

 大きく口を開けて、ギャハハと笑いながら、そいつは手に持ったジョッキを(あお)った。なんだ?馴れ馴れしいけどこいつは誰だ?

 ……いや、馴れ馴れしいなら友達か?

 

「あー、すまん。ここ、どこだっけ?」

 

 俺がそう言うと、目の前の犬男はきょとんとこちらを見て、眉尻を下げた。

 

「なんだ、マジで酔っちまったか?まだエール一杯目だぜ?

 酒に弱いなら前もって言ってくれよ」

 

 そいつの口調は、明らかにこちらを心配しているものだった。表情は、なかなか把握しづらいのだけど。……なんだか、ずいぶんと心配させてしまったらしい。それが、申し訳なかった。

 そうか、アルコール飲んでいるのか。俺。

 とりあえず、酔っ払ったふりをしつつ、周りの空気に合わせて情報を集めることにしよう、そうしよう。

 

「いや、酒は強い」

「大丈夫な奴はみんなそう言うんだよ。それで介抱するのは面倒なんだぜ?」

「飲める。大丈夫」

「なんでカタコトだよ!やっぱり駄目だろ!」

 

 なんとなくノリで会話を進めてみたけど、どうやら俺が本当に大丈夫だとは分かってくれたようだ。ジョークに笑って、机を叩く。どうやら、この犬男は豪快そうな見た目をしているが、気遣いのできる、のりの良いタイプのようだ。

 

「――はー、笑った。でも、気持ち悪くなる前にちゃんと言えよ?

 ここは、『ラカーマ』だよ、"テルヒロ"」

 

 大笑いした後、そいつはため息をついて、俺の質問に答えてくれた。

 そうか。ラカーマか。そうか。

 ……え?

 

「……すまん。それ、日本のドコ?」

「逆に"ニホン"ってどこだよ!お前の故郷か?」

 

 尋ねてみたら尋ね返された。どうやら、目の前の犬男は日本という地名どころか、そういう名前の場所を知らないようだった。

 と、いうか『ラカーマ』?その単語には聞き覚えがある。そして、目の前の犬男のことも思い出した。というか、理解した。


「……あぁ、『タロジーロ』か」

「んあ?そうだよ、タロジーロ様だよ、相棒」

 

 何を今更。そんな表情で、犬男――タロジーロが再びジョッキを呷った。口元に、泡が残って白い髭になっている。

 思い出せないところを色々と話を訊ねて分かったことだが、どうやら俺は『ReBuildier DImentions』というゲームの世界に居るらしい事が判った。紫苑と『サクラ』ちゃんと一緒に始めようとしていたゲームのことだ。

 なんでそんなところにいるんだ?俺が覚えているのは、紫苑に言われてチュートリアルっていう話を進めているところまでだ。

 俺の家までやってきて、ゲームを始めるのに手伝ってくれた紫苑が帰った後、作ったキャラクターでゲームを始めた。まず、戦い方を教えてもらって、四苦八苦しながら「練習用の」俺は『冒険者ギルド』と言うやつに登録したのだ。

 そして最初の『クエスト』として、同時に冒険者としてギルド登録した、目の前の犬男――タロジーロと共に町の近くにいる『リーウルフ』という狼を5体倒したのだ。5体目を倒した時点で、タロジーロから「そろそろいいだろ。ギルドに報告しようぜ」って言われたから、そこで切り上げてギルドでクエストを完了した。

 お金をもらったら、タロジーロから「初めてのクエスト完了だ。打ち上げに行こう」って言われて、そして――。

 どうしたんだっけ?

 だめだ。これ以上は思い出せない。やっぱり、酔っぱらっているんだろうか。というか、なんで目の前にゲームのキャラクターそっくりのやつがいるんだ?ドッキリ?

 思い出したゲーム画面は、一人称視点じゃなくて自分のキャラクターを斜め上の空から見下ろしているような画面だったはずなんだけど。

 それに、ドッキリにしては周囲の雰囲気のクオリティがすごい。机も、壁も、空気も、まるで日本のそれじゃない。なんというか、誰かが騙すために作ったというのは、自然な感じが違う。初めて海外旅行に行った時の、「ああ、ここは日本じゃないんだな」という、あの感覚。

 それが、どうしようもなく体にまとわりついてくる感じだ。

 俺は訳も分からなくなって、いっそ考えないことにした。タロジーロと一緒にジョッキを呷る。

 ぬるい。味はビールみたいだけど、ジョッキの中を覗いてみると、その色は真っ赤だった。なんだろう、これは?カクテルではない、ようだ。味は、薄いビールなんだけど。

 一方、目の前のタロジーロは、意を決してこの場を楽しむことにした俺の飲みっぷりに気を良くしたのか、笑って追加の注文までしている。周りの雰囲気にも流されて、俺もとりあえず面白くなってきて、笑った。


「新しい冒険に、乾杯!」

「かんぱーい!」


 なんだかわからないけど、俺は日本じゃないところに来たらしい。でも、多分なんとかなる。そう思って、今は酒を浴びるように飲んだ。

ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。


私はとりあえずビールは付き合いますが、ビールは苦手な人間です。炭酸飲むならコーラでいいじゃないですか……

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