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準備完了と任務失敗と

「あ。テルヒロ、ちょっとまって」


 修行開始から4日後。今日も今日とてルーチンワークのように、俺を図書館につれてきてくれたテルヒロは、冒険者ギルドへ姉妹と合流しようとしていた。

 そこで、俺はテルヒロを呼び止めた。一昨日から続けていた作業に区切りがついたので、朝イチで狙いの装備を作ってみることにしたのだ。

 ……そう、装備の作成だが、NPC――ラカーマの鉄火場トロールのおっちゃんのように、工房を使わずとも装備ができてしまったのだ。【鍛冶】のレベルアップのため、破壊だけではなく作成も試してみたのだが、すごく簡単にできてしまったのだった。

 まずARウィンドウを開いて、ステータスから所持スキル【鍛冶】を選択して【鍛冶】ウィンドウを開く。

 作成できるものがリストに白文字で並んでいるので、適当なものを選択。

 後は、表示された素材を選択して、規定時間が経過すると目の前にぽん、とデリバリーされる。どこからデリバリーされたのかは不明だけど。

 RBDはクラフトに力を入れてないとは言った。確かにそうは言ったけど、まさかこんなにあっさり作る事ができるとは思わなかった。

 ちなみに、使うアイテムは持っているアイテムが白文字、持っていないがインベントリや倉庫に格納されているアイテムは黄色い文字で表示されている。持っていないものは、グレーアウトされている。そして、色のついたアイテムは、選択できる。選択できてしまったのだ。

 ……まさか、手元に持っていないアイテムからも選べるとは思わなかった。ゲーム時代と同じシステムだけど、そこに違和感を持つのは、俺もこの世界の空気に慣れてきてしまったからだろうか?

 いや、簡単過ぎるのが原因か。違和感しか無い。これはチートですわ。

 でも、やかましい鍛冶の音も、長々と指導を受ける必要もなく、アイテムとちょっとした時間だけしか消費しないで出来上がるのは、ありがたい。正直、鍛冶作業でハンマーを振るには、この体は貧弱過ぎる。――もっとも、その問題に気づいたのは鍛冶作業を始めようとしたところだったんだけど。

「あ、これ金床とかいるんじゃね?それってハンマーもか?……使えるのか?この【フィジカル】で……」と思ったからだったが。一か八か、アビリティの選択をしてみたら、うっかりできてしまったという無駄な心配で終わって、かなりホッとした。とてもテルヒロには見せられないうっかりだった。

 信じてよかったゲームシステム。

 それはともかく、俺は今朝出来たてほやほやの『ロックワームの重装小手』を、テルヒロに渡したのだった。

 

「これ、俺が装備してるやつ?」

「それのアップグレード版。本当はラカーマで用意したかったんだけど、できなかったから。次の戦いはかなりしんどいから、装備は大事だよ」

「そうか……サンキュな。幾らだ?」


 店売り品と勘違いしたのか、テルヒロは懐から財布袋を取り出した。

 こいつ、人の話聞いてねえな!?これ作りにこの街に来たって言った……あ、違ったわ。ゲーム進行チャートの時に話したアイテムだったから忘れてんのか。

 

「お金はいらないよ。クラン倉庫にあるアイテム使って俺が作っただけだから。共有品」

「えっ!?これ、シオが作ったのか?」

「そう言ってるだろ。お前なぁ……俺が何のために【鍛冶】取ったと思ってるんだよ」

「そっか……そっかぁ」

 

 テルヒロは、受け取った小手を見て、何ぞニヤニヤしている。何だ、気持ち悪いな。

 

「大事にするよ」

「いや使えよ。使い潰せよ」

 

 何のために作ったと思ってんだ!?俺は、ネモたちの分として、他にも作った装備もまとめて押し付けて、一人図書館へと向かった。

 まったく、呑気な……。

 

 *--

 

 テルヒロと別れて、図書館の中へ。

 フォウニーに来た目的のアビリティも全て習得し終わり、何を目的に図書館に行くのかと言うと、これはチェーンクエストをこなすためだ。

 そもそも、現状の問題の原因であるW(ワールド)E(イーヴィル)召喚クエスト。ストーリー上、『フユフト』――クエストの名称にもなっているWEであり、チェーンクエストの最後に出てくるボスキャラ――の召喚を止めることがクエストの目的だが、それはプレイヤーがこのクエストをクリアする目的ではない。

 実は、『フユフト』を召喚"させる"ことがプレイヤーの目的になったりする。何を言っているかわからないだろうが、これが真実だ。

 まずはチェーンクエストの流れを説明すると、まずはチェーンクエストの始まる依頼『古びた洋館の調査』の内容の説明からになるだろう。

『古びた洋館の調査』は、目的の洋館の近くに住む農民からの依頼になる。

 昨今(さっこん)、夜な夜な無人になっているはずの洋館から人の声がする。盗賊団か何かが根城にしているのではないか、という調査依頼だ。プレイヤーは、この調査で人の手が入った形跡を見つける。

 洋館の隠された地下室に有る書庫。そこに(ほこり)の積もった本棚群の中に、一箇所だけホコリの払われた物があるのだ。本1冊~2冊分程度の空間も空いており、何者かが侵入したのは間違い無い。

 これをギルドに報告すると、この時点で一旦依頼は完了扱いになる。その一週間後、ゲーム内では幾つかの依頼を終えた後――依頼に設定されている、依頼を終えることで加算されていく隠しパラメータ"経過時間"がトータルで160……幾つだったかを超えた段階――に、新しい依頼が貼られる。フォウニーに来る時点で張り出されていた『失われた古書を探せ』が、それだ。

 この依頼が張り出された時点で、ギルドから街の出入りに規制が入る。結果、依頼を受注したキャラクター、及びパーティにはフォウニーから脱出することができなくなる制約が発生するのだ。

 具体的には、馬車駅などの長距離移動施設が利用できなくなる。ゲームでは、街の外に出るのに施設の利用が必須なので、結果的に街から出られなくなるのだ。

 つまり、今の俺達の状況である。

 名前のとおり紛失した本を探すのが目的の依頼だが、色々と情報をたどっていくと、再び古びた洋館へとたどり着く。ここで、唐突に現れた邪教徒との戦闘が発生する。プレイヤーが邪教徒を撃退すると、持っていた(ドロップ品の)古書を手に入れて、ギルドに報告することになる。これで、『失われた古書を探せ』が完了だ。

 そして、更にゲーム内時間で一週間後、チェーンクエストの最後(トリ)として、『遺跡の調査』が出現する。

 この依頼の目的は、フォウニーのギルドが出す遺跡調査団に参加して、インスタンスダンジョンに侵入し、奥までたどり着くことだ。この依頼を受けることで、例外的にプレイヤーは町の外に出ることができる。……とはいえ、遺跡以外の他に何処に行けるわけでもないんだけど。

 この遺跡は――聡明(そうめい)なプレイヤーならなんとなく理解できているかとは思うが――正にWEを封じた存在が残した遺跡である。この遺跡を調査中に、やはり邪教団の面子(めんつ)が登場。邪教徒たちの自白と遺跡に残された情報で、邪教団の目的が判明する。

 勿体ぶってなんだが、当然WEの復活である。

 プレイヤーの活躍で邪教団を退けることはできたものの、既に別働隊の手で封印のコアを奪取されており、プレイヤーはその場にいた冒険者ギルドの職員から緊急クエストを受け、邪教団を追うことになる。

 これが、一連の締めになる『邪神の化身を倒せ』だ。この依頼は、シンプルに、復活した邪神の一部を討伐し、あるいは封印されている空間に復活した邪神の一部を送り返すことで、このチェーンクエスト『WE討伐()()1()』は終わる。

 名前で分かる通り、フォウニーで発生するチェーンクエストの一連の流れは、もっと壮大なチェーンクエスト『WE討伐』の一場面なのだ。次の『WE討伐』は別の町で発生するので、まるでゲームのストーリーの主軸の一幕(メインクエスト)のような体になっている。

 では、何故これがメインクエストとは別にされ、チェーンクエストのまま呼ばれているのは、このクエストがメインクエストと違って"周回可能"であるからだ。一方、メインクエストは、一度終わると二度と受けることができないのだ。

 そして、プレイヤーの目的が「WEの復活を止めること」ではなく、「WEと戦うことが目的である」と言える理由は、仮にもWEと戦えるこのクエストの最終段階である『邪神の化身を倒せ』にある。

 この依頼で、最終的に手に入る経験値やらドロップアイテムが、とても美味しいのだ。

 ……そのため、フォウニーが何度危機に陥ったのやら。何を隠そう、「週一に滅亡の危機にさらされる街」とはフォウニーの別称である。

 そういったバックグラウンドがあったので、個人的にはWEの召喚手続きを進めるプレイヤーがいる、というのは理解できなくもないのだ。問題は、依頼に参加しているどころか、参加メンバーもパーティとも関わりのない俺たちが巻き込まれていることだ。

『遺跡の調査』が終わり、『邪神の化身を倒せ』が始まった後にフォウニーへ到着したプレイヤーは、即座にWEとの戦闘に入る。その光景を思い出せば、おそらく戦闘はフォウニーの街の西にあった広場。

 だが、イベントではWEの立っている背後に、えぐり取られた轍があった。つまり、復活したのは別の場所だ。

 WEが復活した時、その出現場所から広場までの直線に居なければ、少なくとも巻き込まれずに済むはずだ。

 昨晩の時点で、遂に『失われた古書を探せ』の依頼が剥がれているのが見て取れた。このクエストはかかって一日程度だろう。そうなると、ギルドの調査が入るのは早くても5日後の夕方~明日あたりか。

 装備の準備は、既に万全だ。アビリティの進捗は判別できていないが――ネモたちとパーティを組んだことや、街が変わったことで、泊まる部屋がテルヒロと別々になったせいだ――おそらく生き残る基礎スペックは用意できているはずだ。

 その確認に念には念を入れて2~3日使うとして、ギリギリ間に合ったと言っていいだろう。あとは、万が一の乱戦に備えて、危険地域の絞り込みだ。なるべく、戦場から逃げるには、何処で、どういう流れで戦闘が行われるかを把握しておく必要がある、と思ったのだ。

 間違ってはいけないのは、()()()WEと戦う必要もそのつもりもないのだ。生き残ることを優先する。これは、俺の確定事項だ。

 そういうわけで、俺はテルヒロ達が仕上げている間の最後の準備として、昨日までに貸し出してもらった資料では絞りきれなかった、WEの封印場所を調べるべく【スキルブック】以外の本を読み進めているのだ。

 今の所、なんとか二箇所に絞り込めたのだが……。問題は北の端にある教会か、東の商店街の中に残っている石像の下。そこから最終決戦場までの直進コースが危険地帯だ。

 

「教会じゃないといいなぁ……」

 

 俺はそうつぶやきながら、俺の背後にある"窓の外に見える教会"を見上げた。ここからスタートされるのは怖い。

 と、教会の十字架に太陽が重なっている事に気づいた。

 

「おっと、もう昼時か。今日も差し入れに行くかな……」

 

 意外に時間が経ってしまっていることがわかり、席から立って背伸びする。ぽきぽきごき。

 うっ……左の鎖骨に電気走った。頬杖つきすぎてたかな。

 

「シオ!」

 

 と、扉が音を立てて開き、テルヒロが飛び込んできた。後ろに、ネモとニュウが控えている。

 あれ?なんだ?

 

「テルヒロ、どうした?」


 緊急事態か?じゃあ、ネモからチャット来てたか……?いや、来てないな。えぇ?じゃあ何事だ?

 俺が困惑していると、テルヒロから衝撃の事実が告げられた。

 

「街にモンスターが迫ってくるらしいぞ!?ギルドの調査隊が全滅したって!」

「……は?」

 

 え?調査隊が全滅?って、『遺跡の調査』依頼が発生している……?しかも、失敗して……る?

 わけが分からず俺が絶句していると、バガン、と破裂音がした。音がした方に目を向けてみれば、それは図書館の隣の教会。そこから、艶めく体表をした、その額から一本の角が生えた黒いドラゴンの首が、伸びていた。

 ……まじ、か。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 ユニーク6,000突破しました。たくさんの方々の目についたのも、これまでに読んでいただいた方々のおかげです。これからも、楽しんでいただければ幸いです。

 

 首をゴキゴキ鳴らすのは、気持ちいいですが、下半身不随になる可能性があるらしいので気をつけましょう。それでもやめられないのですが。

 私が首を鳴らしだしたのは、某龍玉Zの緑色の人がよく鳴らしていくのがかっこよかったからです。あと、指の骨を鳴らす特訓したのも。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「大事にするよ」 「いや使えよ。使い潰せよ」 こういうやり取り凄く過ぎです。 [一言] 鍛冶のインスタントっぷり……ふむ。 杓子定規なイベント進行具合やNPCの人たちの行動も含め、一見普…
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