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大切なもののための一歩

 はい、というわけでフォウニーの図書館です。

 何はともかく、まずは【鍛冶】のアビリティを取得だ。読んでいるのは『職人のハジメ』。他に覚えられるものも全部だ。【調合】【裁縫】は、装備や消費アイテムの自給自足に必須だ。

 この街の図書館で目指すのは、他にもあるが、まずは優先順位に従う。なにはともあれ装備の強化だ。つまるところ、NPCには任せられないらしい、既存アイテムのカスタムレシピを使った、装備の作成と強化を優先するべきだ。

 ちなみに今後に備えて、今回は実験も兼ねている。図書館ではアビリティが使えないので、図書館に入る前に[MND(精神力)アップ]を使って、精神力を上げてみたのだ。集中力の持続とか、アビリティの取得が早くなったりしないかな、という期待だ。

 というのも、図書館の中でアビリティを発動することは勿論のこと、時限製で発動する遅延アビリティも、図書館に入った時点で付与されている待機状態が解除されてしまうのだ。要は、図書館で発動する効果が不発になるのだ。であれば、図書館で発動しなければ、バフ効果は残るんじゃないかと想定したのだが。

 

「……結局、読み終えるまで生えなかったな」

 

 発動済みの強化が残ったことに喜んだのもつかの間、本を読み進めて章が代わる毎にステータスを確認してみたのだけど、結局最後まで読み終えないことには新しいアビリティが表示されることはなかったのだ。無念。

 その代わりに、読み終えたところでまとめて3つ生えた。考えてみれば、『商人のススメ』を読んでいたときも読破した後だった気がする。

 ついでに読破までの時間も変わらず、と。なんとも、とほほだ。

 そうそう、そういうわけで、適当に開いた本をパラパラとめくって一冊ページを捲り終えてみた。なんというか、勿論アビリティを覚えることもなかった。無念。

 こういうところは融通(ゆうづう)がきかないと言うか、現実っぽいことを要求してくるなぁ。要は、アビリティを覚える条件として、時間をかけて中身をちゃんと読んだ、という実績が必要なわけだ。【スキルブック】がレンタルできないのが、今は本当に辛い。

 とりあえず、当初の目的の最低限のアビリティを手に入れたので、まずは早急に【鍛冶】を鍛える。どういう手法でやるのかといえば、クラフト系のレベルアップなんて作る以外に有るのか、って話だ。

 ――あるんです!

 RBDというゲームコンテンツが、そもそもクラフトを主軸に考えられたものではないので、高速かつ手軽なレベルアップ手法というものが存在する。アビリティシステムが生き残っているので、そのテクニックもちゃんと動いてくれることを期待するしか無い。

 それを確かめるにはどうしたらいいのか?試してみるしか無いだろう。私にいい考えがある。

 実はRBDのクラフト系アビリティの経験値は、三種類の稼ぎ方があるのだ。

 1つ目は言わずもがなクラフト行為。そりゃそうだ。作る技術の経験値を上げるなら作るのが一番理解しやすい。

 2つ目は、"使う"こと。【調合】などで作れる薬を自分で使うことで作る時よりは少ないものの、経験値が入る。ここで問題なのは、自分が作ったものを自分で使わなければいけないこと。このシステムのおかげで、近接職のキャラクターも【調合】を持っている人は多かった。これは、当然だが装備アイテムには使えない手法だ。

 3つ目は、"破壊する"ことだ。これは2つ目の使うことで手に入る経験値よりも高い経験値が貰える代わりに、損失は大きい。こちらは、自分で作ったものじゃなくてもいい。ただし、自分で作ったもののほうが経験値が高い。

 今回試すのは1と3の手法を使ったルーチンワークだ。目標は、最も難易度の高いテルヒロの防具『ロックワームの重装小手』が作れるまで。確か、最速で半日で達成できるはず。

 実は、規定レベルまで上げるのに、キャラクターレベルのほうが現在値では足りていない。複数のアビリティを大量に取得した弊害だ。

 しかし、この【鍛冶】のレベルを上げている過程で目的のレベルにも達成するはずだ。とはいえ、既にテルヒロとは10以上のレベル差がついている現状、どこかで俺の強化合宿をしないと、俺自身が元の世界に戻る足手まといになってしまうな。

 まぁ、あいつに比べると俺がアビリティの取得が幅広すぎるのが問題なんだが。テルヒロのフォローをすると決めた以上、必要なことではあるんだ。

 ――俺が、がんばらなきゃ。

 さて、とりあえず作るところからだ。この世界が現実化した影響で、本当の鍛冶師みたいにどこかに弟子入(でしいり)して一年くらいの修業が必要、とか無ければいいんだが。

 俺は一旦図書館から出ると、冒険者ギルドへ足を伸ばした。この街の訓練所は冒険者ギルドにあるからだ。

 

 *--

 

「お、シオ。お前も来たのか」


 少し寄り道をしながらも訓練所に顔を出すと、ブロードソードを肩に担いだテルヒロと、ポールアックスを杖に、柄に顎を乗せてだらけている風のネモ、そして地面に突っ伏して息を切らせて居るらしいニュウの姿があった。

 

「調子はどうよ」


 ネモが片手を上げて挨拶してきたので、俺も手を上げて挨拶を返しながら調子を聞いた。

 

「とりあえず、順調、なのかな?」

 

 俺が尋ねると、テルヒロは自身なさそうにそういいながらネモの方を見た。ネモは、視線を向けられたことで苦笑した。

 

「んぁー、大丈夫。順調だよ。アビリティの低い方から着実にレベル上がってる感じだし。

 シオさん、とりあえず今のレベルのカンスト目指す感じでいいんだよね?」

 

 カンストまで行くとどれだけ時間がかかるかわからないんだが。目指す分には方向性的には問題はないな。俺は、頷いて肯定すると、ネモは如何にも悪そうな笑みを浮かべてテルヒロを見た。

 

「だってさ。テルヒロさん、がんばろー」

「うへぇ」

 

 苦笑しながらも眉を下げるテルヒロの姿は、疲れが隠せていなかった。どんな訓練してるんだこいつら。

 俺は、ふと呼吸で肩が上下するだけで、仰向けのまま動かないニュウの姿を見ながらそんなことを思った。

 

「あ、そうだ。これ、差し入れ」

 

 俺は、訓練所に来る前に寄った食堂で調理場を借りていたのだ。

 

 【アブソリュウ・サンドイッチ】(重量 1 / 食べ物)

   作成者:シオ

   品質 :中

   効果 :HP回復(MAX HPの20%)。2時間の間、常時回復能力付与(1%/1分毎)。

   説明 :(あぶ)()(りゅう)()のパンを使って具材を挟んだ簡単な料理。具材に牛蛇(ごだ)の肉が使われており、しばらく自動回復効果(リジェネレイト)が期待できる。

   

 名前の割に効果がしょぼい感じがするのは、素材の名前がたまたま御大層(ごたいそう)な雰囲気を持っているだけのことだ。訓練とはいえ模擬戦をしていればHPも減るし、昼食としては問題ないだろう。

 まごうことなくただの水も(あわ)せてテルヒロに渡す。

 

「おおっ、サンクス」

「シオさーん、アタイたちの分は?」

「これ。テルヒロ、みんなに回して」

「おう」

 

 ちゃんとネモたちの分も作ってきている。その分も出してテルヒロに渡すと、ネモは「ひゃっほー」と指を鳴らして近づいてきた。

 

「あれ?シオの分は?」

「おれはつまみ食いしてたから大丈夫」

 

 この体になって、かなり少食になった気がする。つまみ食いをしたとはいえ、実際サンドイッチ2つにも満たないくらいの量だったはずなんだけどな。

 

「シオさん、ご飯のために来たの?」

「あ、いや。違くて……えっと」

 

 ああ、そうだ。ネモにも確認入れないと。俺があわあわしていると、ネモは苦笑して虚空に手を伸ばした。すまねぇ……すまねぇ……。

 

<シオ:俺もアビリティ上げ

 ネモ:シオさんが訓練所で?何を?

 シオ:その件で確認したいんだけど、インベントリにあるクランヘルパーのドロップ装備、使っていい?破損させるんだけど

 ネモ:あーね。構わないよ

 シオ:ありがとう>

 

 よし、言質(げんち)も取れた。俺はテルヒロたちから少し離れて、インベントリから回収しておいた武具――ネモの作った山賊クランを討伐した時に、大量に入った山賊の武具を取り出した。

 まずは『錆びたショートショーテル』。耐久度も低い、攻撃力も低いものの、一応武器のカテゴリに入る"これ"に、【鍛冶】【付与】【魔力操作】で使えるようになった【メルティアーム】を掛ける。これは、装備の耐久度だけにダメージを与える、人体に無害な魔法だ。

 ……これ、対象は武器防具問わないのに、人が身に着けている"防具"には使えないんだよな。武器には使えるのに。

 紳士諸君には残念なことだと思っているだろう。わたしもだ。

 ついでに補足すると、武具の破損は耐久度が0になった段階では起きない。耐久度を0にした状態で、耐久度が減る()()()が起こった時に破損するのだ。つまり元来(がんらい)、魔法の仕様云々ではなくて、システム的な問題によって、この魔法(メルティアーム)で身につけている防具を破損させたりすることはできないのだ。

 紳士諸君には残念なことだと思っているだろう。わたしもだ。

 さて、【メルティアーム】で耐久度が0になった『錆びたショートショーテル』は、一見どこにも変わりはないように見えた。これ、ちゃんと壊れるんだよな?

 俺の不安は的中することなく、数少ない攻撃魔法の一つである【ウォーターバレット】の一撃で、『錆びたショートショーテル』はその刀身の真ん中からパキリ、と割れた。そのまま、全体にヒビが走り、粉々になって消えていった。残ったのは、錆びついた柄だけだ。

 ……え?なんだこれ。残った柄を【鑑定】してみると、『壊れた武器』と出てきた。いや、壊れた武器、っていうか柄しかないんだが。

 ゲームだと、アイコンがジャンク品のカテゴリに変わって、名前が変わるだけだから、破損の演出までは考えてなかったけど。

 ……うん、まぁ考えないことにしよう。ステータスを見て――おおっ!キター!経験値入ってる!俺は思わずガッツポーズを取った。

 よぉし、バンバンぶっ壊しちゃうぞぉ!

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 お弁当の差し入れに来たと思ったら、訓練場の隅で黙々と武器を破壊し続ける少女。まーた変なこと始めたぞ、この娘。


 アビリティの取得にはクッソ時間がかかるのに、戦闘以外のアビリティ経験値の溜め方は嫌に豊富な世界。息を伸ばそうとして、余計な必須コンテンツを増やす長寿ゲーム、有ると思います。

 ちなみに、この辺りの仕様はゲーム当時でもめちゃくちゃ評判悪かったです。これは天下取れませんわ。

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