照裕・酒の席
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))
「……むぉ、ツマミ切れたか。おぉーい!注文頼む!」
更に手を伸ばし、何も掴めなかったトネラコさんが、舌打ちをしながら空の皿を掲げて声を上げた。よく食べるなこの人。
俺は、というとふくれっ面のニュウと上機嫌のアミィさんに囲まれ、尋問されている最中だ。とてもじゃないけど酒以外口にできる環境じゃない。あんまり美味しくないので、かなりチビチビとだが、今は口寂しいと心許なかった。
しかし、そんな緊迫した場に油を注ぎまくるトネラコさん。
「ああー、ツマミと言や、シオちゃんの飯美味かったな。あの娘の飯で酒飲みてぇ」
そんなトネラコさんの言葉に、ギロリ、と目を光らせ睨むニュウ。
「トネラコさん……そんなに私の料理、不味かったですか……?」
酔っ払いの頭でも流石に失言だと思ったのか、トネラコさんは顔をひきつらせた。
「いや、いや!ほら、俺、肉食だから!どうしても葉っぱ食うのは抵抗あるんだよ!」
「トネラコ……他のパーティでも野菜食べないで迷惑かけてるのですか?」
言い訳をしたトネラコさんだったが、そこに横から口を出してきたのはクランメンバーのネブチさんだった。
「げぇっ藪蛇!?い、いや、そうじゃなくて」
「すみません、この暑苦瓜の炒め、2人前」
「ひぎっ!?」
どうやら、前々から言われていた癖らしく、野菜系の料理が追加注文された。トネラコさんは、ネブリさんが隣りに座ったことで、先程までの傍若無人さがウソのようにしょんぼりしている。それでも、その手はちびちびとではあるが、忙しなく酒を口に運んでいるが。
うーん、俺も固形物がほしいな……。酒だけっていうのもな……。ちびり。
「そうだ、テルヒロさん!テルヒロさんも私のご飯、食べてくれなかったですよね!」
「え、ええ!?」
あわわ、こっちにまで飛び火してきた。
彼女が言っているのは、ネモちゃんを助けに行くつもりで山賊のアジトに向かっていた時のことだ。野営の際に料理を担当したのが紫苑とニュウだったのだが、出された料理は紫苑が何かのステーキ、ニュウがサラダだった。
正直その時は、長距離の強行軍と山登りで、とても腹が減っていた。腹持ちが良くて塩気の強い肉に、どうしても手が伸びてしまったのだ。
一方、ニュウの作ったサラダは、多少の味はあったものの、ドレッシングもない世界のそれは、まさしく「素材の味をふんだんに生かした」味に仕上がっており、一口食べれば中々の苦味に顔を顰めざるを得なかった。
……と、詳しく説明しようにもニュウの料理をディスってしまう形になると言うか、紫苑の料理を褒める結果になるというか。
しかし、助け舟を出してくれる人が居た。
「あっはは、お姉ちゃんじゃ料理は勝てないでしょ」
大ジョッキを片手に口を出してきたのは、ニュウの妹のネモちゃんだった。
「えぇ!ネモ、ひどい!」
「いやいや、お姉ちゃん元々料理だめな人じゃん。それに、シオさんはそういうアビリティ構成してるし、そもそものスペックが違うよ」
「ぐぬぬ」
「そうねェ。シオちゃん、健気だもんねェ」
ネモの物言いに口を尖らせるニュウ。
ふと、同意の声を上げたのは、ニュウの逆隣にいたアミィさん。虚空に視線を上げて、しみじみと思い出す。ホッ、と矛先が逸れたことに安心しつつ、またもチビリと喉を潤す。
「馬車の中で默々料理の本読んでてさァ。初めて手料理振る舞ったときだっけェ?
なんか、頑張ってたもんねェ」
「えぇー!?本!?なにそれ、ずるい!」
「力作だったよねェ、ラルドォ」
「ん?ああ、シオちゃんの料理?美味かったよなぁ」
護衛依頼の初日の昼飯の話だ。そう。行きがてら、俺がラルドさんとアミィさんの二人と話している間、紫苑は一人離れて本を読んでいた。何でも、書店で買うことができる珍しいタイプの本だと喜んでいたやつだ。
あれは、単に初めて顔を合わせる人と話すことができないから、時間つぶしと言うか、話題を振られないようにしていただけだとは思う。……アミィさんは、幸い言葉を濁して「料理の本」と言ってはいるが、その表紙には確か『花嫁修業』。
ニュウに油を注がないように、アミイさんがタイトルを濁すような単語のチョイスしてくれたのは助かった。もっとも、それでもニュウは怒りを抑えきれていないようだが。
俺は、酒を一口、口にした。ふぅ……。
「……あいつが、あんなに料理が上手いとは知らなかったんだよなぁ」
「へぇ……」
「あいつ、すごく人見知りで、だからいつも一人だったんですけど、一人で何でもやっちゃうような奴だったんですよ。昔、俺が初めて会った時はあんなじゃなかったんですけど、その時からすごいやつだったんです。俺にはできないことを軽々やっちゃうっていうか。
なんというか、昔から目が離せない奴だったんですよね。今は、色々あって他人が苦手になっちゃったけど、俺としては頼られるようなことも増えたから、ちょっとうれしかったりとかあるんですけど」
「ほぉん」
「わ、私だって「お姉ちゃん、ちょっと黙ってて」――もがが」
「じゃあ、お前も頑張んねぇとなあ!イイ女に釣り合うにはイイ男にならねぇとな!」
「そうですよね。トネラコさんもすごく頼りになって。ニュウと一緒に山登った時も、体力だけしか勝ってなかった俺と違って、山賊たちを一人で蹴散らしちゃうくらい強いのは、正直憧れます。俺も、同じくらい強くなりたいって思いますよ」
「おいよせよ、褒め過ぎだぜ?へへ」
「色々情報が足りなくて想定外なこともあったけど、ほとんど計画通りになったし、あの時はやっぱり俺は紫苑に釣り合いが取れるような人間にはまだ慣れてないなって実感しましたよ。作戦立てる頭を持った紫苑と、それを実行できたトネラコさんが居たから、盗賊のアジトでも皆生き残れたようなものだし」
「お、おい……?」
「あー、シオさんが一人で立ち向かってきた時はびっくりしたなあ」
「本当にね。てっきり、いつもどおり俺の後ろに居てくれると思ってたんだけど、一人でネモと対峙した時は驚いたよ。心配だったし、なるべく早く制圧するつもりだったけど、ちゃんと俺がフリーになるまで時間は稼いでくれたし、ネモと戦っているときも的確にフォローしてくれたし、あいつは本当にすごいやつだよ」
「…………」
「おい、これって」
「じゃあデネブのこととかどう思ってんのォ?」
「おいおま」
「デネブさんは熟練の冒険者って感じで、ラルドさんとは違った感じでの頼もしいですよね。戦いながら、いつも周りを気にしてくれてるし、道中すごく助かりました。
リーダーを任されるだけの実力がすごく分かって、俺も憧れますよ」
「ストレートに恥ずかしい!」
「やべえ、こいつ酔い過ぎてる!脳みその中身垂れ流してんぞ!」
「誰か寝かせろ!フィンス!フィーンス!【眠り】一丁!」
「何事だね?」
「ちょっと待って!私!私は!?」
「お姉ちゃん!ややこしい話を増やさないで!」
「ニュウの嬢ちゃんも寝かせちまえ!」
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
テルヒロくんは褒め上戸。もっと砂糖吐かせればよかったかな……。
このドタバタ劇にて、第二章終了となります。
次話は、シオくんとテルヒロくんの物語ではなく、以前の活動報告でご連絡したとおり、アビリティ関連のシステム解説になります。
また、今後の更新については活動報告に記載予定ですが、第三章第一話からは初期のスケジュール通り、月・木の週二更新とさせていただきたく存じます。




