本人たちの関係
本日、二話更新しております。
この話は二話目です。ご注意ください。
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))
「でも、いつかなりたいかなと思ってます」
俺はトネラコさんの質問に、苦笑しながら答えた。
「……ヒューッ!言うねぇ!」
俺の答えに満足したのか、一瞬あっけにとられていたトネラコさんは、破顔してまたジョッキ一杯を飲み干した。
他の面々も、顔を赤らめて囃し立てている。その様子に、俺は照れくさそうに笑った――ふりをする。
俺がこう答えたのには、理由がある。
新しく一緒のパーティに入ったニュウとネモの姉妹。二人の内、ニュウは明らかに紫苑にいい感情を持っていないんだ。
正直、これは現状が紫苑と俺、二人並んでいたらどっちを選ぶか、という選択に近い環境だからだ。
うぬぼれているわけではないが、彼女が俺のことを憎からず思っているのは間違いない。多分、他に信用できる"男性"がいないから、依存に親しい感情を抱いているんじゃないかなと思っている。
紫苑は理解しているかわからないが、彼が嫌われる理由は簡単だ。紫苑が、俺を助けること"だけ"を優先してくれているからだ。
だから、ニュウの妹を助けるという選択肢を取らなかった。紫苑の考える、この世界の脱出プランには入っていない予定だったからだ。それで、紫苑はニュウから恨まれた。
直接的には聞いていないし、仲間を募ったり、俺達と同じ境遇のプレイヤーを探すという内容はあったけれど、紫苑が"助ける"と明言したのは、今のところ"照裕を助ける"としか言っていない。それは、とても嬉しいことなんだけど。
一番致命的だったのは、多分『料理』だ。
紫苑は、多分とても合理的に行動してるんだろう。その内容が、俺には理解できないものだっだとしても。
意図せず一対一で、紫苑とネモと戦闘をすることになってしまった時、彼は躊躇うことなくニュウの作った料理をばらまいて、それで足止めをした。正直、何を目的にした行動なのか、全くわからなかった。俺もそうだし、ニュウもそうだと思う。
結果的に、ネモに何かしらの足止めができたんだろうけど、ニュウにとっては"俺に"作った料理が、俺の側にいる他の女性に地べたにぶちまけられたのだ。
それを見たニュウは、納得や泣き寝入りよりも、戦うことを選んでしまったんだ。紫苑には、多分それがわからない。紫苑は、人の気持ちが向けられたことを感じ取ることに長けていても、感じ取った感情の中身を理解できないからだ。
多分、紫苑は「ニュウにすごく嫌われている」程度の認識しかないだろう。
にこやかに仲良くできるのであればそれはそれで構わないのだけど、仲が悪いにしても、せめて不干渉かつ最低限ちゃんと協力できるようであればいいんだけど。
少なくとも、今の俺は当事者であり、俺がニュウを説得することは、火に油を注ぐようなものだろう。幸い、ネモちゃんもこの関係性を感じ取ってくれているようなので、この間柄は時間をかけて解決しようと思う。
でも、紫苑は彼女たちを助けるかどうかの時点から、何か焦っているようだった。彼には彼の考えがあるのだろうが、おそらくその要因の一つに時間のなさが関係しているのだろう。
俺にそのことを詳しく教えてもらえないのは――まぁ、少し寂しいが――理解できる。今話すべきではない事柄なのだろう。
でも、それは俺だから理解できるのだ。初めから敵愾心を持っているニュウは、理解できないだろう。
そこで、俺は一計を案じた。それが、俺は紫苑に惚れている――という設定だ。
こうすれば、紫苑は「ニュウは自分のことを恋のライバルだと思っている」と考えるだろうし、ニュウは「蹴落とすよりも俺にアプローチを仕掛けることを優先する」だろう。
つまり、俺はニュウから紫苑に向く感情のスケープゴートになるのだ。そして紫苑は、ニュウの行動を俺がコントロールする限り、ニュウの扱いに悩まされることが減るはずだ。
――勘違いしてほしくないのだが、俺は紫苑に恋心を抱いているわけではない。俺は、紫苑に守られている、ということを理解している。
だから、俺も守ってあげたいのだ。友情という名のギブアンドテイクなのだ。
紫苑は、自分のことになるとすごくだらしない。臆病で、面倒くさいやつだ。
でも、決してダメなやつじゃない。自分にできることを全力で取り組んで、誰も気が付かないくらいにさりげなく全部終わらせてしまうすごいやつなんだ。
正直に言えば、俺は紫苑に引け目を感じている。それは厳密には俺のせいではないし、紫苑もそう思ってくれているだろう。だけど、俺には自分自身が許せないことだ。
それを俺は表にすることもないし、紫苑も気づかないでいてくれている。
俺は、それを知っている。長い付き合いだから。
だからこそ――。
いや、それは今考えることじゃない。
今は、この場を取り繕うことが大事だ。
後は紫苑と勢いで乗り切って、ニュウに信じ込ませるだけだ。紫苑も、いつもの流れだ。俺たちが仲良くやっているところに、チャチャを入れてくる奴らは今までに随分居た。その度に、こうやってジョークを飛ばして笑い話にしてきたのだ。
さぁ、紫苑。お前のターンだ。いつもどおり、「よせよー」って肘で小突いてくるんだ!
そう思って俺は、紫苑の方を向いた。
……あれ?
なんで紫苑は固まってるんだ?
――あれ?
おいおい、それはアレだろ?ラルドさんが注文したドワーフ印の『火酒』……。
――い、いったぁーーーっっ!?火酒をグラス一杯一気飲み!?
いつものヤツを期待して待ちの態勢だったので、初動が遅れた。本当なら止めるべきだったはずなんだけど。っていうか、何をどうしてそんなことを!?
紫苑は、火酒をコップ一杯飲み干したきり、うつむいている。まさかの行動に、誰もがシオを見て動かない。
「お……おおっ!?シオちゃんもイケるんだ!?」
そんな紫苑に、上機嫌で脳天気なことを言うアミィさん。いやいや、こいつのアルコール耐性は普通ですよ並なんですよ!?火酒なんて飲んで大丈夫なわけがないんだ。
俺は混乱して、紫苑に近づいた。
「し、紫苑!?大丈夫か?」
俺がそう声かけて肩に触れると、紫苑は不意に俺の胸ぐらをつかんで顔を上げ。
その顔は、真っ赤で。目は潤んでいた。
「バアァァーーーーーーーーカッッッ!!」
そう大声で叫んだ。
……えっ?
俺があっけにとられている間に、そのまま前のめりにぶっ倒れた。
……えっ?
俺が混乱しているうちに、ラルドさんの机で飲んでいたレグリンカさんがやってきて、倒れた紫苑の様子を見ている。
「……あー、これは普通に寝てるね。この娘は私が部屋に運んどくから。
色男は後ろをなんとかしなさいね」
「……うしろ?」
言われるままに振り返ると、そこにはニンマリとした笑みを浮かべてジョッキを掲げているトネラコさんと、同じような顔のアミィさん。そして、その二人を困ったような顔で見ながらも、俺に笑みと新しいエールのジョッキを向けてくるデネブさん。
更には、興味津々といった表情を隠そうともしないネモと、怒りからか顔を真っ赤にして頬を膨らませたニュウ、という面々が居た。
……これは、なにか間違えた、か?
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
デレねぇなこいつ!というところで第二章終了……ではないです。もうちょっとだけ続くんじゃ。
これはあれです。「~……と、彼は思っている」というやつです。
次話は「テルヒロくん、酔っ払う」。お楽しみに。




